ポケモンアーカイブ   作:BREAKERZ

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一人の少女は決断する。大切なものを守る為に・・・・。


アビドスに渦巻く謎と、ホシノの決断

ーホシノsideー

 

それは、ホシノがアビドス高校一年生の頃のある日。『生徒会長の先輩』が片手で『パートナーのヤドン』を抱えたまま、一年生のホシノにある物を突き出した。

 

【じゃーん! ホシノちゃん見てみてー! 『アビドス砂祭り』の昔のポスター! やっと手に入ったよー! この時はまだ、オアシスが湖みたいに広がって、沢山のポケモン達が来てたんだよねー。あ、このポスターは記念にあげる!】

 

そう言って、そのポスターをホシノに渡した。

 

【えへへ、すっごく素敵でしょー? もし何か『奇跡』が起きたら、またこの頃みたいに人がたっくさん集まってーーーー】

 

【『奇跡』なんて起きっこないでますよ、先輩】

 

その先輩の言葉を遮るように、肩に『パートナーのポケモン』を乗せたホシノが冷淡に返した。

 

【そんなもの、ある訳無いじゃないですか。それよりも現実を見て下さい!】

 

【は、はう・・・・】

 

後輩の言葉に、その先輩はションボリとしょげてしまうが、ホシノは構わず声を張り上げる。

 

【こんな砂漠のド真ん中に、もう大勢の人なんて来る筈が無いでしょう!? 夢物語もいい加減にして下さい!】

 

【うえぇ、だってホシノちゃーん・・・・ご、ごめんね?】

 

【・・・・っ】

 

子供っぽい先輩の態度に、ホシノは苛立ってしまう。

 

【そうやってフワフワと、『奇跡』だの『幸せ』だの何だの・・・・もっとしっかりして下さい! あなたは『アビドスの生徒会長』なんですよ!? そんなに『凄いポケモン』も持っているんだから! もう少し、その肩に乗った『責任』を自覚したらどうなんですか!】

 

ーーービリビリーッ!

 

ホシノは手渡されたポスターを破り捨てた。

 

【『ヤンッ!』】

 

ヤドンが目を光らせようとしたが、先輩が優しく頭を撫でて止めたのであった。

 

 

 

 

* * *

 

 

 

 

そして現在、対策委員会の教室に戻ったホシノは、少し物思いに耽っていた。

 

「・・・・ふぅ」

 

『ヤドキン?』

 

「大丈夫だよキンちゃん。ちょ〜っと昔を思い出していただけだから」

 

『・・・・・・・・』

 

ヤドキングはホシノの頭を優しく撫でた。まるでそれは、『かつてのパートナー』が自分にしてくれたように。

 

「うへへ〜、おじさんも年を取ったかなぁ〜?」

 

そう言って笑うホシノがお礼としてヤドキングの頬を撫でていると、教室の外から皆が近づいている気配を感じた。

 

 

 

 

 

 

ー先生sideー

 

機械ドンファン?の相手をミライドンとルカリオに任せ、先生と対策委員会は校舎に入り、一度休憩を挟んで気持ちを落ち着かせてから教室に戻って席に着き、先生がホワイトボードの前に立ち、この〈アビドス自治区〉に来る前日に起こった事を皆に話しながらホワイトボードに水性マジックを走らせた。

ーーーー〈アビドス自治区〉に行く前日、準備を進めていた先生はライドポケモンを得ようとカタログを見ていると、〈ミレニアム〉の生徒会の会計の生徒(ユウカ)がやって来たのと同時に、『シャーレ』の警報システムが作動し、外を見てみると、一匹のポケモンを追って大量のアーマーガア達が現れた。

これを不審に思った先生は、アーマーガア達を追跡し、〈ミレニアム〉の『岩壁エリア』に到着し、その生徒(ユウカ)とその友人の生徒(ノア)と共にアーマーガア達を一時撃退した。

そしてアーマーガア達が追っていたポケモンこそーーーーミライドンであった。

ミライドンを連れて『岩壁エリア』を歩いていると、先程の巨大ドンファン?と同じくらいの体格をした巨大なガケガニと遭遇し、その巨大ガケガニを倒して『シャーレ』に戻り、ミライドンをライドポケモンとして自分の手持ちにしたのだ。

それらを全てホワイトボードに書き終えた先生に、皆が口を開く。

 

「そんな事があったんですね・・・・」

 

「でも、それでどうして先生はアビドスに?」

 

アヤネとノノミの質問に、先生は応える。

 

