ホシノが残した『手紙』には、こう記されていた。
『アビドス対策委員会の皆へ。
まずは、こうやって手紙でお別れの挨拶をする事、許して欲しい。おじさんにはこういう、古いやり方が性に合っててさ。皆には、ずっと話してなかった事があって。実は私、昔からずっとスカウトを受けてたんだ。カイザーPMCの傭兵として働く、その代わりにアビドスが背負っている借金の大半を肩代わりする・・・・そう言う話でね。
・・・・うへ、中々良い条件だと思わない? おじさんこう見えて、実は結構能力を買われててさ〜。
借金の事は、私がどうにかする。すぐに全部を解決はできないけど、先ずはこれでそれなりに負担が減ると思う。ブラックマーケットでは急に生意気な事を言っちゃったけど、あの言葉を私が守れなくてゴメンね。それから、キンちゃんと、私が一年生の頃の『パートナー』は残しておくね。あいつらの傭兵の道具として、二人が使われるなんて嫌だから・・・・』
ーホシノsideー
「・・・・これで良い?」
「・・・・はい、確かに」
ホシノは『黒服』の提示した契約書に、サインをすると、黒服はコクリと頷く。
「契約書にサインも頂いた事ですし・・・・これで、ホシノさんがお持ちの生徒としての全権利は、私の元に移譲されました」
すると黒服は笑顔を浮かべているような顔で言う。
「これで正式に、アビドス高校が背負っている借金の大半は、こちらで負担する事にしましょう」
ー先生sideー
『これで対策委員会も、少しは楽になる筈。アビドス高校からも、キヴォトスからも離れる事になったけど、私の事は気にしないで。勝手な事をしてごめんね。でもこれは全部、私が責任を取るべき事。私は、アビドスの最後の生徒会だから。
だから、ここでお別れ。じゃあね』
そして先生は先生宛の手紙に目を向ける。
『先生へ。
実は私、大人が嫌いだった。あんまり信じてなかった。シロコちゃんが先生をおんぶして来たあの時だって、「なんかダメな大人が来たな」って思ったくらいだし?
でも、先生みたいな大人と最後に出会えて、私は・・・・いや、照れ臭い言葉はもう良いよね。
先生。最後に我が儘を言って悪いんだけど、お願い。シロコちゃんは良い子だけど、横で誰かが支えてないと、どうなっちゃうか分からない子で。ルガルガンと一緒に悪い道に逸れちゃったりしないように、支えて上げて欲しい。先生なら、きっと大丈夫だと思うから』
ーホシノsideー
「・・・・・・・・」
「さあ、乗れ」
「・・・・何処に行くの?」
「〈アビドス砂漠〉だ」
ホシノは建物から出ると、カイザーPMCの兵士の乗ってきた護送車に乗り込む。
ー先生sideー
『シロコちゃん、ノノミちゃん、セリカちゃん、アヤネちゃん。ルガルガン、サイドン、ウォーグル、ビブラーバ。お願い、私達の学校を守ってほしい。キンちゃん達は残しておくから、面倒をお願い。きっと力になれるから。砂だらけのこんな場所だけど・・・・私に残された、唯一意味のある場所だから。それから、もしこの先何処かで万が一、敵として相対する事になったら・・・・その時は、私のヘイローを『壊して。
よろしくね』
手紙を読み終えると、セリカが学校中に響く程の大声を張り上げた。
「ホシノ先輩っっっ!!!!」
セリカ怒り収まらず叫ぶ。ノノミは悲しそうに手紙を見つめる。
「なんなの!? あれだけ偉そうに話しておいて!! 切羽詰まったら何でもしちゃうって、自分で分かってた癖にっ!! こんなの、受け入れられる訳ないじゃない!!」
『ウォー!!』
「・・・・助けないと。私達が行く。対策委員会に迷惑がかかるし、私とルガルガンで・・・・」
『ルガル!』
シロコが銃を手に取り、ルガルガンと共に教室を出ようとするが、アヤネとビブラーバが止める。
「落ち着いて下さい、今は先ず足並みを揃えないと・・・・!」
『ビブ!』
リーダーのホシノがいなくなり、必死に冷静にいようとするアヤネだが次の瞬間ーーーー。
ーーーードカアァァァァァン!!!
