異世界でTS幼女はおいしみを食べたい   作:あさねこ

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屍山血河の果ての果てへ行け4

 

 

 英雄でもなければ勇者でもない、ただの人間に殺されかけるとは思わなかった。

 

 私に心臓というものがあれば鳴り響いている事だろう。

 

 人間は死の刹那に心臓という臓器が鳴り響き、恐怖や絶望に怯えると聞く。今の私が正にそれだった。起動していた魔術が発動出来なければ、ここで倒れているのは私だっただろう。

 

 小さな村一つなら一瞬で凍てつかせる私の渾身の魔術。直撃すれば例え勇者や英雄達であろうとも氷の彫像になり、砕けて散る。

 

 未だに砕け散ってはいないが氷の彫像となり生命を停止した人間を僅かな恐怖と怒りを持ってにらみつける。このまま砕いてやりたいが、先に聞きたい事があった。

 

 あの人間、正確には剣に憑依している我々と同じ気配。あれは私も知っている。魔将と同じ力と気配・・・それも私の様な最近発生した者とは違う、より闇に近い原初の存在に近い魔の存在だ。

 

 同じ魔将ではあるが、その実力は天と地の差がある。ただ、運よく相性が良かっただけでここに立っているのが私と言うだけで、条件がお互いに整っていたならば、蹂躙されたのは私の方だろう。

 

 あくまでも私は強力な魔術を用いて戦う魔将に対し、ほぼ無敵ともいえる闇の身体、あらゆる生物を奪い支配、使役し、軍勢を展開できる目の前の化け物。それがなぜか人間を支配する事なく、剣に憑依していたという理解できない状況。

 

 何が目的で同胞である私を攻撃してきたのか、問い質す必要がある。まさか裏切り・・・いや、人間という下等生物に絆されるような存在ではないのは私達が一番よく知っている。

 

 だからこそ解せないのだ。

 

 あれは何の目的があって私の邪魔をしているのか。

 

【貴方は何故――】

 

 私が闇に向かって語り掛けようとした瞬間、理解できない事が起こった。

 

 凍てつき、肉体の全てを完全に凍らせ生命活動が止まっていた筈の人間が、自身を覆っていた氷を全て吹き飛ばし、凄まじい雄叫びを上げて突っ込んでくる。

 

 そんなばかな――

 

 完全に思考が停止していた私は満足に防御魔術も展開する事が出来ず、どうにか薙ぎ払われた剣の一撃を回避するために自身に風の魔術を発動しその勢いのままに吹き飛ばされた。

 

 威力を調整するなんて器用な真似をあの瞬間に出来る訳もなく。全身がずたずたに切り裂かれ、更には私自身の強すぎる魔力のせいで、かなりのダメージを受けてしまった。全身から存在するための魔力が漏れていくのが分かる。

 

 早めに回復魔術で治癒しなければ、数時間も持たない。それでもあの一撃を受けていれば、その時点で死んでいただろう。私の魔術で凍り付いていた人間が、あれほどの勢いで身体を動かせば砕けて散る筈だ。

 

 それなのに、あの人間はダメージこそ受け、肩で息をしながら大剣を地面に突き刺し漸く立っているレベルだが、それでも致命傷は受けていない。

 

 恐怖が私をまた襲う。

 

 何なのだあの人間は、どうして私の魔法の直撃を受けて死んでいない?

 

 どうしてまだ体を動かせる?

 

 英雄ならば確かにあの魔法で生きている可能性はある。だが、数歩も歩かずに全身が凍り付きバラバラに砕けた。

 

 勇者ならば戦えはしないが逃げる事は出来ただろう。だが、その状態で此方に向かって攻撃出来る程の力なんて持っていなかった。

 

 なんなのだあの人間は――

 

 英雄?

 

 勇者?

 

 違う。

 

 英雄ほどの力を感じない。あれが動けるのは魔術や魔道具による強化だ。あの位の強さの英雄なら何度も見た事があるし、何度も殺してきた。

 

 勇者の様な理不尽な存在でもない。ただの人間でありながら、英雄達と組む事で魔将を打ち倒す事が出来る存在。

 

 稀に発生する人間のバグの様なもの。

 

 そのどれでもない。弱くはないだろう、最前線の英雄達を護る兵士並みの力は確かに持っている。だが、そんな程度の力で私をここまで追い込むなんて出来る訳がない。

 

 同胞の力を借りているとはいえ、あの魔術を喰らえば確実に死ぬ。

 

 いや、あれは確かに【完全に死んでいた】

 

 死んでいたのだ・・・!

 

【何故、生きて――】

 

 私の言葉をまた遮るように、目の前の人間はまた襲い掛かって来る。今の状態では直ぐに魔術を組んで殺すには、総てが足りない。

 

 まずい、このままでは・・・

 

 私がこんな場所で・・・

 

 死ぬ訳には、行かない・・・! 

 

 こんな理不尽な死に方は認められない・・・!!

 

 奇しくもそれは、その感情は・・・

 

 私達が殺してきた人間達が感じていた感情だと、ついぞ私は知る事はなかった――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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