…うん、多分次が本当に終わりだと思う
ホントウダヨ、ワタシウソツカナイ
「う、ううん…」
「あ、起きやがった」
頭がとてもクラクラする、頭が痛い
痛む部分を抑えていると嫌な声が聞こえてきた
そちらに目を向ければ思い出したくもない顔が一つある
「…へぇ、まだ生きてたんだ」
「こっちのセリフだね、まだアビドスなんかに居たんだ」
メガネの位置を直しながら言った
呆れた様子のようだ、まぁ確かにそうだろう
「私にとって思い出の場所だよ」
「ふーん…新入生がそんなに来るなんてね」
彼女は拘束されているアビドスのメンバーを見る
既に彼女達は起きており、辺りを警戒しているスクワッドに対して嫌な顔をしていた
「あなたは…あなたはホシノ先輩のなんなのさ」
会話を聞いていたセリカが吐き捨てるように言った
聞いていればまるで旧知の仲みたいではないか
やることの無い暇つぶしのついでのようなものだった
「……元同期、それだけ」
「…………ぇえっ!?じゃあ私達にとっての先輩…!?」
「2ヶ月くらいして消えた奴は先輩とは言えないよ」
驚いたセリカに対してホシノがそう言う
beta5は鼻で彼女のことを笑いながらホシノに対して言った
「あの時は合わせて3人しか居なかったし、借金も多かったからねぇ…
ㅤ希望も意味も見いだせずに退学したけどまさか今になって借金が消し飛ぶとは…」
「今更途中入学なんかさせないよ」
しみじみと言う彼女に対してホシノが吐き捨てるように言った
裏切り者に帰る場所は無い、帰らせる気もない
キツく言われてもbeta5はハッと見下した笑みを浮かべる
「誰が終わった学校なんかに再入学するか、ヘルメット団の方が十分に生きていける」
「お前ならそう言うと思った」
蔑んだ瞳と見下した瞳
圧倒的な圧と圧がぶつかり合うその横で、また違うことが起きていた
「ぐりぐり〜、ぐりぐり〜」
「この子私の胸を人差しで押してきます〜♣︎」
「ん、変態。むっつり、無意識っ子」
スパス12を2つ背中に下げた子供、ノノミ達よりずっと低い身長
イブキのような背丈をした、閉じた瞳のようなヘイローを浮かべる女の子はノノミの胸をひたすら人差し指でぐりぐりしていた
突然のセクハラに状況報告するしかないノノミ、言える罵倒を言うシロコ
しかし横の現アビドス生と元アビドス生の圧のぶつけ合いよりは全然可愛らしいものまである
「…飽きた」
「───へっ?」
「…んっ?」
先程までぐりぐりもにもにと胸を突いていた彼女はいきなりそう言ってするりと歩いていく
ハイライトの無い目があちこちを向いたかと思えばくあっ、と欠伸をした
「あ、とりさん」
そして突然ふわりと飛んできたシマエナガを手に乗せて優しく撫で始める
突発的な、予想のできない行動に2人は呆気にとられてしまった
「…あの子はああいう子、気にしたらダメだよ」
「貴方は…」
beta2はぽかんとしている2人に対してそう言った
彼女の視線の先にはシマエナガの翼を広げてスリスリとしている
シマエナガは嫌がっておらず、逃げる様子もない
「私たちの意識外に存在して、追うことなんて叶わない
ㅤ無意識の中に潜んで何処にでも現れる…」
「……んん?」
「あの子とは戦わない方がいい、勝てる子じゃないから」
beta2はそう言うと辺りの警戒に戻った
よく分からないことを言われて2人は困惑の表情を浮かべる
彼女もまた興味を失ったように辺りの警戒を続けている
静かな森が更に彼女達の居心地を悪くさせる
「…すみません、副担任さんは……」
その時、アヤネがbeta1に声をかける
起きた時から彼の姿が見えない為心配になっていたのだ
beta1はチラリと彼女を見た後にふーっと息を吐き出した
「フォレストと会話中だ、"最後"の会話がしたいとボスは言っていた」
「…最後?」
beta1の言った事に疑問を覚える
確かに外に逃げれば会うことも少なくなるだろう
しかし、最後というほど会わないものだろうか?