「うわあっ!?」
激しい砲撃音と揺れで、セリカがよろめくが、ウォーグルが支えた。
シロコは爆発音がした方向に視線を向ける。
「爆発音・・・・!?」
「近いです、場所は・・・・!?」
アヤネが索敵を始めると、
「・・・・・・・・」
その目が小さく見開き、声を張り上げる。
「・・・・そ、そんな!?」
そこはーーーー〈アビドス自治区〉のど真ん中だったからだ。
“・・・・・・・・”
『ピカ・・・・』
先生とピカチュウの目が、静かに鋭くなっていく。
ー???sideー
アビドス自治区の真ん中で、カイザーPMCが市街地で暴れていた。
「行け、行け!」
「進め!」
「うわあぁぁぁっ!?」
「早くっ、早く逃げろっ!!」
カイザーPMC兵が銃を撃ち、戦車や攻撃ヘリ、ドンファン等を使って進軍し、数少ない民間人達の悲鳴も聞こえてくる。
土地や建物、そこに住む人にポケモン、何もかも無差別に蹂躙していっているようだった。
「・・・・この自治区にはもう、退去命令が下った」
「ふふふっ、ふふふふふふふ・・・・」
部隊長らしき兵の後ろから、カイザーPMC理事が含み笑いを上げてやって来る。
全てが、自分の思い通りに言っているのが、愉快でたまらないと言いたげに。
「遂に、条件は全てクリアした。最後の生徒会がアビドスを退学・・・・これで実質的に、アビドス高等学校は消えた!! 後は我ら〈カイザーコーポレーション〉が、〈アビドス〉を吸収合併するのみ!」
そして、兵士達に向けて命令した。
「ーーーーさあ、アビドス高等学校を占拠せよ!」
ー先生sideー
「こちらに向かって、数百近いPMCの兵士とポケモンが進行中! 同時に、市街地に無差別攻撃をしています!」
「カイザーPMC!? 何でこのタイミングで・・・・!?」
「お、応戦しないとです!! 何はともあれ、アビドスが攻撃されているのを見過ごす訳には・・・・!」
「考えてる時間が惜しい、すぐに行こう!」
「で、ですが、私達で撃退するにはあまりにも数が・・・・! と、兎に角先ずは、市民の皆さんを避難させましょう!」
武器を取って行こうとする中、アヤネは思考を巡らせる。
「(こんな大規模な攻撃・・・・一体どうして、急に・・・・)」
と、そう考えている内に、教室の外から、ドタドタと騒がしく歩いてくる足音が近づいてきた。
“っ! ピカチュウ!!”
『ピィィカァァッ!!』
ーーーーバチィィィィィィ!!
「ぐあぁぁぁっ!!」
PMC兵士が教室に入ってくると、ピカチュウが【かみなりパンチ】で叩きのめした。
「斥候が、もうこんな所にまで・・・・」
「アビドス高校周辺に、カイザーPMCの兵とポケモン達を多数確認! 既に校内にもかなり侵入されています!」
「取り敢えず、学校に侵入した奴からやっつけよう! アヤネちゃん、お願い!」
「はい! 先生の安全を確保しつつ、学校に侵入ひた敵を撃退します!」
“アヤネ。今回は皆と一緒が良い。ビブラーバとだけ残るのは危険だ”
「はい! 校内の安全を確保した後は、市民の皆さんの避難を!」
そして、先生と対策委員会は教室を飛び出した。その際、先生がヤドキングと『ホシノのもう一人のパートナー』の入った、鎖に巻かれたモンスターボールを手に取って、懐に入れた。
◇
校舎にいたカイザーPMC兵士達とドンファン達を蹴散らしながら、漸く市街地に到着した。
“ピカチュウ! 【アイアンテール】! ルカリオ! 【ボーンラッシュ】! リザード! 【かえんほうしゃ】! カメール! 【アクアテール】! フシギソウ! 【リーフストーム】!”
