ー先生sideー
自分は『正義実現委員会』のエリートで、2年生の先輩であるヒフミ達に対して、「馴れ馴れしくするな」と断言する1年生のコハル。ヘラクロスはそんなパートナーを見て、困った顔でオロオロとしていた。
“(・・・・最低限の自己防衛って所かな?)”
先生には『人見知り』なコハルが突然知らない先輩達、しかも『問題児』ばかりの空間に入れられてしまった不安と心細さを必死に『虚勢の鎧』で隠しているように思えた。
「成る程・・・・確かに『補習授業部』の中でまで、先輩後輩なんて扱いにする必要は無いと思います。私としては何も問題ありません」
「私も別に。そもそもそういう文化には不慣れだし。そもそも仲良くする為に集まってる会じゃない。あくまでお互いの利益の為なんだから、親しいフリをする必要も無い筈。違う?」
「あ、あうぅ・・・・」
コハルの発言を聞いて、柔軟に応じるハナコと、利害関係と割り切っているアズサの2人は問題無いと言い出し、常識人のヒフミを困惑させるのであった。
「じゃあ決まり! それに、そもそもの話なんだけど・・・・。私が試験に落ちたのはあくまで・・・・『飛び級』の為に、1つ上の『2年生用のテスト』を受けたせいだから!」
『ジュペ〜?』
『ブイ〜?』
『チャモ〜?』
『ミジュ〜?』
『キゥ〜?』
「な、何よアンタ達! その目は!?」
『ヘラクロス!』
そしてコハルは、自分が『補習授業部』にいるのは2年生用のテストを受けたからであると言い張り、ハナコのジュペッタと、先生のイーブイ(色違い)とアチャモとミズゴロウとキモリは、そんなコハルにニヤリ笑みで半眼で胡散臭そうな目で見据えると、コハルが5匹を指差して近付こうとするが、ヘラクロスが羽交い締めして止めた。
そんなコハルにハナコが問いかけた。
「あら、『飛び級』? どうしてそんな事を・・・・?」
「ど、どうしても何も・・・・! 私はこれから、『正義実現委員会』を背負う立場になる訳だし・・・・!」
「でも、ソレで『落第』してしまったんですよね? 1度試しにチャレンジするという事であれば理解できますが、なぜソレを何度も・・・・?」
「う、うるさいうるさい! 私が言いたいのはそういう事じゃなくて! つまり私は今まで、本当の力を隠してたって事!!」
ヘラクロスから解放されたコハルは、少し口ごもりながら何とか答えを捻り出したが、その後に更にハナコが詰めていくが、コハルは実力を隠していたなどと言い出すのであった。
『???』
「今度のテストはちゃんと、『1年生用のテスト』を受けるから! そうすればちゃんと優秀な成績を収めてはい終わりってわけ。分かる?」
『ジュペペペペッ♪』
『ヘラクロ・・・・』
コハルの実力を隠していた宣言に一同は困惑し、ハナコのジュペッタがヘラクロスの背中をポンポンと叩きながら、「お前の相方は面白いな♪」と言いたげに話すと、ヘラクロスはいたたまれない気持ちで両目を手で隠した。
「それで、すぐにこんな『補習授業部』なんて辞めてやるんだから!」
しかもどうやら、話を聞いていなかったのか、『優秀な成績を収めれば一抜けできる』と思っているようである。
「えっと、個人で優秀な成績を出しても、ソレでこの部を卒業できる訳ではなくって・・・・」
「成る程、経歴を隠していたわけか。ちなみに私も今は、前の所との学習進度の違いが大きかったから、1年生の試験を受けている」
「あ、じゃあ同じ・・・・い、いや! どうせすぐに関係無くなるけど!」
“(今『同じ』って言ってたけど・・・・)”
コハルの話を聞いたアズサは、自分が2年生にも関わらず『1年生の試験』を受けていると話すと、ソレを聞いてコハルは『自分と同じ』とつい言ってしまい、見栄を張っていたのがアズサ以外にバレてしまい、イーブイと御三家、更にはジュペッタまで笑いを堪えるように身体を震わせた。
「それに、短い付き合いで残念だったけど、アンタ達はそういう感じじゃないみたいだし? あははっ! じゃあね、精々頑張って! 行くわよヘラクロス!」
『ヘラクロ・・・・』
コハルは最後に捨て台詞を吐いて、そそくさと『補習授業部』の教室を出て行き、ヘラクロスは謝罪するように皆にペコペコと謝ってから、コハルについて行った。
「あ、あの・・・・! 行ってしまいましたね・・・・」
「ふふ、コハルちゃんはテンションの上下が凄くて、見ていて面白いですね。アズサちゃんは対照的に、一貫して全然ブレないですし」
『ジュペペペペ♪』
「?」
「あうぅ・・・・」
『ガルラァ・・・・』
『ピカチュウ・・・・』
『カルォ・・・・』
“大丈夫・・・・なのかなぁ・・・・?”