“まず一つ、アーマーガアの羽根を見つけてね、“その羽根に付着していた物”を拭き取って分析して見ると、『アビドス砂漠』の砂と同じ成分だったんだ”

 

「えっ!? アビドス砂漠の砂が!?」

 

「・・・・ん、思い出した。確かその日、私はアビドス砂漠のワルビアルの縄張りでルガルガン、もといイワンコとワルビアル達を相手に野良バトルしていた時、頭の上を何か『黒い雲のような物』が飛んでいった」

 

『ガンっ!』

 

驚くセリカに続いて、思い出したかのように手をポンッと叩いたシロコの言葉に、ルガルガンも肯定を示すように頷いた。

 

「あっ、私も思い出しました! 私もその日、サイドンと買い物をして帰る時、『黒い雲』が真上を飛んで行きましたよ」

 

『サイサイ!』

 

ノノミの言葉に、サイドンも頷く。

 

「・・・・そう言えば、その日は私は図書館で勉強していて、その時、図書館に入ってきた人の中に、『黒い雲』が飛んでいたって言ってた人がいました」

 

『ビブラー』

 

アヤネの言葉に、ビブラーバも頷く。

 

「う~んと・・・・あっ! そう言えば、私もコンビニから出た時、なんかモヤモヤした『黒い雲』が飛んで行ったのを見かけたわ! そうよね?」

 

『ウォー』

 

セリカの質問に、ウォーグルも頷いた。恐らくその『黒い雲』こそ、纏まって動いてミライドンを追っていたアーマーガア達なのだろう。

 

「ホシノ先輩は?」

 

「うへ~。おじさん達は優雅に寝ていたからね〜。そんな事があったなんてとんと知らなかったよぉ」

 

『ヤド』

 

ホシノがのほほんと笑いながら言うと、ヤドキングも頷いた。

それを聞いて、先生は更に話を続ける。

 

“実は、ミライドンとアーマーガア達の追いかけっこをしている時、各地で街頭防犯カメラや大勢の人達のスマホロトムに、『電波障害』が起こったんだ”

 

「『電波障害』?」

 

“そう。そしてその『電波障害』が起こった場所の動線を辿っていくと・・・・”

 

「・・・・まさか・・・・!?」

 

思い当たったのか、アヤネが目を見開くと、先生とピカチュウは肯定を示すように首を前に倒した。

 

“そう。このアビドスだった”

 

『ピカチュウ』

 

『っっ!?』

 

先生とピカチュウの言葉に、今度は他のメンバーが目を見開く。

 

“さらに、これはゲヘナ風紀委員会のチナツ。あの時、色違いのタブンネを連れていた女の子なんだけど。彼女から気になる情報も貰っていたんだ”

 

「チナツ・・・・あぁ、あの眼鏡の娘ね」

 

「その方がなんと?」

 

セリカとアヤネが記憶からチナツの事を思い出して聞いてくると、先生は意を決して話す。

 

“ーーーー最近、〈キヴォトス〉全域で問題視されている薬品、『R』についてなんだ”

 

「! 『R』って、カタカタヘルメット団が使っていたあの紫色の煙?」

 

「それがどうして、アビドスに関係しているのですか?」

 

シロコとノノミの問いに、先生はプリントアウトしていた地図をホワイトボードに貼り付け、ある一点を黒い点を付けた。

 

“ここが、最初に『R』が出回った地区だよ。よく見て”

 

『・・・・・・・・・・・・あっ!!?』

 

先生が指した一点をよく見てから、全員が顔を驚愕させた。

何故ならその地区は、〈アビドス〉と〈ゲヘナ〉の中間地点に位置する『薬局』だったからだ。

 

“ーーーー実は、カタカタヘルメット団が『R』を手に入れて、ゲヘナ風紀委員会がこのアビドスにまで追ってきたのは、建前上では風紀委員会がマークしていた『薬局』を襲撃したからだった。風紀委員長も中で捜査すると、量産された『R』と、その関連書類が見つかったんだ。ゲヘナ風紀委員会としては、この事が〈トリニティ〉の耳に入る前に、『R』騒動にケリを着けたいようだけど”

 

先生がそこまで言うと、ホシノが察したように頷いた。

 

「あぁ、成る程ね〜。今〈ゲヘナ〉は長年犬猿の仲だった〈トリニティ〉と和平を結ぶ為に、『エデン条約』ってのを結ぶ為に大忙し。そんな中、『R』なんてものが出回ったのが〈ゲヘナ〉だと知られたら、条約は破棄。最悪、〈トリニティ〉と〈ゲヘナ〉の間で戦争が起こるかも知れないねぇ」

