ポケモンアーカイブ   作:BREAKERZ

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脱出と絶望とーーーー大切な場所

ー先生sideー

 

〈アビドス〉のホシノ、〈ゲヘナ〉のヒナ、そして『ゲーム開発部』の娘達と同じくらいに小柄な体型。紅玉‹ルビー›のような赤い瞳と赤い髪の短髪だが、ホシノのように大きなアホ毛がピョコンの伸びており、顔つきは可愛らしいが険しく歪められ、高圧的な雰囲気を全身に纏い、更にオーソドックスなメイド服の胸元のリボンを解き、上のボタンを外して開けて、そのメイド服の上から、レックウザが刺繍されたスカジャンを着た奇抜な格好をし、その手に『SMG・ツイン・ドラゴン』を携えた彼女こそ、〈ミレニアム〉最強のトレーナーである三年生の『美甘ネル』。

そしてその後ろに控えるのは、ネルの身体よりも大きく、身体の面積が広いポケモンであった。

全体的にむっくりとなっており身長と、長く真っ黒で先端が赤くなった2本の尻尾を伸ばし、眼も丸く赤く、規則的な縞模様と電極型の触角をし、歯は『イー』という大変並びがよろしい歯をむき出しにした表情が特徴的で、猿のような顔、狸のような寸胴な体、虎柄模様、蛇の様な尻尾をした『らいでんポケモン・エレキブル』である。コチラも蝶ネクタイを着けていた。

後から聞いたが、美甘ネルは〈ミレニアム〉の生徒会長から『特別に許可』を得ており、“手持ちのポケモンを3匹所持している”との事だ。

 

「ふーん、もう滅茶苦茶だな」

 

『エレブル』

 

「(ね、ね、『ネル先輩』とエレキブルだぁ!!)」

 

『(プララァ!)』

 

「(な、なんで!? どうしてあの人達がここに!)」

 

『(マイナァ!)』

 

机の下に隠れたモモイ達が慌てふためくがそれも仕方ない。『個人的な用事』で〈ミレニアム〉の外に行っていると思っていた『ミレニアム最強』が現れたのだから当然と言える美甘ネルが現れたのだから。

 

「んん・・・・?」

 

話し声が聞こえたのか、美甘ネルは訝しそうに辺りを見回していた。

 

「何か、声が聞こえたような気が・・・・」

 

「(!?)」

 

「(ひいぃ・・・・!)」

 

『『(ガタガタ・・・・)』』

 

「(・・・・・・・・この人、何かが違います。『恐怖』・・・・初めての『感情』・・・・。今この状況で、戦闘が発生した場合の勝率・・・・先生のピカチュウとルカリオが奇襲を仕掛けても、僅か7%未満・・・・!)」

 

『(デデン・・・・!)』

 

“(・・・・ピカチュウ、ルカリオ)”

 

『『(コクン)』』

 

才羽姉妹はプラスルとマイナンを抱いてガタガタと震え、アリスは美甘ネルから発せられる気配から『恐怖』と言う感情を覚えて戦慄し、絶望感な勝率を検出すると、デデンネも怯えている。先生はピカチュウとルカリオに即座に奇襲できるように指示し、ピカチュウとルカリオも身構えた。

とか言っている内に、美甘ネルが机の方に向かって歩いていく。

 

「ふーん・・・・確かに人やポケモンの気配が・・・・机の下か? エレキブル、お前は棚の方を見ておけ」

 

『エレキブル』

 

エレキブルは頷き、アリスと先生が隠れた棚の方に歩いていく。

 

「(ど、どうしよう・・・・!)」

 

『(プラプラァ・・・・)』

 

「(今度こそ終わり・・・・!?)」

 

『(マァイ〜・・・・)』

 

「(先生、どうしましょう・・・・!)」

 

『(デデン・・・・!?)』

 

“(ピカチュウはネルに向かって【かげぶんしん】で撹乱。ルカリオはエレキブルに【ボーンラッシュ】で奇襲)”

 

『『(コクン)』』

 

ピカチュウは美甘ネルを見据え足に力を込め、ルカリオがエレキブルを見据えて【ボーンラッシュ】を構える。

 

「ん〜?」

 

『ブル・・・・』

 

美甘ネルが机の下を覗き込もうとし、エレキブルが棚まで後二〜三歩の所になったその瞬間ーーーー。

 

 

 

「あ、あの!」

 

 

 

突然保管庫に、美甘ネルとエレキブルに向かって声が響いた。

 

「あん?」

 

