異世界でTS幼女はおいしみを食べたい   作:あさねこ

98 / 270
極地

 

 

 

 六腕の邪眼・・・巨大な蜥蜴の窶れた姿。

 

 邪神軍が擁する突撃兵であり、数が多く更に知能が低いが為に簡単に窶れに変わる。それゆえに尖兵を任されている種類だ。単純に強く、でかく、効率よく人間を殺す事が出来る。

 

 6本のそれぞれに単眼の目と口が付いている。脳というものが退化したのか存在せず、あるのは食欲という本能のみだ。だからこそ邪神軍の命令も聞かないが目の前に餌を用意してやれば動くという単純な所がある。

 

 そして脳がないからこそ、そこを潰して終わりという事がない。更には厄介な再生能力を持ち、効率よく敵を殺すには最適すぎる、モンスターというよりは魔導生物の様な存在だ。

 

 だがしかし【過ぎ】まで到達したこれは、脳が無いという矛盾を持ちながらもそれなりの知能を持ち、疑似的な亜竜にまで達すると言われるが、そこまで長生きする奴等は少ない。大体において食料が足りず飢えて死ぬからだ。

 

 前線ではこれが地平線を埋め尽くすほどの数存在し、人間達と戦いを繰り広げていた。再生能力も高いモンスターではあるが、巨体とその造形故に遅く、周囲を確認するのが得意ではない。

 

 複数なら兎も角、1匹程度であれば俺一人でも何とか出来る。

 

 義肢になった手前、今の俺で戦えるかと思ったが予想以上に義肢は俺の身体になじんでくれた。

 

 こいつは食欲だけで生きている。だからこそ餌である【自分より小さな存在】を見つければ即座に襲い掛かってくる。

 

 本能だけで襲ってくるのでやってくる事は単純だ。どれか数本の目で相手を視認し、そこめがけて頭ともいえる腕を相手に叩き付け食らいつく。それだけのシンプルな行動しかとらない。

 

 此方にむかって突撃なども出来なくはないが、バランスが悪くそこまでのスピードも出せず、走る時に腕が揺れるため満足に相手を見る事も出来ず道がずれるなどしょっちゅうだ。

 

 なので慣れればそれなりに腕利きのモンスター狩りが数人いれば苦も無く倒せる。魔術使いが居ればさらに楽だ。蜥蜴だから炎や冷気に弱い特性がある。自分が火や冷気などを吐いてくる癖にだ。

 

 振りかざしてくる腕を回避、時には防ぎ、時にははじき返して首を切断していく。こいつは何度でも再生するが、無限に再生できる訳ではない。

 

 再生力は凄まじく早いが、それが弱点となっている。

 

 再生時にはかなりのエネルギーを消耗するのだ。10も20も切り飛ばしてやればエネルギーが枯渇し餓死する。胴体を切りつけるより脆い腕を切り飛ばす方が何倍も早く倒せる。

 

 この程度ならば今の俺でもなんとか倒せるだろう。ふとグレイハルトがオイシミを連れて下がった場所を見ればやはりというか、あの子は自分をまた傷つけようとしていた。

 

 咄嗟に怒号を吐き動きを止めさせる。

 

 確かに俺なんかよりもっと早く倒す事が出来るだろう、だが何度もあの子を傷つけさせるわけにはいかないだろう。俺はあいつに助けてほしくて連れてきている訳じゃあないんだ。

 

 そりゃあ、あいつが呼び出すようなとんでも存在や英雄には逆立ちしても勝てないだろうが、それでも大人として子供を守るのは当然だろう。

 

 義肢にセットされている機構を再び使い大剣に炎を宿らせる。

 

 魔導を込められているこの義手は戦う事を前提に作られており、腕部分に備え付けられた鑢状の部分に剣をこすりつける事で剣を一時的に強化し、更に摩擦熱を魔術で強化した炎を展開させる事が出来る。

 

 大体30秒ほどで鎮火し強化も消えるが、その間は下手なマジックウェポンより強化出来る代物だ。ここまで役に立つとは思わなかったな、この前の村でリハビリがてらモンスター退治をしつつ慣らしていったのが、剣を慣らすまでが大変だった。

 

 このペースで戦えば時間はかかるが、倒し切る事は出来るだろう。

 

 こいつは脳を持たないが故に感情がない、だからこそ逃げるという発想がなく、死ぬまで目の前の餌を食おうと襲い掛かってくる。

 

 倒し切るか、致命傷を与えて撤退するか、それしか方法はない。

 

 そんな中グレイハルトから一本の手が全く動いていないと叫ばれた。

 

 確かに先ほどから1本の腕は此方を見ているだけで攻撃に参加はしていない。知能を持たない過ぎの状態ではないだろうがもしかしたらこんな所で1匹だけでいた以上、その手前の可能性が。

 

 そう考える間もなく、声に気付いた六腕の邪眼が一斉に腕に付いた目をグレイハルト・・・そしてオイシミ達に向けた。

 

【グウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ】!!

