全身が凍てつくような極寒の中、先に動いたのは俺だった。
一直線に魔将に向かい上段から大剣を振り下ろすが、その瞬間に大きく後ろに下がる。つまり「この攻撃は危険」だと言う事だ。中には俺の全力すら簡単に弾いてしまう様なモンスターもいる中、防御でもなく全力で回避した時点で、僅かな勝機を見る。
後列に回避し魔術を唱えようとするが、その隙を与えない為に俺はまた一歩全力を引き出し前に進む。大剣を振り下ろしたことで発生する制動を無視し、前に進むのはそれだけで肉体が悲鳴を上げる。
義肢の付け根は痛みを訴え、生身の左腕はぎしりと嫌な音を響かせた。
振り下ろした大剣を一歩前に進み掬い上げるように振り切る―!
瞬間に手に伝わる感触と衝撃―
俺の一撃は魔術を放とうとしていた魔将の片腕を見事断ち切った。
しかし―同時に感じる全身を砕かれたような衝撃に俺は為すべくもなく吹き飛ばされてしまった。
握っていた大剣は衝撃で吹き飛び、俺自身も跳ねるボールの様に地面に叩きつけられる。ぐわんぐわんと衝撃が脳を揺らすが、血反吐を吐きつつもその場から転がるように動いた。
瞬間、俺が居た場所に氷か何かで出来た巨大な槍の様なものが複数突き刺さる。痛みに一瞬でも悶えていれば俺はそのまま即死していただろう。
奥歯を噛み砕きそうな程に全身に力を入れ、吹き飛んだ大剣まで走りすかさず剣を握り走り抜ける。その横を見ただけならば綺麗だと言える冷気の空間が発生しているのが見えた。
あれは強力な魔術だった筈だ。その場にいるだけで全身を凍てつかせ、更には動きすら封じ、表面を凍らせ、呼吸をすれば内部から凍らせていく魔術。
僅かに息をつき、改めて敵を睨みつけると、驚愕の表情で俺を見ている魔将が居た。片腕、特に杖の様なものを持っていた右手を切り落としたお陰で、魔術の効果は弱まっていたのだろう。あれが全力であったら最初の一撃だけで致命傷になっていた筈だ。
今は、寒さこそあれど、攻撃された痛みもそれほど致命的ではなく、問題なく戦闘は続行できる。
だが・・・やはり強い。
俺だけでは最初の一撃も与えられたかどうか。
本来魔将に遠く及ばない、英雄にすらなれなかった俺がここまで健闘出来ているのは、グレイハルトの用意してくれた魔道具や魔術による強化。そして――
【・・・・・・・・・惰弱】
「返す言葉もねぇよ」
俺に、正確には俺の持っている大剣に宿っている、オイシミを護っていた漆黒の影が、武器と防具、そして俺自身を強化しているお陰だ。
これで漸く、俺は最低限目の前の存在と戦えるだけの力を手に入れている。お前が戦えば早いんじゃねぇかと俺も思ったりはしたが、どうやら物理的な攻撃力はあまり持ち合わせていないらしい。
闇として存在し、闇となり【本来は闇の存在】だった者達に取り付いて「個人」を奪い自由に戦うという戦い方を得意とするそうだ。つまりは生きている存在に取り付いて成り代わるという外道極まりない戦い方だが・・・
何が恐ろしいかと言えば、それが別に個人に限らない事。強さに限らない事。相手が英雄であろうと勇者であろうと、軍隊であろうと軍勢であろうと、こいつが本気で敵対しようとした場合、それらすべての尊厳を踏みにじり、それ等に成り代われるという事だ。
そんなもの・・魔将すら容易く超えている力。敵が強ければその強さを奪い取り自分となる。そしてその数に制限はない・・・そんな存在がオイシミを光と言って守護していると聞いた時は何の冗談かと思ったぞ。
とまぁ、相手が人間や生物ならばそれこそ無双と言えるかもしれんが、相手が同じ存在であるならば、それが通らない、通りにくい。目の前の魔将に対して、初めは奪おうとしたが抵抗されたらしい。
その時点で自分が戦うのを諦め、俺に憑依して本来の実力以上の力を発揮させていたのだ。このわずかの間に・・・これが英雄や勇者たちの戦いだというのならば、本当に恐ろしいな。
そして・・・そんな存在すら容易く凌駕する、あの子の召喚獣の脅威・・・か。
此方を感情の見えない瞳でにらみつけ、魔術を唱えようとする魔将。これを倒せば町は救われ、オイシミがまた力を使う事は無くなる。
何故か、普段以上の力が満ち溢れているのを感じる。闇が力を貸してくれているのとは違う、何かあたたかい力だ。
「・・・時間をかければ俺の負けだ。行くぞ」
【・・・急ゲ、我等ガ光ガ悲シム前ニ】
俺が再び駆けだすのと、縦横無尽に襲い掛かる氷の槍が襲ってきたのはほぼ同時だった。
【闘技:踏みしめる一歩】
次に与える物理攻撃力を2,4倍にする。
覚悟さえあれば、越えられない物などない。
持たない者のなんと多い事よ。