ヒトヒトの実 幻獣種 モデル“両面宿儺”   作:笛吹き男

2 / 6
最強

 

 

 

 

 

 

 ナナシと名乗った男は懐に忍ばせていた酒をグビグビと思いっきり飲み干す。

 

「くはぁっ!!やはり酒は美味い!!」

「ナ、ナナシはどうしてここにいるの?」

「あ?それは俺がカイドウの奴に挑んで負けたからだ」

「お父さんに挑んだの!?」

「お父さん!?あいつガキいたのか!!っていうか何でカイドウのガキがこいつらと一緒にこの岩屋に収監されている?」

 

 ヤマトはナナシに事情を説明する。

事情を聞いたナナシはめちゃくちゃ笑っていた。

何がおかしいんだと怒るヤマトだが、ナナシは特段気にせず笑い続ける。

 

「ああー。笑った笑った。その手錠は爆弾付きか。あいつも笑えることをする」

「何処が笑えるんだ!!この手錠のせいでぼくはこの鬼ヶ島から出れないんだぞ!!」

「知らん。というかお前は海に出たいのか?」

「うん!!冒険したいんだ!!おでんのように!!」

「海か。確かに面白いぞ。何かと飽きない」

「ナナシは海に出たことあるの!!?」

 

 ヤマトの問いにナナシは小さな声であぁと言葉を発する。

 それから数日間、ヤマトはナナシに色々と尋ねた。外の世界はどうなっているのか、冒険はどんなに楽しいか、見たことのない未知を聞き入る。

 

「ナナシって何歳なの?」

「今年で17歳だ」

「大人びてるからもっと上だと思ってた」

「大人びてるか。環境がそうさせたのだろうな」

 

 その時のナナシの顔は何処か儚げだった。

まるで、遠い遠い昔を見ているような感じでもある。

 

 

 ヤマトが岩屋に収監されて10日。

あいも変わらず、侍たちはヤマトに読み書きを教える。そして、それが終わったらナナシの冒険譚を聞く。いつも通りだ。

ただ、食べるものがないので彼等は衰弱していく一方だった。

 

「ナナシ。お主は何故カイドウに挑んだ?恨みかそれとも大義か……もしくは純粋に力を確かめるためか」

「一番最後の理由が近い。ただ勘違いするな。俺は最強だなんて思っていない。今の俺は弱い。強くなるためカイドウに挑んだだけだ」

「カイドウはお主の力を欲している。お主はそれ程までに強い」

 

 これまで何度もカイドウはナナシに部下になれと声をかけた。

そのたびにナナシは断る。

それを見ていた霜月牛マルはナナシの力はどの程度のものなのか興味があった。

だが、彼はナナシの力を見ることはないだろう。なぜなら、霜月牛マルたちはもうすぐ死ぬと自身で分かっているから。

 

「我らは20年後の戦いまで生き残れそうにない」

「なら、僕が戦うよ。海へ出て…もっと…もっと…強くなって…」

「そうか。……なら、我らはヤマトを死なせぬ事で未来の戦に参戦しよう」

「だな。20年は待てぬから」

「ああ」

 

 霜月牛マルたちは刀を手に取る。

そして、霜月牛マルはナナシに語りかけた。

 

「ナナシよ。お主がこの国出身であることは何となく分かっていた。そして、この国のために戦う気が無いことも知っている」

「…………」

「戦わなくても良いが、我等の死に様を覚えていてくれ。そして、出来ればヤマトを強くしてやってくれ。この子は我等の未来なものでな」

「俺がそこまで親切な奴だとでも?」

「…………任せたぞ!!!」

 

 霜月牛マルは言いたい事だけを言って、岩を切り裂く。

そして、霜月牛マルたちはカイドウに挑みに行った。衰弱していて勝てるはずもない。でも、このまま死ぬよりは討ち死にする事を彼等は選んたのだ。

 

 残されたナナシとヤマトは互いを見る。

これからお互いにどうするべかなのかを確かめていく。

 

「言っておくが俺はこの国がどうなろうと興味ない。20年後の戦いとやらにも参加する気はない」

「うん、それはナナシの自由だよ。ぼくにとやかく言う権利はない。だけど、ぼくのことお侍さんたちに託されたよね?」

「守る義理はない」

「みんなナナシに託して行ったよ。ぼくのこと」

「……………はぁー。ここでお前を見捨てれば後味が悪いな。霜月牛マルにあそこまで言われたら無視も出来ん」

 

