異世界でTS幼女はおいしみを食べたい   作:あさねこ

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誰かこの子に愛を与えてください。

 

 長い事宿屋の仕事をやってきたけど、今回ばかりはどうしたもんかねぇ。ここまで心配になるお客は初めてだよ。

 

 少し前に二人組のモンスター狩りが連れてきた子。

 

 最初は攫ってきたんじゃないかって思うほど場にそぐわなかったね。貴族のお嬢様みたいな姿をしてるのに、着ているのはボロみたいな服。政争に負けて奴隷にでも堕とされたお嬢様を拾ってきたのかと思ったけど、そうでもないようだ。

 

 二人組・・・ログンソンとガイウスの二人が訳は聞かないでくれと多めに金を私に握らせて半ば強制的にあの子・・・オイシミを暫くの間泊める事になった。

 

 あの子は見た目にそぐわず・・・というかかなりチグハグな行動を取ったりする。急に何もしなくなったり、何か思い立ったように動いたり、気が付けば酒場で働いたりもしてるようだ。

 

 あの年齢で働こうだなんてね・・・そりゃあ子供だからと甘えてる訳にもいかないだろうけど、まさか・・・まさかモンスター狩りにまで出ているなんて思わなかったよ。

 

 その頃には私もこの子を気に入ってたからあの二人に問い詰めたね。

 

 小さな子供に何をやらせてるんだい! ってさ。

 

 だけど、それはあの子が自ら望んでやろうとしていたらしい・・・あんな下手すりゃ10歳にも満たない子供が、モンスター狩りを率先して行おうだなんて。

 

 それもあの二人が止めなかったら一人で行こうとしてたらしいじゃないか。魔術が使えそうにも見えない、武器なんか持てる訳もない子供に何が出来るってんだよ。

 

 そう言うとあの二人が困った様な顔をしていた。詳しくは言えないけど、そこに関しては問題はないなんて、意味不明な事を。

 

 魔術も使えないのは元魔術使いだった私からすれば一瞬で分かる。オイシミは一切の魔術の才能はないね。本来なら身体からにじみ出るだろう余剰魔力すら感じられないんだ。一般人とほぼ同じの才能無しだろう。

 

 あったとしても魔力が2か3位だろうね。魔術を使いたければ最低でも5は欲しい。そして戦闘で使える様な魔術を使うなら10以上は最低でも必要だ。オイシミにはそれらの魔力が一切感じない。逆にここまで少ないのはレアかもしれないねぇ。

 

 そんな子が戦えると言われても正直信じられはしないけど、あの二人が一緒に行動するって言うのならまぁ・・・あの子の親でもなんでもない私じゃあ止めようがないよ。遣る瀬無いけどね。

 

 何かに絶望したかのような表情。

 

 言葉を紡ぐのが苦手でたどたどしくしか会話も出来ないし、その言葉も幼児の喋る言葉の様に少しばかり難解だ。

 

 一切の溌溂さすらなく、なにがあればあそこまで絶望できるのか。本当にこの世界はろくでもない。もしかしなくてもあの子は邪神軍に全てを奪われた子なのかもしれないね。

 

 あの子は頑なに自分の事を話そうとはしない。

 

 あの子が口を開くのは。【あれなに】とか【これなに】とか、そんな他愛もない事だけ。

 

 ただ、そんなあの子が唯一、表情を動かす時があった。

 

 それは料理を食べている時。

 

 家で出す料理はお世辞にもそこまで美味しいものじゃあない、私自身料理が得意って訳じゃあないんでね。うちは安い宿屋が売りなんだ。

 

 でもそんな私の料理を、くしゃっと顔を歪ませて、上手くスプーンすら握れずに食べて嬉しそうに笑みを零すんだ。

 

 胸がぎゅうっとなったね。

 

 そりゃスラムにいけば似たような子供は沢山居るさ。親に捨てられたり、親が死んだり、色んな理由でかなりの数の子がスラムで暮らしている。

 

 目をギラギラさせて生きるためならば盗みも殺しも何でもやる様になっちまった子供達。国で保障などはしてくれない。だからこそ貧富の差は激しくなり、あたしらもスラムに堕ちない様に必死に働いてる以上、あの子達を助けている時間も余裕もない。

 

 そんなスラムの子達以上に、この子はオイシミはひどい目に遭ってきたのかもしれない。満足に食べる事も出来ずに、私の料理なんかですら涙を流して喜ぶような程に。

 

 それだけならまだ、まだよかったんだ。

 

 まだ可哀想な、健気な子供で終わったんだよ。

 

 理解しておくべきだったんだ。

 

 あの子がモンスター狩りに向かおうとする、その本当の理由を。

 

 そして今回、自分の腕を焼いていたと聞いた。焼身自殺しようとしてたって事だ。何故そんな事をと思ったよ。いつも通りだったんだ、今日だって普通に出かけていっただけだ。そんな思い詰めるほどに何があったんだい。

 

 二人が見つけてなければきっとあの子は今頃・・・・

 

 オイシミが何故そんな事をしたのかと二人はすでに聞いてたらしいけど、絶句しちまったよ・・・

 

 【遠くに行く為】

 

 なんだってんだ・・・

 

 なんであんな子が自分を痛めつけて死のうなんてしてるんだ。

 

 これも邪神軍の所為なのかい? どうしてあんないい子が・・・自分の身体を容易く傷つけ、容易く死のうとする。きっとこの世界にもう、彼女を愛する存在が居ないと、分かってるのかもしれないね。

 

 だから、突発的にそんな事をしたのかもしれない。

 

 どんな理由があったとしても・・・オイシミ、自分から死のうとなんで思わないでおくれ。あんたはうちの客で、既に大事な子なんだよ。

 

 女神様、ねぇ女神様?

 

 役にも立たない女神様、せめて少しでいい、あの子に愛を与えておくれ。

 

 こんな悲しい事をしない様に抱きしめてあげておくれ。

 

 私じゃあ無理だ、私じゃああの子の悲しみを埋められない。

 

 ほんと・・・

 

 あの二人はとんでもない客を連れて来てくれたもんだよ・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

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