 

「えっ!? 条約を結ぼうとしていた相手と戦争するのですか?」

 

「ず〜っと仲が悪かった相手とすぐにお手々繋いで仲良しこよしなんて出来ないよ。両校にだって『エデン条約』に反対している派閥があるだろうからねぇ。そんな連中がこんな情報を知ればこれ幸いと言わんばかりに、〈トリニティ〉は〈ゲヘナ〉を攻撃する大義名分ができるし。〈ゲヘナ〉も自衛とか言って〈トリニティ〉を迎撃する口実ができるね」

 

アヤネの質問に、ホシノはやれやれと言わんばかりに肩を竦める。

 

“その可能性は十分ある。だからこそ、チナツは秘密裏に私とメールのやり取りをしながら、『R』について調査をしていた。チナツは〈ゲヘナ〉を。私達は〈アビドス〉をってね”

 

『ピカ』

 

先生とピカチュウがそう言うと、ノノミは目をキラキラさせる。

 

「凄いです先生☆ まるでスパイ映画のようですね♧」

 

「ん。じゃぁ先生が私と初めて会った時に倒れていたのは、カイザーに襲撃を受けたからなの?」

 

“・・・・あぁ〜それね。それはね・・・・”

 

『ピカ〜・・・・』

 

先生とピカチュウが何やら言いにくそうに苦笑していると、教室にルカリオが入ってきた。

 

“あっルカリオ、ちょうど良い時に。これから皆にシロコに会う直前の時を話すから・・・・”

 

『・・・・カルォ』

 

ルカリオが肩を竦めながら首肯すると、先生はモンスターボールから御三家を出し、ピカチュウも先生の肩から降り、他の皆のように先生の左右に横一列に並んだ。

 

“ーーーー皆。取り敢えず一言、謝らなければならない。ごめん!”

 

『ーーーー!!』

 

『???』

 

頭を下げた先生に続いて、ピカチュウ達も一斉に頭を下げるのを見て、対策委員会は首を傾げた。

そして先生がゆっくりと話を始める。

 

“実は、〈アビドス自治区〉に着いて暫くの間、迷ってしまって、その時はまだ、リザードはヒトカゲ、カメールはゼニガメ、フシギソウはフシギダネで、ミライドンはボールに引き籠もってしまって歩きだった。でもテントを張ってキャンプをしながら、アビドス高校を探していたある日の夜。私達がキャンプしていた場所にーーーーサダイジャの群れとワルビアルの群れが喧嘩を始めたんだ”

 

「えぇっ!? サダイジャの群れとワルビアルの群れが喧嘩っ!?」

 

「それって・・・・喧嘩じゃなくて、抗争じゃないですか!?」

 

セリカとアヤネが驚くと、シロコがまたも思い出したようにポンッと手を叩いた。

 

「ん。そう言えば、私が先生と初めて会った場所は、アイツらの縄張りの境界線の近くだった。そう言えばあの時の先生とピカチュウーーーー」

 

【この〈アビドス〉の砂漠地帯にはね、“四体のポケモン達”を『ボス』とした群れがそれぞれに縄張りを作って、我が物顔で他のポケモンや私達の学校を攻撃してくるの。その中の二体が『サダイジャ』と『ワルビアル』。他所から来た人やポケモンが手下の『スナヘビ』、『メグロコ』に『ワルビル』に見つかるとすぐに攻撃を受けてしまうから危ないよ】

 

【“・・・・それはもうーーーー多分大丈夫、だと思うよ” 】

 

【ピカチュウ・・・・】

 

あの時、先生とピカチュウは半眼になり、苦笑しながら明後日の方向に視線をそらしていたのを思い出した。

 

「そうか。あの時には二つの群れを壊滅させたんだね」

 

“うん。抗争に巻き込まれてテントや食料が滅茶苦茶にされてね。・・・・それで、ついプッツンしちゃって、そのまま総勢百匹以上のサダイジャにスナヘビ、ワルビアルにメグロコにワルビルを相手に大立ち回りしてね。その過程で、ヒトカゲとゼニガメとフシギダネが進化したんだ”

 

『リザリザ』

 

『カメカメ』

 

『ソウソウ』

 

“それで、空腹と疲労と寝不足でボロボロになって倒れているのを、シロコに拾われたんだ・・・・”

 

「それで、先生はシロコちゃんと一緒に学校に向かい、その後で私達の学校に襲撃に来る途中のヘルメット団が見つけてしまってゲットされた、と言う訳ですか?」

 

