異世界でTS幼女はおいしみを食べたい   作:あさねこ

58 / 270
築いた平穏の中で眠る少女へ

 

 

 世界中が本格的に危機に陥っているのだろう。

 

 まさか、かの魔術都市が邪神軍に攻められていたとは予想すらしていなかった。いや、襲われたとしても全て返り討ちにして終わりだと思っていた。それだけの戦力はあるし、ここが落とされるという事は人類的に致命的な打撃を受けると言っても過言ではない。

 

 だからこそ今回の件は予想外にも程があった。押し返している所か、寧ろ押されていたとか笑い話にすらならない。もし落とされていたら人類の生存圏が更に狭まっていただろう。それを考えればあの時止めたにも関わらず力を発動させたオイシミを無理やりにでも止めていたら、どうなっていただろうか。今更ながらに背筋が寒くなった。

 

 だが、オイシミがあそこまでする理由はなかったはずだ。あの子は今回もまた、自分より見も知らぬ誰かを選び力を発動させた。

 

 いつもの様に自らを目を背けたくなるほどの勢いで自傷し、意識を失い倒れる。そしてすぐにオイシミを護るかのようにすさまじい光が発生し、何者かが出現する。

 

 俺もアキンソンも目の前に現れた何者かを認識する事が出来なかった。

 

 理由は単純でまばゆい光のせいでほとんど見えなかったからだ。後で都市の人間から聞いた話であるが、今回オイシミが呼び出した何者かはまさかの人の姿をした大魔術師だったらしい。

 

 しかしたった一人で魔術兵団が敗走しかけていたあの数を叩き潰したというのだから、つくづく恐ろしい力だと思う。あの子が呼ぶ存在はどれもが規格外だ。

 

 後、今回は見た目も普通だったこともあるのか、現れた存在に市民や兵士達は恐怖する所か、英雄だのなんだのと持ち上げられているようだ。そしてそういう場合に限ってオイシミは近場で召喚しておらず、彼女の功績はやはり誰にも知られる事はない。

 

 それでも目が覚めたオイシミはそんな事を全く気にせず、儚げな笑みを浮かべながら、皆でご飯を食べようと促すだけだった。

 

 目覚めてすぐに彼女は、都市は救われたのか? 大怪我した人はいなかったのかと、道中色々な事を尋ねてきた。大丈夫だと教えると表情は相変わらずあまり変わらないが、少しだけ柔和なほほえみを浮かべていた。きっと都市の人間達を救えた事が嬉しかったのだろう。

 

 自分の事にあそこ迄無頓着なのに誰かの痛みにはとても敏感なのだあの子は。

ここに来るまでの旅の途中でも、あの子は山賊達を見るたびに少しだけ悲しい表情を見せていた。

 

 そして件の魔術都市についてだが、オイシミの呼んだ存在のお陰で致命的な損害は回避できたようだが、それでも俺達が来るまでの・・・いやあの召喚獣が出てくるまでの死者は数えきれないほどだったようだ。つい先日追悼式があったからな、どうやら2000人ほどは亡くなっているらしい。

 

 その大半が一般市民ではなく、魔術兵なのは国としては最低限で済んだのか、一人でも並のモンスター狩りより強いという彼等をそれだけ失った事で手痛いダメージを受けたのか。分かっているのはかの魔術都市ですら、邪神軍を相手にするとここまでのダメージを受ける事だろう・・・今回の人的被害や都市そのものの被害は致命的と言うほどではないがかなり酷い。

 

 分かっているのは必要な物資も毎日の様に商人が慌ただしく動いている時点で全くと言っていいほどに足りていない。あちこちから魔術を用いて商人を呼んでいるようだが、状況はあまり芳しくない。

 

 更には邪神軍の残党や血の臭いに誘われたモンスター達が毎日襲い掛かってきているのが問題だ。商人が此方に向かえない理由の大半をこれが占める。一応俺達の様なモンスター狩りは高い報酬目当てに連日連夜戦っている。

 

 俺も夜間は戦わず昼間だけは戦うという契約で戦闘に参加している。しかしかなりのモンスターの数だ、戦える絶対数が減ったこの都市では、耐えるのは厳しいだろう。ほぼ毎日の様に怪我人が絶えない。時々死者すら出てしまうのは仕方ない事だろう。

 

 だが、それでも確実にオイシミが力を使っていなければこの程度では済まなかっただろう。下手をすれば近日中には落とされていた可能性もある。

 

 そんな英雄とも評されても良いだろう少女は結局誰にも知られず、誰からも称賛されず、だが今回の場合においては一切排斥される事もなく、ただただいつもの様に自然体だった。

 

 ベッドの上で寝ぼけ眼で此方を見るその姿には、あれほどの召喚獣を呼ぶような存在とは到底思えない。どこにでもいそうな普通の少女に見える。出来ればずっとそのままでいて欲しいが、きっとこの子は何かあるたびに力を振るうのだろう、自らの生命力を代償に。

 

 ならば俺達があの子に出来る事は一つだ。

 

 俺はモンスターを狩り続け、力を蓄え強くなるために努力を続け。アキンソンはこの後オイシミが何かあった時の為にどうにかできるようにと、商人としての力を高めていく。

 

 あの子が呼び出すような英雄には恐らく永遠に勝てるとは思わないが・・・それでもオイシミが彼等を呼ばなくても俺達だけでどうにかできる強さを手に入れたい。

 

 邪神軍が恐ろしくて逃げた俺や、ただの一介の旅商人だったアキンソンがこの子と旅を続けて決めた目標だ。それ位出来なければ、俺達はあの子に守られるだけの矮小な存在になってしまう。

 

 大人として・・・とかではない。ただ、あの優しい子が、いつまでも優しいだけで居られるように。ただ、平穏の中で、美味しいものを食べ、楽しく遊び、幸せを謳歌出来る様にする為に。

 

 俺は目の前にいる、合成獣を相手に剣を強く握る。

 

 強くなってオイシミを守れるようになるために。

 

 もう二度とこの手から大切な者達をこぼさない様に。

 

 約束したあの子供好きな親友に報いるために。

 

 俺は今度こそ、後悔しない様に生きたいと思う。

 

 

 

 




【心折れた英雄:ログンソン】
英雄に憧れた少年は、英雄になれず挫折した
親友と共に流れるままに生き、逃げて逃げて逃げた先にて
少女に出会った。

例え誰もが知る英雄になどなれなくても、
少女の為に生きる英雄になれるのかもしれない。
今を生きる以上、それはあり得る事だ。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。