歩く
歩く
歩く
ただ、歩く
逃げるように
逃げるように
探すように
この手から零れ落ちた全てを取り戻したいと
全てが灰色になった世界で
意識が混濁し、壊れていくのが分かる
体は震え
怒りが渦巻き
憎しみが支配し
慟哭する
誰も守れず、護り切れず、大切な家族も失って
なぜ自分だけが生きているのか、叫べども叫べども、答えは帰らない。
神がいるのなら、何故こんな非道を許容するのか
天使が居るのなら、何故こんな悪逆を見逃すのか
分からない、何も分からない
既に自分が何であったかも覚えていない、分かっているのは失った二人の姉、大切だった村の人達。
失ってしまった。護り切れずに
たった一人生き残り、逃げて、逃げて、逃げて・・・今はどこを歩いているのかも分からない。
復讐しなければならない
復讐しなければ浮かばれない
両手を見る、小さくひしゃげ、ひび割れた手のひらと細い腕
広く見えていた世界が急激に狭くなり、色があった世界が灰色に変わっている
ゴヒュー、ゴヒューと聞こえるのは自分の吐息だろうか
全身が歩くたびに震えているのがわかる。
酷く、とても酷く飢えている
喉が渇き、腹が減り・・・鍛えていた肉体が、ひび割れ、腹が膨らんでいるのが見えた。なんだったか・・・これがなんだったか、覚えていた気がする。
だが思い出せない、頭を動かしたくない
それよりも憎しみと悲しみが全てを支配し、動こうにも飢えがそれを許さない
結果、出来ているのはどこに向かっているか分からずに歩く事だけ
持っていた綺麗な剣は何処かに落とした
仕方ないので持てそうな木の棒を握り歩いている
ゴヒュー、ゴヒューと息が荒くなる
飢えが酷く、我慢できずにその辺りに生えている草を食べた、
吐きそうだったが食べた、木の皮も食べた、木も食べた、味は分からないが腹は膨れた。
腹を下し動けなくなったが、総て出し切ればまた腹が減った
どうしてこんなことになったのだろうか、わからない、わからない
自分は今、どこに歩いているのだろう
何がしたいのだろう
逃げているのか、探しているのか、総てが曖昧だ
誰かが傍にいた気がするのに思い出せない、だが・・・多分まだ自分は壊れ切ってはいない、まだ考える事が出来ている
だからまだ壊れていない
他の総てが壊れていても、まだ壊れていない
何故だろうか・・・赤錆の鎧が見えた気がする
再び歩き
歩き
歩き
歩き
歩いた
何かをしなければならないのだ
何を
そうだ、復讐だ
何の復讐か
いいや、復讐だ
思い出せ、思い出せ、思い出せ、思い出せ、思い出せ、思い出せ、思い出せ、思い出せ、思い出せ、思い出せ、思い出せ、思い出せ、思い出せ、思い出せ、思い出せ、思い出せ、思い出せ、思い出せ、思い出せ、思い出せ、思い出せ、思い出せ、思い出せ、思い出せ、思い出せ、思い出せ、思い出せ、思い出せ、思い出せ、思い出せ、思い出せ、思い出せ、思い出せ、思い出せ、思い出せ、思い出せ、思い出せ、思い出せ、思い出せ、思い出せ、思い出せ、思い出せ、思い出せ、思い出せ、思い出せ、思い出せ、思い出せ、思い出せ、思い出せ、思い出せ、思い出せ、思い出せ、思い出せ、思い出せ、思い出せ、思い出せ、思い出せ、思い出せ、思い出せ、思い出せ、思い出せ、思い出せ、思い出せ、思い出せ、思い出せ、思い出せ、思い出せ、思い出せ、思い出せ、思い出せ、思い出せ、思い出せ、思い出せ、思い出せ、思い出せ、
失ったのだ
失ってしまったのだ
自分が弱いから
弱かったから
知恵がなかったから
信じたから
見逃したから
あぁ・・・どうしてこんなことに
ふと・・・匂いがした
奥の方から匂いがした
良い匂いだ
美味そうな匂いだ
靴は既に脱げて裸足のまま歩く、着ているものはすでにズタボロだ。自分は今どんな格好をしているのだろう。いや、どうでもいい、良い匂いだ。
奥の方に見えてきた、あれだ、あれが良い匂いをしている。
美味そうな何かを持っている
いやちがう――
【あれが美味そうなのだ】
目の前から歩いてくるそれは、フードを被った人間。
人間だ、復讐相手だ、そうだ、思い出した。人間は復讐相手だ、殺すべき相手だ。全てを奪った、皆を奪った敵だ。
それが美味そうな匂いをしている、丁度いい。この飢えを満たせばきっと、目の前が靄が晴れるはずだ。
剣があればよかった、だが剣はなくした、このまま戦うしかない。
色々思い出せないが、剣はなく、木の棒だが・・・戦い方は忘れていない。集中しろ。研ぎ澄ませ、飢えも忘れろ、怒りを抑えろ、戦うために全てを捧げろ。
ふと、その瞬間。違う匂いがした、微かに匂ったそれはまるで・・・優しい、総てを包み込む優しさを内包したような、懐かしい匂い。
そうだ、覚えている、その匂いは・・・あの子は・・・
あぁ、あの子は無事だろうか。
あの赤錆の騎士が守っていた少女は・・・
迫りくる剣筋をまるで他人事のように思いながら、最後に全てを思い出せた気がする。あぁ・・・よかった。窶れに果てる前に、誰かを無意味に殺す前に、死ねる事に・・・感謝を。
そして・・・せめて、俺や姉達や、村の者達の様な終わりがあの子に訪れませんように――――――
※
窶れを倒した。
襲い掛かってこようとしていた窶れ、思わず手が震えたけど何とか倒す事が出来た。ポリョスの町でモンスター狩りの人達に色々教えてもらったお陰だ。
こんな所で終わる訳にはいかない。あの時生かしてもらったのだから。とてもやさしい人たちと、とても美しい少女に。
今、僕は都市を目指している。モンスター狩りの人が言うには、僕にはどうやら特殊な力があるらしい。もしかしたら英雄か勇者か・・・と、僕には合わないような事を言っていたけど、あの滞在期間の間で鍛えてもらったからなのか、手加減してもらっているのだろう、あの人たちと対決して全勝出来た。
世界を救うとかそういうのは良く分からないけど、せめてあの子が、あの人たちが僕を救ってくれた事を喜んでもらえるように、精いっぱい生きようと思う。
目の前には両断した窶れの遺体。
僕が知っている窶れ、教えてもらった窶れは憎悪と飢えだけで襲い掛かって来る存在だった。だけど・・・この窶れは一瞬、殺されるかもしれない程の気迫を感じ、その後直ぐに一切の戦意も憎悪等も感じられなくなり、僕の攻撃を甘んじて受けたような気がした。
窶れになり立ての場合、僅かになる前の記憶が残ると聞かされた。もしかしてこの窶れはそうだったのかもしれない。
せめて、簡易的な墓を作る事にしようと思う。
どうしてそう思ったか分からないけど、窶れの表情が最後・・・とても安らかに見えたから。とても優しそうに見えたから。
せめてこの位はしてやりたいと思った。
そんな事を考えられるようになったのも、飢えが満たされ、自信を得て、あの優しい町に居られたからなのかもしれない。
目の前の貴方が、どんな思いで、どんな気持ちで、どうして窶れになったのかは分からないけど・・・せめて貴方を倒した事を忘れずに、先に向かおうと思う。