「ルガルガン! 【インファイト】!」
「ウォーグル! 【エアスラッシュ】!」
「サイドン! 【ドリルライナー】!」
「ビブラーバ! 【りゅうのいぶき】!」
対策委員会のポケモンが、ドンファンと戦車と攻撃ヘリを撃破していき、カイザーPMC兵を倒していく。
「こんにゃろっ!!!」
「「・・・・・・・・」」
色々な怒りをぶつけるように、アビドス対策委員会が奮戦する。すると、アヤネが声を上げた。
「何者かに接近を確認・・・・カイザーの理事です!」
アヤネの言葉が終わると同時に、カイザーPMC理事現れた。
「ふむ。学校まで出向こうと思ったのだが、お出迎えとは感心だ」
まるで、自分はこのアビドスの王であるかのような傲慢で横柄な態度で、カイザーPMC理事は、ゆっくりと近づき、話しかけてくる。義体に備えられた無機質なセンサー目が、こちらをまるで虫けらかドブネズミでも見るかのように見えたのは、気の所為等ではない。
“(アロナ。お願い)”
《了解しました。先生》
先生は、こっそりと『シッテムの箱』に触れ、アロナに合図を送る。
「・・・・これは何の真似ですか? 企業が街を攻撃するなんて・・・・いくらあなた達が土地の所有者だったとしても、そんな権利は無い筈です!」
「それに、学校はまだ私たちアビドスのものです! 進攻は明白な不法行為! 〈連邦生徒会〉に通報しますよ!」
「『スカウト』なんて、最初から嘘だったった事?・・・・いや、それよりもホシノ先輩はどこ?」
「この悪党め・・・・ホシノ先輩を返して!」
『〜〜〜〜!!!』
ノノミとアヤネが、シロコとセリカが次々と理事を責め立て、サイドンとビブラーバ、ルガルガンとウォーグルが今にも襲い掛かりそうに威嚇するが、カイザーPMC理事はどこ吹く風な態度で、それを聞き流すと・・・・。
「・・・・くくくっ、何を言ってるのやら」
嘲笑った。 彼女達の怒りの言葉を聞いて、取るに足らないくだらない発言を聞いているかのように笑ってるだけであった。
ホシノが取引をしているのは『黒服』と言う人物だ。 つまり、カイザーPMC理事はホシノの事はまだ知らないのだろう。
ホシノがいなくなってすぐに、先生はセリカの時のようにセントラルネットワークにアクセスして、ホシノの行方を追うように、アロナに指示を出したが、『アビドス砂漠』の所で反応が消えた。
しかしそんなカイザーPMC理事は、対策委員会メンバーの怒りを無視して、嘲りに満ちた声を発する。
「〈連邦生徒会〉に通報だと?面白いことを言うじゃないか、今すぐにでもやってみたらどうだ?」
等と言ってその手を大きく広げる。
まるで、自分が世界の頂点だとでも言わんばかりの傲慢さと蒙昧さ。
「だが、君達はこの状況について、今まで何度も何度も〈連邦生徒会〉に嘆願してきたのだろう? くくっ・・・・それで? 一度でも動いてくれたことがあったのか?」
『・・・・・・・・・・・・』
誰からの返事もない事に満足したように、カイザーPMC理事は言葉を続ける。
「無かったはずだ。何せ〈連邦生徒会〉は、今動けないからな。いや、〈連邦生徒会共〉でなくてもいい。今までどこか他の学園が、一度でも君達のことを助けてくれたことはあったのか?」
アビドスは今まで誰にも救われてこなかったと先生達も聞いていた。
見て見ぬふりをされ、気づかれず、昔所属していた生徒にすら見放された。 それが、今のアビドスだ。
カイザーPMC理事は、心底見下し、嘲笑っているような声で対策委員会の耳に毒を入れていく。
「・・・・そろそろ分かっただろう? 誰一人として、君たちに手を差し伸べる者はいない。そして、アビドスの最後の生徒会メンバー、副委員長の小鳥遊ホシノが退学した。アビドスの生徒会は、もう存在しないも同然。君たちはもう、何者でもない」
『・・・・!!』
「『公的な部活』も、『委員会』も、『生徒会』も、『自治区』すらも無いアビドスは、学園都市の学校として自立・存続が不可能だと判断・・・・」