 ナナシは特別この国に思い入れはない。

ただ生まれた国であるだけだからだ。ナナシが思っている事は一つだけ。強くなるという事。

そのために彼は態々生まれ故郷に戻り、カイドウへ挑んだ。

結果は負けたもののカイドウが部下に欲しいと思うぐらいには強い。

本人はまだまだ発展途上だと思っているのだが。

 

「ヤマト。まずはっきり言うが俺達は鬼ヶ島から出られない。理由はお前には手錠の爆弾。そして、俺は泳げないからだ」

「ナナシ泳げないの!!?」

「好きで泳げないわけじゃない。能力者だから泳げないだけだ。能力者になる前は泳げた」

「ナナシは能力者なの?」

「ああ。まだまだ未熟だ」

 

 ナナシ本人は未熟だと言っているが、実際に戦ったカイドウからすれば十分な実力と評価している。

それを知らないナナシはもっと能力に慣れようとしていた。

 

「まずは手錠をどうにかしろ。それが出来たら船を奪ってこの国を出る」

「本当に手錠を外せたら一緒にこの国を出てくれるんだね!!!!!」

「まぁ、不本意ではあるが、あいつらの生き様を汚したくはないからな」

「約束だよ!!!」

 

 そう言って、ヤマトは岩屋を出た。

恐らく、手錠の鍵を探しに向かったのだろう。

 

「さて、俺も行くべき場所へ向かうか。俺が態々この国に来た目的を果たさないとな」

 

 ナナシもまた自らの行くべきところへ向かった。彼が向かったのは霜月牛マルたちがいるであろう場所。

その場所は少し広く岩だらけだ。中央にはカイドウが立っており、先程まで生きていた霜月牛マルたちはその場で息絶えていた。

 

「死んだのか」

「………ナナシか。こいつらは俺の部下になれば死なずに済んだ。悪くねぇ奴らだったから惜しいと思っている。残念だ」

「人はいずれ死ぬ。そいつらは今日だっただけのことだ」

「随分と冷てェんだな。こいつらと仲良かっただろう?」

 

 カイドウの言う通り、ナナシは割と霜月牛マルたちと仲が良かった。

だが、彼は彼等の死に憤りはない。

 

「少し話しただけだ」

「ウォロロロ!!!流石だ。その非情さ。ますます欲しくなるぜ」

「お前の部下になるのはお断りだ」

「なら、何のために来た?」

「リベンジとお前の技をもう一度学びに来た」

 

 その言葉を聞いたカイドウは嬉しそうにナナシを睨む。

ナナシの実力はカイドウが楽しみにしているほど

強大だ。

二人の間を邪魔するものは存在しない。

故に全力で殺し合える。

 

「行くぞカイドウ!!」

「来いナナシ!!」

 

 二人は殴り合う。

あのカイドウとナナシは真正面から殴り合っている。他の者達がこれを見れば驚きおののくだろう。

 ナナシは手をカイドウに向かって構えた。そして、次の言葉を発する。

 

「『(カイ)』」

 

 その一言によってカイドウに向かって数発の斬撃が飛んでいく。

カイドウは武装色の覇気を使い、それを防ぐ。

 

 この『解』という技は動作だけで対象を細切れにしたり、真っ二つにする。そして、連射、形状の調節が可能。

威力は一定ではなく、相手の硬度や自身の覇気によっては耐えられることもある。また斬撃は不可視で視認出来ないため回避は困難。

しかも、ノーモーションで放つことも出来る。

 

「お前の能力。ぜひとも欲しい。俺の部下にしてやるよナナシ!!『雷鳴八卦(らいめいはっけ)』!!」

 

 カイドウは稲妻のように迸る膨大な覇気を纏わせた八斎戒を振り抜く。その速度はあまりにも速い。ナナシは避けきる事が出来ずにまともに食らってしまう。

 

「ガハッ!!頭がクラクラする!!」

「普通は死ぬもんだ。その程度で済んでいるとは驚きの耐久力だ」

「耐久力は俺じゃなくお前の専売特許だろ?」

「だな。少し本気を出してやる!!」

「なら、俺も出してやるよ本気をな!!」

 

 二人は笑いながら体を変質させる。

カイドウは自らが食べた悪魔の実 ウオウオの実幻獣種モデル“青龍”の力を引き出す。

人獣型。それは動物系能力者の切り札といえる最強の戦闘形態。

 この人獣型に変身したカイドウの姿はまさしく鬼。何とも禍々しい姿に変貌した。

 