『エレキブル?』

 

2人が声の主に顔を向けた。

 

“(この声は・・・・)”

 

「(ゆ、ユズちゃん・・・・!?)」

 

そしてその声の主に、先生と才羽姉妹達は誰なのか分かった。

唯一この作戦で後方に回っていた『ゲーム開発部』のメンバー・・・・そう、ユズであった。ユズは非常に険しい顔色を浮かべて美甘ネルに話しかけた。

 

「ね、ネル先輩! 大変です!」

 

「アンタは・・・・?」

 

「せ、生徒会『セミナー』所属の、『ユズキ』です。警備ロボットが暴走したせいで今、アチコチ滅茶苦茶なんです! アカネ先輩とカリン先輩が、制圧を試みていますが・・・・」

 

「なんだよ、暴走か? アレを差し押さえたのなんか随分前だろうに、まだ整備が終わってねえのか」

 

「じょ、状況的に、助けが必要かと思い・・・・それで、ここにいらっしゃると聞いたので・・・・」

 

ユズは美甘ネルをこの場所から引き離す為に、ロボットが暴走したと嘘を教えた。ユズの気弱な雰囲気と上擦った声で、美甘ネルはユズの言葉を聞いて、ロボットの暴走に呆れていた。

 

「はぁ、仕方ねぇな。行くぞエレキブル」

 

『ブル』

 

美甘ネルの言葉を聞いて机から離れ、エレキブルも棚から離れた。

 

「わ、わたしはここの整理をします。そ、その、戦闘は怖くて・・・・経験も、あまり無いですし、手持ちのポケモンもあまり強くないし・・・・」

 

「んなこたどうでも良いけどよ、ソレよりアンタ・・・・」

 

ここに残る口実を言う。しかしその顔には、戦闘経験が乏しく、何より怖くて後方に回っていた自分への自虐を込めて言うが、美甘ネルはそんなユズ、否、『ユズキ』に向かって声を発する。

 

「覚えときな。戦闘でもバトルでも一番大事なのは、『武器』でも『経験』でも、手持ちポケモンの強さでもねぇ。『度胸』と『信頼』だ」

 

「は、はい・・・・?」

 

「その点で、アンタに『素質』が無いとは思わねぇ。自分がどう思われてるかくらい、アタシにも分かってる。それに、アンタが結構ビビりな事もまあ分かる。それなのに、初対面でこのアタシに声をかけるなんてのは、それなりに『度胸』がいる事だろうからな」

 

美甘ネルは戦闘において一番必要なのは度胸であると教え、そして勇気を出して自分に声を掛けてきたその度胸を、美甘ネルは笑顔で褒めるのであった。

 

「は、は、はい! あ、ありがとうございます!?」

 

「じゃあな、またどっかで会おうぜ」

 

そう言って美甘ネルはエレキブルを連れて『差押品保管所』から出て行った。

 

「ふぇぇ・・・・」

 

ユズの思わぬファインプレーで、『ゲーム開発部』は窮地を脱したのであった。

青ざめたユズが、緊張の糸が切れたのかペタッと腰を落とした。

 

「し、死んじゃうかと思った・・・・」

 

ユズがそう言うのも仕方ない。

美甘ネルから発せられる凶暴なドラゴンポケモンのような圧力‹プレッシャー›を真正面から受けたのだ。ユズがヘナヘナになるのも仕方ない。

 

「ユズうぅぅぅぅぅぅぅぅー!!」

 

『プラアァァァァァァァァー!!』

 

「ユズちゃんスゴイ! お陰で命拾いしたよ!」

 

『マァイマイマイ!!』

 

「ち、力になれて、良かった・・・・。そ、それより、今アリスちゃんが持ってるのが・・・・」

 

机の下から飛び出したモモイとプラスル、ミドリとマイナンがユズに抱き着き、ユズは顔を紅くしながら立ち上がると、棚から出てきたアリスの手に持っている物に目を向けた。

 

「はいっ。コレが人類と世界を救う、私達の新たな武器ーーーー『鏡』です!」

 

『デデン!』

 

アリスが満面の笑みで『鏡』を天に掲げた。

 

「や、やっと・・・・!」

 

「お祝いは後にして、急ごう! ネル先輩達が戻ってきたら今度こそ一巻の終わり!」

 

“ユズ、“デンチュラは”?”

