『魔法使い』がフォンテーヌ勢の心をぐちゃぐちゃにする話 作:性癖に従え
・この話の主人公は旅人じゃありません。旅人とは違う世界で生きている男主です
・キャラ崩壊があるかもしれません
・キャラへの解釈を深めることを努めてますが、口調も歴史もあやふやです
・捏造に次ぐ捏造してます
・いろいろととガバがあります
・オリ主の味付けが濃いです。めちゃくちゃ濃いです
・作者の趣向は、貴方の地雷の可能性があります
・この先、恋愛色を含むかは分からないので、一応「腐向け」としてタグを付けています
上記の注意書きの内容が無理な人は閲覧をやめてください
読んだ後の批判は受け付けません
それでも「読んでやるよ!」と言う方はどうぞ↓
突然だが、幼い頃に聞いた読み聞かせを覚えている人はどれほどいるだろうか。
家族でも、先生でもいい。読み聞かせてくれる人たちは、その幼い子供のために、優しい声で、色々な物語を語ってくれる。童話も、昔話も、ちょっとした小説も、漫画も。教訓や勉強や、心の成長にも関わるそれ。物語というものが大好きなオレは、いつか自分も誰かに物語を伝えたいと思った。
運がいいことに、友人曰く「聞いてしまう、聞かされてしまう声」と称されるオレの声は、まさに物語を語るに相応しいものだった。物語を読み、内容を咀嚼し、自分なりに表現する。その練習をし続けたオレの技術は、とんでもないことになった。
具体的には友人たちに「もう二度と救われない、悲しい物語を朗読するな」「ゲスキャラをやるな。本気で殺したくなる」「お前の演じるヒロインが可愛いのは腹立つし、解釈違い」というありがたいお言葉たちを頂き、バイト先の幼い子供がいる施設では、担当の読み聞かせの時間になったら率先して群がられるくらいには人気になった。先生たちには「子供たちがおとなしくなって助かってます」と両手を合わせて拝まれた。思わず栄養ドリンクを差し入れしてしまったオレは悪くないはずだ。きっと。
そんな人生を歩んできたオレだが、基本的によっぽどのことがない限り、思考を止めないように心掛けている。思考を止めなければ、何とかなるだろうという楽観的な考えからもあるし、常時いろんなアイデアを逃さないためというのもある。
まあ、つまり何が言いたいのかというと
「何者だ、君は!どこから入って来たんだ!!」
「…………」
気が付いたら見知らぬ場所で、見知らぬ二人の子供が目の前にいれば、流石に思考を止めるしかなかったのだ。
涙目になったままこちらを睨みつけてくる女の子と、その女の子の後ろで無表情のままこちらを見てくる男の子。向けられる視線が痛くて痛くて仕方ない。思わず何か言おうとしたが、変なことを言ったらさらに大変なことになりそうで、唇をきゅっと結ぶ。くるり、と視線だけを周りに移せば、そこにあるのは、見覚えのない白と金と青色で彩られた豪華な家具たち。明らかに、オレが一番の異物だ。
(いや、そういわれても滅茶苦茶困るんだが)
どこから入って来た、なんてこっちが聞きたい。さっきまでオレがいたのは自分の家で、こんな豪華な、それこそ偉い人しか入れなさそうな部屋なんてどうやって侵入できるのか。
けれど、ここにオレがいるのも事実なわけで。どうすりゃいいんだと頭を抱えたいが、それをすれば不審者のランクがさらに上がる。もしもし警察ですか案件になってしまう。
(いやいやいや、思考を止めるな!何か手があるはずだ、何か!!)
