疲れたよ、隠居するね皆   作:回忌

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Forget-me-not

やるべきことを終わらせよう

いなくなる前にかなり残った職務を奴らに押し付けることは出来ない

僅かに残った人間性が俺にそう訴えかけてくる

変にやり残しをしたくない、消えるならせめて綺麗に消えたい

 

ケツピンもオタクも、やり方は分かっているはずだから手順を書く必要が無いのは楽だ

先生というものも…多分大丈夫だ、そこまで重要なものでは無い

この名前は俺より、聖人であるケツピンの野郎に任せた方がいい

 

 

人殺しはキヴォトスに居ない方がいい

 

 

 

 

死が禁忌であるキヴォトスで"死ぬ"必要は無い

 

 

 

子供たちに悲しい思いはさせたくない

 

 

 

 

そんな思いで、俺は書類を終わらせていた

 

 

 

 

 

「貴方様、お飲み物です」

「ありがとう、ワカモ」

 

カチャカチャとキーボードを叩いていると横に水の入ったコップが置かれる

冷水機から入れてきたのだろう、コーヒーを入れるまでもない仕事の量だったから助かった

彼女に対して礼を言って俺は作業を続ける

ここのところ副担任に分けていたものの、それでも多い

 

学園都市の中心とは言えこんなにあるものか………

 

 

 

 

 

そう思っている時である

 

 

 

 

 

 

「…貴方様は、"何処"に行かれるのですか」

「……どこだと思う」

 

突然背後から言われたその言葉に俺はピタリとキーボードを叩く手を止める

どこから情報が漏れただとか…そういう心配は全くなかった

どうせいつの間にかそこにいて、いつの間にか聞いてただけなのだから

 

「少なくともキヴォトスの外でしょう?しきりにキヴォトスの外へ行く地図を見ていたようですし」

「まぁ、そうだな...確かに俺はキヴォトスの外に行く予定だ

ㅤ…大丈夫だって、そのうち帰ってくる────」

 

 

 

 

 

 

 

 

「そんな訳、ないんでしょう?」

 

 

 

 

 

割り込むように、彼女は言った

その言葉の強さに思わず俺はくるりと椅子を回して彼女が正面に見えるように止まる

彼女はいつも通り、仮面を付けていつもの服を白くしたような連邦生徒会…シャーレ部員の服を着ている

 

その肩が…僅かに震えていた

 

「貴方と…黒の方の会話を聞かせてもらったのです、あの時、空が赤くなった時に」

 

鼻をすする音がした

花粉症だとかそういうものではなく…もっと感情的なもの

ゆっくりと顔に付けた狐のお面を彼女は外した

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あなた様、が……あと10年しか、生きられない、と……!」

 

 

その素顔は涙でぐちゃぐちゃになっていた

元々していたであろう化粧も涙のせいで台無しになってしまっている

…というより、成程あの時にワカモが狐のお面をどこでも外さなかったのはその顔を見られたくなかったからか

 

「…それを聞いた時、ワカモは……っ、とても悲しかったのです」

「余命が10年くらいしかないことか?」

「それを私に言ってくれなかったことです!」

「…っ」

 

おどけた口調で言う俺に対して彼女は叫ぶように言った

その圧に思わず俺はおどけた雰囲気を辞めざるを得なくなった

 

「私では……ワカモではダメなのですか!?相談もしてくれないのですか!?

ㅤいつでも…どこでも、貴方様の悩み事には応じると言うのに!」

 

彼女は涙を流しかながら俺に質問してきた

俺はそれを何も言わずに見ることしか出来ない

だんまりとしている俺をまるで懇願するように彼女は垂れかかってきた

目の前から椅子に座っている俺を抱擁する、彼女の両手が後ろに回された

 

その間にも彼女が顔面を押し付けているせいで俺の服が悲惨なことになっている

 

「どうして……どうしてぇえぇ……!」

「…泣くなよ、ワカモ。どうせいつか俺が先に死ぬんだ」

「…ッ!ですが…これはそれとは話が別です!

