良しと言われたのは丸々全てが終わってからだった。
全員が喜びに諸手を挙げて喜んでいる最中、自分の中に残る胸糞の悪さに大きく舌を打つ。
そうしていると老人のカイオウシンが目の前にやってきて「やっと話せるようになったわい」と言った。
カイオウシンカイに戻り、周りがそのままやり取りをするのを少しも見られないまま「ほれ、あっちに話をする奴がおる。聞いてこい」と指を指した先の気を探る。
確かに1つ、カイオウシン達と同じ部類の気を感じ、もう何も言うまいと歯を強く噛んで其方に飛んでいく。
気の主の所に着くと、そこには全体的に桃色の強調がされたカイオウシン達と同じ衣類を纏ったカイオウシンがいた。
腰に手を当てており、こちらを見て手を振っていた。
少し距離を開けて降り立ってじっと少し高い位置にある顔をみる。
「ハーイ、こんにちわ。…ここホントボロボロね…魔人ブウとの戦いの凄さが見て取れるってものね」
「…」
「分かってるよ。さっさと話せって言いたいんでしょ?」
女ほど高い声の様だが、実際には性別らしき性別を感じない容貌をもつ不安定ながらに安定した生き物に眉をひそめる。誰も彼もカイオウシンというのは不気味だ。
「ブキミって失礼ね…まーいいわ!
君は界王神の言う事をちゃんと聞いてお利口にしててくれたし、下手な歴史改変も起こらなかったしそういうのくらいなら目をつぶって上げなくもない。
じゃあ君の知りたがってる本題の方に入るわよ。
まず、私は時の界王神。その名の通り時を司ってる界王神って思ってくれていいわ。
正しい歴史を守って、それが改変されるような事があれば直ちに修正するのが仕事よ。…重大なお役目は別にあるけど、それは置いとくわ。
なんでそんなこと言うかって言うと。
君がこの歴史に居るのは本来ありえない事だからよ。」
つんと指をひとつ立ててそう告げた時のカイオウシンに「何をおかしな事をいってやがる」と声がでる。
「俺がここに居るのはそれはそれで事実だろう。」
「まあね。事実は事実。起こってることよ。
けどその事実が本当は起こらなかった事実なの。
だから君はずーっと今の今まで大変な事になっているのにも関わらず指一本も触れさせられなかった。」
「……」
「君にはちょっと酷い事したと思ってる。
けど、下手に関わる訳にはいかなかったの」
「…」
困った顔をした時のカイオウシンから目を少しそらす。
口を出したい事は山のようにある。だが、具体的になにをどう言ってやりたいかなんてわからなかった。
言語化出来ないムカつきが、ずっと胸に燻っている。
「ただこの歴史に接触してきただけの人物なら直ちに回収したり、元の場所に戻したり出来た。
けど君はベジータくんの実の息子で、タイムマシンはブルマが回収してる。ガッツリ関わっちゃってるから下手に接触するとそれが逆に歴史改変に繋がりかねない。
だから、おじいちゃん達に言って事態の中心から遠ざける様にしてたの。
…そして説明が出来なかったのも、歴史がどうこうを知られちゃうとダメだからよ。今は丁度一区切り着いたところだから、こうやって君に接触出来たってわけ。」
なるほどなと燻りを横に置いて説明を飲み込む。
納得はしかねるが、理解は出来る。
事情が絡めばそういう手段を取らざるを得ない時も、あるだろう。
「ウチには君と同じく正しい歴史に干渉して、その後改変までした前科者がいるんだけど…
そいつは元の時代に帰った所を拾ったの。罪を償わせる為にね
そうすれば下手に正しい歴史に入り込んで接触するようなリスクは負わなくていいし。
でもね。………ちょっとその手段は取れなくなった。
だからこうして君に私が直々に会いに来た。」
「…?どういう事だ。」
「…簡潔に言うわ。君は帰れない。」
少しだけ言い渋り、瞬きの間に意を決した様子で告げられた言葉。
何を言うのかと思えば。…どういう意味だ。
「……帰れないの。君の世界は、…もう無い。」
「… は?」
「…………君…、…ここに来る前の記憶はまだ覚えてる?」
「…………」
「そうよ。…その二人組のサイヤ人…パラガスとブロリー。そして人造人間17号と18号の同時襲撃。
そして悟空くんの病死。ピッコロの死。
………歴史はもう覗かせてもらったわ。
君はベジータくんに気絶させられてブルマの所に届けられた。その後君がタイムマシンでその世界から消えて僅か一時間で地球が無くなった。
そして数時間もかからず北の銀河が消滅。
……………ブロリーの手によってあっという間に君の世界は宇宙丸ごと消えた。 …君がタイムマシンに乗り込めたとしても、もう」
声が出なかった。
悲しい表情をした時のカイオウシンが壁一枚を隔てた向こうにあるような…遠いものに感じる。
静かに、ゆっくりと荒れたカイオウシンカイに膝が崩れて落ちた
「…」
「…………俺の…、…
………おれのぱぱも、ままも、」
「…」
「…い、いない、?」
「……ええ」
はるか遠くで戦いを終えた戦士たちの声がする。
…あそこにベジータがいる。…だが、自分の…鍛え続けて守り続けてくれた父ではない。
……産ませた覚えも名付けた覚えもない、別の世界の我が子という少し遠い存在の自分を見るベジータはどう頑張っても父ではない。
………………頬に手を置いて、軽く額を親指で撫ぜてきた父も。
土汚れを拭って抱き締めて名前を呼んだ母も。
思い遣りの滲む厳しい兄貴分の悟飯も。
クリリンも天津飯もヤムチャもみんな、みんなもういない。
みんながみんな背を向けて、二度と触れない所に知らない内に消えてしまった。
「……ベージくん。
…今あったばかりで言うのもなんだけど…私と来ない?」
「……………」
「君は、きっと人の為に何かをしたい子だと思う。 もしも私の手伝いをしたくないのだとしても…第二の故郷として住んでくれたらって思うの。
…ここに居るのは辛いはずよ」
…ここは、…確かに少しばかり客の様な雰囲気で見られていたように思う。
…父や母にそう接されるのは正直堪える。
「………ならそれでいい
…連れて行け」
「そう…わかった。けど、先に挨拶してらっしゃい。
"元の世界に返せる界王神がいるから送って貰えることになった"とでも言えばいいわ。
…それと…」
傷心のままに答えてそのまま聞いていると、徐に時のカイオウシンが目の前に来て、耳に何かをつけた。
「これはポタラ。…まあレプリカみたいなものだけど、挨拶が終わったらそれに話しかけて。人の居ないとこでね。私が見られちゃうとマズイから」
また後でね、というと時のカイオウシンは俺の頭を軽く撫でつけてから姿を消した。
ふらふらとした飛行ののちに悟空たちの所に降り立ち、すぐさま先程のセリフを告げた。
明らかに様子のおかしい自分を心配する大人達にこれっぽちも反応できないまま、とりあえず行こうと共に地球に戻った。
……全員が喜びを分かち合う中で、特に関わって居ない連中以外の…ベジータ達血縁者に先程のセリフを告げた。
その中でブルマだけは少し変な顔をしたような気もしたが、知ったことではないと横で帰らないでと騒ぐトランクスと悟天に自分を好きな様にさせたまま、呆然と何も無い方向を眺めていた。