異世界でTS幼女はおいしみを食べたい   作:あさねこ

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正義も悪もなく、ただ生き残る為に

 

 

 世界が少しずつ元に戻り始めている

 

 黒に覆われていく

 

 闇に覆われていく

 

 人間達は本来の色を思い出す事だろう

 

 自分達が何なのかを思い出すだろう

 

 抵抗していた人間達の大都市も徐々に崩壊していった

 

 偽りの光が与えたそれは

 

 人に【心】というものを与え

 

 同時にその心は不完全だった

 

 そして光は闇にもその疎ましい恩恵を与え続けている

 

 魔将

 

 モンスター

 

 死者

 

 窶れ

 

 本来、闇である我々にそんなものはない

 

 完全だったそれに無駄に心という出来損ないを押し付けられた結果

 

 生物という愚かな物質が生まれた

 

 我等魔将が生まれ

 

 光に照らされ窶れが生まれ

 

 自然が壊れモンスターが生み出され

 

 終われば消えて闇に戻るそれが不具合を起こし

 

 生きた屍である死者が生まれた

 

 我々の大半はその理念を忘れているのだろう

 

 人間と変わらず感情を手に入れ

 

 欲望が

 

 欲望が

 

 悍ましい感情が我等を壊し、生物を壊し、何もかもを壊していく

 

 星が傷つき、嘆いている事にも気づかず

 

 人間と魔将達の戦争という、題目すら忘れたふざけた殺し合いが続く

 

 それに反発し光に逃げた魔将も増えた

 

 闇に堕ちた人間は心を捨てきれずに壊れていく

 

 この世界は初めに闇があった

 

 この世界は初めは闇しかなかったのだ

 

 それで完結し、それでなりたっていた

 

 全ては闇であり、統一されていた

 

 それでよかったし、それでまわっていた

 

 欲という感情が光によって齎され、世界は急速に壊れていく

 

 人が生きるために世界を壊し、弄り、己が欲望のままに食いつぶす

 

 それを良しとしない闇が光を取り除くために我々を生み出した

 

 だが、光はそんな我々すら曲げていく、捻じっていく

 

 ありもしなかった感情を手に入れ

 

 だれよりも上でありたいという傲慢を手に入れ

 

 だれかの成功をねたむ嫉妬を内包し

 

 意味もないこの争いにやる気が失せる怠惰を獲得し

 

 それならばいっそ快楽に染まれと色欲に目覚め

 

 自身にも人間にも、愚かなすべてに憤怒を覚え

 

 いっそ自分が全てを支配すると手に入れると強欲にあふれ

 

 全てを食い散らかし、それでもなお足りないと飽食に堕ちた

 

 いっそ全てなかった事になればいいと、絶望し

 

 わずかに残っていた闇にとっての希望は潰え

 

 今、この世界で本来の理由を正しく持って戦っている我等は

 

 残っていてもほんの一握りだろう

 

 私自身、光に捻じられているのを感じている

 

 このよう片手間に思考を割いてしまうこと自体

 

 本来は闇である我々には不要な感情、感覚なのだ

 

 それでも私は忠実に、この先の生物を滅ぼすために魔術を使う

 

 この辺りの生物は徐々に滅ぼしている、都市が光に捩れ、闇に窶れ

 

 壊れかけている今こそが、壊滅しかけている魔術都市が動けない今こそが

 

 半端ではあるが確実に増えていく人間達を消していくのに最善

 

 既に周辺の生物達は、その生命を凍てつく寒さで散らしている

 

 光がもたらした、「暖かさ」というものを消し飛ばしていく

 

 私は、闇の意向に沿う事は出来ないだろう

 

 何故ならば、私もまた既に捩れているからだ

 

 「死にたくない」

 

 その感情で私は生きている

 

 魔術都市を攻めた魔将達が、塵芥の様に消し飛ばされた姿をみて私は恐怖した

 

 感情の赴くままに私は逃げ、ここまで来た

 

 それでも尚、闇に近い存在である私達には課された宿命がある

 

 光を消し去り、生物を滅ぼせ―と

 

 全てを元通りの闇の世界に戻せ―と

 

 それを拒む事は出来なかった

 

 使命と恐怖で縛られた私に出来たのは、「危険が薄い」ここでの殺戮だった

 

 ここは我々の拠点に繋がる道がある

 

 だからこそ「ここを護る」と自らの使命すら騙し、生物を殺している

 

 使命を放棄すれば私は、魔将として、いや闇の存在として生きる事も出来ない

 

 役目のない闇は消えるのが道理なのだ

 

 私は死にたくないからここで人を滅ぼしている

 

 人を滅ぼすという役目をここで果たしている

 

 それで魔将なのだから、笑えるものだ

 

 そこには光と闇の戦いも

 

 善と悪の戦いも

 

 一切何もない。ただ、ただ死にたくないから、生き延びたいから

 

 自分すら騙してこうしている

 

 これが心を得るという事だ

 

 こんな感情に悩まされるのが心というものだ

 

 あぁ、光というのはなんと恐ろしいのだろう

 

 この世界を覆う、禍々しい光は、なぜ発生したのだろう

 

 いつの間にか現れた天使も

 

 いつの間にか滅んだ生物も

 

 それぞれ「歪んだ心」のままに生きて、殺し、奪い、護っている

 

 これが恐怖でなくてなんだというのか。これならば私は魔将ではなく

 

 自我も意思もない下級のモンスターとしてありたかった

 

 寧ろ下級のモンスター達の方が、闇に最も近いのではないだろうか

 

 何度も何度も思考を重ね

 

 辿り着くのは、意味もない真実と未来

 

 全てが闇に染まれば、どうなるのだろうか

 

 世界は徐々に私達が覆いつくしている、後100年もしないうちに

 

 このままならば本来の姿を取り戻すはず

 

 だが、そうなった時、生き残れた我々はどうなるのだろうか

 

 闇となり、一つに戻り、意思も自我も消え失せる事を良しとするか

 

 ここまで、一つの生物と成り果てた私達はそれを良しとするだろうか

 

 私は頷けない

 

 恐ろしいのだ

 

 私が消える恐怖が

 

 漠然と残り続ける恐怖が

 

 だから私は、こんなどうでもいい所で、適当に使命を果たしている

 

 魔術の目で見えた、雪が降り積もり少しずつ凍っていく人間の町を見つめ

 

 直ぐに無駄な事を視覚を切り、魔術を唱える

 

 この時、私はもう少し見ていればと思っただろうか

 

 そこに、本来いてはならない同胞が居た事に気付く事もなく

 

 ただ、ただ作業の様に、私は再び吹雪を呼び寄せた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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