異世界でTS幼女はおいしみを食べたい   作:あさねこ

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朧げの世界で助けてもらったから。

 

 

 痛かった。

 

 痛かった、全部が痛かった。

 

 少しだけ賢いという理由で群れから殴られ、蹴られて捨てられた。

 

 意味も言葉もわからずに、ただ辛くて、痛くて、寒くて、お腹が空いていた。言葉も分からないからただ震えるように怯えて倒れていた。

 

 少しだけ賢かったから、どうすれば餌をとれるかも少しだけ分かっていた。

 

 同時に、今の自分では餌を食べられる力もないのが分かっていた。

 

 このまま痛みに震え、自分の前に死んで食われた同胞の様になるんだろう。

 

 目を閉じれば、意識を手放せば、もう苦しまずに済むんだと、目を閉じて・・・

 

 諦めていた自分に手を差し伸べてくれた人がいた。

 

 目の前のそれは、他の同胞が憎み、恨み、妬み、殺そうと、食おうとしている存在のようで、どこか決定的に違っていた。

 

 何が違うのかは分からない。

 

 だけど、その子は、今にも死にかけている自分を抱き寄せてくれて

 

 暖かい身体に抱きしめてもらって、今では理解できる言葉で自分を慰めてくれた。

 

 

―もう だいじょうぶ

 

 

 周りには恐ろしい人間がいた。

 

 恐怖を感じ、心の何処かで目の前の存在を殺せと叫ぶ何かがいたけれど、自分は全力でそれを無視した。それをしてはいけないと確信したからだ。

 

 生きるために食べる餌がとても美味しくて嬉しかった。

 

 あの子が1本の指を唇にあてて「しー」と小さく言って自分に彼女の食べ物をくれたりもした。

 

 あそこは違った。

 

 奪うか奪われる、それしかなくて。毎日叫び声や泣き声、それを見て嗤っている強い奴の耳障りな笑い声。怒りと悲しみしかなかった場所。

 

 ここは違う。周りの人間はまだ怖いが、目の前の子は・・・とても暖かくて優しくて、こうして生まれて・・・初めて嬉しい事で、隣に誰かが居て、初めて怖く無くて、寧ろ嬉しかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 意識が徐々に覚醒していく。

 

 最初は何を言っているか分からなかった人間達の言葉も徐々に理解できるようになってきた。何故なのかは分からないが、気にしない事にした。

 

 あの子の声が聞こえて、意味がわかるようになったのだから。

 

 今は武器を手渡されて動物を攻撃している。あの何よりも弱かった自分が、武器を持って戦える事が不思議だ。持っているものはとても軽い成形された木の棒だが、するりと手になじみ、手からすっぽ抜ける事もない。

 

 目の前の動物は前の仲間が主食にしていたものだ。生まれたばかりの自分達は最初にその辺の石や何か適当な物を使ってそれを殺せと命令された。ここで役に立てた、倒せたものは群れに好待遇で迎え入れられ、何もできなかったり、逃げたり、戦えなかった者達は一切助けてもらえなくなる。

 

 自分は役に立てなかった方だ。他の周りの奴等より少しだけ頭が良かったせいで、「何故自分がこんな事を」と考えてしまい、そのせいで動きが遅れ、他の誰かが殺され、何人かが動いて大怪我をしながらも倒し、群れに迎えられて、貢献したけど死にかけている同胞は見捨てられ、何もしなかった、役に立たなかった自分達は無駄だと暴力のはけ口に選ばれた・・・

 

 今回ももしかしたらそうなるのでは・・・等と一瞬頭をよぎったが、あの子に・・・彼女に「名」を与えられてからさらに頭がスッキリとし、言葉もどんどん理解できるようになり、彼等が何者で、何故自分に武器を渡したのかも理解出来る様になってきた。

 

 自分は「窶れ」と呼ばれる存在で。その窶れから生まれた人間とは決定的に違う生命体。モンスターと似通い、だがモンスターとも敵対し、ただ自分達以外の総てを憎み、嘲り、食い散らかし、殺していく存在。

 

 間違っていない。その言葉は間違っていない。

 

 あの同胞たちはそのままその通りだった。いやもっと酷かった。最初に自分達があり、生まれた子供である自分達ですら、役に立つなら使い、役に立たないならそれ相応に使って捨てる。

 

 そこには優しさも愛情もない。仲間同士ですら怒り、憎み、疑念を持ち、出し抜き、いずれは親だったそれらを殺してでも自分が、自分だけが幸せであればいい。そう思っている者達の巣窟だった。

 

 少しだけ頭のよかった自分は「その無意味さ」を漠然と理解し、あれらにはなかった協力や同調を想ってしまったからこそ暴力を受け、捨てられたのだろう。

 

 今使っている武器。よく見れば彼等はもっと強そうな武器を持っているが、理解はできる。今の自分ではあれは使えそうにないし、きっと危惧しているのだ。そのような物を持たせれば、彼女を傷つけてしまう可能性があるかもしれないと。

 

 自分と同じ他の窶れならばやるかもしれない。自分の為に彼女を人質に取ったり、殺してしまうかもしれない。だが・・・そんな事をするつもりはない。ないが・・その疑問や懸念は当然だ。

 

 何せ自分も彼等の良く知る窶れなのだから。

 

 思考すればするほど、人の言葉を理解し、思慮が深くなっていくのを感じる。今の自分ならば恐らく魔術を理解し使う事も出来るかもしれない。

 

 今はまだ何の力もない、ただの「カル」でしかないが・・・それでもきっと、あの子の・・・彼女の役に立って見せる。

 

 彼女のお陰で今の自分があって。

 

 彼女が名前をくれたから、今の自分が形成されて

 

 彼女が食べ物をくれたから飢えから解放されて

 

 彼女がほほ笑んでくれたから・・・

 

 自分は生きてもいい存在なのだと・・・理解できたから。

 

 

 

 

 

 

 

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