最初の支援魔術を唱えた魔術師が弾けて死んだ。
私の前で盾になった大男が全身凍り付き砕け散った。
後方で狙い撃った弓師の矢が魔将に当たるが返す刃と言わんばかりに凍り付いて砕けた。戦闘時間はたったの1分。あの小さな町を守る為に先行した私達が戦えた時間はそれだけだった。
だがお陰で、そのお陰で、全力で発動させた私の炎の魔術が命中する。
着弾と同時に周囲を焼き焦がすように対象から激しい炎が巻き起こる。発動し命中させる事さえできれば必殺の私の魔術。これだけは他の英雄や勇者に負けていない自負があった。
そして実際に私の魔術は相手を焼き焦がしかなりの損害を与えている。
【与えている】だけだった。
予想通りとは言え笑ってしまう。私の全力の一撃は相手にある程度の深手を与えるだけでしかなかった。全身が凍り付き、体中の感覚が薄れ意識が消えていくのが分かる。
私はここで終わるだろう。
私はここで死ぬだろう。
だけど、とても悔しいけれど、とても後悔しているけれど、私は少しだけ満ち足りていた。これで相手が引くかもしれないし、もしかしたら後続に繋げられるかもしれない。
窶れて死ぬ訳でも、尊厳を破壊され死ぬ訳でもなく。
戦いの末に万感の思いで死ねるのなら、この世界であればきっと悪くない。
私はここまで頑張れた。
英雄達や勇者でも倒せなかったり、大きな被害を受けるあの【魔将】にここまでのダメージを与えられたのだ、と。
あぁ、最後の意識も消えていく。
死んだら会えるだろうか。お父さんに、お母さんに、妹に、兄に、親友に、友達に、村の人達に。
ただの村娘がここまで頑張ったのだから、褒めてくれると嬉しい――――
※
白で埋め尽くされた世界を踏みしめて歩く。
魔術で覆われた義足は冷たさを肉体に伝える事はない。グレイハルトから借り受けたそれぞれの魔道具のお陰で、この状況でも俺は目的に向かって歩けていた。
道中こちらに向かって襲ってくるモンスターも複数居たが、その全てを薙ぎ払って目的地まで歩いて行く。
時々俺が倒したわけではないモンスター達の死体が転がっているが、これは俺より先に先行した討伐隊だろう。待てと言っておいたのだが、自分達に自信があったのだろうか、先に向かわれていた。
町の人間達は必死に止めていたらしいが、このままではらちが明かないと防衛しているモンスター狩り達に任せて向かって行ったらしい。
恐らくはもう、生きてはいないだろう。俺でも生き残れるか分からない。
出来うる限りの準備を整え、一応【切り札】も用意し歩いていると、魔術師ではない俺でも奥の方から強大な魔力を感じられる。
同時に降り注いでいる極寒と猛吹雪も同様に同じ魔力が感じられた。このレベルは、確実に【魔将】クラスだろう。
前に都市を襲った【カーオーン】ですら、魔将より弱い。複数の英雄や、極めた勇者が死力を尽くして撃退するか、運よく倒せるかと言った存在。
今の俺で勝てるかと言われれば、【素では勝てない】だろう。
俺程度のモンスター狩りなど最前線にいけば数百人単位でいる筈だ。しかし、俺は勝つつもりで向かっている。負ける事は一切考えていない。
無謀と言う訳ではない。俺は死ぬ訳には行かないのだ。あの子がきっとまた泣いてしまうだろう。そして・・・俺や他の人間の為にまた力を使って疎まれるだろう。
故に、俺は生きて戻らなくてはならない。
その為の準備は整えた。今の俺なら――――
【――――――】
「あぁ。この奥だな。ご丁寧に結界で塞いでる」
何も見えない真っ白な空間。ほんの僅か、手を伸ばした先すら見えないそこに微かな魔力を感じる。 俺は大剣を両手で握りしめ――
「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」
咆哮と共に正面に剣を振り下ろした。
軽い手ごたえと共に、魔力の壁が砕けていくのを肌で感じる。あれほど何も見えなかった場所が急に晴れ。そこには数々のモンスターと、人間達の死体が転がっている。
【また。来たか・・・今度はよく見知った魔力を微かに宿す人間が】
美の化身というものがあれば、目の前のそれはまさしくそうなのだろう。一切の暖かさすら感じさせないその姿は、とても美しく、同時に震えるほどの恐怖を齎す。
心の弱い人間ならば、その場で恐怖で死ぬか、魅力に囚われ傀儡と化すか。
俺は小さく息を吐く。
目の前のそれは脅威。
人にとっての最悪。
邪神軍の魔将。
俺達の敵。
そして・・・・
「お前のせいで迷惑している子供がいる」
【・・・・は?】
「だから、ここで死ね」
有無を言わさず俺は化け物に向かって剣を振り抜いた――――