 そして、ナナシもまた変質する。と言っても、カイドウのように大げさな変身はしていない。

そもそも彼の食べた悪魔の実は悪魔の実の中でもかなり特殊と言えるだろう。

 彼が食べた悪魔の実。

それはヒトヒトの実幻獣種モデル“両面宿儺”。

 かつて存在したとされる呪いの王。腕が四本顔が二つある仮想の鬼神。天上天下唯我独尊、己の快・不快のみを生きる指針とし、非常に奔放で残忍な者とされている。

 

 ナナシはその能力を使い変質した。

爪が黒くなって尖り、顔を含めた全身に紋様が浮かび上がる。さらに両眼の下にもう一対の眼が開眼していた。

 

「それが人獣型か?」

「まぁ、そうなるのかもな。俺の食べた悪魔の実は少し特殊なんで俺自身分からない部分が多々ある」

「そうか。まぁ良い。これから楽しめるんだからな!!………耐えろよ!!『熱息(ボロブレス)』!!」

 

 カイドウは人獣形態で口から強力な炎を吹く。

それをナナシは斬撃で切り裂く。

 

「『解』」

 

 先程までの斬撃と違い明らかに威力がある。

これを数十発受けたカイドウ。僅かではあるが、体に斬り傷が出来ていた。

ナナシは休むことなくカイドウとの距離を詰める。そして、カイドウに触れた。

 

「『(ハチ)』」

 

 対象の強度に応じて自動で最適な一太刀で相手を卸す斬撃。

これは対象に直接触れてのみ発動する。

捌を食らったカイドウの腹から血しぶきが吹き出た。

 

「ウォロロロ!!!痛ェじゃねェか!!!」

 

 カイドウのスピードが更に上がる。

あまりの速さにナナシは目で追えない。

いくら、目で追っても捉えることは出来ないでいた。

それならば、彼は目で追うことを止める。

全てを消し去るという選択肢を選んだ。

そのために彼は掌印を結ぶ。

運命と死と地獄の神閻魔天の印。

 

「『領域展開(りょういきてんかい) 伏魔御廚子(ふくまみづし)』」

 

 この技はナナシの現状使えるとっておきの技。これを使うことにより様々な生物の頭骨に象られた寺のお堂がナナシの後ろに顕現した。

 

 領域の効果範囲は最大200mにまで拡大されている。領域内の悪魔の実の力を帯びたモノには『捌』、悪魔の実の力が無いモノには『解』。その2つは領域が消えるまで絶え間なく浴びせられる。

 

 絶え間なく斬撃が浴びせられるため、一度効果範囲内に捉えられると脱出するのは困難。

これには最強の生物と呼ばれるカイドウもただでは済まない。

 

 

 ひたすらに飛んでくる斬撃。

カイドウが取った行動はこの領域を維持しているナナシを潰すこと。

彼は全身に武装色の覇気と覇王色の覇気を全開で纏う。そして、ナナシに特攻する。

 

「ナナシ!!おれの覇気が途切れる前にお前を潰す!!」

「クハッ!!やれるものならやってみろカイドウ!!」

 

 ナナシは効果範囲を狭め、斬撃のスピードを加速させた。

カイドウは絶え間ない斬撃を全身の覇気を全開にして受け続けているが、徐々にナナシとの距離を詰める。

 

「『降三世引奈落(こうさんぜラグならく)!!』

 

 武装色と覇王色の覇気を纏わせた黒い稲妻。それをカイドウは放つ八斎戒を上空で振り回した後に、ナナシを地面に叩きつけた。あまりの速さ。ナナシは避けきる事が出来なかった。

 この技をまともに喰らったナナシは領域を維持できない。領域は崩れていく。

 

「はぁ…はぁ…はぁ…ここまで覇気を全開にして戦ったのは久しぶりだぜ。……それにしても、アレを食らって生きているとは驚きだな」

 

 カイドウの言う通り、血だらけではあるがナナシは生きている。

しかし、領域を維持できないほどのダメージを負っていた。

一度領域が崩れるとナナシは制限を食らう。

その内容は一定の時間が経たないと領域はおろか斬撃が使えないというものだ。

 