「これから楽しみですね、ふふふっ」
ハナコはコハルとアズサを見て面白いと言い、ジュペッタとイーブイと御三家も同意するように頷き、ソレを聞いたアズサはキョトンと首を傾げ、ヒフミとガルーラ、ピカチュウとルカリオ、そして先生も不安そうにため息を吐いた。
そして先生は、アズサに1つだけ聞いておきたい事があった。
“ーーーーそう言えばアズサって、手持ちポケモンを連れていないの?”
「戦況を常に変化する。戦略的にレンタルポケモンの方があらゆる戦況に応じて使えるから手持ちポケモンは持つ必要はない」
「で、でもアズサちゃんは、『無期限レンタルポケモン禁止』になってしまいましたけど・・・・」
「むぅ・・・・」
各校にはそれぞれの固有タイプのポケモンを所持するのが多い。〈ミレニアム〉ならば『でんき』と『エスパー』。〈ゲヘナ〉ならば『あく』と『どく』。〈百鬼夜行〉ならば『くさ』と『むし』。〈レッドウィンター〉ならば『こおり』と『ほのお』。そしてこの〈トリニティ〉は少し異なり、『フェアリー』と『かくとう』と『ゴースト』を所持している。
しかし、各校が集まるポケモンバトルの大会とかでは、自ずと有利不利のタイプによる不公平さが出てくる為、ソレらを無くす為に設けられているのが『レンタルポケモン』である。しかし、『レンタルポケモン』を犯罪に使用したアズサは『無期限禁止』とされてしまったのだ。
アズサは不満げな顔をするが、こればかりは自業自得としか言いようがない。
“・・・・まぁアズサのポケモンに関しては、私の方で考えがある。アズサ、ソレで構わないかな?”
「・・・・『レンタルポケモン』が使えなくなったから仕方ない。先生に任せる」
ソレから『補習授業部』の面々は毎日放課後、教室に集まって補習授業を受けることになった。
◇
そして後日。放課後の自習時間。
「ハナコ、この問題はどう解けば良い?」
何故か・・・・『ポケモンのタマゴ』を赤ん坊を前向き抱っこする紐『抱っこ紐』に包んだアズサが、ハナコに問題を聞いた。
「どれですか? ああ、成る程。こういう時はですね、倍数判定法を用いてこのように・・・・」
「成る程・・・・うん、理解した」
「・・・・・・・・」
“(教え方が凄く上手い。ハナコはどうやら聡明な子のようだ)”
『補習授業部』の4人は試験に備えて、勉強に励んでいた。アズサに解き方を丁寧かつ的確に教えるハナコの様子を見て、ヒフミは意外そうに目をパチクリさせ、先生はハナコは頭が良い子なのだと思った。
さて、何故アズサが『ポケモンのタマゴ』を抱っこしているのかと言うと、アズサの手持ちポケモンを考えていた先生は、以前〈アビドス〉に行った際に対策委員会の皆から貰った『ポケモンのタマゴ』をアズサに渡したのだ。話を聞いてみると、アズサはコレまでポケモンの育成もした事がないらしく、コレを機にポケモンの育てる事を学んで貰おうと思い、先生が渡し、更に用意していた『抱っこ紐』で温めているのだ。〈アビドス〉と(良い意味でも悪い意味でも)交流があるヒフミも勧めていた。
「・・・・?」
「えっと、コハルちゃん? 何か分からない問題でもありましたか?」
「いっ、いやっ! 別に!?」
「ちなみに今見てるそのページは、今回のテスト範囲ではありませんよ」
「えっ、うそっ!?」