もう〈アビドス〉は終わりなのだと、断言するように言った。
「ーーーー仕方ないな、この自治区の『主人』である我が〈カイザーコーポレーション〉が、あの学校を引き受けるとしよう。そうだな、新しい学校の名前は『カイザー職業訓練学校』にでもしようか」
この状況が愉快でたまらないのだろ、それが声色でハッキリと分かる。
最早何もかもが自分の思い通り、否、その奥には、更にドス黒い企みがあるように、先生とルカリオ。そして先生の懐にある『友達』も感じていた。
「!!」
「え・・・・? な、何を言ってるの・・・・!? 生徒会が無くても、アビドスには対策委員会がある! 私達がまだいるのに、そんな言い分が通じる筈ないでしょ!」
「それは・・・・」
「・・・・アヤネちゃん?」
確かにこの侵略行為は紛れもなく違法そのものである。犯罪行為になるだろう。
しかしーーーー。
「“対策委員会は、公式に許可を受けている委員会じゃない”・・・・」
「・・・・えっ?」
「対策委員会が出来た時には、もう〈アビドス〉には生徒会が無かったから・・・・」
「え、えっ・・・・!?」
どうやらアヤネはこの対策委員会の秘密に気づいていたようだ。そしてホシノは、他のメンバーに伝えていなかったようだ。
「そうだ。所詮『非公認の委員会』、正式な書類の承認も下りていない。つまり、君達の存在を示すものは何も無いのだよ」
それは『アビドス対策委員会』には、〈アビドス〉を治める役目を担っていないと言う事だ。
「だが喜べ。アビドス高等学校が無くなれば、君達はもうあの借金地獄から解放されるのだからな」
元凶がいけしゃあしゃあと話す。
対策委員会が、学校が、無くなってしまったら、ホシノが何の為に身を差し出したのか。それでも、ホシノは借金地獄を歩き、シロコ達もついて行った。
アビドス高等学校に認可された正式な委員会が無くなり、空っぽの浮いた土地を合法的にカイザーのものにできる。
それが奴の描いた計画であろう。しかし、得意満面に話しているカイザーPMC理事は気付いていない。
ーーーー堪忍袋の尾が切れる寸前になっている大人とポケモン達がいると言う事を・・・・。
ーホシノsideー
「な、何で・・・・何をしてる!?」
暗がりの建物の中、ホシノは映像で見せられたアビドスの現状を見て『黒服』に詰め寄ろうとしたが、『影の中から現れた何か』に身体を拘束されて動けなくなってしまった。
「どうして、どうして〈アビドス〉を、街を攻撃するんだ!!」
必死に足掻くホシノだが、拘束されたまま宙を浮きながら、目の前の『黒服』を睨み付けた。
「どうしてと言われましても・・・・」
『黒服』はホシノの睨みを何処吹く風と言わんばかりの態度であった。
「何もおかしい事などありませんよ、小鳥遊ホシノさん。あの借金の大半はキチンと返済させて頂きますとも。それかが、私達の間に交わされた『約束』てすから」
すると、『黒服』はやれやれと肩を落としながら話す。
「それはそうとして・・・・あなたが退学してしまい、残念ながらアビドス高等学校にはこれ以上、公的な生徒会メンバーが残っていないようですね。それでは学校は成り立たないでしょう」
「・・・・!!」
そこでホシノは気付いた。自分は嵌められたと。
「『私達』が何故、あんなカイザーコーポレーション‹くだらない企業›の、詐欺紛いの行為を支援したのだと思いますか?」
『黒服』にとっては、〈カイザーコーポレーション〉など取るに足らないと、遠回しに言っていた。
「自治区の土地を奪った所で、あのような無能な男が統治したとしても、この〈キヴォトス〉に幾らでもある、あのブラックマーケットのような無法地帯が一つ増えるだけ。『あの薬品』を使って何やら企ててるようですが、それも、分不相応なくだらない野心でしょう。しかし・・・・もし、企業を主体とした新たな学園が誕生したら・・・・?」
