「またのご来店をお待ちしております」
「おう、変わった味になったがまた来るぜ」
出入口辺りからそんな会話が聞こえる
ワカモがお帰りになられる客を送っていたのだろう
元の常連さんから厄災の狐が居るとギョッとされたものの、そういえばシャーレ所属だったなと何事も無かったかのように席についていた
シャーレ所属と言うだけでそこまで心を許せるのか、凄いことだな
超法的機関というのを実感できる
とはいえもう現在所属していないはずなのだが…?
まぁいいや、そう思いながら作っておいた焼き鳥を食べた
…思いのほかスムーズに店の手続きができて俺は驚いている
ワカモにコンタクトを図らせたのだが普通に接され、そのまま流れるようになんか受け継がされた
誇りだとか、難癖だとか付けられずにいつの間にかである
"後はよろしくな"と言われて煙のように彼は消えて行ったのだ
俺が引き継ごうとしていることを知っているかのように行動していたのである
…………上手く行きすぎて怖い、何か仕掛けられているのでは無いかと不安になってしまう
「あんたもそう思うか?」
額縁に入れてあるカードを横目に呟く
答えてくれてはくれないと分かっているものの、聞いてしまう
色彩はもう今は居ないし、彼も消滅しているので答えてくれるものは無い
…にしても、持ってきてしまったな彼のカード
彼は"俺"では無いから、別の奴が持つべきはずだが…
「まぁいいか………」
そう呟きながらオクトカムを脱いだ
先程の客で最後なのでこれ以上つける意味が無いのである
息苦しさは感じないものの、締め付けられる感覚と言うのはあまり宜しくない
気持ち悪い、というものではなく…なんとも筆舌に尽くし難い嫌な感じがするのだ
「お疲れ様です、貴方様」
「お疲れ様だ、明日の準備をして早く寝てしまおう」
一日で終わりじゃない、出来なくなるまで続けるのだ
少し気が張っていて疲れたものだから仕込みをして直ぐに寝てしまおう
喫茶店だから、コーヒー豆とか…アイスだとか……
焼き鳥のタレ等色々追加しておかないとな
「思いのほか味を受け入れられて良かったですね」
準備をしていると、ワカモが隣からそう言ってきた
確かに彼女の言う通りだ…店主すら変わったのだから味も変わるだろうに
それだと言うのに嫌な顔をするやつは1人も居なかった、むしろ美味しいと言ってくれたのである
「思いの外才能があったのかもな…」
「銃を撃つ以外に特技が出来ましたね」
「全くだ、思いの外やってみるべきだったのかもしれない」
軽くワカモに対して笑いながら言う
俺に飯を美味しく作れる才能があるとは…
この店をやっていく上でありがたいことである、本当に
何気に銃声があまり聞こえないのは点が高い
中心地から離れており、尚且つ田舎とまでは行かない場所にこの喫茶店は位置している
そのためか争いがかなり少ない。三日に1回銃撃戦が起こるか起こらないかである
俺の心に対してとてもストレスが無くていい、百鬼夜行ってええなぁ……
ここに来る前、所謂死んだ(推定)世界では日本と呼ばれていた所に似ている
ワフクというものを来たもの達が祭りをやいやいやっているというあの日本だ
聞く限りじゃサムライとニンジャの国らしいのだが…さてこの百鬼夜行にサムライは居たかね……
イズナだとかのニンジャは居たもののサムライは見たことが無い
まぁ、言えるのは日本と同じくらい(キヴォトスでは)治安が良いと俺は思える
本当に治安がいいなら銃撃戦なぞ滅多に起きないと思うが……
「まぁ、いいか」
俺はそう呟きながら湯気の登るコーヒーをズズズと吸ったのであった
〇
「…来たよ、副担任さん」
「"態々ごめんね、ホシノ"」
夜、シャーレ部室
固く施錠されたその部屋にホシノは入り込む
入ってすぐにわかったのは自分以外にも人がいること
また、それらが全て"あの作戦"に参加した人物だと分かる
「それで、なんで呼んだのさ」
「聞いているだろう?フレッドのことさ」
「知ってる、その上でどうして呼んだのさ」
エンジニア部のウタハだったか
彼女は私の声を聞いて少し引きながらも話を進める
「死体のことだ、その事で伝えたいことがある」
死体、そう言われるだけで動悸が激しくなる
誰にも気付かれないように神経を張り巡らせ、心を落ち着かせる