一方のコハルは教科書を見て難しげに首を傾げており、ソレに気づいたハナコは別の範囲を見ていることを指摘すると、気づいていなかったコハルは一瞬猫目になって驚いてしまう。
「やっ、ちが・・・・っ! し、知ってるし! 今回の範囲は余裕だから、先のところを予習してただけ!」
「あ、あはははは・・・・」
“(コハルは根は良い子だと思うけど、人見知りと見栄っぱりが邪魔をして皆と打ち解けないのが弱点か・・・・)”
そして相変わらずコハルは見栄と意地を張って言い訳をしているのを見て、ヒフミも先生も困ったような顔をする。
・・・・そして少しだけ時間は進み。
「ハナコ、この文章は何?」
「古い叙事詩の冒頭部分ですね。『怒りを歌え、神性よーーーー』という・・・・」
「ああ、あれか。理解した」
「・・・・・・・・」
すっかりアズサはハナコに勉強を教えて貰っていた。アズサは少しズレている所はあるが、学習意欲は十分あるようである。ソレに時々、おんぶしている『ポケモンのタマゴ』を優しく撫でている。
ハナコ自身も自分の勉強に取り組みつつ、アズサの問い掛けに嫌な顔を1つせず、嫌、寧ろ喜んでアズサに勉強を教えていた。しかも、的確かつ丁寧に。
お陰で先生は楽ができ、軽食としてエクレアを作ってきた程である。
自分の勉強をしつつ皆を見ていたヒフミも、そんなハナコの様子に驚いたように見ていた。
「ハナコ、これは・・・・」
「これは古代語を重訳したものですね。原文を理解するには辞書が無いと・・・・ちょっと待っていてくださいね」
「ああ、なるほど。なら、これはおそらく『Gaudium et Spes』・・・・『喜びと希望』か」
「えっと・・・・はい、そうみたいですね。コレは『第二回公会議』における・・・・いえそれよりも、アズサちゃんは古代語が読めるんですね?」
「ああ、昔習った」
アズサは今度は古代語の勉強をしているようで、いつものようにハナコに意味を聞いて、ハナコは辞書を取り出そうとしたが、アズサが古代語を知っていた事を少し驚いていた。
“皆、少し休憩しよう。頭を使った後は糖分を摂取してね”
「あ、先生ありがとうございます。では1回休憩にしましょう」
そう言ってヒフミはティーセットを取り出した。曰く、〈トリニティ総合学園〉の生徒としての嗜みらしい。
「(モグモグモグモグモグモグ・・・・)」
「あら、美味しいですね」
「先生の手作り?」
「お世辞抜きで美味しいです先生!」
“ありがとう”
アズサは一心不乱にエクレアを咀嚼し、ハナコとコハルとヒフミもエクレアを食べた。
そして食べ終えると、3人は勉強に戻り、ヒフミは先生達と共に少し距離を空けて話し合う。
“良い感じみたいだね”
「はい! ハナコちゃんが何だかとっても凄くって・・・! ソレにアズサちゃんも学習意欲たっぷりです! コハルちゃんは実力を隠していたそうですし・・・・」
『ピカァ〜?』
『ルォ・・・・』
『ブイ』
『チャモ』
『ミジュ』
『キゥ・・・・』
ただ1人、コハルの方は心配なのだが、ヒフミは疑っていないようだ。ピカチュウ達は疑っているような視線を向けていた。
「コレならもしかして、余裕で合格できてしまうかもしれません・・・・! 本当に良かった・・・・実はすっごく心配してたんです・・・・」
“どうして・・・・?”