遠のきそうになった意識を何とかつなぎ止め、思考を超高速で回す。この状況を打破するためにはどうすればいいのか、見つけ出さなければ不法侵入でお縄案件だ。それだけは勘弁願いたい。けれど、どうしても解決策が思いつかない。もういっそのこと、気絶でもしてしまおうかと諦めそうになった時だ。
(あ、)
先ほどからこちらを睨みつけてくる女の子。そのオッドアイの片方の紺色瞳。そこから、ぽろりと雫が落ちる。それが恐怖によるものだと気付くのに、時間はかからなかった。
それもそうだ。オレが混乱しているように、相手だって混乱しているに決まっている。しかも、自分よりも年上の、男が急に現れたら怖くて仕方ないだろう。それに、後ろにいる男の子をかばうようにしている。自分のことだけで限界だろうに、それでも誰かを守ろうとする姿を見てもなお、気絶なんていう逃げの道を選べるわけができるはずがなかった。
というか、そもそも
(誰かの泣き顔は見たくない)
どこぞの主人公みたいなことを言うが、これが自分の中にある大事なものだ。誰かの笑顔が好きで、誰かの泣く顔が苦手。感動しての涙や、うれし泣きならまだしも、恐怖に怯える泣き顔なんて見たくない。その原因がオレならば、オレが解決しなければいけない。
すう、と深呼吸を一つ。目を閉じてイメージする。この場で、一番相応しい『役』はなんだ。目の前の二人の心をつかむ『役』を見つけろ。口調は、性格は、動作は。しっかり考えろ。思考を止めるな。一瞬でも止まれば、なにもかも台無しになると思え。
目を開く。覚悟は決まった。あとは『役』を演じるだけ。この場に相応しい『役』を!
「『おやおや、この私が瞬間移動の魔法に失敗してしまうなんてねぇ』」
口に手を当て、心底驚いたと言うように目を見開く。声は少ししわがれた、けれど舌はちゃんと回っているおばあちゃんをイメージする。そう、物語に出てくる魔女のような存在を。その声で仰々しく、抑揚を付けながら話す。最初の演技が重要だ。その演技で相手を引き込めるか勝負が決まる。
そのままゆっくりと立ち上がる。すぐに立ち上がらないのは、もちろん自分の演じている『役』が『魔女』をイメージしているからだ。……美人な魔女とか、かわいい魔女とかはまた別の機会にする。この場面には相応しくない。
「『ええっと、ここはいったいどこなのか……』」
きょろきょろと周りを見渡しながら、不思議そうに首をかしげる。幸運なことに、これは自分の感情とシンクロしているから、ほとんど素のままで演じることができる。違和感はあまりないはずだ。というか、ないことを祈るしかない。ぶっつけ本番はいつだって怖いのだ。
ちらりと気づかれないように様子を窺えば、女の子の方はこちらを見て固まっている。が、その目に涙は浮かんでいない。どうやら少しはこちら側に引き込むことができたらしい。……男の子の方は何の感情もないままこっちをガン見しているので、それはそれで怖いのだが、とにかく敵意を向けられるよりはいいだろうと開き直る。
そしてこつこつとわざとらしく足音を立てて、二人のもとへと近づく。次いで、二人の目の前に来ると同時に、跪く。上から見下ろされるより、下から見上げる方が威圧感が薄れ、怖がられる可能性も低くなる。その所説を信じたい。
オレの行動に、女の子はびくっと肩を震わせたが、視線はこちらを見たまま。なるべく安心させるように、微笑むことを心掛ける。とにかく、何よりも安心させるのが重要だ。だから、次の行動もそれに基づくもの。
「『すまないね、怖がらせて』」
そう口に出し、拳を軽く握りしめたまま、くるりと回す。サプライズが大好きな、友人から教わったマジックの一つ。
「『お詫びと言ってはなんだが、この不思議なキャンディを君たち、に……』」
そして手から出てきたのは
「……あれ?」
平べったい、想像としていたものとは全く違うもの。原材料も、見た目も全然セリフにも今、この状況にもふさわしくない食べ物。
醤油味のせんべいが、人数分、手のひらに現れた。
「え、ま、まって!ちが、これはちがう!!間違えた!!」
慌ててそのせんべいを隠し、ポケットの中やバッグの中を探り、目的のキャンディを探す。けれど、食べ物として出てくるのはキャンディではなく、せんべいしかない。茶色いてしょっぱい、しょうゆ味の美味しいせんべい。でも、今この瞬間に必要としているのはこれじゃない!!
(な、なんでこういう時に限って……って、あ!!)
そういえば、と思い出す。
今日、バイト先に向かった施設で、子供たちにねだられた結果、キャンディをすべてあげてしまっていたのだ。代わりにと職員のおばちゃんに貰ったのが、先ほど手にしたせんべい。しかも大量。おかげで帰りにしばらくお菓子は買わなくていいと思っていたが、それが裏目に出るなんて!!
