何事もない日々が続く。
あの戦いの日から、あっという間に二か月ほど過ぎた。
これと言った事件などもなく、たまに酒場で喧嘩があっただの、モンスター狩りが怪我をして戻ってきただのと言う、よくある事ばかりだった。
町を救うために戦った英雄たちはすでに埋葬が終わっている。あの子は、オイシミがそれを知る事はない。あの優しい子はきっとそれを知ると悲しんでしまうだろうから。
少しずつ日も高くなり、早ければ一月後には旅立つ事ができるだろう。かなりの規模の町にも関わらず、この終末が近づいているような世界ではあり得ない程の高いモラルと善性を保っている町。
出来ればあの子の為には残りたい所ではあるが、彼女自身がそれを望まない。
私達が説得しても無意味であり、その場合はまた一人で出て行ってしまうだろう。それだけは何としてでも止めなくてはならない。
総合的に鑑みて、彼女を失うのは大きな損失だ。金銭的にも能力的にも、あの時は流石に焦ったものだ。あの子が素直に魔道具を持って行ってくれたから何とか再会できたと言っても過言ではない。
確かに、あの子一人でも生きていられるだろう。彼女を護るように闇の存在があり、あの強力な召喚魔術。飢えにも強く、渇きにも強く、どうやら寒さや暑さにも強い。それでいてあまりに虚弱なのは気になるが、それでも目的地までは1人でも辿り着けるだろう。
あらゆる全てを失い、救った人間からは恐怖され、そんな人生をあんな小さな子供が歩んでいい訳がない。
だからこそ、私と彼が居るのだ。出来れば彼女に対しての母性を持つ存在が居てくれればよかったが、流石にそこまではどうしようもない。
彼を見ている町娘の目が怪しかったが・・・まぁ、彼は断るだろう。まるであの子に対する殉教者の様で渇いた笑いが出てしまう。
かくいう私もこういう宿場町には必ずある娼館等に行く事はないのだが。流石に色々と面倒だ。利益にもつながらない、僅かばかりの快楽の為にそれを捨てるのは愚か者の所業だろう。
雪が融け、道が見えたらまた進む。この次の町や村などはすでに調べてある。分かった事は、暫く村はスルーして進むしかないという事だ。
この辺りはともかく、ここを離れれば寂れた村や小さな町があるのみ。そこからさらにしばらく先に行けば、ここより規模は小さいが再び宿場町がある。そこまでは出来る限り避けていく方が無難だろう。
何せ良い噂を聞かないからだ。
モンスター狩りの人や、旅人、行商人、そしてここの町人達からの噂話を総合した結果。およそ8割以上の町や村がそのシステムを為していないらしい。
日々あふれ出るモンスターやそのせいで増える窶れ。徐々に知られている情勢の悪化や都市のほぼ機能停止による援助すら期待できない現状。滅びかけてモラルが壊滅したり、全員が野盗の様な存在になったり、邪神教に取り込まれたりと、ろくでもない話しか聞かない。
このポリョスの町がどれだけ善性に保たれているか分かる差だ。
そんな場所にあの子を連れていく利点がない。幸い収納用の魔道具などは沢山作成できている。ここは旅の行商人が多いお陰で、魔法素材もかなり手に入った。この滞在の時間の大半を魔道具作成に費やせば、荷馬車2台分程度の物資を収納できる魔道具を作成できるだろう。
本来はただの行商人だった私が、いつのまにか魔道具を作る存在になるとは・・・あの子の為に魔道具の水筒を作ったのが始めか・・・つくづくあの子が居れば私は大きく利を得る事が出来る。
今日もあの子は元気に外で彼と一緒に美味しそうな屋台などを巡っているのだろう。唯一の趣味ともいえるあの子の食道楽。彼女のお陰で私はここまで潤っているのだから、少しは還元していかなくてはならないだろう。
施されるだけでは乞食と何ら変わらないのだから。そんな物は商人としての矜持が許さない。これからも私は商人として、利益がある限りあの子を手助けしていくだろう。
ふむ・・・冷えた肉などを温める魔道具なんていいかもしれないな。そうすれば冷えた食料や、硬いだけの干し肉を温めて柔らかく出来たり、火などでは暖め過ぎてしまうミスも無くなる。なにより小さな子供でも扱えるというのがいいな。
これは完成すれば高く売れそうだ。
そしてあの子が旅の途中にあたたかい食べ物を食べる事が出来るだろう。
今日も忙しくなりそうだ。出来ればこの平穏が旅立つまで続くように―――