ㅤ結婚する生徒達も居るかもしれないんですよ!?その子たちにとって自分の子を貴方に見せることは…ッ!」

 

彼女は言い聞かせるように言う

しかしその言葉は途中で止まった、代わりにすすり泣く声が溢れ出る

 

「……私は……貴方を看取るまで…使えていたかった……

ㅤこんなに早く…貴方を看取ることになるなんて…」

「…少なくとも俺の責任だ、カードを使いすぎてしまったからな」

 

懐からカードを取り出した

1箇所、角の部分が僅かに黒く変色してしまっている

プレナパテスから託されたカードにそっくりな色である

デスクの横に置いてある実物と比べれれば一目瞭然である

 

俺が眺めている間にも彼女は顔を胸板に擦り付けていた

すすり泣く声が嫌でも耳に入ってくる、最初に泣かせたのはワカモだった

いつも近くに居る…そのせいで聞いてしまった俺の寿命

ここまで浪費してきた…カードの代償である

 

 

 

 

 

 

 

 

「…貴方様」

「ワカモ」

 

一通り泣いた彼女が俺に言う

 

「私は貴方様から離れる気はありません、いつでも、キヴォトスの外であろうとも」

「引き止めるつもりか?」

「それは…貴方様の意思に反することです

ㅤ私は貴方様について行きます、どこまでも…例え死のうと地獄にまで追いかけます」

 

彼女は赤く腫れた目をこちらに向けながら言った

その目にもう涙は無い、今まさに覚悟を決めたのだから

 

「いいんだな、それで」

「これが私の意思です、否定しても笑っても…私の意地です…!」

「いいんだ、それで…そもそも俺がワカモに対して迷惑をかけすぎたんだ」

「迷惑ではありません、むしろ感謝の極みです」

 

あらヤダ一途、昔の俺なら唖然とする位の忠誠心だ

そもそもあの頃は戦闘兵器として終わりと一種の諦観もあったしな…

それがどうだ、今やキヴォトスという世界を救い、そして居なくなろうとしているのだ

 

 

 

 

なんとも、面白い話である

 

 

 

 

 

「…俺は、明日の夜消える。やることはやって想いのこしは無いからな」

「資金源は大丈夫なのでしょうか?やりくりしていけるのでしょうか…?」

「大丈夫だ、生きていくだけならやりようはいくらでもある

ㅤ…そうだな……軽いお菓子作りだとか…」

「夢が膨らみますね、あなた様」

 

 

 

ただ、逃げ切った先を考えていた

全てが終わったあとのことを考えていて…………そこまでを全く考慮していなかった

 

 

 

 

机の上にある、デスクトップ

先程全てのやり残しを終えた画面に……文字が表示されていた

 

 

 

 

 

 

 

 

key_sub

 

 

 

 

 

 

 

────騒乱が、そこまで迫ってきていた

 

 

 

静かな夜だ、リンはそう思った

いつもならば少なくと20分に1回爆発音や銃声が聞こえるものの、未だに銃声は聞こえない

先日彼がかなり仕事を終わらせてくれたからだろうか?

 

にしても鬼神迫る勢いだった、何かあったのだろうか……

 

 

そう思いながら彼の机へと向かう

 

 

 

 

 

 

「失礼します、先生……いらっしゃならないのですね」

 

 

 

いつもなら未だに机に張り付いている彼の姿は無かった

それならば部屋で寝ているのだろうか?どうだろうか……

 

「……おや?」

 

そこでふと、机の上に紙が置かれていることに気付いた

一枚の紙のようだ……書類のやり残しだろうか?

 

そう思って紙を取り────絶句する

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──退職届け

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──ッ!」

 

それを見た瞬間携帯を取り出した

すぐさま連邦生徒会に連絡する

 

『リ、リン先輩?』

「今すぐ各学園の重要人物を呼んでください!今すぐ……!!!」

『え、あ…………はい!?』

 

退職届を持ってシャーレ部室から出る

息を切らしながらそのまま全力で連邦生徒会へと戻って行った

 

 

「……それで、態々呼び出して何なのかしら」

「もうかなり夜遅くですよ?」

 

連邦生徒会、会議室

そこにはキヴォトスの権力者、もしくは名の知れた者たちが集まっていた

しかし真夜中に呼び出されたので全員の機嫌は良くない

 

「皆様集まって頂きありがとうございます」

「キキキッ、建前は良い…要件は何だ?」

 

堅苦しく挨拶をするリンに対してマコトが言う

かっこよく振舞っているつもりだろうが本音はほとんど寝たいである

なんなら先程まで寝ていたのだ、起こされた方が困る

 

リンはこれが一番早いと一枚の紙を全員に見えるように手に取る

 

「この紙です、先生の机に置いてありました」

「そんな紙切れ一枚の為に全員を呼んだと?」

「バカバカしい…」

 