「実は、『もし一次試験で不合格者が出てしまったら、合宿をして下さい』と『ティーパーティー』から言われてまして・・・・」
“『合宿』・・・・?”
「はい、そうなんです・・・・それに、もし三次試験まで全て落ちてしまったら・・・・あうう・・・・」
どうやら、まだナギサ達は先生に伝えていない事があるようである。
『補習授業部』は1人でも1次試験で不合格者が出た場合、2次試験以降はこの『合宿』をさせられるようで、ヒフミはソレを心配していたらしいが、更に何やら不安な事があるようだ。
“何か、マズい事に・・・・?”
「な、なんでもありません・・・・! 心配は杞憂で終わりそうですし、暗い話はこの辺りにして・・・・!」
ヒフミは『3次試験で不合格を出してしまった場合の話』を言いかけたが、杞憂に済みそうなので、皆に心配をかけまいと言うのを止めた。
「とにかく試験は問題無さそうです!」
満面の笑みを浮かべるヒフミは、ハナコを見て訝しそうに呟く。
「・・・・ハナコちゃんはどうやらすごく勉強ができる感じなのですが、どうして落第してしまったんでしょう・・・・? 私みたいにテストを受けられなくてとか、何か『事情』があったんでしょうか・・・・?」
ヒフミは全員合格を確信しているが、何故あんなにも勉強ができるハナコが『補習授業部』にいるのか、疑問に思うのであった。
“・・・・まさか、テストを受ける時にスクール水着かバニースーツだったからだとか?”
「せ、先生、失礼な事を言ったらダメですよ! ハナコちゃんがそんな格好で・・・・・・・・あうぅ・・・・」
先生がハナコに対して名誉毀損な上に不謹慎な台詞を言ったので、ヒフミが否定しようとしたが、始めて会った時に見せた格好と奇行を思い出して否定しきれなくなってしまった。
◇
そして翌日。
『第1次特別学力試験』。
「・・・・っ」
「うぅ・・・・」
「ふふっ」
「・・・・」
“皆、落ち着いて頑張ってね”
試験当日。コハルとヒフミは心配そうな顔をし、ハナコとアズサは何やら余裕そうである。皆の様子を見つつ、先生は優しく声をかけた。
「え、エリートの力見せてやるんだから!」
「あ、あはは・・・・頑張ります」
「ふふっ、はい」
「準備は完璧」
ーーーーキーンコーンカーンコーン・・・・。
『第1次特別学力試験』が始まった。
ーヒフミsideー
テストが開始され、問題用紙に目を走らせるヒフミ。
「(あっ、コレ、補習授業でやった処です・・・・! 先生に解説していただいた内容や、皆で勉強した問題が、殆どそのまま・・・・!)」
先日までの勉強で学んできた問題がそのまま出てきた。
「(ソレに、難易度としては『初級』・・・・いえ、『基礎』のレベル! コレまで色々と怖い事を言われてしまいましたが、もしかしてコレは、私達への救済措置という事でしょうか・・・・!?)」
ナギサに言われた事を気にして怯えていたが、出てきた問題に拍子抜けな気分になる。
「こ、コレは・・・・え、えぇっと・・・・」
「ふふっ・・・・」
「・・・・ふむ」
「(ですが油断は禁物・・・・! 皆さん、最後まで気を抜かずに、笑顔でこの『補習授業部』を卒業しましようね)」
コハルは難しげに呻き、ハナコはお淑やかな笑みを浮かべ、アズサは沈着冷静だが、皆頑張ってテストに挑んでいた。
その様子を見て、ヒフミは心の中で緩みそうだった気持ちを切り替え、メンバーを励ましながら、答案用紙にペンを走らせるのであった。
そしてピカチュウ達やガルーラ達は、教室の外で天に祈るように手を合わせていた。
ーヒフミsideー
そして時間が来てテストを回収して翌日。
“試験の結果が届いたよ”
「み、皆さんお疲れ様でした・・・・! えっと、『100点満点で60点以上でしたら合格』だそうです! 高得点は取れなくても、取り敢えずそのラインだけ超えられれば大丈夫です。それに内容も結構簡単でしたし・・・・では、結果発表と行きましょう!」
すでにテストの結果が先生達の元へ届き、再び集まった『補習授業部』の面々を見て、ヒフミはテストの内容と60点という合格点から、全員の合格は余裕だと思っており、張り切っていた。
「先生、お願いします!」
“・・・・・・・・”
先生は一瞬躊躇いを見せるが、意を決して発表する。
“ヒフミ・・・・72点。結果ーーーー合格!”
