疲れたよ、隠居するね皆   作:回忌

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なり損ない

「私のミスでした、先生」

 

ガタンゴトンと、規則正しい音が鳴る

覚醒した意識は柔らかい長椅子の感覚と、一定周期に揺れる電車の風景を目視した

何が起こっているのか、分からないまま"僕"は話を聞く

 

立ち上がることも出来ない、また、口を開くことも出来ない

 

 

「私の選択、そしてそれによって招かれた全ての状況」

 

 

脳裏に"見覚えのある映像が映る"

三発の弾丸を受けたタブレット、黒いドレスを着た美しい長髪の女性

 

 

そして、デスマスクじみた恐ろしい仮面を被った化け物

 

 

「……結局この結果に辿り着いて初めて、あなたの方が正しかった事を知るなんて」

 

声が出ない

今にも感嘆した、興奮した声が出そうというのに全く出ない

出すことを許されていない……

 

 

 

タブレット越しにしか見えなかった物を、生で見ているというのに

 

 

 

「……今更図々しいですが、お願いします、先生」

 

 

ポタリと、血が垂れる

もはや生還は絶望的な血液が流れているのだ

しかしそれにお構いなく彼女は話を続ける

 

「私のことは忘れてしまうでしょう、しかし大した問題ではありません

ㅤどうせ、何も思い出せなくても……同じ選択をするでしょうから」

 

彼女は儚げに笑う

僕はそれを表情を変えることも出来ずに聞くことしか出来ない

 

「……責任を負うものについて、話したことがありましたね

ㅤ理解できませんでした、あの時は……何せ三人も居るんですもの

ㅤ言い訳をするつもりはありませんが…」

 

 

 

 

 

「……今なら理解できます……貴方が言ったこと」

 

 

 

 

 

 

 

 

銃声が響く

 

驚いて僕はそちらの方を見てしまう

 

 

 

 

 

そこは、電車では無かった

 

まるで輪切りにされ、その先に映像が映し出されているような光景

 

 

 

 

 

倒れた手と、アビドスの証

 

乾ききった死体を眺めるピンクの女の子

 

赤い瞳、鍵の覚醒、終わりの始まり

 

去る天才、虚しく落ちる雨と命

 

倒れ伏す最強と、絶叫する女

 

慟哭する魔女、生気無く天井を眺める女

 

戦場に耐えかねた者と、忘れられた者

 

知られずに死んだものと、身代わりとなって死んだもの

 

 

 

それがリアルタイムに映し出され、流れていく

驚愕して声も出ない……そもそも出ない僕と彼女はそれを見ていた

彼女は、酷くつまらなさそうな瞳でそれを見ていた

 

 

そして、"僕"の知らないスチルが現れる

 

 

 

 

「あが……ど、う……してで……ござ……る」

「最初から、こうしておくべきだったな」

 

 

助けを乞うように伸ばした手を銃の先端で弾かれ、そのまま射殺されるオタクっぽい男

迷彩柄の戦闘服に身を包んだ彼は感情のない瞳でそこにいる僕らしき男にも銃を向けた

 

「お、お慈悲^〜お慈───────」

 

スタタタン、と子気味良い音と共に脳髄が撒き散らされる

あの状況であんなふざけたことを言ったらそうなるだろ、なんで言ったんだ?

 

 

 

そして、映像は消える

輪切りされたかのような電車はいつの間にか元の風景に戻っていた

 

彼女は首をこちらに向け、言った

 

 

 

 

 

 

 

 

「彼に殺された、貴方になら」

 

 

 

 

 

 

 

 

彼に、殺された?

一瞬理解出来ずに僕は呼吸をすることさえ忘れた

 

まさか今のは僕だったのか?

 

ふざけた語録を垂れ流して、言おうとして頭を執拗に撃たれたのは僕なのか?

そんな、そんな訳ないだろう……まさか、そんな……そんな……!

 

「貴方には知識がある、この青春の全てを知っているというアドバンテージが

ㅤ……しかし、利に対価があるのはいつでも同じ…」

 

 

 

 

彼女はそう言うと、カチリと僕に向けて銃を向けた

 

 

 

 

 

 

そこで初めて、僕は声を出せた

 

 

 

 

 

「お慈悲^〜、お慈悲^〜」

 

 

 

 

情けない、死ぬ前の世界の言葉を

ケツピン語録と呼ばれる忌まわしき言葉を

 

「……おっp、おっぱげた…」

 

なんで、と言おうとしても文は全く違う

発声した言葉は言おうとした言葉と同じような語録に変わる

ふざけた語録を垂れ流し機械のような存在に、僕はなっていた

 

 

 

 

 

「貴方が選択を間違えないように……"副担任"さん」

 

 

 

 

タァン、と乾いた銃声が響いた

 

 

 

 

 

 

「トリニティにお越し頂きありがとうございます、先生」

「丁重な礼どうも」

 

対角線上に座る彼女は丁重に礼をする

私はそれに対してぶっきらぼうに返しながら煙草に火をつけた

ここに来るまで禁煙のマークは無い、吸えるってこった

 

「…ここは禁煙ですよ」

「そうか?すまん、マークが無いもんで分からなかった」

 

鼻で笑いながら足元に落とし、そのまま踵で潰す

その一連の流れを見ていたナギサは目を細めた

それに気にせずに私は用意された紅茶を飲む

 

「……まぁ、いいでしょう。

ㅤそういうものだと想定しておりますから」

「話をさっさと終わらせよう」

 

もしかしなくても俺が喫煙者と分かっていての発言か?