『黒服』は淡々と話し出した。
「〈アビドス〉に現れるその『新しい存在』は、果たしてこの〈キヴォトス〉にどんな影響を及ぼすのでしょうか? そんな存在を、『創造主』とも呼ばれている『アレ』は認めるのでしょうか?」
「・・・・!?」
「・・・・しかし、これは単なる『余興』に過ぎません。小鳥遊ホシノさん、私達の『目的』は最初からあなたでした。あなたに『契約書』へサインをして貰う事、あなたに関する全ての『権利』を頂く事。あなたを手にして、『あの存在達』を誘き出す事」
「っ!? まさか、『あの子達』を・・・・!?」
ホシノの脳裏に過ったのは、『先輩の手持ち』と、『自分の手持ち』だったポケモン達の事であった。
「あなたは知らないようなので教えておきましょう。『彼ら』は〈アビドス〉から離れてはいません。ずっとーーーーアビドス砂漠にいたのです」
「・・・・え?」
「不自然と思いませんでしたか? ドラピオンにしても、バンギラスにしても、ポケモンの中でも獰猛な個体の群れが、何故小さな縄張りで収まり、他の縄張りやアビドス自治区に侵攻しなかったのか?」
「・・・・もしかして・・・・」
「そう。『彼ら』がずっと、“二つの群れを今の縄張りに留めさせていたから”、なんですよ」
「・・・・!」
「さらに面白い事を教えてあげましょう。あなた方が『ミライドン』と呼称しているあのポケモンや、巨大なドンファンのようなポケモンは、“遙か古代と未来から呼び寄せたのです”」
「“遙か古代と未来から呼び寄せた”・・・・まさか!?」
「ええそうです。あなたの大事な人の『パートナー』だったーーーー『あのポケモン』を使ったのです。いやはや、『私共の企業』でも見つけるのに一年もかかり、大変苦労しましたよ」
『黒服』に教えられた真実に、ホシノは目を見開いていた。そして、『黒服』はやれやれと肩をすくめながら話を続ける。
「何処で嗅ぎつけたのか『彼ら』が『あれ』を助けようとしたのか、我々に向かってきましてね。撃破するには、相応のリスクがありますからね。その為に『R』を提供する利害関係が一致したので、〈カイザーコーポレーション〉に協力していた。ただそれだけの事です」
「・・・・お前は、カイザーの仲間じゃないのか・・・・!?」
ホシノの言葉に、『黒服』は心外と言わんばかりに声を発する。
「何か勘違いしていたようですね・・・・誤解を招いたのなら謝罪しましょう。しかし私は最初から、カイザーの所属ではありません。『私共の企業』がカイザーコーポレーションだとは、一言も言っていない筈です」
そう言って、『黒服』はホシノをジッと見据える。
「あなたのような『キヴォトス最高の神秘』を手に入れたと言うのに、まさか、勿体無い形で消耗させるなんて事は致しません」
ホシノの顔にズイッと近づき、『黒服』は言った。
「あなたを『実験体』として研究し、分析し、理解する。この興味深い『実験』こそが、『私達』が観測を渇望していたもの。ーーーーつまりはそう言う事です」
そうして連れて行かれたホシノは、ドーム状の部屋に連れて行かれ、その中心部の台座の上に拘束されて座らされた。
「・・・・・・・・」
抵抗する気力すらも挫かれ、ホシノは項垂れる。
「・・・・そっか」
そして、ホシノは理解してしまった。
「私は・・・・」
学校も、後輩達も、『パートナー達』ですら捨ててまでここに来た自分はーーーー。
「・・・・また、大人に騙されたんだ」
と。
「・・・・・・・・ごめん、皆、私のせいで、全部・・・・」
最早虚空に、謝意の言葉を放つしかなかった。
「シロコちゃん、ルガルガン、ノノミちゃん、サイドン、セリカちゃん、ウォーグル、アヤネちゃん、ビブラーば・・・・キンちゃん、『ーーーーー』・・・・『ユメ先輩』・・・・皆、ごめん・・・・」
後輩達に、ポケモン達に、『大切な人』に・・・・。
「・・・・・・・・私は・・・・」
