異世界でTS幼女はおいしみを食べたい   作:あさねこ

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これが少女の運命と言うのならば、総て斬り払おう

 

 

 作戦会議から戻った俺とグレイハルトを出迎えたのは、いつもの様に静かに寝入っているオイシミの姿だった。

 

 その気になれば直ぐに脱げるだろうそれを大切に内部で掴みながら寝息を立てている。とりあえず、まだとりあえずはこの子は力を使うつもりはないようだ。

 

 だが、それもあと数日も持たないだろう。このままならば彼女はきっと力を使う。そして、この町でも排斥されてしまう可能性がある。久しぶりにこの町の人間は旅人やモンスター狩りを受け入れている。宿場町だから当然ともいえるが、気風が悪くないのだ。

 

 だからこそ、この状況でも逃げるようなモンスター狩り達は少ないのだろう。それでも数名は数日内に居なくなっていたが・・・その翌日にアンデッドになって襲ってきた時はやるせなさを感じた。

 

 一番早いのは分かっている。俺程度の力よりも確実に、そして安全に・・・いや、安全かどうかは疑問が残るが、この現象を起こしている存在は滅ぼされるだろう。周りの人間の畏怖と共に。

 

 この状況で追い出されるのは俺達はともかくオイシミには辛いだろう。この真冬に、魔術での吹雪がなくとも普通にこの辺りは豪雪地帯でもあるそうだ。そんな中石を投げられるように追い出されれば、この子はきっと傷つき、そして寒さを耐える様に旅を再開しなくてはならない。正直自殺行為だ、俺やグレイハルトもそれなりの腕になってきた自負があるが、それでも自然には勝てない。

 

 だからこそ、ここは俺達が何とかしなくてはならない、オイシミの持つ圧倒的な力は、この状況においては周り回って自分達の首を絞める事になる。

 

 身じろぎもせずに眠るオイシミ。少しは信頼されたのだろうか、彼女の昔の事を少し、ほんの少しだけ教えてもらう事が出来た。

 

 あまりにも、あまりにも哀れだった。

 

 ただ白い部屋で、眠りにつき、薬を飲まされ、起きて物語を想像して、眠り、起きて、眠り、ただそれだけを続ける人生。聞いた話はそこだけだ。何か重い病気だったのか、それとも・・・何も分からないが、それでも俺達はこの子が情に飢えている事だけは理解できる。

 

 普段は無表情で、殆ど食べ物の事にしか興味を示さない。おいしいと食べるその姿はいつもと何も変わらない表情で。彼女が俺達に向かってほほ笑んだ事など数回もない。

 

 時々思いついたように縋り寄ってきたり、きっと彼女は覚えていないのだろう。夜中に発狂したかのように叫んで飛び上がり泣き続けていることなど。最初は何事かと思ったが、ただ夢を見ているだけだった。

 

 あそこまで、表情が変わらないあの子が泣き叫ぶほどの夢。俺達は少しでもあの子の心を癒す事が出来ているのか・・・未だに答えは出ない。

 

 いや、今はそれよりもこれからの事を考える事にしよう。ある程度俺達も予想していたとはいえ、やはりオイシミが滞在する場所は何故か狙われている。運が悪いのか、それとも奴等がオイシミを狙っているのか、今回の作戦で問いただすつもりだ。

 

 今回の作戦、攻略班に俺は入る事にした。これだけ大規模に強力な魔術を使える存在が居るとすれば、可能性として高いのは【魔将】だろう。

 

 邪神軍の英雄とも勇者ともいえる存在。その力は個人で俺達人間の英雄複数人、下手すれば数十人以上に該当する。だが、決して勝てない相手ではない。

 

 後は・・・

 

「居るんだろう?」

 

 俺の言葉にグレイハルトがオイシミの寝ている後ろを見つめる。そこには勿論何もない。何もない、が。そこには確実に何かが居る。

 

 一切の気配を感じさせず、だがそれでもオイシミを護るように何かが。最初はあの子が呼んだ召喚獣かと思ったが、あれらは一定の時間が経てば消えている。こんな長い時間存在するとは思えない。

 

 そして俺の勘は・・・それが【邪悪】だった何かだと狙いを付けていた。

 

 同時に、あの子を護る何かだという事にも気づけた。最近では吹雪の除雪の時だ。運悪くオイシミは屋根から降り注いだ重たい雪に押しつぶされた。あの日は背筋が凍るかと思った。こんな所でそんなあっけなくなんて・・・だが、一瞬だけだが何かしらの力が発生していたのを見た。

 

 俺達は急いで雪を掻き分け、長い時間がかかってしまったが、そこに五体満足で気絶もしていないオイシミを発見し、保護する事ができた。

 

 寒さに強いのは知っていたが、そんな程度ではどうしようも出来ない寒さだった筈だ。あれだけの豪雪に押しつぶされ、呼吸すら出来ていないだろう、直ぐに出来うる限りの治療を、と思えば。潰れることなく普通に立ってきょとんと普段の表情で俺達を見ていたオイシミの姿。

 

 一瞬だけ感じた悍ましくも強い力がオイシミを雪から護った、そうとしか考えられなかった。

 

【・・・】

 

 ゆらゆらと黒い靄が現れる。

 

 心臓を握りつぶされたようなプレッシャーが俺とグレイハルトを襲う。片膝をつきかけたが気合を入れて睨みつけるグレイハルトと、表面上はいつも通りな態度で見ている俺。

 

 そこには、俺達が敵と認識する邪神の力そのものがあった。

 

 ただ、そこにあった。オイシミを襲うことなく、寧ろ神々しいものを目の当たりにしたかのように身動きしないそれ。どこに口があるか分からない靄が人間では出せないような声色を紡いだ。

 

【・・・力ヲ、貸シテヤル。我等ガ光ノ為ニ】

 

 お前はなんだ、邪神軍なのか、召喚獣なのか、色々問い質したい事は山ほどある。だが今それは重要ではない、分かっているのは目の前のこれが敵ではない事だ。決して味方でもないが、オイシミの為に動くというのならば、協力を受ける事に支障などない。

 

「あぁ。あの子をまた人の悪意に晒す前に、俺達で敵を討つ」

 

 この町は、あの子にとって。俺達にとって、旅立つその時まで「あぁ、良い町だった」と笑いながら旅立つために。

 

 

 




【邪術:闇夜の帳】
全身に邪悪な存在を纏い、一時的にあらゆるステータスを+20する。
自身の属性と攻撃属性が【闇】に変換される。
発動後永続。常時【魔力】を消費し、尽きた場合【HP】を消費する。
それも尽きた場合、自動的に【窶れ】になる。

原初の祝福を受け入れるのであれば、意味を取り戻す事だ。
それが、本来正しきものであったと知る事が出来るだろう。
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