致命傷を受ける部分だけを剣を盾にして突っ込む。雨あられの様に降り注いでくる氷の槍を全身に受けながらも、胴から分断するように大剣を薙ぎ払った。
命中する直前に氷の壁の様なものが一瞬だけ現れ衝撃の大部分を吸われるが構わず振り抜く。パキンと氷を割った音と共に剣を振り抜くと魔将が面白い様に吹き飛んだ。
展開していた周囲を覆う結界に激突した所に向かって追撃をかけるが、再び氷の槍が複数襲い掛かってくる。
近寄られない様に此方を見ずにばら撒いたそれらは俺の動体視力でもある程度見極められていた。頭部や心臓、致命的な部分の攻撃だけを再び大剣を盾にして防ぐ。
既にあちこちに突き刺さった氷の槍だが、強力な魔力や魔道具などで固めた俺には動きを止め、殺すほどのダメージにはならない。
恐らくは魔力が低ければ突き刺されば最後内部から凍らされていくのだろう。想像するだけで身がすくみそうになる。
一瞬の思考、その間にも裂帛の気合を込め大剣を振り下ろす。
だが今度は余裕を持って回避されてしまった。流石に少しばかり距離があり過ぎたようだ。僅かな時間改めて目の前の魔将を見る。
先ほどまでの余裕そうな表情は消え、此方を射貫くような瞳と、僅かに・・・ほんの僅かにこちらに対して恐怖を感じているようだ。
斬りつけたわき腹部分は魔力の盾で防いではいたが満足には守れず三分の一ほど切断されている。そこから一切の血も何も流れていないのだから、人とはやはり違う生命体か何かなのだろう。
【何故・・・そちらに居る】
魔将が口を開いた。それは俺ではない存在に話している。
恐らくは闇の事だろう。大剣に憑依しているそれは問いに一切答える事はない。
【我等の役目を・・・・忘れたと?】
答えは帰ってこない。
【役目を捨てた・・・? そんな事が・・・】
わなわなと震えたような声色で愕然とした表情をする魔将。信じられないと言わんばかりに此方を睨みつけている。
同時に目の前で戦っている俺には一切の興味を示していない様だ。それは・・・とても好都合だな。
俺は小声で大剣に宿っている闇に伝える。
(とりあえずそのまま挑発しててくれ)
答えはやはり帰ってこないが、大剣に宿った黒い炎が僅かに揺らめいていた。了解したという事だろう。
そんなやり取りを知らずに魔将は一切反応しない闇に激昂していた。時々叫んだりぶつぶつ呟いている様で何を言っているかは分からないが――
「隙だらけだ」
【・・・・・・・・・・っ!?】
魔将達は強い、とても強い。
英雄が複数人で当たって撃退出来れば御の字、倒せれば大英雄。勇者がいても一人ではほぼ同じだ。
基本的に全てにおいて人と言う生物を上回っている、だが・・・だからこそ、奴等の大半は驕るのだ。下等生物を押しつぶして終わりと、考えるのだ。
人間の様な下等生物が、自分達に届く事など考えない。
そこに、俺達が生き残れる可能性がある。目の前の魔将も俺ではなく、俺についていた闇にしかほぼ気が向いていなかった。あいつを殺せる可能性がある俺よりも、なによりも、闇を優先したのだ。
俺程度なら本気を出せばどうにかなると――
だからこそ―
「オオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」
俺に必勝の機が訪れる。
【っ!? 人間が――】
「遅いっ!」
俺の今出す事が出来る渾身の一撃が魔将の首を――
刎ね飛ばす前に全身が一瞬で凍り付き、俺の意識は闇に落ちた――