せんべいを差し出されてぽかん、としている目の前の子供二人。申し訳なさとか恥ずかしさとかその他諸々の感情がぐちゃぐちゃになり、あああ、とか細い悲鳴を上げながら頭を抱える。この状況、更に悪化した気がする。本当に即興ネタは苦手なんだって。気まずい空気に耐えられない。もう、本当に帰らせて……。
「ふ、あはははは!」
しかし、不意に聞こえてきた笑い声に、オレの声が止まる。おそるおそるというようにそちらを見れば、女の子が面白いと言わんばかりに腹を抱えて笑っていた。そして笑いすぎたのか、目元に浮かんだ涙を拭うと、こちらを見て呆れたような表情をした。
「君のようなおっちょこちょいで抜けている人間は、生まれて初めて見たよ!まさか、こんなオチが用意されているとは、流石の僕も見抜けなかったや!」
「すいませんこれ事故なんです勘弁してください……」
女の子の台詞がグサッと心に刺さる。これ多分しばらく忘れられないやつや……。
まあ、でも、
(笑ってくれるなら、それでいいか)
さっきの警戒した、怯えによる泣き顔よりはずっといい。やっぱり誰かのこうやって笑っている姿が、一番好きだ。
とまあ、そんな考えはいったん置いておいて。この場で俺にとって一番大事なことがある。いまだに笑っている女の子と無表情で見てくる男の子に、跪いたまま問いかける。
「申し遅れたが、自己紹介するな。オレの名前は
名前を告げたと同時に問いかければ、きょとん、と目の前の二人は目を瞬かせた。
「えーっと、つまり、ここはフォンテーヌって名前の国で。その国の偉い人がいるパレ・メルモニアが、今オレたちがいる場所で。君たち二人、えーっと、フリーナちゃんとヌヴィレット君がその偉い人ってわけか?」
「ああ、その通りだね。僕は水神、フリーナ。フォンテーヌを統べる神さ!フリーナ様と呼んでも良いからね!!」
えっへん、と腰に手を当て、どや顔をするフリーナちゃん。その言葉に合わせるように「フリーナ様―」と平伏すれば、ふふん、と彼女は可愛らしく笑った。なんだこの子、めちゃくちゃ可愛いな。なんというか、頭をわしゃわしゃと撫でまわしたいタイプの子だ。もちろん、オレはそんなことを許可もなくするような人間ではないので、心の中で留めるだけにするが。
まあ、そんなことを思いつつ、気になることが一つ。
「その、フリーナ様、いや、フリーナちゃん?えっと、ううん?」
「そこまで迷うなら、もうフリーナでいいよ」
「あ、ありがとう。その、後ろにいるヌヴィレット君、大丈夫?さっきから無言のままだけど。もしかして話せない、とか?」
「あー、いや、そういうわけじゃなくて……」
フリーナちゃん、改めフリーナと話している最中、ずっと無言のままのヌヴィレット君と言う名の男の子。無表情のまま、こちらを見つめてくる、海色にドラゴンガーネット(だっけ?)を滲ませたような瞳には、何の感情もない、ような気がする。なんというか、こっちを人として見ていない、どうでもいいみたいな。それかこちらを観察しているとか、そんな感じか……?なぜかその瞳に見つめられると、背筋がぞわぞわとする。これは、悪寒というやつなのか?分からない。
(いや、でも、もしかしたら緊張しているのかもしれない)
こんな、普通だったらあり得ない現象に遭遇したんだ。いくらフリーナがオレのことを警戒しなくなっても、ヌヴィレット君がそうではないとは限らない。オレを見る目だって、きっとこれ以上変なことをしないかを見極めているんだろう。この場合はどうすればいいか、考える。なにか良い方法、自分は害をなす存在じゃないと、仲良くしたいんだと証明する手段……。