もとより諜報部的な場所から私が喫煙者と分かっているだろうに

……もしかしなくても皮肉か?やはりお嬢様学校ということか

 

そう思いながらさっさと依頼の話について聞く

とっととこちらの話を終わらせてゲヘナの会合も備えなければならない

ゲヘナとの会合が何故かバレてなければ来る必要と無かったのだ

 

「落ち着きが無いですよ、紳士たるもの余裕を持って接しなければ」

「悪いが紳士の生まれじゃないからな、お遊びに付き合っている暇は無い、早くしてくれ」

 

こちとら忙しいとか言うレベル超えて死にそうなんや

大事なことを忘れているような気がするし、それをどうでもいいと思えるレベルで忙しい

どうしてこんなに忙しいんだ…?……考えない方が楽か

 

「……つれない人、やはり副担任達と同じということですか」

「言っとけ、どうでもいい事だよ

ㅤ依頼についての話をしようか?桐藤ナギサ」

 

さっさと終わらせよう、これ以上話をする必要は無い

口での言い合いなど私は得意ではないのだから

 

「まぁまぁ…そう言わずに」

 

しかし彼女は優雅に紅茶を啜り、マカロンを食べる

余裕な様子だ、畜生腹立たしい奴がよ……!

先生という職業なのに生徒に対して苛立ちを覚えるという暴挙をしながら私はギリと歯ぎしりをした

 

「余裕の無い様子で、最近は忙しいようですからねぇ」

「……そらそうだろ、お前副担任が何をしたか知らないわけじゃ無いだろう?」

「ええ、まぁ……聞きかじった限りですが」

 

うそつけ

私は吐き捨てるように言いながら外を見た

ベランダにこのような広い空間を作るのもどうかと思うが、そもそも敷地が広い

まるで宮殿のようだ……いや、教会があるようだしそうなのか?

そういう知識は無いし、気にする必要も無いからな……

 

「嘘でも誠でもいいでしょう?どの道当たりなのですから」

「…それで、何が言いたい?長引くだけ長引いて言葉遊びだけでした、なんてないよな?」

 

私が苛立つ様子を見せながら言うと、彼女は笑いながら紅茶を啜った

 

「前戯はこの程度で良いでしょう

ㅤ…依頼については、先生としての仕事ですが……これは事前情報が必要ですね」

 

そう言って彼女は1つの書類を渡してきた

ゲヘナとトリニティの校章が印刷されている書類

その項目には「エデン条約」と記載がされていた

 

最重要機密とも書かれている

 

「…これをシャーレに見せていいのか?」

「特例です、当組織は中立組織でしょう?」

「それについては特例ができそうな所だな」

 

私はそう返しながら中身を確認する

 

 

 

 

 

……、…………、……………………嘘だろ?

 

 

 

 

 

「エデン条約…トリニティとゲヘナの協定……」

「昔よりいがみ合っていた両校の協定です、素晴らしいものでしょう?」

 

はいそうですかって言えるもんじゃねぇよ

協定先の学校に諜報部員を送るなんてしてる奴と協定を結ぶだァ?

なんだろう、集まって纏めて自滅する予定でもあるのだろうか

そうでもしないとこんなトチ狂った協定はしないだろ?

 

「………そう、なんじゃねぇかなぁ」

 

それはそれとして肯定はしておく

アレと協定を結ぶとなると私なら即拒否だが……いや、こいつらもどうなんだろう?

たまに見るモモッターのポストではゲヘナとトリニティがレスバをしているようだし

なんなら両校双方誹謗中傷多いし……なんとも言えん

 

 

「それで、そこでしてもらいたいのは何だ?」

「してもらいたいことは直球ですが……裏切り者の排除です」

「…なる程、良く思わない方はいるようで」

「……いえ、そういった訳では…ないの、ですが……」

 

初めてナギサが言い淀んだ

私はスっと目を細めてそれを見た

見覚えのある顔だ、新顔が何もかも疑心暗鬼になった時にああなったかな?

 

「確定じゃないなら止めておけ、ろくでもない」

「…そういうわけも行きません……貴方と違ってこちらは学校そのものを動かしているのですから」

 

お前一人で?……と言おうと思ったがそういう訳では無いだろう

何せ空き席が二席もある……恐らくまとめ役は後2人居るはずなのだ

現在欠席しているのは単純に来てないだけか、それともまーた独断専行か……

 

いいよ独断専行は、副担任の左腕で十分だ

 

 

「表向きは補習授業部としてあります

ㅤ実態は……貴方なら既に察しているでしょう?」

「あぁ、まぁ……どうせそういうことだろうに」

 

そして、最後に全て掃き捨てるのだろう?

全てが、自分以外の全てが怪しいからに

 

何もかも、信じられないから……

 

 

「…ゲヘナの会合後なら付き合ってやる、お前の疑心暗鬼に」

「…心外ですね、慎重派と言ってくださいよ」

「嫌だね、私は……"俺"はお前みたいな役人タイプが1番嫌いだ」

「そうですか……では、部活動に所属する生徒たちの資料は渡しておきます

ㅤ……それから、ゲヘナとの会合は早めに終わらせた方がいいですよ?

ㅤこちらも試験や条約の調整がありますので」

 

 

 

……あぁ、この上から見下ろされているかのような喋り方

常に自分が上に居ると認識し、高みの見物をしている奴

 

 

 

 

 

 

 

 

──────────本ッッッッ当にクソ野郎が




「大人のカード」

青い、希望が形となり輝いているようなカード
生徒に対して全くと言うほど配慮も容赦もない彼とは違うカード

これもまた、彼のカードと同じようにいかなる生徒でも呼び出せる
しかしその代償は共に戦う彼とは違って、それ程の物を要求しない



しかし、それは確実に己の体を蝕んでいくことだろう




知識の対価として、言葉を全て変えられたように
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