頭痛がする頭を叩きながら体制を立て直す
辺りは変わらず砲撃や銃撃が飛び交っている
既に泥に塗れたスカートの汚れを払いながら近くに落ちていた銃を持ち上げる
コンパクトなサブマシンガンだ、MP9という刻印が見える
重い、ろくに鍛えてすらない私にこれは重い
「…無いより、マシだ」
肩に乗っているシマエナガを確認しながら移動する
先程の映像が本当ならば彼らは既にこちらに来ているに違いない
私はマガジンを確認、弾があることを見て元に戻す
既に、足音が聞こえている
恐らく取り巻き、もしくは味方のそれか…
(これに、サプレッサーは無い…)
手に入れたのは…無カスタムのMP9
サイトも、バレルも…マズルにも何もついていない
弾丸ももしかしたらブラックマーケットにある安物かもしれない
しかし、そんなことより銃声が響くことが問題だ
それを聞いた彼とその取り巻きがこちらに向かってくるだろう
…しかし、だからといって病弱な私に近接格闘術なんて心得は無い
だから良く狙って…頭を撃ち抜く必要がある
「…ッ、一人来た…!」
塹壕の影に隠れる
骸骨の兵士がショットガン…トレンチガンを構えながら進んでくる
コーナーの確認、全体のクリアリングを少し未熟だがこなしている
ど素人の私でも分かる、アレは訓練された動きだ
恐らく民兵だから、少しの期間しか訓練を受けていない…
だからといって私に勝てる道理は無い…
「…絶対に…当てる…!」
私はグッとグリップを握りこんでカタカタと震える
舐めつけるような目線を壁越し、隠れているというのに感じる
今、夢に堕ちている状態で死ぬとどうなる?
現実に戻るか…?それとも────────本当に、死ぬ?
「…ッそれは、嫌だね!」
私はそう叫んで身を乗り出し銃を構えた
見当違いな方向を見ていた民兵は驚いてこちらに銃口を向けようとする
あれが放たれれば私は多分、数発もしないうちに殺られる
だから…撃たれる前に……倒す
「う、うぁぁぁああぁあぁぁあ!!!!」
思い切り乗り出し、引き金を引く
この距離でのSMGは得意距離のそれだ
ショットガンもそうだがあちらの銃口は向いていない
…が、ここで彼女は致命的なミスを犯した
引き金を引いた、確かに…彼女は引いた
一発も、弾は出ない
「…え?」
あれだけ大きな声を出して飛び出し、何も無いということに羞恥心が漏れ出てくる
しかしそれ以上に弾丸が出ずに奴を倒せなかったことに、サーッと顔が青ざめていく
「な、なん───────うぅっ!?」
困惑している暇も無く、彼女はショットガンの連続射撃に襲われた
鈍い痛みがセイアを遅いそのまま彼女は意識を失ってしまった
彼女が銃を撃てなかったのは単純明快な話である
何も簡単な話だ…初弾が無ければ銃は撃てないだろう?
「…つうう、……!」
気を失い、背を塹壕に預けていたセイアは目を覚ます
先程の兵士が持っているショットガンがこちらに向けられている
少しでも動けばまた意識が彼方に飛ぶだろう
「…」
兵士はこちらを意識しながらリロードを挟む
意識されたとしてもセイアに攻撃の手段は無いのだが…
反撃の意も無い彼女は項垂れていた
その時、複数の足音が聞こえた
スクワッド、いや小隊規模だろうか?