「あ、ありがとうございます! 何だか無難な点数ですが、良かったです!」
『ガルラ・・・・』
『カルラ・・・・』
「では次に・・・・」
『内容も結構簡単』と言って、点数があまりに普通な事に、ヒフミは少し苦笑してしまうが、取り敢えず合格点なので、ガルーラと子ガルーラ共々安堵し、他のメンバーの点数に期待を寄せた。
が・・・・。
“アズサ・・・・32点。結果ーーーー不合格・・・・”
「・・・・はいぃっ!?」
『ガルラ!?』
『カルラ!?』
その矢先、いきなりアズサの不合格が発表され、全員合格を確信していたヒフミは、当然ながら驚きの声をあげ、ガルーラ親子は盛大にズッコケる。
そしてアズサ本人は結果を噛み締めつつ少し悔しがった。
「・・・・ちっ、紙一重だったか」
「・・・・ま、待ってください! 『紙一重』って点数じゃないですよ!? 結構足りてないですよ!?」
“(勉強の準備期間が足りなかったからかな・・・・)”
合格点の半分近くしか取れておらず、アズサは『紙一重』と言ったが、ヒフミが盛大にツッコミを入れた。
そして先生は更に結果を発表する。
“コハル・・・・11点。結果ーーーー不合格・・・・”
「!?」
『『『ブーーーー!!!』』』
『〜〜〜〜!!!』
「な、何よ!? 何盛大に笑ってんのよアンタ達っ!!」
『ヘラクロ・・・・』
次にコハルの結果を発表するが、こちらはアズサ以上の低点数で不合格であり、『本当の力を隠していた』とか言ってた彼女の事を思い出して、イーブイとアチャモもミズゴロウは盛大に吹き出し、お腹を抱えて笑いながら転がり、キモリは蹲って床を叩きながら笑いを堪えていた。コハルが4匹を指差して喚くがヘラクロスが情けない顔をしながら、ヨヨヨと涙を流しながらコハルを羽交い締めする。
しかし、コハルの言葉を信じていたヒフミは、今まで見た事無い位のおかしなテンションでツッコミを炸裂させる。
「コハルちゃんんんんっ!? ち、力を隠していたんじゃないんですか!? 今回はちゃんと『1年生用の試験』を受けたんですよね!? ま、まさかまた2年生用の・・・・いえその点数、『3年生用の試験』を受けたんですか!?」
「やっ、その・・・! か、かなり難しかったし・・・・////」
“(やっぱり見栄を張っていたな・・・・)”
『『・・・・・・・・』』
ヒフミのツッコミに、コハルは顔を羞恥で赤くする。
見栄を張っているのを見抜いていた先生とピカチュウとルカリオは半眼になっていた。
「すっごく簡単でしたよ!? 小テストみたいなレベルでしたよ!?」
「あらあら・・・・」
難しかったと言うコハルに、ヒフミはツッコミで返した。そしてコハルが酷い点数を取ったのを、ハナコだけが、にこやかに見つめていた。
「うぅ・・・・合格したのは私とハナコちゃんだけ、ということでしょうか・・・・となるとまた次の、『2次試験』を受けないと・・・・」
“ヒフミ。ソレがね・・・・”
「はい?」
“ハナコ・・・・2点。結果ーーーー不合格・・・・”
「2点!?!?!?」
ヒフミはどうやら頭の良いハナコは安心していたようだが、先生は言いづらそうに、『2点』と発表した。
そしてその点数を聞いたヒフミは、あり得ないとばかりに驚くのであった。
「2点、2点ですか!? 20点ではなく!? いえ、20点でもダメなのですが・・・・! 寧ろ何が正解だったんですか!? と言いますか待って下さい、ハナコちゃん物凄く勉強ができる感じでしたよね!?」
「確かに私、そういう雰囲気あるみたいですね。まあ成績は別なのですが」
『♪〜♪〜♪〜』
“(ハナコ・・・・もしかして、手を抜いた・・・・?)”