「いや〜、奇妙な巡り合わせだねぇ〜?」

 

ノノミとホシノがカラカラ笑っていると、先生達は改めて、対策委員会に頭を下げた。

 

“私達のせいで、皆に迷惑をかけた。本当にゴメン。言い出すタイミングを逃してずっと黙っていた”

 

『ピカ・・・・』

 

『カル・・・・』

 

『リザ・・・・』

 

『カメ・・・・』

 

『ソウ・・・・』

 

「気にしないで良いよ先生」

 

「そうそう〜。結果的にサダイジャ達とワルビアル達を撃退できたんだから〜」

 

「はい♧ 先生達のお手柄ですよ」

 

「ま、私は誘拐されたからちょっと納得できないけど」

 

「まぁまぁセリカちゃん」

 

“・・・・皆、ありがとう”

 

皆の言葉にまた頭を下げる先生は、改めてルカリオに目を向けた。

 

“ーーーーそれじゃルカリオ。あのドンファン擬きの事、何か分かったかい?”

 

『カル。ーーーーカルォ』

 

ルカリオが教室の扉を開くと、廊下にミライドンと、機械ドンファン?が座って待っていた。

 

『アギャ』

 

『ウィィ』

 

「ぎゃっ!?」

 

セリカがミライドンを見て、即座にウォーグルの背に隠れた。そんなセリカを一旦無視して、先生はミライドンに話しかける。

 

“ミライドン。そのポケモンはどうしてこのアビドスに?”

 

『アギャアギャ!』

 

それから、ミライドンがピカチュウ達と共にジェスチャーをしながら説明した。

ーーーー曰く。機械ドンファンとアビドス砂漠で遭遇した巨大な亜種ドンファンは、いつの間にかカイザーによって連れてこられ、色々な実験をやらされ、何度か実戦実験として戦わされて来た。

ある日、自分達が囚われていた施設の一部に爆発が起き、その混乱に乗じて、ミライドンや自分達は逃げ出したのだが、元々カイザーに戦わされた時から、お互いの事が気に食わなかった機械ドンファンと亜種ドンファンは、何度か戦いながら過ごしていたが、ある日突然、亜種ドンファンが巨大化し、機械ドンファンをぶっ飛ばした。

ボロボロの身体を押して惨めに敗走した機械ドンファンは、空腹と疲労でヨロヨロになり、気が付くとこのアビドス高校の近くに倒れ、何か食べ物がないかと探っていたら、廊下に顔を出したアヤネと目が合ってしまい、悲鳴を上げたアヤネにビビって、思わず突撃しようとしたら、ビブラーバと戦う羽目になった。

 

“ーーーーとの事だね”

 

「・・・・ん。やっぱりあの施設が関係あるように思える」

 

「だろうね〜。所で先生?」

 

“ん? どうしたのホシノ?”

 

「前々から気になっていたけどさ〜。先生はどうしてミライドンを『ミライドン』って呼んでるの?」

 

ホシノの疑問に、全員がハッとなった。ポケモントレーナーならば、ある程度手持ちポケモンの言っている言葉は理解できるが、『ミライドン』なんて固有名称を知る事はできないからだ。

 

“あぁ、言い忘れていたね。ミライドンを追いかけていたアーマーガア達は、『何者』かから指示を受けていたんだ。そして、司令塔のようなアーマーガアの足首に巻かれた機械から通信が入っていてね。それを傍受したんだ”

 

先生は『シッテムの箱』に傍受した音声を流した。

 

【《ーーーーなにをしている!? 早くそこで倒れている『ミライドン』を捕らえろ! この役立たずの化物共め!!》】

 

「っ!」

 

その音声を聴いて、ホシノは肩をピクリと動かし、他の皆も反応した。何故なら、荒げてはいるがその声はほんの数時間前に聞いた『大人』の声と同じであったからだ。

 

「この声、聴いた事があります・・・・!」

 

「はい。ついさっきまで聴いた声です・・・・!」

 

「もしかして、この高圧的な声って・・・・!?」

 

「ーーーーカイザー理事・・・・!?」

 

ノノミとアヤネ、セリカとシロコがそう聞くと、先生はつい先程に録音しておいたカイザーPMC理事の声と、アーマーガアに命令をしていた声を声紋分析‹VPA›にかけて見ると、『97.89%一致』と表示された。

 

「・・・・つまり〈カイザーコーポレーション〉は、連邦生徒会どころか、〈キヴォトス〉でも知られていないポケモン達を、あのアビドス砂漠で何らかの方法で連れてきている、って事なの先生?」

 

ホシノが真面目顔で聞くと、先生は頷いた。

 

「ーーーーもうっ、一体何なのよ!」

 

次から次へと露にされる謎に耐えられなくなり、セリカが声を上げた。

 

「〈カイザーコーポレーション〉が、明らかにあの砂漠で何かをしている」

 

「『宝物を探している』、と言っていましたが・・・・」

 

「あの砂漠には何も無い筈です。出鱈目を言って、ミライドンやドンファン擬き達のようなポケモンを使って、何かを企んでいるんだと思います」

 

“・・・・地下資源は?”