落ち着け、落ち着くんだ
死んだ、確かに彼は死んだけども
慣れてるだろ、1回大切な人を亡くしたんだ、慣れてる……
「ッフ────……」
「ここに居るのは副担任さんと風紀委員長で判断して呼ばれた者達だ」
「ここで話したことは他言無用、絶対よ」
なんとか私が落ち着いている間に話が進む
片耳で聞いている限りどうもこれは一部の者しか聞いてはいけないようだ
だとすれば、私が聞くことになるのは───
「その判断基準は?どうして私を?」
「…アリスも、その基準に」
「秘密…私は口が堅い、そういう訓練を受けたことがある」
「神に仕える者に秘密があってはなりませんが…これは例外ということにしておきましょう」
各学園の人物達
百鬼夜行とレッドウィンターが居ないようだが、まぁ気にすることでもない
そもそも秘密を多人数に教えるものでも無い、この数が丁度いいのだろう
「まず、これを見て欲しいの」
ヒナの一言と共に出されたのは診療台の上に安置されたフレッドの死体
衣服を剥がされ全裸の状態で横たわっている
片腕が無かったりと悲惨な姿だ、あまり見たくない
「鉤爪等の損傷に見えるけど…セナによれば全く違うらしい」
「…というと?」
彼女は死体に付いた爪による裂傷に指を指した
「あまりにも鋭すぎる、少なくとも爪で思い切り引っ掻いたものじゃない」
「それって……」
「これはフレッドでは無く別人、死を偽装する為に───」
彼女はそこで言葉に詰まった
チラリと副担任を見る、彼は小さく頷く
はぁ、と少し息を吐いて彼女は続ける
「…その、赤の他人を殺して偽装した可能性が高い…というかそうだわ」
「「「「ッ!」」」」
「…殺した……」
その事実は、簡単に彼と私達の価値観が違うことを思い知らされる
当たり前のように、なんの躊躇いもなく殺したのだろう
写真の偽装の為に付けた傷もちぎられた腕も己の死を欺く為に…?
キヴォトスの生徒なら失踪で話が着く、しかし彼の場合そうはならない
そう簡単にはい終わりと行かない事だし…死んだことでしか偽装できないのだろう
「…エンジニア部でのDNA検査でも結果は明白だ
ㅤ0:1……少なくとも絶対にあの死体はフレッドじゃない、それは保証する」
「…それって、フレッドは生きてるってこと?」
ホシノは震える声で言った
確かに私は命の宿っていない肉体を抱えた
しかし彼女達によればそれはただの他人、知りもしない肉塊だったという
…生きているのか、彼が
「間違いない、というより確実だろう
ㅤ…あの後秘密裏に調査してみたがキャンプ用品があった
ㅤ地面に埋められていた篝火の薪もね」
「それは…他の人達に伝えたの?」
「であれば君達はここに呼ばれない、だろ?」
彼女は肩を竦めて言う
確かに呼ぶ必要は無い、生きていると知らせているようなものだ
それを聞いていたサオリとサクラコは呟く
「フレッドは…思っているよりも慈悲もクソも無いみたいだな」
「おぉ…被害に遭われた男性に神の慈悲を……」
方や悲惨な環境に居たものとして、方やシスターとして祈りを捧げていた
それを他の人は黙って聞いていた
とはいえ、それだけの為に…?
「それで…生きているって、どうするのさ?」
「"どうもしない、関わりもしない"」
副担任は頑なにそう言った
何をどう言おうと変えることの出来ない決意に満ちた目をしていた
何かを言おうとしていた者も居たが、それを見て何も言えなくなった
しかし、私はそうはいかない
変えることは出来なくとも…
「……先生」
「あの時、フレッド先生の何を知ったの?」
「"………"」
副担任は少し私の顔を見た後、躊躇いながらも言葉を続ける
「"その、…彼の事だけども……"」
「ねぇ、どうしてそう────」
急かそうとした時、ふと彼の指に目が行く
机に置かれた両手は僅かに震えており動揺しているのが目に見える
いや、動揺というより…恐怖、だろうか?
あんな震え…どこかで……
私がそう思っていると、彼は意を決したのかその口から真実が伝えられた
それは、あまりにも残酷で……
────彼は、もう10年も生きられない
贖罪するには…あまりにも短すぎた
ホシノの好感度下げても良かったなぁコレ
何処ぞの-7好感度とかeyes of Horusでぶち抜かれている先生の如く…