オイシミが消えた。
早朝、リアカーに乗ったオイシミを見たのは確認していたのに。グレイハルトは俺以上に焦り魔道具を用いて彼女を探している。
あの子が自ら消えた可能性は今回に限っては低い。そもそも俺達と現状で別れる意味はないだろうし、きっとあの子も俺達と共にある事を望んでくれている筈だ。
俺達が弱いからと言う可能性が僅かによぎったが、それをしきりに思考の隅に追いやり元来た道を戻っている。
直ぐにオイシミが羽織っていた毛布が地面に転がっているを見つけた。運よく吹き飛んで居なかったのかその場にずっと残っている。直ぐにそれを調べるとわかったが毛布がどう見ても何かをひっかけたように伸びており、直ぐそこの地面には何かが這ったような跡が結構続いている。
少しばかり汗が出てきたんだが・・・これはもしかして、ここに落ちて、足を滑らせて坂道を滑っていったとかそういうオチなのだろうか。ありえる、オイシミの場合その様な謎な光景が嫌でも浮かぶ。恐らくリアカーに乗っていたか座っていたオイシミが衝撃か何かで転がってここに落ちて戻ろうとして足を滑らせて転がっていった・・・
普通なら「そこまで転がる事ないだろう?」と常識がストップをかけるが、相手はあのオイシミだ、何があっても不思議ではなく実際に何かが転がっていったような跡が結構続いている。そして・・・
先日までも悪天候のせいで発生した地盤沈下か、子供一人なら普通に嵌る穴が開いていた。そんなことあるか? と言いたくなったが実際ここまで痕が続いているしそれ以降の後も這い出た様子もない。
直ぐにグレイハルトがこの中にオイシミが落ちていると確信したようだが流石に俺達ではこの中に入る事は不可能だ。掘り返すにしてもそれで更に崩落してしまえば中にいるだろうオイシミがどうなるか分からない。
やや暫く魔道具を確認していたグレイハルトが重苦しい表情で口を開く。
「・・・・途中で反応が消えました」
「どういう、事だ?」
「追跡できる距離を超えたから、もしくは阻害されているからでしょうね」
ぎゅっと拳を握りしめるグレイハルトを見ながらその言葉を理解するのに数瞬ほどかかった。それはつまり・・・オイシミは確かにここの穴に落ちたのだろう。
あいつが作った追跡できる魔道具はオイシミが持っている魔道具の反応を追跡し一定時間残り続ける魔力の残滓を追う事で追跡し探す事が出来るという、恐らく世界初なのではないかと言う特殊な魔道具だ。
これを用いれば最低でも5日程ならオイシミが持っているだろう魔道具の残滓を追う事が出来るらしい。行方不明になったのを気付いたのは今日中の事なので問題なく追えたが、便利な魔道具でも距離的な限界がある。
この崩落の下は恐らくその距離的に届かない場所があるのか、何か莫大な魔力で覆われた場所、もしくは魔力を封じられている場所があるという事だ。直ぐに追いかけたいがそんな距離を今からここを掘り進めたとして何日もかかるだろう。
そもそもそんな掘り進めるような道具は持っていないし、魔術では威力がでかすぎて崩落してしまえば大変な事になる。
命の心配は・・・実を言えばそこまでしていない。そうなる前にオイシミの召喚獣が現れる事は確信しているからだ、寧ろ俺が気になっているのは、あの子を守っている筈のあの闇の力が感じられないという事だ。まさかあれに限ってこんな状況を見逃すとは考えられない。
そもそも普段は気配も分からないのでオイシミについているのかここに居るのかもわかっていないのだ。あれが居るならば命の心配は更にしなくていいだろうが・・・
色々思考がとっ散らかっていたその瞬間、大地が大きく揺れた――
その数瞬後、ここからそこまで離れていない距離から凄まじい極光が上空に向かって走っていく光景が見えた。同時に感じるすさまじい力の重圧と放たれた光の中に見えた黒い巨大な何か。
感じるのは凄まじい悪意と殺意、そして途方もない怒り。思考を切り替え俺は直ぐにその場を駆けだす、去り際にグレイハルトにそこから動くなと念を押した上で。
恐らくあの光は確実にオイシミに関係するものだろう、あんな魔術邪神軍の魔将でも出せるようなものではない。つまりあの光の放たれた地点にはオイシミが居る可能性がとても高い。
だが同時に、オイシミが呼び出しただろう召喚獣と・・・それが放った可能性の高い強力な魔術を受けて尚――
「あれを受けて・・・生きてやがるのか・・・!」
巨大な翼を広げ、全身焼き焦げながらも怒りの咆哮を上げるモンスターの姿が見えた。
【光術:断罪する拒絶の光】
自身を中心に上空まで展開する光の波動を放つ。
襲い掛かってきた相手を弾き飛ばす事が出来るが威力はとても低い
範囲内に敵が居た場合弾き飛ばすのではなく伸びた光柱に巻き込んで上空に
吹き飛ばす。その場合全身を光の魔力で焼き焦がすがやはり威力は低い
聖女アルフェリアが編み出した聖なる術
とある少女を護るため、そして自身を邪から護る為に作り上げたそれは
ただ拒絶する為だけに存在した。それは彼女の精神性を表していた
自身と少女だけあればそれでよかったのだ。