 

先生の質問に、アヤネが難しい顔を浮かべて首を横に振って応える。

 

「石油など、お金になりそうな地下資源は何一つ残っていません・・・・遥か昔に、既にそういう調査結果が出ているんです」

 

「だとすると、『R』の実験や生産とかをしているのでしょうか?」

 

「絶対何かの悪巧みをしているって!」

 

ノノミとセリカがそう言うと、シロコがガタッと席から立ち上がり、銃を手に取りルガルガンも付いていく。

 

「・・・・行ってくる。あそこで何をしているのか、調べないと」

 

『ルガ!』

 

「し、シロコ先輩!? 行くって、一体どこへ・・・・?」

 

「PMCの施設。徹底的に準備すれば、何とか侵入できると思う。行って、『R』に関わっている決定的な証拠や他に何をしているのか確認する」

 

そう言って飛び出そうとする二人だが、足が浮いてその場から動けなかった。無論、ヤドキングの【ねんりき】である。

 

「はいはい、シロコちゃん、ルガルガン落ち着いて〜。そんな簡単に侵入を許す連中じゃないでしょう〜?」

 

「・・・・ん。ごめんホシノ先輩」

 

「うん、皆分かってるよ。シロコちゃんは良い子だからね」

 

「・・・・・・・・」

 

「まっ、取り敢えず今日はこの変にしとこう。今日は色々と起こったからね〜」

 

確かに、『アビドス砂漠』からカイザーPMCとの戦闘やその理事との遭遇、更に見た事のない二体のドンファン?のようなポケモン。極めつけは先生から教えられたこのアビドスで行われている色々な『謎』。

正直、一度冷静になるべきだと思える。

 

「うへ~、じゃあ解散解散〜。一回頭を冷やして、身体も休めて、また明日集まる事にしようよ。これは『委員長命令』って事で」

 

ホシノの提案に、先生も頷いた。

 

“・・・・そうだね。取り敢えず、皆一旦帰って、心身を休めよう”

 

そう言うと、ノノミとサイドン、セリカとウォーグル、アヤネとビブラーバは家に帰り、機械ドンファン?はミライドンが説得してくれて、一旦カタカタヘルメット団を収監していた倉庫で大人しくしてもらっていた。

後はホシノとヤドキング、シロコとルガルガンだけが残った。

 

「ん〜? シロコちゃんは何かまだやる事がある感じ?」

 

「・・・・先輩、ちょっといい?」

 

「うへ~、おじさんとお話したい事があるの? 照れるな〜」

 

“私も”

 

「・・・・先生も? うへ、おじさんモテモテだ〜。でもさ、今日は疲れたし、色々な事があったじゃん? また明日話そう、大体どんな話かは分かってるから」

 

「・・・・ん、分かった」

 

はぐらかされた感はあるが、シロコは取り敢えず了解し、帰ろうとする寸前、先生にこっそりと声を掛ける。

 

「先生・・・・」

 

“(コクリ)”

 

『ピカ』

 

先生とピカチュウが静かに、小さく頷くのを見て、シロコも頷く。

 

「ん、じゃまた『明日』・・・・」

 

『ルガン』

 

そう言って、シロコとルガルガンは帰っていった。それを確認すると、ホシノがにやにやあ笑いながら先生に話しかける。

 

「うへ~、先生やるねえ? 私のシロコちゃんと、いつの間にか目と目で意思疎通ができる仲になったんだ〜? いやいや、やっぱり先生は侮れない大人だな〜。おじさんは流れに付いていけなくて何だか寂しいよ」

 

朗らかに笑うホシノだが、先生とピカチュウは真面目な顔で詰め寄る。

 

“ホシノ、聞いても良い?”

 

「ん〜、何を?」

 

惚けるホシノに、『退部・退会届』を差し出した。

 

“これはどういう事なのかな?”