 

「“あと少しで全部完成します”。この先には戦闘ロボが沢山いる・・・・気を付けて!」

 

「そうだね、まだ『任務』は終わっていない!」

 

「私達の『目的』は『鏡』じゃなくて・・・・『G.Bible』! 早く、『ヴェリタス』の部室に行かなきゃ・・・・!」

 

「後方は私が担当します。先生、指示を!」

 

先生の問いかけにユズが応え、ミドリとユズとアリスがそう言い、モモイも頷くと、先生は皆に言った。

 

“皆で無事に、部室まで戻ろう! 全員、戦闘開始!”

 

「はい!」

 

「絶対・・・・無事に帰ろう!」

 

「アリス、戦闘を始めます!」

 

そして、ユズを欠いた『ゲーム開発部』と先生は飛び出していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして辿り着いたソコはーーーー『ミレニアムタワー』の屋上であった。

 

「ーーーーで、デンチュラ〜!」

 

『ーーーーチュラ!』

 

ユズが呼ぶと、パートナーのデンチュラが物陰からヒョコっと顔を出して、前の触覚でこっちに来いとジェスチャーし、全員がソコに行くとソコにはーーーーデンチュラの糸で作られた、大きなパラシュートが置かれていた。

実はユズとデンチュラは、アリスが襲撃した昼間の内に屋上にコッソリと侵入し、『脱出用のパラシュート』をデンチュラの糸で編み作っていたのだ(ユズは設計図持ちと護衛)。

 

“良し、モモイ! ミドリ!”

 

「「了解! 『スピンロトム』!!」」

 

「「ロトム!」」

 

先生がそう言うと、モモイとミドリがモンスターボールを投げ、『エンジニア部』のヒビキとコトリから借りてきたロトムが扇風機と合体してフォルムチェンジし、オレンジ色の扇風機を摸したものに変化し、体を覆うオーラは黄色になった『スピンロトム』を取り出した。

そして、巨大パラシュートの両端にスピンロトムが手を掴んで風を送ると、巨大パラシュートが広がり、先生と『ゲーム開発部』が乗り込む。

その際、先生が一番重いアリスの『スーパーノヴァ』を、『超進化ライト』の白の光をイーブイに浴びせて、通常と違い明るい緑の体毛となった『たいようポケモン・エーフィ(色違い)』にして、【サイコキネシス】で浮かせた。

 

「いやっほぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

 

『プラプラァァァァァァァァ!!』

 

「お、落ちませんよね!? 落ちないですよね!?」

 

『マイマイ・・・・!?』

 

「大丈夫。ウタハ先輩達にも計算して貰って作ったから・・・・多分」

 

『チュラ』

 

「アリス達はお空の旅へレッツゴーです!」

 

『デデン!』

 

『ピカチュウ』

 

“ーーーーさぁ、帰ろう! 脱出だ!!”

 

スピンロトム達が風を送って、さながらパラグライダーのように巨大パラシュートが、〈ミレニアム〉の空に舞った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ー『C&C』sideー

 

そして、『ゲーム開発部』が脱出し、すっかり日が昇った翌日。

〈ミレニアム〉の校舎廊下に集まった『C&C』メンバーから、リーダーの美甘ネルが報告を受けていた。

 

「「「・・・・・・・・・・・・・・・・」」」

 

『・・・・・・・・・・・・・・・・』

 

アスナ、カリン、アカネが弱冠悔しそうに報告を告げると、プリンにハピナス、レントラーとムクホーク、マルマインとアローニャゴローニャも顔を俯かせた。

まさか自分達が、『エンジニア部』や『ヴェリタス』が協力していたとは言え、あんな戦闘もロクに知らない素人で、非力そうな娘達に出し抜かれて失敗しただなんて、彼女達もプライドも大層傷つけられた事であろう。

 

「・・・・成る程な・・・・」

 

『エレブル』

 

報告を聞き終えて、美甘ネルとエレキブルがコクリと頷いた。

 

「『ゲーム開発部』、か。知らねぇ部活だったが・・・・ソイツらにしてやられた、って事だな?」

 

「・・・・申し訳ありません」

 

『マルマルマルマイン!』

 

『ゴロゴローニャ!』

 

美甘ネルが問うとアカネが謝罪し、マルマインとアローニャゴローニャが「アイツらが卑怯な手段ばかり使っていたんだ!」、「マトモにやれば負ける筈がない!」と訴えているように声を上げる。

 

「やめなさい二人とも。この依頼を受諾して、作戦を準備したのは私です。メイド部の名に、傷を付けてしまいました・・・・」

 

申し訳無さそうに頭を下げるアカネ。

が・・・・。

 