『『・・・・・・・・・・・・』』
ヒフミは未だにハナコが2点しか取れなかった事が信じられないようである。
しかし、2点しか取れていないにも関わらず、ハナコは余裕の表情を崩さず、先生とピカチュウとルカリオは、ハナコが本気でテストを受けていなかったのではないかと、訝しげに見据える。 ジュペッタはハナコの頭の上に浮遊しながら両手を後ろに回して鼻歌を歌っている。
「雰囲気!? 雰囲気だけだったんですか!? 成績とは別ってどういう事ですかっ!?」
そして、ひとしきりにおかしなテンション、否、『こんらん状態』になってしまったヒフミは・・・・。
「う・・・・あうぅ・・・・」
ーーーーバタン・・・・。
『ガルゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!』
『カルカル!!(ピシピシピシピシピシピシピシ!!)』
“ヒフミ! しっかり・・・・!”
『ピカチュウ!』
『カルォ!』
ヒフミはショックのあまり気を失ってしまった。
ソレを見たガルーラは起き上がって、ヒフミを支え、子ガルーラが軽めの【おうふくビンタ】でヒフミの頬を張り、先生とピカチュウとルカリオが介抱するのであった。
第一次特別学力試験の結果
浦和ハナコーーーー不合格
白洲アズサーーーー不合格
下江コハルーーーー不合格
阿慈谷ヒフミーーーー合格
補習授業部、合宿決定!!
ー先生sideー
そして先生はその夜。ピカチュウとルカリオを連れて(イーブイと御三家はボールに納めている)、〈トリニティ〉の『ティーパーティー』のテラスに赴くと、ナギサが優雅に紅茶を飲んでおり、その後ろに手持ちポケモン達が控えていた。
「あら、先生。お疲れ様です。『補習授業部』の方はいかがですか?」
『イエッサン』
『ブンネ』
『ポット』
“久しぶりだね。ナギサ、それにイエッサンにタブンネにポットデス”
先生はナギサに呼び出されて、既にナギサとイエッサン(♂)とタブンネとポットデスがおり、先生を笑顔で出迎えた。
「・・・・と言いつつ、既にお話は聞いております。どうやら最初の試験は、上手く行かなかったようですね」
『・・・・・・・・』
『・・・・・・・・』
ナギサは既に試験の結果を知っていたようで、残念そうに先生にそう告げる。何処となくわざとらしい態度が気に入らなかったのか、ピカチュウとルカリオは目を細める。
先生はナギサの手元を見て口を開く。
“ナギサは何をしてるの?”
「・・・・ああ、コレですか? チェスです、趣味でして」
“ふ~ん・・・・”
ナギサの手元のチェス盤を見ると、変わった配置で駒が置かれていた。
「・・・・おそらく、見慣れないタイプですよね? 黒はキングとクイーン、後は全てポーンだけ。白はキング、ルーク、ビショップ、ナイトがそれぞれ3〜4個ずつ・・・・きっとあまり見ない形でしょう」
コレでは圧倒的に黒が不利で、白が圧倒的に有利の対局である。
“これ、1人でやってたの?”
「はい、今は私1人で。うるさいミカさんもいないですし。タブンネもイエッサンもポットデスもできるのですが、今日は1人で指したい気分なので」
確かに、ミカは見た感じチェスのような難しいゲームは好きそうじゃなそうだ。トランプのババ抜きやリバーシのような簡単なゲームが好きそうだ。
「今日は先生に、お伝えしておきたい事があったのですが・・・・それよりも先に、先生の方から何か言いたげな事があるように見受けられますね」
“3回とも不合格になったら、『補習授業部』の皆はどうなるのかな?”
