ま、他の奴らに入っとるが
窓から月の光が射し込む
それがベッドに横たわっている彼に差し込み、死人めいた顔を浮かび上がらせる
私は壁際の椅子に座りシッテムの箱を弄っていた
ゲヘナ側からの会合予定を書いているのである、話だけ聞くつもりだ
本当なら敵勢力なのだが、連邦生徒会曰く「シャーレは中立組織」との事
……本来なら学校運営能力を消し飛ばすレベルの侵攻をしてもいいと思うのだが…
逆に言えばマンモス校の助けをいつでも借りれる約束を取り付けられるか?
彼は納得してくれるか?自分に一生消えない傷を負わせた輩を仲間にするなんて
そこは本人次第か…
にしても最近はやることが忙しくてサイアクである
子うさぎ公園の制圧や条約についての詮索などやることが多い
前者は明日かその次に制圧、アコの言ってた条約は本人に聞くか諜報だ
貴重なマスコットであるアリスは同い年くらいのモモイ達に預けた
ゲーム好きな彼女達となら"普通の"感性を育ててくれることを祈る
はぁ、とため息をついた
……結果的に言えば、彼の左腕は切断せざるを得なくなった
高重量が腕にのしかかり全ての骨が粉砕されていたのである
その時のレントゲン写真は見るに堪えないものだ
医者によれば「左腕が弾けていないのがおかしい」、ということだとか
死ななかっただかマシだが、キヴォトスという場所の異常性を再確認することになった
何を思って子供たちに銃を持たせようと思ったんだろうか、この世界の神は
ヘイローの加護とやらがあるおかげで彼女達は傷1つ無い
そもそもオーバーキルしないと気絶しないとか嘘だろうて……
……副担任の義手をエンジニア部に依頼しとこうか
ステルス迷彩といいオクトカムといい彼女達はその筋の腕が上手すぎる
そこらの企業に任せるよりも信用出来る奴らだしな
「……全くもってお前も不憫だよな」
未だに目を覚まさない彼を見ながら私は呟いた
本当ならミレニアムサイエンススクールからそのまま直帰する予定だった
その筈があの横乳野郎のせいで一生治らない傷を負ってしまった訳である
クソみたいな話だ、その後のゲヘナからの電話もブツ切りした
今はそんな事をしている暇は無いのだからな
私は立ち上がり、病室から出た
やることは山積みだ、本当にやることが山積みだ……
今日もまた机とズッ友かとため息をついているとふと電話がかかる
個人的な番号ではなくシャーレへの番号のようだ
ため息をつきながら携帯を耳に当て応答する
「こちらシャーレです、お悩み相談なら他所でどうぞ」
『シャーレの先生さんですよね?私はトリニティ総合学園の桐藤ナギサです』
「……トリニティ?」
電話の主が所属する学園を聞き、首を傾げる
確かゲヘナと対を成すマンモス校だったか?
多少調べた限りだとキヴォトスのお嬢様方が入学する学校だとか
なんとも腹黒そうな学校だと思っていた限りだがそこから連絡が来るなんて
『はい、トリニティです
ㅤ……少し相談、というより依頼ですかね?そういう物があって』
「悪いですが桐藤さん、こちらも予定が重なっておりましてね……」
ですので無理です、と私は言おうとする
お嬢様学校からの依頼なんぞ腹の探り合いみたいなもんだろう
そんなものに乗る気は無い、間違っても乗る気は無い
そう、断るつもりだったのだ
『ゲヘナとの問題の件ですか?副担任さんの左腕の?』
「……お前、どこまで知っている?」
俺は直ぐに辺りを見渡した
病院廊下は静かで、僅かに蛍光灯から発する音が響いている
反射的にハンドガンを引き抜きチャンバーチェックを始める
嫌な汗がたらりと額を流れる
カラカラと笑う声が通話越しに聞こえる
『どこまで?そうですね……ゲヘナのNo2が独断でシャーレを誘拐しようとしたことでしょうか?』
「学校間で諜報合戦か、思いのほかガキの遊びとは違ったようだな」
舐めていた、キヴォトスの子供を
外のガキ共と同じように喚き文句を言えるところにしか言えない存在だと
大人に対する抵抗力なんて無いのだと……畜生なんなんだこの都市は
「それで?トリニティのお偉が何の依頼だ?」
『おや?受けてくれるのですね?』
「んまぁ……」
カチリとハンドガンを向ける
その瞬間背後前方、ほぼ全面からカチリと銃の向けられる音
ゲヘナの制服とは違う、ベレー帽のような帽子をかぶっている
何より
「お前、トリニティだったのか」
「……自己紹介の時に説明した筈なのですが、先生?」
小銃を向けている奴らとは一線を引く魅惑なボディ
太もものガーターベルトを丸出しにした金エングレーブのリー・エンフィールドを持った女
ハスミだ
「……ここまでして頼みたい依頼ってのは?」
『それは会ってからにしましょう?先生』
「…性悪が」
俺はプッツリと切って携帯を仕舞った
そして大人しくハンドガンをホルスターに仕舞う
煙草を咥え火をつけながら俺は言った
「やめておけ、ワカモ」
「……ッ!?」
いつの間にか現れた純白の狐が俺を庇うようにしてライフル銃を構えていた
この際いつの間にか現れたことは詮索しない、しても面倒なだけだ
しかしここで戦闘は頂けない、ワカモが大丈夫でも俺が大丈夫じゃない
蜂の巣にはされないだろうが流れ弾で死ぬのはゴメンだ
……アロナがバリアを貼るって言っても、毎回電源を切るせいで貼れないし
『先生はその癖を直してください死にたいんですかァッッッ!?』
ごめんて
俺は煙を吐き出しながら彼女達に先導されたのだった
……さて、トリニティとやらはどんな学校なんだか