そう彼女が思っているとその音の主が現れる
「…」
「…先生」
幼い、子供だ
余りにも戦争に似つかない幼い顔つきをした子供がそこにいた
しかし夢の中で語りかけ、先を見ていたセイアには見覚えのある顔だった
それは、先生の顔の面影があった
彼の周りには辺りを警戒している兵士がいる
先程のショットガンを持っている兵士に比べて構えが甘い
恐らくあれが民兵に訓練を施している正規軍のオペレーターなのだろう
「…」
「ッ…!」
彼はセイアの姿を見ても特に何も顔に浮かぶことなくハンドガンを取り出した
それは現実世界で彼が使うものと同じようである
何も感慨も無く、彼は引き金を引いた
「…」
俺は目を開ける
何か深い…「得体の知れない」物に触れた気がした
その後に良くない夢を…変な夢を見たものだ
懐かしき戦場、そこに似つかわしくない女がいた
居ても困るものだから、取り敢えず撃ったら…現実に戻ったようである
「せ、先生…?」
「…ごめん、起こした?」
「いや、問題は無い」
心配してくる彼女達にそう言って俺はサオリの熱を確認するために下に降りる
サオリの表情は見た限り大丈夫だ、息も上がっていない
心拍も熱も確認してみるが異常なところはどこにも無いようだ
ミサキとヒヨリが上から降りてくる
「彼女が起きるまで待とう、30分経って起きなければ強制的に起こす」
「それまで…どうする?」
「…アリウスについて聞こうか、今までのことをな」
「…成程な……」
俺達は薪を囲んでいた
そこで、彼女たちから…アリウスのことについて教えてもらった
アリウス…というよりミサキ達についての話だった
「何も知らない子供に当たり前かのような知識を植え付ける…
ㅤ……ふん、元いた世界…いや外の世界もキヴォトスも悪意が隠れているだけで同じようなものか…」
「全ては虚しい」という真理、大言壮語だ
子供には分からないだろう、そもそも彼女達の最初の記憶は内戦の終わりを宣言するベアトリーチェの姿
内戦のことについて何も知らない上漠然と受け止める彼女達に理解しろと言って酷であり…
また、そう思えるほど精神が死んでいる彼女達に振り込める言い分だった
あの見た目で自分が生徒会長だのどーのこーの言うマダムは聞いててお笑いだが…
それでも様々な戦闘技術に「ゲヘナ」と「トリニティ」に対する憎悪を与えたのは事実
そして、幼い子供大して「人殺し」と同じなどと…
「…下手すりゃこっちの方が酷いか?」
何も知らず教えられたことをして食べ物を貰えていた外の世界の方がマシなのかもしれない
「…言ったでしょ、楽しい話じゃないって」
「そらそうだろ、戦争に楽しいもあるかよ…」
「怖い…大人って怖いです…」
俺は、カチリとライターを付け煙草を吸った
僅かに聞こえる虫達の鳴き声がハーモーニーを生み出していく
「…そういえば、お前たちが姫とよぶアツコは一体何者なんだ?」
「…姫は、私達が幼い頃からお姫様だった」
アツコは、かつて自治区を統治していたアリウス生徒会長の血を引いている
だからベアトリーチェに「ロイヤルブラッド」などと言われていたのだ
最初聞いた時は彼女に吸血趣味でもあるのかと思っていた
因みに本来ならばアツコがアリウス分校の生徒会長になるハズだったそうだ
アリウス自治区の会長はそれまで世襲制だったらしいからな
ミサキ達がアツコの姿を見たのは貧民街。
アツコは昔から気品溢れる服を着ていたとか…
内戦が終わった後アツコが「マダム」の手によって生贄に捧げられるという噂が流れ始めたらしい
まぁそうだろう、「ロイヤルブラッド」、そして次期生徒会長だった筈の女の子
ミサキは皆に尊敬される貴い存在だから…なーんて思っていたそうだが…
普通に考えたら分かる話だ、いやこれはゲマトリアとしての彼女を知っているからなのか?
にしてもおかしな話だ、それをサオリに預けるなんて
そう思ったのだが…俺はそこでベアトリーチェが"最初から"サオリを使い潰すことにしていた意図に気付いた
噂では生贄にされるとしていたアツコ、それに納得できないサオリがベアトリーチェと結んだ約束
サオリは言っていた、「姫の運命を変えたいなら彼女の命令に従えと…」…などと言っていた
ここで噂にある生贄の話が濃厚になっていく
んでもってベアトリーチェは利用出来るものは使い潰す性格だと黒服は言っていた
…全くもって、救いのない話だ
「お前らもついてないな、ターゲットと共にアリウスに戻ってくるとは」
「全くその通りだね、はぁ…」
「面白い話をしているな」
カツカツ、と足音が聞こえたかと思えば聞き覚えのある声がした
俺はそちらを見ずに煙草の煙を吐き出す
「り、リーダー!?」
「…目が覚めたんだ、体調はどう?」
ヒヨリとミサキが心配して声をかける
サオリは大丈夫だとハンドサインを送りながら薪の前に座った
「動けない程では無い…助かった」
「15分後に行動を開始する、それまで…ルートを考えるぞ」
「バシリカにはどうやって侵入するつもり?
ㅤ自治区に潜入していることは彼女も知っているよ」
「既にルートは考えてある…アリウス分校の旧校舎に向かう」
「面白い、続けろ」
そこから、四人で侵入作戦を立てる話に入ったのであった
「…成程、アリウス生さんによればそこと……」
「クロコダイル等の準備は出来ております、突入しますか?」
「早すぎるでござる、変にベアトリーチェを警戒させると"Alpha1"が詰むでござるよ」
「キャベジン…」
「彼からの合図を待つことに変わりはありませんか…」
「…彼ならば合図を送ってくれます、それまで待ちましょう」
「彼の呼んでくれた助っ人さん達も…手助けしていただけるようですし」
「うへへ〜…借りを返してあげるよ……フレッド」