監視をしてくれていたモンスター狩りの人が戻ってきた。
どうやら確実にこのポリョスの町を通り抜けていくだろうという事だ。更に言えばそれは【災厄】の可能性が高いという。幸いなのはどうやらここをただの通り道としか思っていないかもしれないという所かもしれない。
最悪、町自体は滅ぶかもしれないけど、それだけで済むかもしれないからだ。
周りの声はほぼ大半がこのままやり過ごそうという声でまとまっている。
一部何とかして移動させられないかと言う町民の人もいたけど、やり過ごそうと考えているのは町長も同じらしく懸命に説得していた。
自分としては出来れば町を護りたいが、それで戦うのは他のモンスター狩りの人達だ。自分も参加したいがここの防衛に回されていて今は外に出るのを禁じられている。
そしてどちらにしてもあと数時間でそのモンスターはポリョスの町に接近する、今から対策を整えるのは難しいだろう。
町人たちの反応は様々だ。
早く通り過ぎてくれと祈る者。
一生懸命建てた家が壊される事に怒りと絶望を抱えている者。
何とかして戦いたいと武器を持っている者
ポリョンヌがあれば再起は可能だから諦めようと説得している者
この町はいい町だ。でも全員が同じ考えをしている訳ではない。この状況に憤りを感じている人もいれば、諦めて次を考えている人も、何も考えられず泣いている人も沢山いる。
自分にもっと力があれば、英雄や勇者のような力があれば・・・皆が悲しむ事もなかったのかもしれない。結局自分は何もできていない。
うつ向いていると誰かに肩をぽんと叩かれた。振り向くとそこには先ほどまで斥候に向かっていたモンスター狩りの人がいた。
少しだけ困ったような顔をしながらも、彼は自分にポリョンヌ焼きを渡してくれた。ちゃんと食べておかないといざという時動けないだろうと。
そういえばこの異変を知ってから何も食べていない事を思い出す。気づいたら腹もなっていた。それを受け取り一口頬張る。
根菜系とは思えない濃厚で肉厚な味。まるで肉を食べているような噛み応えと味わい。それを味付けされた色々な野菜がシャキシャキと違う歯ごたえと野菜の甘みと清涼感を与えてくれて、全然食べ飽きる事はない。
包み込んでいる歯ごたえのある薄いパンみたいなものは、ポリョンヌの皮を刻んで洗い、蒸して潰して捏ねる事で作れるものだ。これだけでも十分腹持ちの良い主食が作れるのだから、ポリョンヌがこの世界の命の糧と言われてもわかる気がする。
だからこそモンスターや窶れもこれを狙うのだ。自分達では育てられない、もしくは奪った方が早い、モンスターに至っては食料は奪うものだから。故にこれを育てればさらに襲われやすくなる。
食料の安定を取るか
命の安定を取るか
ある意味ではとても恐ろしい食べ物だろうか。
一つをあっという間に食べ終える。これだけでも十分な腹持ちだけど、正直言うと少し足りない。いつもは2個、多い時は3個食べるのが普通になっていたから。
そんな自分を見ていた斥候の人は苦笑していた。思わず恥ずかしくなってうつ向いてしまうが、彼はそんな僕に語り掛けてきた。
「焦っても仕方ねぇ。無理をしても仕方ねぇ。俺達に出来る事はちっぽけな事だ」
「・・・そう、ですね」
「ここでやり過ごせばまた生きていける。壊れたもんは直せばいい。ま・・・そう言えるのは俺達がよそ者だからなんだろうけどな」
「・・・」
自分達はこの町に入れてもらっただけのよそものだ。だからこそ今まさしく住処を、生きる糧を壊されそうとしている町民たちの心を全て理解できている訳でも、受け止め切れている訳でもない。
だがそれでも・・・こんな暖かい町が壊されてしまうのは、とても嫌だ。
腰に差している剣に手を添える。
モンスターや窶れを何体も斬り倒してきた自分の相棒。あの時助けてくれた彼の巨大な剣と比べたら頼りないかもしれないけれど、それでも何度も助けてくれた剣だ。
これがあれば・・・なんてそれはただの蛮勇だ。向かった所で善戦出来る訳もない、簡単に殺されて、自分が出てきた事であの災厄の様なモンスターが避難している町民たちに気付いてしまったら・・・
あれこれと思考が巡っていく。
答えは見つからない。
そしてその間にもそれは近づいて―――――
―【出てこなければ なにもしない】
声の様な何かが、脳を駆け巡った。
周りを見れば周りには倒れる人間や、頭を押さえてうつ向いている人達。モンスター狩りの人達も苦しそうに頭を押さえている。
更にそれは聞こえてくる。此方の都合など知った事ではないと。
だが、その悍ましさと脳に直接響く恐怖とは裏腹に、聞こえてくる声はとても幼さを残す、少女の声だった。