そんなホシノの脳裏に、ある人の姿が過った。
「先生・・・・」
ー先生sideー
「・・・・・・・・」
「そんな、そんな事になったら、今までの私達の努力が・・・・」
「・・・・ほう、まさか本気だったのか? 本気で何百年もかけて、借金を返済するつもりだったと?」
カイザーPMC理事は、目の前のアヤネやノノミ達を嘲笑い続ける。
・・・・先生はこっそりと、ポケットの中の端末から『ある生徒達』に合図を送る。
《(ーーーー先生。準備完了です)》
いつも明るいアロナからは想像できない程に声が静かで冷たい。理由は分かりきっている。この男の所業には、アロナですら腸が煮えくり返っているのだろう。
『・・・・・・・・・・・・・・・・』
静かに状況を見守っているピカチュウ達からも、今にも爆発しそうな気持ちを落ち着かせようと、必死に堪えているのが分かる。
そして、そんな先生達の様子に毛ほども感じず、さらに対策委員会を侮辱を続ける。
「これは驚きだなぁ。てっきり、最後に諦める時『でも私達は頑張ったから』とでも言って、自分を慰める言い訳をするために、ほどほどに最低限は頑張っているのだと思っていたが・・・・」
「・・・・っ!!」
『大切な場所』を必死に守っていた彼女達の想いを、カイザーPMC理事は、その汚い足で踏み躙るのをやめない。
「一体君達は、どうしてあんなに努力をしていたんだ? 何の為に?」
「あんた、それ以上言ったら・・・・!」
『ウォォォォ・・・・!!』
「撃つよ」
『ガルルルル・・・・!!』
もう我慢の限界と言わんばかりに、シロコとルガルガン、セリカとウォーグルが襲いかかりそうになる。
「で、ですが・・・・」
「・・・・今ここで戦って、何かが変わるんでしょうか?」
「アヤネちゃん!?」
消極的なノノミと、アヤネの言葉がシロコ達を止めた。
「今も、凄い数の兵力がこちらに向かって来ています・・・・。例え、戦って勝てたとしても・・・・その後はどうすれば・・・・? 学校が無くなったら、もう戦う意味がありません。学校をどうにか取り戻せたとしても、私達にはまだ、大きな借金が残ったまま・・・・」
「・・・・アヤネちゃん」
「アヤネ・・・・」
ホシノもいなくなり、借金はまだまだあり、大兵力が迫りくる中、アヤネの心が折れてしまっていた。
「取引された土地だって戻ってきません。何より、ホシノ先輩もいない、生徒会も無い、こんな状態で・・・・私達みたいな『非公認の委員会』なんかに、これ以上、一体何が・・・・」
アヤネが、両膝を地面について項垂れる。
「どうして、どうして私達だけ、こんな・・・・」
『ビブ・・・・』
ビブラーバが悲しそうな顔でアヤネを見上げる。
「ホシノ先輩・・・・私達、どうすれば・・・・」
「アヤネちゃん・・・・」
「「・・・・・・・・」」
アヤネの姿に、他のメンバーも項垂れる。
“ーーーーちょっと良いかな?”
そして先生が対策委員会の前に出て、カイザーPMC理事と再び対峙した。
「先生?」
「おやおやシャーレの先生。まだこんな所にいたのか?」
目の前の男は、最早自分は勝者、このアビドスの王様だと思い込んでいる。だからこそ先生は、このチャンスを逃さない。
ーーーー勝ち誇っている人間は、自分の優秀性をひけらかしたくて堪らないからだ。
“ーーーーカイザー理事。あなたは、『R』の事を知っているな?”
「・・・・・・・・」
カイザーPMC理事の目が、心底愉快と言いたげに笑っているように見えた。
“私がこの〈アビドス自治区〉に来た理由は、最近〈キヴォトス〉全体で問題視されている、ポケモンを凶暴化させる薬品。『R』の調査も兼ねていたんだ。そして、お前の系列の下部会社の『薬局』、このアビドスとゲヘナの中間地点にあるその店の地下からーーーー大量の『R』が見つかった。ゲヘナ風紀委員会はこれがカイザーコーポレーションが関与している事も分かっている。これはどういう事なんだ?”