「んなこたぁどうでもいい」

 

「・・・・え?」

 

美甘ネルはバッサリとそう言い切り、アカネは目を丸くする。そんなアカネに構わず美甘ネルが話をする。

 

「ソレに、アタシが戻ってきた時に『リオ』から連絡が入った」

 

「『セミナー』の・・・・〈ミレニアム〉の『生徒会長』から?」

 

「あぁ」

 

生徒会長の名前が出て、カリンが聞き返すと美甘ネルが頷き、更に言葉を続ける。

 

「『依頼は撤回。無かった事に』、だとよ」

 

「!?」

 

「ソレは、一体何故・・・・?」

 

「アタシの知った事かよ・・・・けど多分、『リオ』も『ヒマリ』も確かめてみたかったんじゃねぇのか?」

 

カリンが驚き、アカネが問うと美甘ネル自身も、やれやれと肩を落とす。

 

「『確かめる』・・・・私達の力を、ですか?」

 

「逆だ。あの、アリスとか言う奴の方だろ」

 

とアカネに返した美甘ネルはニヤリと笑みを浮かべる。

 

「ま、その辺の事情は知ったこっちゃねえ。依頼と関係なくなったが・・・・アカネ、調べて置いてくれ」

 

「はい? 何をですか?」

 

「『ゲーム開発部』だ、関係者もまとめてな」

 

「いきなり何故・・・・『リベンジ』、ですか?」

 

「その表現は何だか癪だが・・・・まぁちっと興味があってな。一通り情報が洗えたら、ソイツらン所に行くぞ」

 

「はい、望む所です。今頃あの子達は、『メイド部に一泡吹かせた』と喜んでいる筈。ふふっ、次にお会いする時はどんな表情を見せてくれるのか・・・・楽しみですね、マルマイン、ゴローニャ?」

 

『マイン!』

 

『ゴローニャ!』

 

穏やかそうに微笑むが、アカネも『リベンジ』を誓い、マルマインもビリビリと放電し、アローニャゴローニャも腕を回していた。

メイド部、『C&C』は『ミレニアム最強』を連れて、『リベンジ』へと乗り出した。

 

 

 

 

 

 

ーゲーム開発部sideー

 

さて、『鏡』を手に入れ、『ヴェリタス』によって解除された『G.Bible』を見た『ゲーム開発部』は・・・・。

 

「「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」」

 

『『『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・』』』

 

アリスとデデンネ、そして先生達以外はお通夜のような、世界の終わりのような顔で、『G.Bible』を見ている。

口から魂的なものまで出てきてしまい、何処からか『てづかみポケモン・ヨノワール』がやって来たが、先生はイーブイ(色違い)をブラッキー(色違い)にして撃退し、ピカチュウ達が出ていた魂をモモイ達に戻した。

するとーーーー。

 

「こんなに落ち込んだのは・・・・『テイルズ・サガ・クロニクル』のプロトタイプをアップデートした時以来・・・・」

 

「・・・・・・・・あ、あの、モモイ・・・・?」

 

この空気に耐えられず、アリスがモモイに話しかけるとーーーー。

 

「ふふっ、ふへへへへへへへへ、全部終わった! おしまいだぁ!!!」

 

モモイが壊れた。

 

「・・・・み、ミドリ? その、大丈夫ですか?」

 

次にミドリに話しかけるが。

 

「アリスちゃん、ゴメン・・・・今は何も話したくない気分なの・・・・」

 

ミドリは完全に塞ぎ込んでしまっていた。

 

「・・・・えっと、ユズーーーー」

 

ユズに話しかけると。

 

「怒り、破滅、腐食、絶望、虚脱・・・・世界は今、破滅に向かって・・・・」

 

ユズに至っては精神が病んでしまったかのようにブツブツと呟く。

 

「・・・・プラスル、マイナン、デンチュラ・・・・」

 

『『(シクシクシクシクシクシクシクシク)』』

 

『チュラ』

 

プラスルとマイナンは抱き合って啜り泣き、デンチュラも涙を浮かべながら荷造りを始めた。

 

「・・・・・・・・」

 

『デデン・・・・』

 

完全に打ちひしがれてしまっている仲間達に、アリスは声を上げる。

 

「あ、あの! えっと、私はあまり理解できてないのですが・・・・もしかして、この状況はーーーー『G.Bible』のせい、ですか?」

 

『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・』

 

アリスの問い、全部が沈黙する。ソレは肯定を意味しているからだ。しかしアリスは言葉を続ける。

 