(あ、そうだ)
ごそごそと、バッグの中を漁る。目的のものは、すぐに出てきた。それを手に持ち、はい、と二人へと差し出す。さっきはなかったことにしたもの。その名も、しょうゆ味のおせんべい。
「そういえばこれ、せっかくだからどうぞ」
二人に渡したものとは別のせんべいを袋の中で小さく割り、ぺりぺりぺり、と包装を開け、ぱくりと口に含む。先にこの行動をしたのは、この食べ物には変なものは入っていないよ、と証明するためだ。仮にも、オレはまだ怪しい人間で、得体のしれない人間なんだし。それで信じてもらえなかったら、オレは凄く悲しいことになるけど。
ぱりぱり、どころかせんべいが固すぎてバリバリと音を立てて食べるオレに、受け取ってくれたフリーナは困惑した表情をしたが、同じように包装を開けると、えい、とせんべいにかじりついた。ばり、と良い音がした。そして、ぱちぱちと目を瞬かせる。
「あ、美味しい。しょっぱくて、なかなかいけるものだね。ちょっと硬すぎるのが難点だけど」
「あー、ごめん。そのせんべい、結構硬い品種なんだよな。先に言っておいた方がよかった、よ、な……」
そこでふと、違和感に気づく。オレのせんべいを受け取ってくれたフリーナに釣られるように、受け取ってくれたヌヴィレット君。彼はどうやらそのせんべいを一口食べてくれたようなんだが……。
「えっと、ヌヴィレット君?大丈夫?」
ぴたり、と彼の動きが止まってしまっている。おかしい、このせんべいには何もおかしなものは入っていないはずだ。もしかして、しょうゆ味とかしょっぱいものが苦手なパターンだったんだろうか。どうしよう、口直しのためのものを探すけれど、甘いものはないし、あるのは開けていないペットボトルの水だけ……。
「あ、しまった」
その時、フリーナの焦った声が聞こえた。
と、同時に、びたん、と何か重いものが地面を叩く音が聞こえた。唐突に聞こえたそれに驚き、その音の出所を見れば、そこにあったのは
「……尻尾?」
青色の大きな鱗がびっしりと詰まった、ふさふさの白色の毛先がある尻尾。どこか神々しいそれはまるで、物語によく出てくるドラゴンとかそういう空想の存在が持つ物のようで。先ほどまで無かったはずのそれは、ヌヴィレット君から生えているように見えた。
いや、見えたんじゃない。生えているんだ。
「……かわいている」
それに気づくのと、ぽつりとヌヴィレット君が呟くのは同時だった。びたん、びたん、と何度も地面を叩く尻尾の勢いが、どんどん強くなる。さあ、と顔を青くさせたフリーナが、慌ててこちらへと飛び込んできた。
「ごめん、言うのを忘れてた!ヌヴィレットは乾いた食べ物が苦手だったんだ!!」
「え、じゃあオレはあの子の苦手なものを率先して渡して、食べさせたってことか!?最低な人間にもほどがあるだろ!?」
「いや、これは事故みたいなものだから!と、とにかく水!なにか、水に類するものを持ってないかい!?それを飲ませれば、落ち着くはずなんだ!多分!!」
「その多分という情報は、今はいらなかったかな!?ちょ、ちょっと待っててくれ!」
急いでバッグの中から水の入ったペットボトルを取り出す。ぱきり、とキャップの開く音を聞いたと同時に、そのペットボトルを勢いよくヌヴィレット君に渡す。その際、勢いをつけすぎたのか、若干オレの手が水で濡れてしまったが、そんなことを気にしている暇はない。今はとにかく、彼を落ち着かせなければ!