「・・・・小耳に挟まれたのでしょうか? 出処は・・・・ヒフミさん、ですかね」
先生はナギサに呼ばれてここに来たが、先生の方も聞きたい事があったので、思った『疑問』を素直に彼女に述べる。
ナギサ自身は、3回とも不合格になった時の事を聞かれるとは思っていなかったようだ。
「彼女は、そういう所がありますからね。まあソレが、ヒフミさんの良い所でもあるのですが・・・・」
“・・・・・・・・”
その口ぶりから、ナギサはヒフミの事を気に入っているのご
「さて、質問にお答えしますと、簡単なお話です。試験で不合格を繰り返す、落第を逃れられそうにない、助け合う事もできない・・・・だとすれば皆さん一緒に、『退学』していただくしかありません」
“『退学』!?”
『ピカ!?』
『ルォ・・・・』
ナギサは『補習授業部』の皆が3回も不合格になれば『退学』になる事を述べ、ソレを聞いて先生は思わず聞き返す程に驚いた。
「勿論、本来はここ〈トリニティ〉にも『落第』、『停学』、『退学』等に関する校則が存在します。ただ、手続きが長くて面倒でして、沢山の『確認と議論』を経なければなりません。〈ゲヘナ〉とは違って、我々は手続きを重要視しますので」
“・・・・・・・・”
良くも悪くも自由な〈ゲヘナ〉と違い、〈トリニティ〉は色々と伝統やしきたりが多いのは聞いていたが、どうやら先生達が思っていた以上に面倒な手続きが必要のようだ。
「ですが今回急造された『補習授業部』は、このような校則を無視できるように調整してあります。〈シャーレ〉の権限を少し組み込ませていただいた事もあり、このような措置が可能となっているのです」
“でも、何でそんな回りくどい事をしているの・・・・?”
〈シャーレ〉の権限を利用してまで、『補習授業部』の皆を『退学』する事ができるように細工したと言い、先生は疑問を投げ掛けた。
「そもそも、『補習授業部』は・・・・」
一泊置いてから、ナギサは口を開いた。
「・・・・生徒を退学させる為に作ったものですから」
“・・・・!?”
『『!?』』
するとナギサは、彼女は『補習授業部』は、“生徒達を退学させる為に作った”、と言い出したのである。
“どうしてそんな事を・・・・!?”
「・・・・あの中に、“トリニティの裏切り者がいるからです”」
“『裏切り者』・・・・?”
先生は当然、ナギサが『補習授業部』のメンバーを退学させようとする理由を問う。
そしてナギサは、『補習授業部』のメンバーの中に『裏切り者』がいると言い出した。
「その『裏切り者』の狙いは、『エデン条約締結の阻止』。この言葉が持つ重さを理解していただくには・・・・『エデン条約』とは何か、という説明が必要ですね」
ナギサはテーブルの上に、〈トリニティ〉と〈ゲヘナ〉の校章がプリントされた、『機密情報』の書類が入ったフォルダーを置いて説明する。
「『エデン条約』・・・・簡単に申し上げれば、〈トリニティ〉と〈ゲヘナ〉の間に結ばれる『不可侵条約』です。その核心は、〈ゲヘナ〉と〈トリニティ〉の中心メンバーが全員出席する、中立的な機構を設立する事にあります。『エデン条約機構‹Eden Treaty Organization›』、『ETO』と呼ばれるであろうこの団体が、〈トリニティ〉と〈ゲヘナ〉の間で紛争が起きた時に介入し、その紛争を解決する事になります」
“・・・・・・・・”
「これにより、二つの学園の間で全面戦争が起きる事はなくなります。誰かが踏み込めば、両陣営が仲良く共倒れしてしまうことになりますので」
ナギサが以前話すには時間が足りないので、説明しなかった『エデン条約』の全貌を教えてもらった。
「・・・・先生。〈トリニティ〉と〈ゲヘナ〉の長きに渡る敵対関係は、お互いに大きな重荷になっています。『エデン条約』はその無意味な消耗を防ぐ為の、恐らくは“唯一の方法であり、〈キヴォトス〉における力のバランスを保つ為の方法でもあります”」
『エデン条約』の締結の意義を説明していく。
「さらに、『エデン条約』は『連邦生徒会長』が提示した解決策でもありました。彼女が行方不明になってしまい、1度は空中分解しかけた物を、私の元でどうにかここまで立て直したのです」
“『連邦生徒会長』が・・・・”
さらに元々は、『エデン条約』の事を計画したのは失踪した『連邦生徒会長』だったとナギサが語り、1度は空中分解しかけた計画をどうにかここまで立て直した事を先生に伝えた。
「そしてこの念願の条約が締結される直前まで来た、このタイミングで・・・・コレを妨害しようとする者達がいるという情報を耳にしてしまいました。まだ、それが誰なのかは分かりません。特定には至りませんでした。ソコで、次善の策として・・・・その可能性がある『容疑者』を1カ所に集めたのです」
“(まさか、『補習授業部』の皆の中に・・・・!?)”