「えっと、『G.Bible』は、嘘は言ってないと思いますが・・・・」

 

「そう言う問題じゃないっ!!」

 

モモイが爆発した。

 

「!?」

 

『デデン!?』

 

あまりの剣幕にアリスとデデンネがビクッと身体を震わせる。が、モモイは構わず声を荒げる。

 

「いっその事ウソって言ってくれた方がまだマシ! うああああああああん、終わった! 私達はもう廃部なんだ! ふえぇぇぇぇぇぇぇぇん!」

 

『プラァァァァ・・・・!』

 

「???」

 

モモイはその場に座り込んで、プラスルが近づくとギュッと抱きしめて大泣きしてしまい、アリスは困ったように首を傾げた。

そして先生は、2時間程前の事を思い返していた。

 

 

 

 

 

 

* * *

 

 

 

 

ーーーーおよそ2時間前。

 

【ハ〜イ、『ゲーム開発部』のちびっ子達! マキちゃんからプレゼントのお届けだよ!】

 

【ドブル!】

 

【ポリゴン!】

 

ちゃっかりコトリと一緒にミレニアムタワーから脱出していたマキとドーブルとポリゴンが元気良くやって来た。

 

【遂に!】

 

【プラ!】

 

【ジャジャーン!】

 

マキが『G.Bible』が入ったGGAを見せると。

 

【[G.Bible.exe・・・・実行準備完了]】

 

【漸く、『G.Bible』が私達の手に・・・・!】

 

【遅れてゴメンねー、『鏡』は『セミナー』に返す事になって、その件でちょっとバタバタしちゃって】

 

【ええっ、『鏡』返しちゃったの!?】

 

アレだけ苦労して手に入れた『鏡』を『セミナー』に返してしまった事に驚いた。

 

【実は、『ヒマリ先輩』は最初から全部知ってたみたい。『それくらいあげてもいいから、コレからあんまり無理しないで』って。えへへっ】

 

マリはカラカラと笑いながら教える。

 

【あ、それでね。『G.Bible』を開いていた時にこの、〈Key〉って言うフォルダを見つけたの】

 

【何これ・・・・『ケイ』、って読むのかな?】

 

【・・・・『ケイ』?】

 

【『キー』でしょ! お姉ちゃんは本当に高校受験合格したの!?】

 

アリスが妙に反応を示したが、ミドリが訂正した。すると、マキがこの〈Key〉について話す。

 

【実は、コッチについては何一つ分からなくって、ファイルは壊れてなさそうだけど・・・・私達の知ってる機械語じゃ理解できない、信じられないような構成をしてる。『G.Bible』の方はキチンと開けたけど、こっちはちょっと見ただけじゃ何も分からなかったの。この〈Key〉の事、何か知ってたりする?】

 

【いや、私達も全然・・・・】

 

【プラプラ】

 

【・・・・・・・・】

 

【マイ?】

 

マキの質問にモモイとプラスルは知らないと言うが、ミドリは少し思案するように顎に手を当てた。そうソレは、あの『廃墟』の『ディヴィジョンシステム』が言っていた事に似ていた。

 

【もしかして、〈Key〉って・・・・まさか、あの時の・・・・?】

 

【ふうん、何があったの? ま、でも取り敢えず今は『G.Bible』の方でしょ。〈Key〉についてはまた今度ね。時間があったら頑張って分析してみるよ。じゃ、間違いなく渡したから、またね!】

 

【ブル!】

 

【ポリゴン】

 

【マキちゃん、ありがとね!】

 

【マァイ!】

 

【今度会う時は、秘書を通して連絡してね! 何せ私達は、『TSC2‹テイルズ・サガ・クロニクル2›』で大ヒットする予定だから!】

 

【プラプラ!】

 

【あははっ、楽しみにしてるよ!】

 

そう言って、マキとドーブルとポリゴンは部室から出ていった。

そしてーーーー。

 

【皆、集まって! 改めて・・・・『G.Bible』、見よっか】

 

そう言って、『ゲーム開発部』と先生はモモイに集まった。

 

【皆知ってる通り、この中に何が入ってるのかついては、殆ど誰も知らない。ただ最後に『G.Bible』を見たと噂される、あるカリスマ開発者によると・・・・】

 

モモイが一拍子置いてから話す。

 

【『ゲーム開発における秘技。皆が知っているようで、誰もが知らなかった奇跡』・・・・って言われてる。私はソレが知りたい】

 