 

『ピィカァ?』

 

「それって・・・・」

 

『ヤドキン!?』

 

それを見て、ホシノは頬に汗を垂らし、ヤドキングは初見のように驚いたように目を見開いてホシノを見る。

 

「うへ~、いつの間に・・・・! これ、盗ったのはシロコちゃんだよね? 全くシロコちゃんったら、いくら何でも先輩の鞄を漁るのは駄目でしょ〜。先生、キチンとシロコちゃんを叱っといてよ〜? あのままじゃ今にとんでも無い大悪党になっちゃってもおかしくないってー」

 

“うん。それはそれで、シロコへのお叱りはまた今度ね。今は、この『退部届』について詳しく聞きたいな”

 

『ピカチュウ』

 

『ヤドキン』

 

「あれ? キンちゃんもそっち側?」

 

いつの間にかパートナーのヤドキングまで先生の側に付いていた。

 

「・・・・そっかー・・・・」

 

“聞かせてくれる?”

 

「・・・・うーん。逃がしてくれそうには・・・・無いよね〜?」

 

“逃げても良いけど、さっきのシロコとルガルガンみたいに、ヤドキングに捕まるよ?”

 

『ヤド』

 

どうやらパートナーの自分にも内緒で『退部届』を出した事に、ヤドキングはご立腹のようである。

 

「・・・・はあ、仕方ないなあ」

 

漸く観念したかのように、ホシノが両手を挙げて降参を示すと、先生の横を抜けながら声を発する。

 

「面と向かってっていうのも何だし・・・・先生、ちょっとその辺一緒に歩かない? キンちゃんにピカチュウも勿論一緒だよ?」

 

先生とピカチュウとヤドキングはホシノの言葉に頷き、一緒に廊下に出る。

 

 

 

 

ーホシノsideー

 

それから少し歩くと、校舎の窓の隙間からか、風に乗って来たからか、砂漠の砂が校舎の中に入っていた。

 

「けほっ、けほっ・・・・うわぁ、ここも砂まみれじゃ〜ん・・・・」

 

ホシノは近くの窓を開けると、ヤドキングに話しかける。

 

「キンちゃ〜ん。内緒にしていたのは謝るから、ちょっといつものやってくれない〜?」

 

『・・・・ヤドキン』

 

ヤドキングは一回溜め息を吐いてから、【ねんりき】を使って、校舎の砂を全て、外へと放り出した。

 

「ありがとうね。いや〜、キンちゃんがいると掃除が楽だね〜。でも、砂嵐が減ってくれれば良いんだけど・・・・」

 

ホシノが苦笑を浮かべながら話を続ける。

 

「うへ~、折角の高校生活が全部砂色だなんて、ちょっとやるせないと思わない?」

 

“・・・・それでも、ホシノはこの学校が好きなんだね”

 

先生の返答が意外だったのか、ホシノは目をパチクリさせる。

 

「・・・・今の話の流れで、本当にそう思う? うへ、やっぱ先生は変な人だね」

 

するとホシノは、妙に大人びた表情を浮かべた。これがホシノの本当の顔であると、先生とピカチュウは直感した。

 

「・・・・砂漠化が進む前、〈アビドス〉はかなり大きくて力のある学校だったって言われているけど・・・・そんな記憶も実感も、おじさんには全く無いんだよね〜。最初から全部滅茶苦茶で、ちゃんとした物なんて何一つない学校だった」

 

何処か寂しそうにホシノが呟く。

 

「おじさんが入学した時の『アビドス本館』は、今はもう砂漠の中に埋もれちゃったし、当時の先輩達だって、もつ皆いなくなった。今いるここは、砂漠化を避けて何回も引っ越した結果に辿り着いた、ただの別館。・・・・ま、でもここに来てノノミちゃんにサイドン、シロコちゃんにルガルガン、アヤネちゃんにビブラーバ、セリカちゃんにウォーグルと出会えたから・・・・」

 

そう言って、ホシノは何処か気恥ずかしそうに人差し指で頬を掻いた。

 

「・・・・うへ、やっぱり好きなのかも知れないな〜」

 

「・・・・・・・・」

 

先生はそんなホシノをジッと見つめる。その視線に降参したのか、ホシノが話し出した。

 

「・・・・先生、正直に話すよ。私は二年前から、変な奴らから『提案』を受けていた」

 

“『提案』?”

「〈カイザーコーポレーション〉・・・・」

 

“っ!? カイザーが!? どんな『提案』を?”