「ヌヴィレット君、ごめん!知らなかったとはいえ、嫌いなものを食べさせて、本当にごめんな!口直しになるか分からないけど、水が好きなら、これを受け取ってくれないかな!?」
喉のケアのために買った、少しだけ値段の張る水。有名な山の雪解けを使ったそれで満足させられるか分からないが、いまはそれを祈るしかない。不機嫌そうにこちらを見ていたヌヴィレット君だったが、オレの手にあるペットボトルに入っていた水を一瞥すると、受け取ってくれた。そしてごくり、と飲み込むと、目を見開き、硬直する。それと同時に、尻尾の勢いも無くなっていき、最終的には尻尾の動きが止まった。
その一連の出来事に、思わず小さく安堵の息を吐く。それはフリーナも同じだったのだろう。はあ、とため息を吐いていた。
「助かったよ、縁。このままだったらパレ・メルモニアが大変なことになってた」
「いや、もとはと言えば、オレの責任だし、フリーナが気にすることじゃない。むしろ、こっちが謝るべきだ。フリーナも、ヌヴィレット君も、本当に、ごめんな」
自分の迂闊さがこの出来事の原因だ。申し訳なさに頭を下げて謝罪すると、慌てたように、フリーナは言葉を紡いだ。
「いや、こっちとしても、ヌヴィレットが乾いたものが苦手だと、気づくのが遅かった。なにせ、まだ彼と一緒にいる期間が少ない状態だから」
「一緒にいる期間が少ない?えっと、二人は姉弟とか、そういうわけじゃないのか?」
髪の色とか年が近そうなのも相まってフリーナとヌヴィレット君を姉弟だと思っていたが、そうではないらしい。不思議に思って首をかしげると「あー……」とフリーナは何とも言えない顔をした。
「えっと、その話は歌劇の三幕並みに長くなるというか、舞台裏を覗いてしまう行為になるというか……」
「えっと、つまりあんまり突っ込んでほしくない話ってことか?なら、俺も詳しくは聞かないけど、」
「わたしは『水龍』だ。フリーナと同じそんざいではない」
「ちょ、ヌヴィレット!?」
こちらの話を聞いていたらしいヌヴィレット君自身から、まさかの答えが返って来た。その手には空っぽになったペットボトルが……。いや、あのペットボトルには結構な量の水が入ってなかったか!?あれ全部一人で飲み干したのか!?たった一人で!?
いろんな意味でぽかんとする俺を尻目に、あわあわとフリーナは慌てるが、未だにヌヴィレット君から生えている尻尾と、オレの様子を見て盛大な溜息を吐いた。
「しょうがないか……もう、ヌヴィレットの本来の姿の欠片を見てしまったし、何より本人が言ってしまったし……」
「本来の姿の欠片って、やっぱり、その尻尾?」
「ああ、そうだ。そしてヌヴィレット本人が言ったように、ヌヴィレットは『水龍』すなわち、僕とも君とも違う存在なんだ」
「違う存在……」
オレの世界であったらあり得ない存在。それこそ、夢物語や空想の話にしか出てこないドラゴンという存在。それが目の前にいるという事実に、心臓がどくどくと脈打つ。これは恐怖なんかじゃない、歓喜と興奮だ。まるで自分がファンタジー世界に迷い込んでしまったかのような、高揚感。物語を読んで咀嚼して自分の中に呑み込むときとは違う感覚。こんなの、初めてだ!
「……えっと、縁?目を輝かせてるところ悪いんだけど、そんなに楽観視しない方がいいと思うよ?」
「え、あ、バレてた?」
オレの考えていることがバレていたのか、呆れたような目をこちらに向けてくるフリーナ。えへへ、と頭を掻けば、まったく、とまた溜息を吐かれた。
というか、楽観視しない方がいいって……?
「君は気づいてなかっただろうけど、僕たちの前に君が現れたとき、下手な動きをしてればヌヴィレットが君を殺してたからね」
「え゛」
まさかの言葉に、ぴしりと体が硬直する。そんなオレの様子に「やっぱり気づいてなかったんだね」とフリーナが肩をすくめた。
「君の様子を見るに、僕がヌヴィレットを庇っていたように見えてたみたいだけど、一応それは間違いじゃない。でも、僕が前に出ていなければ、君がヌヴィレットに殺されてたんだよ」
「え、じゃあ、オレさらっと命の危機だったって、こと?」
「まあ、あくまで極論の話だけどね。ただ、殺さないとまで行かないけど、パレ・メルモニアの執務室にまで入り込んでくる人間だもん。侵入方法や目的を知るために拷問に近い何かをされてた可能性は……うん……」
「そこぼかさないでもらえるか!?逆に怖いです!!」
「しつれいな。わたしはいっしゅんでおわらせてやれる」
「それはそれで怖いです!!」
意外とこの子たちバイオレンスだ。いや、まあ、オレが急に現れた、怪しい人間だからその反応も仕方ないんだけど。って、あれ?