まるで自分が死ぬ前提みたいじゃないか
そんなアビドスの顔を見てbeta1は顔色を変えずに言う
「何も聞いていないんだな、まぁフレッドからの信頼を考えると当然か…」
「まるで君たちは聞いているみたいな言い方だね」
「そうだからだが?」
何を当たり前な事をと彼女は伝える
それを聞いてホシノは少し嫉妬を覚えてしまう
お前よりも先に会っていたのは私だというのに、何故そこら辺に居そうなお前程度が…
「嫉妬を覚えている時点で差が出てるぞ、小鳥遊ホシノ」
見透かされたようにホシノはbeta1から言われる
図星であるが為に彼女は気まずそうな顔をした
beta5とbeta2が裏でめっちゃ弄っている
ナイトビジョンで何かを見つけたのか、彼女はチラリとホシノを見て言った
「忠告しておく、これ以上彼を追うのはやめておけ」
そう言うとbeta1はスクワッドの全員に「行くぞ」と声をかけて歩き始める
野戦服を着た彼女達はあっという間に夜の森へと消えて行った
まるで亡霊のように…するりと消えて行ったのである
そして代わりかのように副担任が現れる
「"………"」
「…?どうしたの?副担任さん」
現れた彼の顔は浮かばないものであった
行き場のない怒りを抱えているような、発せぬ感情を抱えているかのようである
彼の安全を確認したホシノが爪で結束バンドを切り裂く
そのままナイフを使ってアビドスメンバーの拘束を解いた
彼女達は自分たちの得物を拾い上げる
「さて、早く追わないとね」
「やられた借りは返さないと」
「泣きを入れたらもう一発!って奴ね!」
「お仕置の時間ですよ〜♣︎」
「"………"」
先生を追う決断をしているアビドスメンバーだが、副担任は全く反応しない
呆然とそこに立っているだけで、動かないのだ
「…何があったの?」
ホシノは異常な様子を見せる彼を見て思わず声をかけた
彼は彼女の顔を数回見た後に、口を開く
「"撤退しよう"」
「……は?」
彼は、そう言った
突然のことにホシノは唖然としてしまう
「ふ、副担任さん?今なんと…」
「"言った通りだよアヤネ、帰ろう"」
アヤネが聞き返すが彼は言った通りだといい帰ろうとする
彼の顔に戦闘意思は全くなく、絶望に染まった…ハイライトのない瞳をしていた
「ど、どうしてよ!?あいつを見逃すつもりなの!?」
「"それが彼にとって1番いいからだ、僕達は何も知らなかった
ㅤあまりにも無知で…全てを彼に任せすぎた"」
「どういうことなのよ…!!」
副担任は彼女達の声に何も言うことなくシッテムの箱を操作する
全体に向けて撤退の命令をしているのだ、これ以上突っかかる前にである
彼は送信した後、無線を起動した
「"リンちゃん、そういうことだから全員帰還させる"」
『…そうですか』
リンはため息をついた
疲れたような、諦めたような……
『しかし、そうはいかないのです』
「"…うっ!?"」
後ろから殴られた
それだけわかったが、逆にそれ以外は何も分からなかった
四肢の力が失われていき地面にどさりと倒れてしまう
「"リ、ン…!"」
『すみません、副担任さん。…私とて不本意ですがこれがキヴォトスの総意なのです』
僅かに見えるはあらゆる生徒たち
彼女達の瞳は見えない、顔色も見えないが恐らく言葉にできないものになっている筈だ
副担任は落としてしまったシッテムの箱に手を伸ばす
───しかし、それに手が届く前に副担任の視界は全て消えてしまったのだった
『…拙者も、仕方なくでござる……』
視界が消える前に、そんな声が聞こえた気がした
〇
「来てるな」
「そのようです、迎撃しますか?」
静かな森に響く僅かな音
それは間違いなくこちらに敵が来ている音である
逃げるのもそろそろ不可能になりつつある、どうしたのものか
「…迎撃するか、総員戦闘用意」
「「「了解」」」
指示を出すと全員がこの先の戦闘のために動き始める
地雷を仕掛けたり、ブービートラップを仕掛けたり、様々なものである
ここで一旦迎え撃ち怯ませてから後退する算段である
どちみちにせよ追いつかれるのだ、先にやってしまうに限る
少し大きめの木の裏に隠れ銃身をそうにように構える
ほかの隊員達も匍匐だったり木の上だったりに隠れてる
有利なのはこちら側だ
ただ捕縛するだけだと思って奴らにはサーマルもナイトビジョンも無い
対してこちらは夜という闇に対してかなりの対策をしている
逃げる、この為にこのスクワッドを作ったのだ
その素質や神秘を見抜いて直々にスカウトしたもの達なのだ
負けるわけがないとまでは言わないが、それでもキヴォトスの面々に相当の戦い方が出来るはずだろう
『フォレスト、敵影が見えた───beta3が接触する』
〇
「静かな森だねー!」
「少し不気味です」