 

『ピカチュウ?』

 

「『提案』と言うか『スカウト』と言うか・・・・アビドスに入学した直後からずっと、何回もね」

 

二年前、つまりホシノがこのアビドス高校に入学したての一年生の頃の事だろう。その頃から、〈カイザーコーポレーション〉はホシノに目をつけていたと言う事なのか。

驚く先生とピカチュウに、ホシノは僅かに顔を険しくしながら更に話し出す。

 

「そう言えば、ついこの間もあったな〜・・・・」

 

“・・・・まさか、あのゲヘナ風紀委員会との戦闘に遅れたのも・・・・?”

 

「そ。こう言われたよ・・・・」

 

 

 

* * *

 

 

【あなたは、決して拒めないであろう『提案』を一つ。『アビドス高校を退学し、私共の『企業』に所属する』・・・・その条件を呑んで頂ければ、今アビドスが背負っている借金の半分近くをこちらで負担しましょう。ーーーーククッ、ククククッ・・・・さあ、答えを聞きましょう。もしイエスならば、こちらにサインを】

 

【・・・・何度も言った筈だよ、断るって】

 

一年生の頃からしつこくスカウトしてくる『そいつ』に、ホシノは心底うんざりしている気持ちを隠そうとせず断言した。

 

【・・・・・・・・】

 

しかし『そいつ』の、その不気味な顔が、まるでニヤついているかのように、ホシノは感じた。

 

 

 

 

* * *

 

 

 

 

「それは誰から見たって破格の条件だった。でも、当時ら私がいなくなったらアビドス高校が崩壊するって思ってたからこそ、ずっと断ってたけど・・・・」

 

そこまで言いながら、ホシノは顔を神妙な色に染まる。

 

「・・・・アイツら、PMCで使える人材を集めてるみたい」

 

“・・・・その人は、一体何者?”

 

「私も、『あいつ』の正体は分からない・・・・ただ、『黒服』って呼んでる」

 

“『黒服』・・・・”

 

「何となくゾッとするような奴で・・・・〈キヴォトス〉広しと言えども、ああ言うタイプの奴は見た事無かったし。怪しい奴だけど、特段問題を起こしたりしてなかった・・・・何なんだろうね。あのカイザーの理事ですら、『黒服』の事を恐れているように見えたけど・・・・」

 

“じゃあ、この『退部届』は・・・・”

 

ホシノの話を聞いて、先生は『退部届』に視線を送る。

 

「・・・・うへ」

 

するとホシノはいつもの笑いをしてから首を小さく前に倒す。

 

「・・・・まあ、一ミリも悩んでなかったって言ったら嘘だし、ちょっとした気の迷いって言うか」

 

ホシノは先生の持っている『退部届』を手に取った。

 

「・・・・うん。もう捨てちゃおっか」

 

そう言って、ゴミ箱に『退部届』を捨てると、いつものフワフワした笑顔を浮かべた。

 

「うへ〜、すっきりした。余計な誤解を招いてごめんね。てだ、先生がミライドンや『R』の事を皆に黙っていたのとおんなじだよ。心配や不安にさせるだけでいい事も何も無さそうだったからさ。でもまあ、可愛い後輩達にいつまでも隠し事をしたままって言うのも良くないし・・・・明日、皆にちゃんと話すよ」

 

ハァ、と小さく溜め息を溢すホシノ。

 

「聞かされた所で困らせちゃうだけだろうけど、隠し事なんて無いに越した事ないだろうし。実際の所、今はあの『提案』を受ける以外、アビドスの借金問題の解決は思いつかないんだけどね・・・・」

 

“・・・・借金の方は、きっと何か方法がある筈だよ”

 

そうーーーー『借金』。

九億円以上と言う五人だけの生徒で返せない、とてもつもない借金がある限り、〈アビドス自治区〉は〈カイザーコーポレーション〉から解き放たれない。

ホシノは自分を人身御供にしようと考えるが、先生は引き止めた。その『黒服』と言う人物が、カイザーの『黒幕』だとするならば、本当に要望通りの事をしてくれるのか怪しい話だ。

 

「・・・・そうだね、『奇跡』でも起きてくれれば良いんだけど・・・・」

 

一瞬黙ったホシノはいつもの笑顔を見せてそう言った。

 

「・・・・『奇跡』、かあ」

 

ホシノは『奇跡』と言う単語に、神妙な声で呟き、ヤドキングも目を伏せた。しかし、ホシノはすぐに話を終えるように声を発する。

 

「・・・・さ〜てと、この話はこれでおしまい。じゃあ、また明日。先生」

 

ホシノはヤドキングと共に背を向けて、先生に向かって手を振って、何処か儚さのある笑顔で言った。

 

「さよなら」

 

そして、そのまま去っていった。

しかしーーーー。

 

“ホシノ!!”