【うん・・・・最高のゲームを作る為に】

 

【そう。ソレが出来れば、コレからも皆でこの場所にいられる。もし失敗したら・・・・ユズは寮に戻って、会いたくもないヤツらに会わなきゃいけなくなる。ソレに、アリスは・・・・】

 

【・・・・もしもの事は考えたくないけど、先生】

 

【“うん。その時は、私がアリスの保護者として〈シャーレ〉で面倒をみるよ”】

 

【〈シャーレ〉・・・・? 先生と一緒なのは、とっても嬉しいのですが・・・・。アリスはもうここに・・・・皆と一緒には、いられないのですか?】

 

【っ! そんな事はない! 私達は絶対に、最高のゲームを作るんだから!】

 

アリスの悲しそうな顔を見て、モモイは声を張り上げる。

 

【大丈夫、『TSC2』もアリスにとっての『神ゲー』になるよ。さて、それじゃあ・・・・始めよう、アリス!】

 

【はい。『G.Bible』・・・・起動!】

 

[G.Bible世界へようこそ]

 

GGAに表示された。

 

【は、始まった!】

 

[最高のゲームとは何か・・・・この質問に対して、世界中で様々な答えが模索され続けてきました。作品性、人気、売上、素晴らしいストーリーや爽快感、鳥肌が立つ演出等、そう言った物が最高のゲームの『条件』として挙げられる事は多いですが、ソレラは全て、あくまで『真理』の枝葉に過ぎません]

 

『G.Bible』が次々と言葉を並べる。

 

[最高のゲームを作る秘訣、ソレはたった一つです。そしてこのG.Bibleには、その『真理』が秘められています]

 

【い、いよいよ!】

 

【プラァ!】

 

【何だか凄そう・・・・】

 

【マイ・・・・】

 

[最高のゲームを作るたった一つの真理、秘密の方法・・・・ソレを今こそお教えしましょう]

 

【来ます・・・・っ!】

 

【デネ・・・・!】

 

全員が固唾を呑んで見据える。

 

[・・・・・・・・ゲームを愛しなさい]

 

【おお・・・・オープニング、みたいな感じかな、ソレっぽい!】

 

【そ、そう?】

 

[ゲームを愛しなさい]

 

【・・・・まさか、コレで終わり・・・・じゃ、ないよね?】

 

【な、何かバグってるんじゃない】

 

ユズとミドリが不安そうに呟く。

 

[ゲームを愛しなさい]

 

【ちょっと待って! ええっと、設定変更は何処から・・・・】

 

[あなたがボタンを押したと言う事は、ファイルが壊れた、もしくは何か問題があったのでは、何らかのエラーが生じたのでは・・・・と疑っている状況なのでしょう]

 

【あっ、やっぱり! このまま終わる筈無いよね!】

 

[しかし、エラーではありません]

 

【嘘ぉ!?】

 

[残念ですが、コレが結論です。ーーーーゲームを愛しなさい!]

 

【そ、そんな筈はない! きっと何かエラーが・・・・!】

 

【ファイルの損傷とか修正も見当たらない・・・・最後の転送情報、ファイルサイズ、ソレにデータ構成も問題無し】

 

【そ、それじゃ、本当に・・・・】

 

【こ、コレで終わり!?・・・・お】

 

【お姉ちゃん・・・・私達、何か悪い夢でも見て・・・・】

 

【終わりだああああぁぁぁぁああああ!!!】

 

モモイの悲鳴が、部室どころか、〈ミレニアム〉中に広がった。

 

 

 

 

* * *

 

 

 

 

そして、現在に至る。

 

「あの、モモイ・・・・デイリークエストしないのですか? いつも『デイリークエストより大事な物なんて無い』と言っていたのに・・・・」

 

「アリス・・・・私のHPはもうゼロだよ・・・・」

 

『プラァ』

 

すっかり意気消沈してしまい、プラスルを抱いたままモモイはコテンと横になり、あまり状況が飲み込めていないアリスがオズオズと話しかけるがモモイもプラスルはマトモに応対できなかった。

 

「・・・・えっと、ミドリ・・・・」

 

「ごめんね、アリスちゃん・・・・知ってたけど、現実って元々こういう物なの・・・・そう、つまりこれが『トゥルーエンド』・・・・『ハッピーエンド』とはまた別の到達点・・・・」

 

『マイ〜・・・・!』

 

同じく、マイナンを抱き締めたまま蹲るミドリも、応じられない。

 

「・・・・ユズは・・・・ユズはどこに・・・・?」

 