「クックックッ・・・・そこまで分かっているか。ならば教えてあげようじゃないか。私はな。こんな〈アビドス自治区〉などと言う〈キヴォトス〉の辺境のような土地だけで満足したりはしないのだよ」
カイザーPMC理事は自慢気に言葉を並べる。
「ゲヘナ風紀委員会が押収したのは、ほんの一部に過ぎん。あの薬局と同じ、我が社の系列の薬局のような会社にはまだ、“大量の『R』が保存されているのだ”!」
「っ!? まだ『R』があるの?」
「その『R』を使って何するのよ!? 大規模なテロでも起こそうって言うの!?」
「ハハハハハハハハハハハハハハハハっ!!」
シロコとセリカが言うと、カイザーPMCは愉快と言いたげに高笑いを上げた。
「察しが良いじゃないか。その通り! 既に〈トリニティ〉や〈ミレニアム〉・・・・他の自治区にも『R』を大量に輸入させた会社がある! ゲヘナ風紀委員会に奪われたので予定は狂ったが、私の命令一つで! 今から各自地区に『R』をばら撒くのだよ!!」
『っっ!!??』
「私はな、以前から気に食わなかった。お前達のような『子供』が、まるで各自地区の代表だと、そこに住む人達の生活を保障しているのは自分達だと言わんばかりの態度がとても気に食わなかった。そしてなによりもーーーーポケモンと呼ばれる『化物達』の事が気に食わなかった!!」
“・・・・ポケモンが、『化物』?”
先生が聞き返すと、カイザーPMC理事は、これまで押し込めていた感情を爆発させるように、先生や対策委員会のポケモン達を指差しながら声高らかに叫ぶ。
「ああそうだ! 生物学からも、物理法則からも大きく外れた生態と能力! たった一匹だけでも我が兵力を上回る戦闘力を持つ個体がいれば! 中には人間よりも優れた知能を持った個体までいる! そんな『化物共』が! 私の命令を聞かずに自由気ままに生きているのが実に気に入らない!! そして、そんな『化物共』を、『友達』だの、『仲間』だの、『パートナー』だの、『家族』だのと曰わる無知蒙昧な愚かな子供‹ガキ›共にも苛ついていたっ!!」
要は、「自分の思い通りにならない生き物がいるのが気に入らない」と言う、何とも極めて身勝手で傲慢で幼稚な考え方なのだろうか。
「だから! 『R』を使って、〈キヴォトス〉全域にいる『化物共』を暴走させる! そうなれば! 各地は大混乱となり! 愚か者共の目を覚まさせるだろう! 『ポケモンと呼んでいるアレらは化物である』、とな! そしてその後すぐに『『R』はゲヘナから輸出された』と、あのトリニティの『世間知らずの馬鹿なお嬢様達』に吹き込めば、奴らはゲヘナの『単細胞の猿しかいない動物園』を糾弾し、間違いなく戦争が起こる! ミレニアムの『計算しか能がない頭でっかちのマヌケ共』は、不測な事態の連続に対処できず混乱するだろう! 後は〈サンクトゥムタワー〉にふんぞり返っている! あの連邦生徒会の『クソ生意気な小娘共』を打ち倒し! 我々が!・・・・私が! この〈キヴォトス〉の『王』として君臨するのだ!!!」
『・・・・・・・・・・・・』
荒唐無稽な計画に、対策委員会は唖然となる。
しかし、先生は話を続ける。
“お前の所有する戦力だけで、〈サンクトゥムタワー〉を落とせるとでも? 連邦生徒会の皆だってそんなに弱くないぞ?”
「クックックックッ・・・・ご心配なく。連邦生徒会と言えども、“データのない未知の『化物共』を相手にすれば戦い方が分からず呆気なく敗れるだろう”」
“まさか・・・・・”
先生は懐から、ミライドンの入ったモンスターボールを出した。それを見て、カイザーPMC理事はニヤリと笑みを浮かべた。
「そうだ。“現代に存在しない化物共”! 貴様ら風に言うとーーーー『パラドックスポケモン』がいるのだ!!」
『『パラドックスポケモン』・・・・?』
聞いた事のない名称に、対策委員会は首を傾げた。
「貴様の所有する『ミライドン』と呼ばれるのはコード名『Fー00』。前回遭遇したのは『Aー01』と呼ばれる、未来と古代のポケモン達だ。因みにコード名のアルファベットは、未来‹Future›のFと古代‹Ancient›のAから取っている」
“『未来』と『古代』・・・・まさか、ミライドンやあの巨大なドンファンのようなポケモンは!?”