 

 本能で悟ったのか、目の前の俺より食いやすそうなグレイハルトとオイシミを狙い動き始めたのだろう。

 

 だが、そんな事させる訳がないだろう。怒号一閃、動きを縫い留める様に胴体に剣を突き刺し押し込む。

 

「おおおおお・・・おおおおおおおおおおおおおおおおおおおらああああああ!!」

 

 腕力に追加して魔力を込め全身全霊を込めた大剣の一撃はあっさりと胴体に突き刺さる。その状態から俺はありったけの力を込めて剣を持ち上げた。

 

 魔力で強化された剣は無茶な使い方をしても折れる事はなく、相手の動きを利用し持ち上げ転倒させる。

 

 巨大な物体が地面に叩きつけられ地響きが鳴るが気にせず剣を引き抜き、倒れて藻掻いている首、それもグレイハルトが言っていた右腕の一番上部分を執拗に切り刻む。

 

 他の腕では軽い痛痒程度の叫びしかあげなかったそれが、初めて激痛に悶え叫んでいた。あの助言は二人を危険にさらしたがそれでも大チャンスを俺に与えてくれた。

 

 必死にもがき起き上がろうとするそれの腕を執拗に切り刻む事数十回。

 

 念入りに弱点であるだろう腕を集中的に切り飛ばした結果、ついに再生が止まり断末魔の叫び声をあげて六腕の邪眼が生命活動を停止した。

 

「はぁっ・・・! はぁ・・・!」

 

 決して勝てない相手ではない。現に昔俺も、こいつを何回か倒したことはある。だがそれはガイウスという頼りになる相棒と、他に魔術師や弓使いという複数人で戦ったお陰だ。

 

 一人で倒したのはこれが初めてだった。利き手と両足を失い、義肢になったこの俺が、まさか倒せるようになっているとはな・・・俺も少しは強くなったのだろうか。

 

「ふぅ・・・い――」

 

 一瞬目の前が真っ白になった。

 

 その数瞬後、全身が何かに激突し激痛と共に吐血する。目がちかちかし何が起きたのか理解できなかったが、気合いで意識を覚醒させるとそこにはふざけた光景が広がっていた。

 

「冗談・・・きついだろ」

 

 たった今殺したはずの六腕の邪眼が、動き出したのだ。

 

 それも切り刻んだはずの腕が完全に再生し、それどころかさらに胴体部分から4本の腕が生えてくる。

 

 元は頭部が有っただろうコブの部分が脈動し、縦に亀裂が入ったと思えば、そこから巨大な目が現れギョロギョロと動き出した。

 

「過ぎ・・・やがった」

 

 この個体は過ぎ直前だったという事か。殺し切れたと思ったが、僅かに生き残り過ぎた事で急速的に回復したとでも言うのだろうか。

 

 エネルギー枯渇で死んだのだからそのまま死んでやがれ・・・!

 

 まずい、このままでは。

 

 また俺は、護る所か・・・・守られるのか・・・・!!

 

 完全に復活した過ぎた化け物が取り戻した知能を持ち、此方を見て全ての口で笑い出す。

 

 これから食われるだろう俺を思って嗤っているのだろう。

 

 それだけだったら・・・・俺が終わるだけだったんだがな。

 

 こいつも、狙ったのが俺達じゃあなければ、思い通りだったのだろう。

 

「俺は・・・どこまでいっても凡人だな」

 

【英雄など、なるものではないぞ? あれは世界の人柱じゃ】

 

 

 いつの間にかそこには俺の前に立つ、一人の老人が居た。

 

 目の前の化け物の前に・・・

 

「すまねぇ・・・俺は、また」

 

【なぁに、感謝しとるよ。儂も、あやつらもな。胸を張れ若人】

 

 

 極光――

 

 目を覆う様な光が走り、俺は眩しさに目を閉じた。

 

 暫く閉じていた目を恐る恐る開けば、そこには老人も、過ぎたモンスターもおらず。ただどこまでも何もない何時もの街道が広がっているだけだった。

 

 

 

 

 




【極めた者:ファルサガール】
何もかもを極めたそれは戯れに全てを破壊する
あらゆるものを消し飛ばし、虚無の中で、たった一つに出会った。
全てを手にいれが故に取りこぼした存在に
老人は涙し、壊れものを扱う様に大切に育てた

男は何も極めてなどいなかったのだ。
それを知る事が出来た喜びは、計り知れない

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。