「多分、またロッカーの中に引きこもってるんだと思う。良く見て、ロッカーがたまにブルブルしてるでしょ」

 

ロッカーの方を見ると、デンチュラがロッカーの前でユズが出るのを見ていた。

 

「・・・・・・・・」

 

アリスはどうしたら良いのか分からなかったが、これだけは言わなければならないと、意を決して声を張り上げる。

 

「今の皆の姿は・・・・まるで正気がログアウトしたみたいです」

 

「うぅっ・・・・仕方ないじゃん、最後の手段だったのに! ソレが、あんな誰でも知ってる文章が一つ入ってるだけだなんて! 釣りにも程がある! 知ってた! 世界にそんな、ソレ一つ全部が変わって上手くいくような、便利な方法なんか無いって! でも期待ぐらいしたっていいじゃん! うああぁぁんっ!」

 

『プラァァァァァァァァ!』

 

「はぁ・・・・ごめんね、アリスちゃん・・・・私達は・・・・『G.Bible』無しじゃ、良いゲームは作れない・・・・」

 

『マァイ・・・・』

 

モモイはプラスルを抱き締め合って泣き出し、ミドリもすでにやる気を失い、マイナンを抱っこしたまま溜息をついたりしていた。

がしかし、アリスは声を上げる。

 

「・・・・いいえ。否定します。アリスは『テイルズ・サガ・クロニクル』をやる度に思い出します。あのゲームは、面白いです」

 

「え?」

 

アリスの言葉に、ミドリの目に光が戻る。

 

「感じられるのです。モモイが、ミドリが、ユズが、プラスルが、マイナンが、デンチュラが・・・・。このゲームを、どれだけ愛しているのかを。そんな、沢山の想いが込められたあの世界を旅すると・・・・」

 

アリスは満面の笑みを浮かべて、皆に見回して言う。

 

「・・・・胸が、高鳴ります。仲間と一緒に新しい世界を旅する、あの感覚は・・・・。夢を見るというのが、どういう事なのか・・・・その感覚を、アリスに教えてくれました。だから、待望のエンディングに近づく程に、あんなに苦しんだのに、思ってしますのです・・・・。この夢が、覚めなければ良いのに・・・・と。アリスはそう思うのです」

 

「アリス・・・・」

 

「・・・・」

 

「ってうわっ、ユズちゃん!? いつからソコに!?」

 

「『テイルズ・サガ・クロニクル』の話が始まった時から・・・・」

 

「最初から居たの!?」

 

落ち込んでいる仲間達を励ますように、アリスは『テイルズ・サガ・クロニクル』の思い出を語っていく。ソレを聞いていたモモイ達(いつの間にかロッカーから出ていたユズには驚いていたが)。

すると、ユズが

 

「・・・・作ろう」

 

「え?」

 

「わたしの『夢』は・・・・わたしが作ったゲームを、みんなに面白いって言ってもらう事。でも、わたしが初めて作った『テイルズ・サガ・クロニクル』のプロトタイプは・・・・4桁以上の低評価コメントと、冷やかしだけで終わっちゃって・・・・。それが辛くて、ゲーム開発部に引きこもってた時・・・・。2人が、訪ねてきてくれた」

 

アリスの言葉を聞いてゲームを作ろうと言い出し、ゲーム開発部の部長でもあるユズであった。

ユズは『テイルズ・サガ・クロニクル』のプロトタイプを作ったあと、低評価ばかりでふさぎ込んでいた時にモモイとミドリが訪ねてきたの事を思い出していた。

 

 

 

 

 

 

 

* * *

 

 

 

 

 

 

ーーーー6ヶ月前。

 

[コレがゲーム?] [コレを作った人の頭の中が、逆に気になる・・・・] [ソレは流石に脳ミソ・・・・って言おうと思ったけど、本当に入ってるのか怪しいね] [ゲームの事を良く知らない人が作ってない?] [身の程を知った方が良い] [コレはゲーム何かじゃない、ゲームに良く似たゴミだよ]

 

【うぅ・・・・。やめて・・・・ごめんなさい、ごめんなさい・・・・。もうお願いだから・・・・許して・・・・!】

 

【チュラチュラ】

 

ユズは自分が作った『テイルズ・サガ・クロニクル』のプロトタイプへの酷評の嵐を見て、部室で縮こまって泣いており、そんなユズをデンチュラが必死に慰めていた。

 

ーーーードンドンドン!

