闇である。
闇であるが故に。
我は普遍である。
愛おしき姫の傍に有りて、
しかし、我はどこにでもある。
どこにでも触れられ
どこへでも向かえ
どこにでも在る
あの日、姫が消えた痛恨の日より以前から、姫は寂しそうにしていた。
いつも通りにその瞳は全てを見つめ
ただ全てが愛おしいと言わんばかりに
しかし、だがしかし、彼女は生きている
心を持っている
強く、そして脆弱な心を
呟いていた
か細く呟いていた
友人たちの無事を祈っていた
彼女等が健やかにあるように、と願っていた。
故に
故に
我は願いを叶えるために
意識を消す
意識を移す
我は普遍であるが故に
どこにでもあり
どこにでもいる
彼女が安寧を願う場所に、その意識を辿り
しかし、彼女の祈りは儚く散っていた
滅んでいた、総てが滅んでいた
姫が走った場所が、姫が食べ物を食べていた場所が
焼かれ
朽ち果て
這い出てきたのだろう、既に意思のない死者達が憎悪だけで動いていた。
全てが壊され、燃やされ、凌辱され、尊厳を破壊され
滅びていた
そして残った死体の憎悪だけが満ち溢れ、そこに一切の魂は見当たらず
我等に近くなった存在がある事を知る
奇しくも、彼女が・・・我等が光が
姫が願っていた少女が
真逆に腐り、堕ちていた
それでも唯一生き延びていたようだ
我は辿る
その道筋をたどる
堕ち果てた直ぐは変わる前、それは幼子より幼く、弱く、だがどうして感情だけは暴走している。
我はその軌跡を追う
動物を殺し、食らい
モンスターを殺し、食らい
人間達を殺し、食らい
恐るべき速さで変わっていた。
変わり果てていた
未だ幼く、力もか弱き存在でありながら
それでも十分以上に、人の脅威と成り果てていた
それは別に構わない
我としては姫と姫の周りがあるのであればそれでよい
姫の敵でなければそれでいい
目的があって移動しているらしいが、我は見ているのみ
何かあれば力の祝福を与える程度である
我自身が動いてはならぬ
それは姫の意思に反する事だ
姫は操られた存在に対し悲しむ事だろう
故に我は見守り、力を与えるのみ
窶れ変わり果てた娘は、力ある存在になっていた
目指す場所は首都リカリオン・ラス
目に怒りを宿し
目に悲しみを宿し
食らうため
殺すため
変わり果てた娘は壊れはてて尚生きていた
そして辿り着き、争いが始まる
襲ってきた窶れに対して彼等は何処までも無力で
だが彼女は目の前で戦っている人間達を最低限煩わしいものを弾くだけで無視し
目にもとまらぬ速さで突き進んでいく。
そして殺されていく人間達
人間達が声高高に叫ぶ高貴な存在、国の柱と呼ばれる人間達を殺していく
しかし、たった1体では限界はいずれ訪れる
徐々に、徐々に傷つき弱まっていく窶れ
このままなら死ぬだろう、何の目的でここに来たかは分からない
人間の考えなど
窶れの考えなど
闇である我には理解など出来ない
我が唯一理解したいのは、姫の事のみ
おいしみとはなんなのだろうか・・・我では用意出来ないのは辛いものだ
何にせよこのままであれば、これは死ぬだろう
我が出て行けばすぐに終わるだろうが、それをしてしまえば確実に面倒な事になる
故に、我は一時的に空間を闇で染め、窶れが逃げる時間を確保する事のみ
急な出来事で驚いていた窶れだったが、直ぐに逃げを打ち消えていった
去り際に我が小さな祝福を与えておいた
花咲けばいずれ姫を護る強い力となるだろう
姫が呼び出すあれらにはかなわずとも、姫が連れている人間よりは強くなる
目的は果たした
逃げた窶れはいずれ力を手に入れ、奴自身の目的を果たすだろう
そして同時に姫の下に集う様に祝福を与えておいた
姫が全てを終わらせた後か、終わらせる前か
どちらにしてもあれは姫の役に立つだろう
そして生きている事を姫は喜んでくれるだろう
目の前の人間達の惨状に目を移す事なく我は再び意識を元に戻し――
圧倒的な強者に滅ぼされかけていた
我が意識を写していた間に姫が、我が守るべき姫が危険な目にあっていたのだ
なんという不覚
なんという体たらく
目の前の圧倒的な存在・・・姫が呼び出した強者に我は成す術もなく地面に縫い付けられていた。
このまま滅ぼされなかったのは我の存在を姫が望んでいたからにすぎない
目の前の存在に愛おしそうに抱かれ眠っている姫、何があったのかは理解できなかったが、完全にこちらの不手際である事がわかった。
せめてわずかにでも意識を残しておけばこのような事は。
消えそうになるほどの激痛に耐えながら、僅かばかりの許しを得て、存在が許された。次は守らなければならない。そうしなければ我等の光は簡単に潰えてしまうのだから。
とりあえず死ぬかと思った