 

先生は思わず大声で呼んで、ホシノの両肩を掴んで自分に向けさせる。

 

「な、なに・・・・?」

 

思わずキョトンとした顔になるホシノだが、先生は構わず続ける。

 

“私が『大人』として、どうにかする!・・・・だから!!”

 

『ピカピカ!』

 

ーーーーポンッ!✕四

 

『カルォ』

 

『リザー!』

 

『カメー!』

 

『ソウフシェ!』

 

ピカチュウとルカリオ達も飛び出し、ホシノに訴えるように鳴いた。

 

 

 

「・・・・・・・・」

 

先生の雰囲気に、ホシノは一瞬呆気に取られるが、すぐにいつもの調子になる。

 

「・・・・うへへ。私、そんなに元気無そうだったかな?」

 

ホシノは苦笑してから、また先生に笑顔を見せる。

 

「うん。ありがとう、先生」

 

そう言って、今度こそホシノは先生と別れた。

 

 

 

 

 

 

先生と別れたホシノは、学校の屋上から夜空の星を見上げていた。

 

「・・・・・・・・」

 

ホシノは懐からスマホロトムに手をかけようとした。が、その手を止める手があった。勿論ーーーーヤドキングである。

 

『ヤド・・・・』

 

ヤドキングが、「それは駄目だ・・・・」と言わんばかりに、フルフルと首を横に振った。

 

「キンちゃん・・・・でも、私達があの妙な『施設』を見た以上、カイザーはどっち道、私達を確実に潰しにかかってくる。だから、これしか方法が思いつかないんだ・・・・」

 

ホシノは、掴まれた手と逆の手で、モンスターボールを掲げると、ヤドキングを入れようとする。

 

『ヤドーーーー』

 

ヤドキングは、何かを話そうとしたが、それ以上言えず、ボールに入っていった。

 

ーーーーカタカタ・・・・! カタカタ・・・・!

 

ヤドキングが入ったボールだけでなく、『もう一人のパートナー』が入ったボールも、今にも飛び出そうとするかのようにボールを揺さぶる。

しかしホシノは、小さく細い鎖で二人の入ったボールを巻き付けて、ボールを開かなくさせた。

 

「・・・・ゴメンね・・・・」

 

そう言って、ホシノはスマホロトムを手に取り、『黒服』へと連絡した。

 

 

 

 

 

 

ーアヤネsideー

 

その日の翌日、先生との朝のトレーニングは昨夜の内に休みにしてもらい、アヤネは今後について皆と話す為、ビブラーバと共に学校の対策委員会の教室に入った。

 

「おはようございます」

 

『ビブラー!』

 

二人が教室に入ると、そこにはまだ誰もいなかった。

 

「あれ、私達が一番乗りかな・・・・?」

 

『ビブ?・・・・ビブラ』

 

首を傾げるアヤネに、ビブラーバは何かを見つけたかのように声を上げると、ホシノの席の机の上に置かれている『手紙』がアヤネの目に入った。

 

「これは・・・・?」

 

その『手紙』を手に取ると、アヤネの目が見開く。

 

「・・・・嘘」

 

そして、アヤネは思わず大声を上げた。

 

「何でっ・・・・どうして!!!!??」

 

机の上には、ホシノの残した退部・退会届、そして皆への『手紙』と、鎖に巻かれた二つのモンスターボールが置かれていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ー???sideー

 

ーーー〈キヴォトス〉から遠く離れた、雲に覆われた山岳の頂上に、そのポケモンは静かに眠っていた。

 

『・・・・・・・・』

 

寝ていたポケモンがソっと目を覚ますと、〈キヴォトス〉のある方向に目を向ける。

 

『ーーーーーーーー!!』

 

そのポケモンは雄叫びをあげると、周りを覆っていた雲が吹き飛び、蒼穹の空が広がった。

 

『!!』

 

そして、そのポケモンは翼をはためかせて大空へと飛び立った。

目指すのは〈キヴォトス〉・・・・否ーーーー〈アビドス〉である。

 

 

 

 

 

ー???sideー

 

『っっ!!』

 

そしてここは、アビドスからかなり離れたとある自然豊かな場所、〈百鬼夜行〉の『森林エリア』。

傷を癒やす為に療養していた『ポケモン達』が、ゆっくりと起き上がると、その場所、『アビドス砂漠』へと向かった。




次回、ホシノを失った対策委員会はどうなってしまうのか!?
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