 

【ひぃっ! だ、誰・・・・?】

 

【チュラ・・・・!】

 

【えっと、ここって『テイルズ・サガ・クロニクル』のプロトタイプを作った、ミレニアムの『ゲーム開発部』で合ってますか?】

 

すると突然、ゲーム開発部の扉をノックする者が現れ、『テイルズ・サガ・クロニクル』のプロトタイプを作ったユズに会いに来たようである。

 

【デンチュ・・・・!】

 

【な、何・・・・? 今度は直接・・・・? ご、ごめんなさい、ごめんなさい・・・・! もう二度とゲームは作りません、だから、許して・・・・!】

 

静かに怒気を纏ったデンチュラが電流が迸る糸を生み出し、やって来た人間を簀巻き&感電させて、追い返してやろうと進んでいき、ユズは怯えきってもうゲームを作らないと言った。

その時ーーーー。

 

【えぇっ!?】

 

【何言ってるんですか、こんな面白いのに! プロトタイプだけ作ってやめちゃうなんて!】

 

【続き、スゴい気になってるんですよ!? ここまでワクワクさせておいて、そんなの無しでしょ!】

 

【・・・・え?】

 

【チュラ?】

 

だが、ユズとデンチュラの予想とは裏腹に、返ってきた言葉は『テイルズ・サガ・クロニクル』の賞賛であった。

 

【『テイルズ・サガ・クロニクル』、スッゴく面白かったです!】

 

【お姉ちゃん、徹夜でやってたもんね】

 

【ミドリだってニヤニヤしながらプレイしてたじゃん! 元々ゲームにそんな興味なかったのに!】

 

【え、う、うーん・・・・確かに、ドットだけどキャラとかすごい可愛かったし・・・・】

 

さらに扉の向こうにいる子達は更に、『テイルズ・サガ・クロニクル』の面白い所を小声で話していく。

 

【兎に角、あの! 失礼します!】

 

ーーーーガチャッ!

 

【・・・・!?】

 

【デンチュラ?】

 

すると扉が開かれ、モモイとミドリが入ってきた。

 

【あなたが『UZ』様!?】

 

【えっ・・・・あ、は、はい・・・・】

 

【ファンです!!】

 

【私も、ミドリも! 『UZ』様みたいに、面白いゲームが作りたいです!】

 

【・・・・!!】

 

これがユズとデンチュラが、モモイとミドリの出会いであった。

 

 

 

 

 

* * *

 

 

 

 

「・・・・ソレで、二人が来てくれて、ソレから数日後に、二人がプラスルとマイナンがパートナーになって、この部室は賑やかになって、一緒に『テイルズ・サガ・クロニクル』を完成させて・・・・今年の『クソゲーランキング1位』になっちゃったけど・・・・」

 

「うっ・・・・」

 

「・・・・・・・・」

 

『プラァ』

 

『マァイ』

 

ユズの言葉に、才羽姉妹は苦い顔をし、プラスルとマイナンめ苦笑した。

 

「その後、アリスちゃんが訪ねてきてくれて・・・・。面白いって、言ってくれた。それで、私の夢は叶ったの。心の通じ合う大事な仲間達と、一緒にゲームを作って、ソレを面白いって言ってもらう・・・・ずっと思い描いているだけだった、その夢が」

 

「・・・・・・・・」

 

「これ以上は、欲張りかもだけど。叶うなら、私はこの夢が・・・・この先も、終わらないで欲しい」

 

「ユズちゃん・・・・」

 

そしてユズは再び、皆でゲームを作りたいと皆に告げる。モモイとミドリは、珍しく決意を口にしたユズの言葉を静かに見守っているのであった。

 

「・・・・うん、良し! ねぇ、今から『ミレニアムプライズ』の締切まで、時間どれくらい残ってる?」

 

「お姉ちゃん・・・・!」

 

目に光を取り戻したモモイを見て、ミドリの目にもやる気が戻ってきた。

 

「正確には6日と4時間38分です」

 

「・・・・それだけあれば十分。さぁ、『ゲーム開発部』一同! 『テイルズ・サガ・クロニクル2』の開発、始めよう!!」

 

「「「うん!!」」」

 

『プラァ!』『マイ!』『チュラ!』『デデン!』

 

ゲーム開発部は『ミレニアムプライズ』に向けて、新作ゲームを作り上げるべく、再び立ち上がったのであった。

 

“・・・・・・・・”

 

『ピカチュウ』

 

そんな彼女達を見て、先生とピカチュウは笑みを浮かべて見守るのであった。

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