雨の日の少女は何者なのか
十香が転校してきてしばらく経った。美しい容姿に天真爛漫な性格が影響して、比較的早くクラスには馴染んだようだ。友達と言える女子生徒も何人か出来ている。
反対に進介はというと、転校初日の十香による爆弾発言によってクラスどころか学年全男子から目の敵にされている。唯一殿町は普通に接してくれてはいるが、時折進介の肩を掴む彼の手に異様に力が入っていることがあるが、その意味を知りたくない進介であった。元々そんなに友人もおらず、唯一の友人と言えば殿町ぐらいしかいなかった進介は今の現状に肩身の狭い思いをしている。
ふと、進介は自分の左隣の席にいる少女に視線を向ける。先ほどの授業の復習をする折紙は、いつもと同じように無表情だ。
だが、進介は知っている。彼女が精霊を倒すために結成された特殊組織〈
折紙は決して悪い女の子ではない。なんの理由もないが、進介はそう確信していた。この溝が埋まるきっかけがあればと思いながら、進介は窓の外を見た。
「雨、か・・・・・」
今日も今日とて雨。ここ数日当たらぬ天気予報を見るのをやめた進介は、鞄の中に入れておいた予備の折り畳み傘を十香の鞄の中に入れておく。そして携帯で、琴里に士織と一緒に帰るよう頼むと、進介は一人足早に教室を出た。今日の食事当番は進介。材料はすでに買ってあるため、あとは家に帰って準備をするだけだから急ぐ必要もないのだが、なぜかこの日のみ進介は早く学校から出なければいけない気がした。
久方ぶりに通る風景を見ながら、進介は昔を思い出していた。昔と言っても、せいぜい数年前の記憶がほとんどで、それ以前の記憶は全くなかった。何かおかしい気もするが、今の進介にとっては五河家に来たあの日からがすべてのスタートなのだ。昔がどうであろうと今がすべての進介にとって、昔の記憶はそれほど重要でもなかった。
過去の風景と今の風景を比べながら歩いていると、左手にある神社にいるものに目が映る。雨の中、傘も差さずに動いている
軽快にステップを刻みながら踊る少女の姿に、見惚れていると
「あっ・・・」
段差の部分で足を滑らし前へこけた少女の姿に、進介は思わず声を漏らした。直ぐに少女へと駆け寄り、倒れた体を起こす。
海のように青い髪に、
「ご、ごめん。何かしたならあや・・・」
「・・・・ないで・・・・さい・・・」
「え?」
聞き取れなくもない、小さな声が聞こえてくる。その声の主は、目の前にいる少女だった。
「いたく・・・・しな、い、で・・・くだ、さい・・・」
怯える小動物のような瞳で、少女は訴えた。進介はこの瞳をつい最近見たことがある。一番最初に十香に会った時の、あの誰も信じられない、世界に絶望した目と、いまの少女の目は似ていた
「ううぅ、風邪ひきそう」
士織や十香たちよりも先に学校を出たはずなのに、いつの間にか最後に家に帰ってきてしまった進介。あの後、少女が落としたパペットを彼女に渡すと、まるで幻影のように少女は消えてしまった。精霊なのか、幽霊なのかは分からないが、取り敢えず今は冷え切った体を温めるのが先決だ。
リビングに荷物を放り投げ、靴下や上着を脱ぎながら脱衣所に向かっていく。浴槽にくると、既に誰か入った後だったのか扉に水滴がついている。とりあえず、洗濯籠の中に服を全部突っ込んだ進介は、軽くシャワーを浴びようと浴槽の扉を開けると
「む?」
「ん?」
そこにいたのは一糸まとわぬ姿で風呂に入っていた十香だった。胸の大きさ良し、腰回りのくびれ良し、すらっと伸びた手足良し、その美しい要望に100点満点を上げたい進介だった。
そして、十香の悲鳴と進介の顔面にシャンプーの容器が直撃するのはほぼ同じだった。
「で、なんで十香がここにいるんだよ」
「あら、言ってなかったかしら? 訓練よ訓練」
五河家の地下にあるドライブの専用基地、通称『ドライブピット』。そこに置かれていたソファーに座っている進介は、仏頂面で目の前にいる黒リボンの琴里と話をしていた。元々琴里たち家族にはドライブピットの存在は秘密にしてきたのだが、今となっては自分がドライブだということもバレてしまったため、こうして招待したのだ。
「訓練ね~まさかまだ精霊がいるとはな」
「誰も精霊が十香一人だなんて言ってないしね」
琴里から聞かされた訓練。それは、十香以外にも存在する精霊たちを封印するためのものだった。薄々は勘付いていたが、精霊が複数いると聞かされたときは流石に泣きそうになってしまった。いったい自分はどれだけの女の子とキスをすればいいのだろうと。もはやアニメなんかによく出てくるプレイボーイそのものではないか。
「というか、なんでここに全員いるの!?」
今ドライブピットには進介と琴里の他に、令音、士織、十香たちも居座っていた。十香は令音から生活する上でのルールやマナーなどを教わっており、士織は一人静かに本を読んでいた。
『まあいいではないか。賑やかなのはいいことだ』
「ベルトさん・・・・・」
そう言って近寄ってきたのは、台座にセットされたベルトさんだった。元々人に教える気はなかったため今まで二人でここでドライブについての武器開発などを行ってきたが、今はこうして賑やかになっているのがうれしいのだろう。
『君はもう少し他人に踏み込む努力をした方が良い。いつまでも受け身の姿勢では、救える精霊も救えないぞ?』
「うぐっ」
痛いところを突かれた。正直言って、進介は昔から人と付き合うのがどうも苦手な傾向にある。自分から話題を作らず、ただ相手から話しかけるのを待つのみ。そうしてきた結果が、友人が殿町一人という悲惨な結果だ。正直、殿町もよくこんな自分と交友関係をずっと持ってくれていると不思議に思うぐらいである。
「ベルトさんの言う通りよ。進介、貴方はもう少し他人と関わる努力をしなさい。それが訓練よ」
琴里にきつく言われ、がっくりと肩を落とす進介。今日も今日とて、かわいい妹は手厳しい限りである。
余談だが、後日行われた学校の調理実習で十香と折紙が作ったクッキーのどちらが美味いかの審査をさせられたせいで、意外とすんなり折紙との溝は埋まってしまったとか。
マイコプラズマにかかり、暇なのでずっと書いてました。
ちなみに士織は4巻の内容に入るまでほとんど空気です。勿論彼女にはちゃんとヒーローを用意しておりますのでお楽しみに。
余談ですが、SHフィギュアーツの仮面ライダーマッハチェイサーが明日から受注開始なので、ファンの方はぜひご予約を
ではまた今度