「下手な動きって言ってたけど、オレの演技……えっと、『魔法使い』は下手な動きじゃなかったってことなのか?」
一応、オレは自分の声と演技には自信を持っている。過ぎた謙虚はただの卑下だと友人に言われたからもあるし、自信を持ってないとやっていられないというのもある。が、そもそもオレは物語を読み、咀嚼し、自分の中に呑み込むタイプだ。つまり、即興ネタがものすっっっごく苦手。飲み会とかで「何か一発芸やってよー」ってやつが滅茶苦茶ダメなタイプだ。『役』に入るのに途方もなく時間がかかるタイプなのも相まって、即興でやれと言われたら気絶してしまいたいくらいに。
だから、今回二人の前でやった『魔法使い』も完璧なものとは言えない。いや、完璧は目指した。フリーナを泣かせたくなかったし、ヌヴィレット君を怖がらせたくなかったから。けれど、やっぱり即興は即興なのだ。
「あー、それなんだけど……」
オレの言葉に、フリーナは言いにくそうに顔を逸らす。その代わりに、ペットボトル片手にこちらを見ていたヌヴィレット君が、口を開いた。
「君のあの『魔法使い』というものは……なぜか『聞かなければいけない』と思ったのだ。『じゃまをしてはいけない』と、なぜかそう思ってしまった」
「うん、ヌヴィレットの言うとおりだ。まるで、スポットライトの当たった主演の人間のようだった。まあ、この僕には敵わないけどね!」
「そ、そっか……」
どうやら即興とはいえ、必死にやった結果、二人の言う「下手な動き」ではなかったらしい。安堵にほっと息を吐く。というか、これで「下手な動き」してたらやばいことになっていたのか……と背筋にぞわっと悪寒が走るが、全力でそれを知らないフリをする。時には考えないことも大切だ。生きるためには。
そんなことを思っていると、くい、と袖を引かれる。少しだけ目線を下げれば、そこにいたのはヌヴィレット君で、じい、と海の中にあるドラゴンガーネットの瞳孔が、じっと見ていた。さっきの話を聞いてようやくわかる。この目は、人ではないモノなんだ。ついでに言うと、尻尾が先ほどとは違い、ゆらゆらと左右に揺れていた。
「ところで、えにし。一つ、ききたいのだが」
「ん?」
「この水は、とても美味だった。雪のような、ふわふわとしたかんかくのものかと思えば、花のかおりと、太陽のあつさを感じた。このふくざつな味をもつ水を、もう一本もっていないだろうか」
その言葉を聞き、目をぱちくりと瞬かせる。
オレにとっては普通に『美味しい』という感想しか出ないメーカーの水も、ヌヴィレット君にとっては『複雑で美味しい』ものらしい。これは彼が水龍だからなんだろうか。そんな疑問を抱きつつ、無表情のまま、けれど、どこか期待をのせた彼に残念なことを言わなければならない。
「ごめんな、ヌヴィレット君。その水、一本しかなかったんだ。だから、もうないんだよ」
目線を合わせるようにしゃがみ込み、そう返すと、ヌヴィレット君は一度目を見開くと、顔を伏せた。左右に揺れていた尻尾はしゅん、とうなだれている。あれ、この子もしかして感情が顔に出ないだけで、分かりやすいタイプの子か?
ちらりと横を見れば、フリーナは何とも言えない顔をしていた。次いで、ちょっとだけ恨めしそうにオレを見る。
「とっさにヌヴィレットに水を飲ませてくれとは言ったけど、まさかヌヴィレットがそこまで認めるものだったなんて……」
「えっと、何かマズい感じか?」
「君は一度、高級なケーキを食べた後に、普通のケーキを食べて満足できるかい?」
「あー……」
つまり、普通のものよりグレードを上げたものを知ってしまったが故に、普通のものでは満足できなくなってしまったと。これは確かにオレが悪い。ことの原因が自分なのも相まって、間違いなく有罪だ。ごめん、とフリーナに頭を下げて、きゅ、とオレの袖を握っているヌヴィレット君に声をかける。
「ヌヴィレット君、その、今回は一本しかなかったけど、今度は何本か買って来るから、ね?その時まで待っててくれるかな」
「……それは、ほんとうか」
「うん、約束する」
袖を握っているヌヴィレット君の手を包み、微笑みかける。そしてその頭を撫でれば、小さく彼は頷いた。
「って、感動的なシーンをやっているところ悪いけど、縁、君はどうやって自分の世界に帰るつもりだい?」