「ハッ、関係ねぇ…さっさと連れ戻すぞ」
高低差のある草をかき分けながらC&Cが進んでいく
「ナイトビジョンの類を持ってこなかったのは愚策だったからしら…」
『いつもは先生の指揮がありますからね…』
「どっちにしろ、規律違反者は捕えなければな」
風紀委員もまた散開して進んでいく
「キヒヒヒヒ……」
「…少し不安ですね、本当に居るのでしょうか……」
「どうだろう、もしかしたら既に逃げちゃったのかも」
正義実現委員会が進む
傍から見れば詰みというかオワタ状態である
何せキヴォトスのほぼ全勢力がここに展開しているのだ
たかが7人程度、と思っている生徒達が殆どである
しかし、彼と接敵したことがある生徒達にとってはこの静かさは恐怖でしかない
どこかに狼の牙が…いや、既に牙が首にそわれているかもしれない
そう、緊迫している時だった
「らー、ららら〜」
「…?」
静かさを破るように可憐な歌声が響く
鈴のような、美しく耳に通る声が彼女達の耳に聞こえてきた
あまりにも雰囲気に相応しくないソレに全員が警戒する
「……あれは?」
最初にその姿を見たのはハスミ、続けるように全員が姿を視認していく
現れたのはイブキくらいの身長をした子供
キヴォトスでいう小学生程に見える見た目の者がこの森に存在していた
『…あれは私の鳥か、何処に行ったのかと思ったが……』
「らー…………?なんか、ひとがおおいね」
くるりくるりと周り、袖を遠心力で振り回していた彼女は目の前に現れた勢力に今更気づいたようである
そして言動から察するに全くもって状況を理解していないと彼女達は思う
ただ、ヒナはそう思わなかった
「貴方……」
「…ひないいんちょう?」
ポツリと漏らした声にbeta3が反応する
今まで気にしていなかった環境に、突然気になる"音"が追加されたかのような反応である
その反応に更にヒナは目を顰めてしまった
「厄介な相手を抱き込んだのね、先生は」
「厄介…?どういうことだ?」
「…文字通りのことよ、戦闘も、性格も……ゲヘナらしいというか、なんというか」
ヒナが呟いた言葉が誰かに拾われ、質問される
厄介なのは言葉通りであり、その戦闘力も性格もまたゲヘナそのものと言えるものらしい
「カスミの行動に全く意味が無いバージョンと言えばそうかしら?
ㅤ突然何かに怒って暴れたり、ご飯が美味しくなくて怒ったり…」
「なんだその美食と温泉開発を組み合わせて思考を取っ払ったみたいな奴は」
「目の前にいるやつよ」
カスミはあぁ見えてちゃんとした計画がある人物である
そう思わせるのが得意な、実に面倒な手合いであり風紀委員長の隈を増やす原因となっている1人である
美食は…うん、あれは各々の審美眼で存在している物、というか…
そう個性的な面々だが、beta3はもっと酷い
過去も未来も考えておらずやろうと思ったことをやる
飽きたらそれを捨て、また面白いことを見つけて手を出してしまう
どちらかと言うと子供そのもの、というか…
これだけの性格なら基本的にヒナにボコボコにされていれば厄介事を起こそうとは思わない
しかし定期的に彼女による厄介事は起きてしまっているのである
何回も鎮圧や捕縛に動いているものの…今日に至るまで彼女を捕縛出来た回数は"ゼロ"である
「気をつけて、彼女は私ですら手に余る子供よ」
ヒナがそう言ったときであった
「あ─────」
静かな森に響く可憐な声
僅かに漏れたそれは彼女の手の中からシマエナガが飛び去ってしまったことである
小さな小動物が白い翼を広げて、ふわりと飛んで行ってしまったのだった
「あーあ、とんでいっちゃった…にげられちゃった…」
名残惜しそうに、心底残念そうに彼女は言い…大量に居るキヴォトスのメンバーを見た
派手にライトやらなんやらを使っているそちらを見て…アハハと嗤う
「そーだよねぇ…人が多かったり眩しかったりしたら、逃げられるよねぇぇええええ????」
────瞬間、彼女の姿が掻き消えた
ステルス迷彩ですらない、また違うそれに全員が動揺する
しかし彼女との交戦経験がある風紀委員会のみが動揺しない
「皆構えて!彼女は────」
「あはっあはハハハハハハハハ!!!!」
皆に警告しようとしたヒナの後頭部に衝撃が走る
気絶しかけた彼女は気合いでなんとか立て直し後ろにいた存在を蹴りあげる
「あはっ、遅い遅い、亀みたいにおっそーい」
軽々とヒナの蹴りを避けて彼女はすたりと着地した
そして、背中に下げていた二丁のスパスを引き抜きダラリと構えた
そして、狂気に満ちた笑顔をしながら彼女は叫ぶ
「レッツ、プレイザゲェエエェエエム!!!」
瞬間、援護射撃によりライトの大半が消し飛んだ─────
キヴォトスの総意?ホンマにそうでっか?