「その通り! モトトカゲの遙か未来の姿であり! ドンファンの遥か古代の姿なのだ!」
カイザーPMC理事の言葉に、情報過多になりそうになる対策委員会。
「えっ? えっ? アイツ一体何言ってんの? 未来や古代からポケモンを連れてきた??」
「もしそれが本当なら、学校に置いてきた機械のドンファンは、まさかミライドンと同じくドンファンの未来の姿、なんでしょうか?」
「ん。多分そうだと思う」
「でも・・・・どうやって古代や未来からポケモンを・・・・?」
一応話は聞いていたアヤネがそう呟くと、カイザーPMCにボソリと聞くと、カイザーPMC理事は、ふ〜っと落ち着くように息を吐いた。
「そこまで話してやる義理はないな。さて、これで終わりとしよう。もう君達には、何もできないのだからね」
『・・・・・・・・・・・・』
対策委員会は銃を構えたり、ルガルガン達も構えようとするが、アヤネだけは項垂れているだけだった。
「アヤネちゃん・・・・」
「・・・・・・・・」
もう何をしても無駄なのだと、アヤネの心が折れてしまいそうになった。
が、その時ーーーー。
『〜〜〜〜!! ビブラァァァァー!!!(バササササササササササ!!)』
「っ! ビブラーバ・・・・?」
ビブラーバが大声と翅を鳴らしながら、アヤネの前に立つと、カイザーPMC理事に向けて、激しく翅を鳴らした。
『ビブラァァァァァァァァー!!(バサササササササササササササササササササ!!!)』
まるでそれは、威嚇しているような翅の音色だった。
「・・・・ふん。所詮は『化物』。自分達の現状を理解できず、翅を鳴らして威嚇する事しかできないか・・・・愚かにして哀れだなぁ?」
またも嘲りに満ちた笑みを浮かべるカイザーPMC理事。しかし、先生はそれを否定するように口を開く。
“お前ごときには死んでも分からないだろうな。ビブラーバの音色に込められた想いを・・・・”
「・・・・何だと?」
聞き返すカイザーPMC理事などどうでも良いて言わんばかりに、先生はアヤネに向かって声を発する。
“ーーーーアヤネ!”
「先生・・・・」
“君なら分かる筈だ! ビブラーバの音色に込められた想いを! ビブラーバの気持ちを!!”
ーアヤネsideー
「・・・・・・・・・・・・」
『ビブラァァァァァァァァーッ!!!』
アヤネはビブラーバの翅の音色を聴く。
ビブラーバは翅を擦って超音波を発して攻撃もするが、その翅の音色には、威嚇や求愛、敵ではないと言う音波を発する事ができるが、今ビブラーバが発している音波はそのいずれでもない。
一年以上のパートナーのアヤネは、その音色から、ビブラーバの『想い』が発せられているように感じた。
ーーーー負けるなよ! 諦めるなよ! 一緒に頑張ろうよ!!
と言う、挫けそうになっているアヤネを、必死に鼓舞するかのように奏でていた。
「ビブラーバ・・・・でも、私はどうしたら・・・・」
『ーーーー!! ビブラァァァァ!!』
俯くアヤネに向かってビブラーバが、喉が引き千切れんばかりの声で吠え、その時に、ビブラーバの瞳から一筋の涙が零れた。
その瞬間・・・・。
ーーーーピカァァァァァァァァ・・・・!
「!?」
『っっ!?』
“っ”
「何っ!?」
ビブラーバの身体が突然発光し、その光にアヤネが顔を上げて見つめると、ビブラーバの身体がメキメキ、と音を立てて大きくなっていく。
昆虫のような体躯が変化し、首と尻尾がより大きく長くなり、手足が動物、否、竜のようになり、翅は一体となったが、その成長した体躯よりも大きく、長くなった頭には、まるでゴーグルのような透明なカバーが、赤くなった目を保護した。まるで昆虫と竜が融合したようなその姿はーーーー。
「・・・・フライゴン・・・・?」
『フラァァァァァァァァ!!』
ーーーー♪〜♪〜♪〜♪〜♪〜♪〜♪〜♪〜♪
ビブラーバの進化系『せいれいポケモン・フライゴン』となり、その一体となった翅から発せられる美しい音色が辺りに響き渡る。
と、次の瞬間ーーーー。
ーーーードカアアアアアァァァァァンン!!
フライゴンが翅の音楽を終えるのとほぼ同時に、辺りから爆発音が響いた。
ビブラーバが進化し、フライゴンへとなった! そして次回、カイザーの理事に近づいてくるものが・・・・!