「あ」
いけない、普通に話しているせいでそのことをすっかり忘れていた。
どうしよう、とフリーナの方を見ると「僕に助けを求めないでよ」と困ったように言われた。
「って言っても、オレはどうしてここに来たのか、その方法も本当に分かんないんだよなぁ……」
変わった行動なんてしていないし、それこそ変な儀式だってやってない。いつもの生活をして、自分の家に帰っただけなのに、なんでここに来てしまったんだろうか。変なものだって拾ってない、し……。
「あれ?」
その時、不意に自分のカバンがほのかに光った。光るものなんて入れてないし、そもそもさっきまで何の変哲もなかったのにどうして、とカバンの中を覗くと、そこにあったのは
「なんだこれ、虹色の、なんだ……?」
手にしたのは、虹色の丸い物体。いや、丸い物体というより、これは丸い枠の中に金平糖のような、星のようなものが入っている、よくわからないものと表現した方がいいだろうか。虹色にきらきらと光るそれを片手に、二人に問いかける。
「なあ、二人とも、これが何か知らない、か、」
その問いかけは、最後まで続くことはなかった。
急にその物体が輝きだしたかと思うと、ぎゅるるる、と時計の針を高速で回したような音が鳴りだし、眩しいくらいの光が辺りを包む。とっさに近くにいた二人の体を突き飛ばすと同時に、その光に自分の体が引きずられる。恐怖と混乱のあまり、思わず二人の名前を叫ぶ。
「フリーナ!ヌヴィレット君!」
「縁!!」
こちらに手を伸ばしてくるフリーナと、目を見開いているヌヴィレット君。訳も分からないまま、伸ばしてくれた手が届くことなく。
意識が白く塗りつぶされた。
「うーん……?」
意識が浮上する。
背中が堅くて冷たい。ゆっくりと起き上がってみると、自分が床の上で寝ていたことを知る。……床の、上?
「帰ってきて、すぐに寝落ちしたってことか……?」
確かに今日はバイト先でかなりの人数の子供を相手にしたこともあって、疲労は溜まっていた。だから、そのせいで帰ってきてそのまま寝落ちしてしまったんだろうか?頭が少しだけふわふわする。口の中が少しだけしょっぱい。これは、しょうゆの味、だろうか?
とりあえず、買っておいた水でも飲んでみるか、と放られていたバッグの中身をごそごそと漁る。けれど、
「あれ、水がない……」
喉のケアのためにちょっとだけ奮発して買った、ペットボトルに入っている水がない。いや、それどころか、ペットボトルすら見つからない。帰ってる途中で飲んで捨てた?いや、そんなことは絶対にない。だって、飲んだ記憶なんてない。それに、貰ったせんべいの数も減っているような……。
「……?」
頭がうまく働かない。けれど、とにかく喉の渇きを潤したくて、ふらふらとした足取りで台所へと向かい、常備しているペットボトルの水を飲む。はあ、と息を吐き、覚束ない足取りで、寝室へと向かう。ぼふん、とベッドの上に倒れこめば、床の堅さとは程遠いやわらかい感触が背中を包んだ。
(さっきまでのことは、ぜんぶ、ゆめ……?)
変わった衣装を着た、自分を神様だという銀髪の女の子に、龍の尻尾を持つ、水龍と呼ばれる男の子。そして二人との会話は、まるでファンタジーや空想の世界に迷い込んだようなもので。設定も相まって、自分の望んだ夢ではないかと思ってしまう。
いや、実際はそうなんじゃないか?物語を作りたいから、そのネタを考えるために作りだした夢。そうとしか言えないんじゃないか?でも、それは違うんじゃないかと、頭の片隅にいる自分が言ってくる。だって、
(買っていたはずの、ペットボトルの水が無くなってた。それに、なんでせんべいの数が減ってたんだ?食べた記憶なんて、ないのに)
ありえないこと。けれど無くなっていたもの。どこからが現実で、どこからが夢なのか、もう分からない。
とにかく、今日は疲れた。もう、寝てしまおう。明日また、考えればいい。
全てを明日の自分に任せ、目を閉じる。
かちゃり、と手元に何か硬い感触と、ガラスがこすれるような音がした。
Pixivの方で無事に完結できたので、こちらの方でも投稿させていただきます
「起」「承」「転」「結」の一日ごとに投稿できたらと思います
どうか、お付き合いいただけると幸いです