オイシミだけが通れた結界の中、分かっていた、分かっていたが最後はやはり俺達は何の役にも立てないのだと改めて思い知らされた。
最後の道中がおかしいほど平穏過ぎて結局の所俺達は彼女をただ連れてきただけになってしまった。
周囲が黒い風で唸りを上げている恐らくは闇・・・アルトマラーゲィと呼ばれた存在がどうにかして侵入しようとしているのだろう。
だが風が唸りを上げるだけ、周囲の大気が震えるだけで何も起きない。だがそれでも闇の力はうねり続けている。
「・・・これで、良かったのでしょうか」
「さてな。だが、それがあの子の望みだった」
最後の最後まで、グレイハルトとしてはオイシミを行かせたくはなかったのだろう。分かっている、俺も無力でなければ・・・拳を握りしめながらオイシミが歩いて行った結界の奥を見続けている。
直ぐにあの子の姿は見えなくなった。恐らく目の前のこの光景は虚構なのだろう。中がどうなっているのか―――
咄嗟に感じた気配に俺はグレイハルトを掴みその場を飛びのく。
直ぐに轟音と共に、目の前の何かが弾けたのを感じた。見る見るうちに目の前の姿が変わり果てていく。先ほどまで見えていた筈の城と橋は消えていき、残骸すら残っていない荒れ果てた大地に変わっている。
一体何が、と考える暇もなく大地が激しく揺れ、奥の方で何かが動いているのが見え、同時にここからでも感じる程のプレッシャーが襲い掛かって来る。気をしっかり保っていなければ一瞬で意識を持っていかれそうなほどの強大な力だ・・・!
グレイハルトの方もどうやら何が起きたか察した様で、青白い顔をしながら用意していた魔道具を取り出し戦いの準備を整える。結界が弾けさったのなら今からでもオイシミに追いつけるのではと考えた瞬間、周囲の魔力が物質化するレベルで地面から吹き上がる。
同時に魔力で形成されたモンスターとも邪神軍とも言えない化け物が逃げ道すら塞いでしまうほどに出現し始めた。
直ぐに大剣を握り此方に向かってくる化け物を切り伏せるが、1体1体は見た目通りそこまで強くないが数が多すぎる。この数瞬で退路すら完全に塞がれるほどの化け物たちが現れていた。
奴等はどうやら積極的には襲ってくる感じではないが、近場に現れた奴等は此方に向かって襲い掛かって来る。見た目は不定形の触手の塊。目すら持っていないそれらだが、それぞれがまるで見えているかの様に触手を叩きつけてくる。
グレイハルトも魔術をもって相対しているが、ここまで完全に退路も進路も塞がれてしまえば何れ飲み込まれて終わりだろう。
一部、アルトマラーゲィだけは周囲の化け物を全て薙ぎ払っているが、薙ぎ払う傍から増えていく状況で、いずれは押されてしまうはずだ。
奥の方ではすさまじい轟音が響き渡っている。オイシミ・・・力を使ったんだな・・・ならば目の前のこれらは邪神軍の最後の抵抗、なのかもしれない。
「グレイハルト・・! 行けるな?」
「えぇ、なんとか」
「オイシミが勝利するまで持ちこたえるぞ、簡単な戦いだ」
「まったく・・・私は一商人だというのに」
なら、こんな所で死んでしまっては笑い話にもならない。全てを終わらせて戻ってきたオイシミに死体を晒して終わりなど冗談ではない。約束したからな、総てが終わったら食べ歩きの旅に出かけると。
そんな小さな夢すら護ってやれなくてどうする。
大剣をきつく握りしめ、俺はあふれ出る化け物たちに躍り出た。
薙ぎ払い
切り払い
叩き付け
受け止め
回避し
再び薙ぎ払う
そこかしこに化け物が居る以上、剣を振り回すだけで敵に当たる。そして当たれば倒す事が出来る。この化け物達がどれほど湧いてくるか分からないが、オイシミが勝てば終わる、それだけは確信している。
とはいえ、これだけ溢れ出てくる化け物たちの攻撃を全て捌けるはずもなく、俺もグレイハルトも徐々に手傷を受け始めていく。
このままなら後1時間も持たないかもしれない、だが1時間も持ちこたえられればその前にはオイシミが呼び出した超存在が全てを終わらせて――
「ログンソン!!」
「っ!? が・・・!」
意識が少しだけ逸れていたが、化け物の一撃を受け止め切れずに真正面から受けてしまった。左肩に叩きつけられた触手を右手だけの膂力を用いた大剣でなんとか弾いたものの、凄まじい激痛で左手が動かない。
このままでは死ぬ――
こんな場所で死ぬ訳には――
だが無慈悲にも化け物達は好機とばかりに俺に群がり――
それら全てが豪快に吹き飛ばされ死亡した。
そこには・・・
何故、いやどうして?
分からない、意味が分からない
どうして、お前がそこに、何故・・・
【おいおい、子供を泣かせるなよ? 大人は子供を笑わせてこそ・・・だろう?】
「夢か? 俺は夢を見てるのか? もしくは死んでるのか?」
【馬鹿言え、死んだらあの子が泣くだろうが、戦え、例え死んでも生き残れ。みっともなくても、情けなくても、どれだけ愚かでも、生き残れば勝ちだ】
それはここ最前線で戦っていた時の最高の武具、巨大な大盾と同じく巨大なメイスを握り、生きた城砦と言わんばかりの重装備に身を包むその姿。
覚えている、嫌でも覚えているさ。
意味は分からない、
だが、神様が実在しているのなら、どんな悪戯だ? と文句を言ってやりたい
「どうせなら、オイシミの呼んだ主力の方がよかったな」
【言っとけ。さぁ・・・耐えていくぞ? 言っておくが俺にそこまで期待するなよ? 所詮俺はお前と同等程度なんだからな】
フルフェイスヘルムのスキマから見えたその目は、声は・・・
あまりにも懐かしくて。まったく理解できないが、これもまたオイシミの力なのかもしれないなと、思わず笑ってしまいそうになる。
持っていた回復剤を左肩にかけ直ぐに癒し、俺は大剣を構える。
それは奇しくも、俺とあいつが共に戦っていた時そのままの戦闘隊形だった。
ガイウス。
例え、ただの数瞬だとしても、お前が居てくれた事に感謝しよう。そして・・・俺達は生き残る。この程度の化け物など何するものか・・・!!
やがて、化け物達は急速に消えていき・・・待っている確定した悲劇に立ち会う事になる。