異世界でTS幼女はおいしみを食べたい   作:あさねこ

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英雄は再び石を握る

 

 脅威が目の前まで見えていた。

 

 死を運ぶ鳥。俺達人間だけではなく、邪神軍ですら恐れる魔の鳥が。

 

 【誘死鳥カーオーン】その一匹で小さな町なら簡単に壊滅し、邪神軍も数百人規模なら全て殺しつくし、餌として食い荒らす。どちらにしても待っているのは絶対的な死だけだ。

 

 無論無敵という訳ではなく、過去何度か討伐された経験はある。その度に尋常ではない被害があったというが、俺自身はカーオーンを直に見た事はない。文献や噂話で聞いた程度ではあるが、まさに噂や文献通りの巨大な姿があった。

 

 巨人すら優に超えるほどの超巨体、そしてそれが飛んでくるという質量的な恐怖。あれに突撃されるだけで人間等簡単に肉片に変わるだろう。

 

 この町の人間が絶望した表情で動けなくなるのも致し方ない。俺自身隣にオイシミがいなければ恐怖で動けなかっただろう。

 

 目の前でいつもの様に無感情の瞳でそれを見ている姿は死が目前に迫っているというのに何ら変わりはない。いや、腰に付けてるホルダーからナイフを取り出しているのは見えた。

 

 止めなければこいつは再び自分を傷つけるのだろう。止めなければあいつは必ずやる。そして現状は止めたくても止める事が出来なかった。

 

 このままでは全滅なのだ。だが生き残れる可能性は確かに残っている。オイシミの呼び出す何か達であれば恐らく勝つことが出来るかもしれない。あの時の魔竜など呼び出してしまえば、あの時の二の舞ではあるが、確実に助かるだろう。

 

 情けなさすぎて涙が出てくるぜ。結局俺はこいつを本当の意味で助ける事が出来てない。恐らくこいつは俺等の助けがなくても、生きていくことは出来るかもしれない。恐らく普通の人間としての暮らしは望めないだろうが、こいつを護る何かがあらゆるものから守る時点で、きっと生きていける。

 

 だが、それは生きているだけだ。

 

 こんな絶望が近づいている世界で、世界の終幕だと言われている世界で、たった一人歩かせる訳にはいかないだろうよ。あいつとも約束した以上、逃げられない限り俺と商人のあいつはこの幼い少女を守らないとならない。

 

 ・・・本当に。

 

「これほどまで、力を渇望したのは・・・いつ以来だろうな」

 

 小さく、俺達を守ると呟いて前に出たオイシミ。止める訳にはいかない以上、俺にできるのはこの後の事だ。町の人間がオイシミを排除しなければよし、さもなければ・・・最悪はあいつらを殺す事も視野に入れないとならない。

 

 こいつの力は脅威だ。

 

 そしてこいつ自身はどこまでも無力、殺そうと思えば簡単に殺せてしまう以上、あいつらが恐怖に駆られて襲ってくる可能性はゼロではない。

 

 呼び出したあれが消えるまでは大丈夫だとしても問題はその後で・・・俺は隣にいるあいつに目配せをする。あいつもこくりと頷いた。

 

 本当に・・・規格外な癖に、心配になる子供だ・・・

 

 再びオイシミがナイフを自分に突き刺す。何度見ても慣れない光景・・・そして、カーオーンが突っ込んでくるまでにあと数分、間に合うか? 間に合ったとして、勝てるのか。

 

 自分を突き刺し倒れるオイシミを俺はしっかりと抱き寄せ、その瞬間に俺達の目の前に異質な力の奔流が沸き起こる。

 

 前の時と同じく、オイシミが呼び出した何かが・・・

 

「お・・・おい、冗談だろ・・・?」

 

 カーオーンは近づいている、このままで俺達は全滅する。だからこそオイシミの呼び出す切り札を悔しいが頼りにしていたのに・・・現れたのは、とても小さくひ弱そうな人に見える何かだった。

 

 襤褸切れを最低限とばかりに羽織り、その見た目は【窶れ人】の様にも見える。下手な子供の方がよほど強そうに見えるそれ。

 

 全身はガリガリにやせ細り、武器すら持たず怯えたようにキョロキョロと周りを見回している。ややあってこちらを振り向いたそれは、見た目とは裏腹に目だけは俺を簡単にたじろがせるほどに強くギラギラと輝いている。

 

 周りの人間はすでに恐怖で逃げまどい、諦めて俯いたりしているせいでそれに気づいている奴はほぼおらず、気づいたとしても窶れ人が紛れ込んできた程度にしか考えていないだろう。

 

 それは此方に向かっているカーオーンを気にする事もなく、手を震わせて俺が抱き留めているオイシミに近づき気を失っている彼女の頬を何度も撫でた。

 

 宝物に触るように、ゆっくりと優しく。先ほどまで見せていた瞳がどこまでも優しい光を湛えているのが見える。

 

「あ、あんた・・・オイシミの・・・」

 

【ギギィ・・姫、姫・・・オレタチノ ヒメ ミテテ クレ】

 

 俺の言葉を遮るように、しわがれた声でそれは言うと、近くに散らばっている小さな小石を手に取った。

 

 ぽん、ぽん、と軽くお手玉し、曲がった腰を少し歪ませ、後僅かの距離にまでたどり着いているカーオーンに顔を向ける。

 

 そして、俺はこれまで以上に驚愕する事になる。

 

【オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!】

 

 ゆらりとそれは持っていた小石を振りかぶり、高らかに叫んだ。

 

【オレハ エイユウ!! アノカタヲ マモル ダイエイユウ!! カミゴロシノ ファルケエエエエエエン!!!】

 

 下向きに投げた投石が、小さな礫が――

 

 巨大なカーオーンを貫き叩き落した―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




【矮小なる大英雄ファルケン】
力を持たず、知恵もなく、
弱きものと小さきものと蔑まされる彼を少女は身を呈して守った。
その少女を守るべくせめてと投げた投石こそが彼を英雄たらしめた
少女は微笑み彼を認め讃え、故に投石こそが彼の全てであり
最後には彼女の敵たる神をただの石で殺した。

何も持たざるが為に一つを極め辿り着いたのだ少女が誉めてくれたその特技を
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