異世界でTS幼女はおいしみを食べたい   作:あさねこ

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打算でしかない、これは打算なのですよ

 

 特別に誂えた暖かい寝袋の中で彼女が小さく寝息を立てている。

 

 普段はその様相とは思えない程にわちゃわちゃ動いている少女。名前はいつの間にかオイシミと呼ばれるようになっているが、私も彼もこの子の本当の名前は知らない。

 

 教えたくはないのか、それとも名前を持たないのか・・・いや、詳しく知る必要はないだろう。この関係はいつまでも続くものではないのだから。

 

 こんな終わりが近づいている世界で、命が助かる手段があるのならそれに全ベットするのが当たり前だろう。勿論私もそうした。

 

 私はグレイハルト。しがない旅商人。

 

 大きな夢を持つ事なく、ただ日銭を稼いで老後を楽に生きられればそれでよい。ならばそれを前提に商売をし続けていればいい。とても気楽な物だ。

 

 阿漕に稼ぐ必要などないのだから、手段も必然的にお互いに利益が生まれるものとなる。敵を作らず、出来うるならば潜在的な味方を増やしていく。

 

 そうした結果。私は大商人に負けず劣らずともいえる資産を手に入れていた。長く商人をやっていれば金なんてものは貯まっていくものだ。欲しい物は特になく、楽に生きていけるだけの金があればいい。それ以外は上手く運用していけばいい。

 

 結果それが上手くいった。あちこちから目を付けられる事もなく、敵対される事もない。旅商人という自由な立場だからこそ私は嫉妬されるであろう大商人たちの目も回避する事が出来ていた。

 

 だが、敵は人間だけではない。

 

 モンスターや窶れ、邪神軍とその数は増していくばかり。幸せな老後を送る前にモンスターに殺されて、邪神軍に蹂躙されて、もしくは窶れになって終わってしまう可能性がある。

 

 それは到底受け入れられない。私は平穏が欲しいのだ。ただ静かに余生を送り、その中で金には、資材には一切困る事のない楽園ともいえる場所をいつか作りたい。

 

 だからこそ、あの時見た少女に賭けた。

 

 これは損をしてでも得を取るべきだと商人の勘が告げていた。この子を見逃してはならない、私の未来のためにこの子に取り入るしかないと。

 

 英雄を呼び出す少女。

 

 その気になれば無限に金を生む事が出来る金の卵。だがそれに目がくらんで動けば待っているのは英雄たちに睨まれ無惨に殺される悲惨な未来だ。

 

 ならば利用すればいい。勿論彼女が得になるように動けばいい。この子が平穏無事に生きる事が出来れば、彼女の望む未来を作ればそれは私に返ってくる。

 

 寿命で果てるその時まで私は安息と充実を受ける事が出来る。ならば簡単だ、この子の為に動けばいい。いつも通りに自分を優先するのではなく、お互いに得になるように。敵を作らない様に、彼女と仲良くなれるように。

 

 結果は上々といった所だろう。

 

 気がつけば私は彼女に懐かれていた。もう一人の保護者ともいえるログンソンさんからもある程度の信用は得られたと確信している。

 

 ならばこのままでいい。欲を出す必要はない。寧ろ私が欲しい物は今すぐ手に入るような即物的な物ではないのだから。

 

 何はともあれ、今私は生きている。金も稼げているし老後の為の資金も安定してきた。未来は安泰といえるだろう。

 

 その為には彼女にはこれからも健やかに生きていてもらわなくてはならない。

 

 おもちゃとして人形を買い与えてみたが、あまり興味がないようだった。というよりも彼女は基本的に感情に乏しい。

 

 突拍子もない行動をとったりもするが、それ以外は常にぼーっとしてまるで人形の様に静かなのだ。余程辛いことがあったのだろう、輝きの消えた瞳からは一切の陽の気配は感じ取れない。

 

 恐らくは私達と出会うまでに大切な存在を失ったのだろう。心が痛い話だ。いくら打算にまみれた私でもその程度の良心はある。この子には出来ればもっと早く会っておきたかった。私の為に、そしてこの子の為に。

 

 ログンソンさんと今は亡きガイウスさん、あの時に乗合馬車に乗っていた彼等が居なければ今頃どうなっていただろうか。あの時襲われなかったら私達はどうなっていただろうか。恐らくはあの時の邪神軍の襲撃で死んでいた可能性が高い。

 

 私が生きているのは、ログンソンさんが痛ましい状態になりながらも生きているのはあの子のお陰なのだ。

 

 特にログンソンさんの義肢を集める時間があそこまで早かった理由は恐らく彼女が関係している。あの時の事で私が支払った金は殆どない。

 

 何故ならば・・・いや、考えない方がいいだろう。心の中に留め置くにしても精神が削れるような気がしたからだ。あの時乗合馬車にいた魔術使いの女性・・・あれは狂信者のそれだった。

 

 あの子の中に何を見たのか・・・オイシミは一体何者なのだろうか。恐らくは高貴な存在の可能性が高い。

 

 何故ならばあの子が呼び出す彼等は一様に、彼女を【姫】と呼ぶ。あの超常存在と彼女の関係は分からない。どうして自らを傷つける事でしか呼べないのかも分からない。

 

 ただ、あの子は守らないといけない。

 

 物理的にも

 

 精神的にも

 

 あの子は脆い。とても脆いのだ。

 

 もう彼女の悲痛な叫びは聞きたくはない。彼女は美味しい食事を食べて元気にしている姿が一番いいのだ。

 

 それが巡り巡って私の為にもなる。

 

 そう、あの子の為に私が必死に動くのはそのためだ。あの子に対して情はある。護らなくてはならないという思いがある。

 

 だがそれでも打算の方が上回っているよ。

 

 だからオイシミ。私を精々利用しなさい。君が望むのならば私は商人としてどんなものでも手に入れて見せよう。浅ましくも英雄になりたいなんて夢見て潰えたそんな私が、英雄を引き連れた君にしてあげられるのはそれ位のものなのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




【英雄に焦がれた者:アキンソン】
英雄譚のグレイハルトに憧れた寒村の少年は現実を知った。
英雄など役に立たないと、必要なのは金で、それさえあれば幸せだと。
それでもその名前を僭称するのは、燻りながらもそれを求めていたから

英雄を見た男は、彼等が護る少女を救うと誓った。
それを打算故だと、自分自身を騙したままで
焦がれてしまったから。本当の英雄を見てしまったから。
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