それを見た一部が嘲るように笑った

リンはそれに対してため息を着く、見て分からないのかと

 

「……フレッド先生は?」

「これは退職届けです」

「「「「……ッ!?」」」」

 

肝心の本人が居ないことに関して質問を問いかけるホシノだが、それは紙の正体によって判明する

この場に居ないのは退職届けを出して姿をくらましたから……そういうことであった

 

「た、たたた退職届け!?先生を辞めるってこと!?」

「ん、そんな様子はなかった」

「一体どういう……先生の行先は?」

 

冷静にサオリが質問する

それに対してリンは首を振った

彼の行先は分からない、そもそも書いてすらないのだから

 

「恐らくはキヴォトス外かと、退職理由に"精神的肉体的疲労"とありますから

ㅤ……疲れ切っていたのでしょう、キヴォトスに」

 

そう言われるとそうなのかもしれない

次から次へと問題が舞い込む先生という役職

そもそも人生を休めそうだと思っていた彼は……その実際の職務に押しつぶされたのだろう

 

「しかし、彼が居なくなってはキヴォトスが今まで通り動かなくなります

ㅤ……これは、彼に世話になったことのある皆様ならお分かりですね?」

「うん、分かってる」

「彼のおかげで今ここに立っているようなもの…」

 

そんな人物がいなくなっては困る

副担任だけでは授業は進まない、学園都市は進めない

どうにかして探し出さなくてはならない……

 

「して、どう探してみようか……」

『そこはこの病弱美少女系天才ハッカーにおまかせ下さい』

「ヒマリ先輩!彼の行先は分かるんですか?」

 

車椅子に乗ったヒマリのホログラムが現れる

呼ばれた理由が分かって直ぐにお任せ下さいといいセリフが出るあたり流石である

 

『先程"とある方"から情報提供がありまして……

ㅤどうも彼はニッポンの方へ向かっているようなのです』

「"それはGPSでわかったの?"」

『いえ、監視カメラです……こちらを』

 

彼女がパンパンと手を叩くとプロジェクターに映像が流される

キヴォトスの街中を通過していく車両達、迷彩が施されている

偽装の為か"カイザーPMC"のロゴが刻まれており怪しまれないようになっている

 

 

そして、そのうちの一台に先生が乗っているのが見えたのである

戦闘時に着る戦闘服を着用している

 

「表向きはカイザーの車両が郊外に出ていく……そういった偽装なのでしょう」

「行き先が分かれば待ち伏せできる、捕まえてなんで辞めようとしたのか吐かせてやる」

「まーまー、吐かせるなんてそんな野蛮な……ここは穏便に聞いてみようじゃないのー」

「ホシノ先輩、目が笑ってません」

 

行き先はニッポン

そしてキヴォトスからそこに行くには飛行機が必要であり……また、そこに行く最寄りの空港はひとつしかない

 

 

 

…何より、そこに行く道はたったひとつだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『フレッド・リー先生はご存知でしょうが戦闘のプロフェッショナルです』

 

『SRTのもの達……いや、キヴォトスの者と違いヘイローの加護のない戦場へ赴き、本当の殺しをしたことがある人間です』

 

『戦闘時は彼に気をつけてください、彼には今現在シッテムの箱による摩訶不思議な加護はありません

ㅤ銃弾一発で死に至る可能性があります』

 

『また、彼を護衛している生徒達も恐らく彼の訓練を受けているものとされます

ㅤ武器も最新型のものが多く気をつける必要があるでしょう』

 

 

 

 

『まず初めに最前列の車両を地雷で吹き飛ばします

ㅤその次に最後尾の車両を破壊し逃走不可能の状態にさせます』

 

『そこから敵勢力を掃討し……フレッド先生を確保してください

ㅤ念の為榴弾砲等の準備は許可しますが…相手は生身の人間であることを念頭に置くように』

 

 

『彼には聞きたいことが色々あるでしょうが……その場で質問攻めをしないでくださいね』

 

 

『連邦生徒会からは以上です……では、作戦行動を開始してください』

 

 

 

 

 

 

 

 

「ウォッチャー1、これより行動を開始する」

「目標の車列を確認、車両は7台ある…内2台が兵員輸送車だ」

『コピー、各隊員は配置に付き準備するように』




これ狐坂ワカモタグ追加では…?

推し(未所持(アロナァ!))なのが原因だろうか
…いやでも原作でもしそうだしなぁ……
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