「ゴホッ!!ゴホッ!!……まともに受けてしまった」

「まともに受けて生きているとはな。耐久力はおれと同等だ。……覇気を扱えていないのが勝敗を分けたな」

「それを学ぶためにお前と戦っている。能力が制する事は無いからな」

「ウォロロロ!!分かってんじゃねェか」

 

 ナナシはカイドウを睨む。

そして、自らの弱音を吐く。

 

「覇王色の覇気。それを纏う。………理屈は分かっていても俺には出来なかったことだ。……自らの特訓だけでは見えない。だから、使い手を見て学ぶことにした」

「それが俺に挑んだ理由か。なるほどな、賢い。だが、お前に出来るのか!!お前はおれと同等のステージに上がれるのか!!」

「そのために俺はもう一度お前に挑んだ!!」

 

 バリバリっと二人の覇王色の覇気がぶつかる。

島は揺れ、雲は割れ、周りの岩は壊れていく。

 

「真っ向勝負だ。カイドウ!!」

「受けてやる。ナナシ!!」

 

 二人は覇気を纏い殴り合う。

だが、二人には明らかな差がある。

それはカイドウが武装色の覇気と覇王色の覇気を纏っているのに対して、ナナシは武装色の覇気しか纏えていない事だ。

これは戦闘において、かなりの差が出る。

 

「どうしたナナシ!!覇王色を纏えてねェぞ!!!!」

「……………クハッ!!今からやってやるよ!!」

 

 ナナシの拳とカイドウの拳がぶつかる。

この時、明らかな覇王色の衝突が起きた。黒い稲妻が辺りに舞い散る。

 カイドウは理解した。目の前の男は自分と同じステージに立ったのだと。

 

「ウォロロロ!!楽しいな!!!」

「ああ!!」

 

 その後もナナシとカイドウの覇王色の覇気がぶつかり合う。

最早、ナナシは覇王色の覇気を完全にコントロールしていた。

お互いにヒートアップした時、ナナシはある動作をする。

 

「『領域展開(りょういきてんかい) 伏魔御廚子(ふくまみづし)』」

 

 一定時間を終えて制限が解除されたナナシは再び領域を展開する。

絶え間ない斬撃が再びカイドウに襲いかかる。

 カイドウはこれを見越していた。覇気を全開にして斬撃を絶え抜く。

ここで驚くべき事があった。それはカイドウの覇気が先程よりも明らかに強まっている事。

これはナナシとの戦いがカイドウを強くしていったという事だ。

 

「ウォロロロロロ!!!!全てをぶつけろ!!!!ナナシ!!!!お前がジョイボーイに成れるのか見せてみろ!!!!!」

 

 嬉々としてカイドウはゆっくりとナナシがいる方へと進む。

無限とも思える斬撃は全く効いていない。

 

「クハッ!!化け物め!!!俺のとっておきを見せてやる!!!特別だぞ!!!好敵手よ!!!!」

「見せてみろ。ナナシ!!!!」

「………『(カミノ)』 『(フーガ)』」

 

 ナナシの手に炎が顕現する。それをナナシは矢を放つように扱う。

 この技は『解』『捌』の双方を使って初めて開かれる業火。しかも、使用条件がある。領域展開中を除く多対一での『竈』の禁止だ。

 

 領域展開 伏魔御廚子によって粉塵化した全ての物質に『竈』と同じ爆発性の力を帯びさせている。

 これにより、サーモバリック爆薬と化した粉塵が領域の隅々に散らばっている状態。

『竈』の熱により爆轟遷移、刹那の高温、衝撃波、減圧を超加圧で領域内の生物を死に至らしめるナナシの奥義。

 

 カイドウも負けじと自らの覇気を最大限に引き出す。そして、構えた。

 

「消えろ!!」

 

 ナナシは炎を発射させた。

カイドウはそれをまともに受ける。

 

「ウォロロロ!!『大威徳雷鳴八卦(だいいとくらいめいはっけ)』!!!!」

 

 業火を受け続けながらもカイドウは進む。

筋肉を巨大化させた人獣型。その状態で武装色の覇気と覇王色の覇気を纏った八斎戒をナナシに全力で叩き込んだ。

 これにより再び領域が崩れた。

それはナナシに大ダメージを与えたという事。

ナナシはその場に倒れ込んでいた。

 

「……てめェは……良く…やったよ」

 

 バタンッ!!!!

 

 カイドウもまたその場に倒れる。

最早、二人共一歩も動けない状態となっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。