「・・・・『裏切り者』はソコにいます。ですが、誰なのかは分かりません。であれば、1つの箱に纏めてしまいましょう・・・・いざという時に、まとめて捨ててしまいやすいように」
『エデン条約締結』の直前という大事な時期に、ソレを排除しようとする『裏切り者』がいると事を聞いて、ナギサは疑わしい人物達を1カ所へ集めた。
そしてソレが、『補習授業部』であるという事を先生は悟った。
「・・・・ごめんなさい。こんな血生臭いことに先生を巻き込んでしまいました。私の事は、罵っていただいても構いません」
“・・・・でも本当に私を利用する気だったら、こうして今話してくれないよね?”
「・・・・流石、理解が速いですね。言っても信じてもらえるかと思っていましたが、仰る通りです。こうなったらお話は早いですね」
説明を終えると、ナギサは先生に巻き込んでしまったことを謝罪する。だが先生はナギサの真意を感じ取り、彼女に言葉を返した。
「先生。・・・・『補習授業部』にいる『裏切り者』を、探していただけませんか?」
“・・・・・・・・”
そして遂にナギサは、『裏切り者を探して欲しい』と先生に依頼した。『落第生への特別授業』と言うのは建前で、コレが本当の『依頼』であったようだ。
「先生を、〈トリニティ〉を騙そうとしている者がいます。平和を破壊しようとする『テロリスト』です。私達だけでなく、〈キヴォトス〉全体の平和を、自分達の利益を天秤にかけようとしているのです。『裏切り者』を探し出す事が、〈キヴォトス〉の平和に直結します。いかがでしょう、『連邦捜査部シャーレ』としてご理解いただけますと幸いなのですがーーーー」
険しい顔で〈トリニティ〉の『裏切り者』を探す重要性を説明し、最後ににこやかな笑みを浮かべて言うが・・・・。
“・・・・私は私のやり方で、その『問題』に対処させてもらうね”
しかし、先生は自分のやり方で対処すると言って、彼女の提案を断るのであった。
「・・・・そうですか。分かりました。・・・・ですが、先生。ゴミを細かく選別して捨てるのが難しい時は、箱ごと捨てるというのも手段の1つ・・・・そうは思いませんか?」
つまりソレは、目をかけているヒフミですら、容赦なく切り捨てると言う考えだ。学園の代表としての『苦渋の決断』だと理解しても、先生は納得しない。
「それからもう1点・・・・『試験』については基本的に、“私の手のひらの上にあります”。例えば『急に試験の範囲が変わる』ですとか、『試験会場が変わる』ですとか、『難易度が変わる』ですとか・・・・。そういった事が起きない事を祈っていますが・・・・」
『・・・・・・・・(バチバチッ)』
『・・・・・・・・(ゴキッゴキッ)』
ナギサからの協力要請を断った先生に、ナギサはやんわりと釘を刺す物言いをし、目を細めたピカチュウとルカリオは、小さく頬から放電したり、拳を鳴らしたりする。
『・・・・・・・・』
『『(オロオロオロオロ)』』
「・・・・失礼しました、良くない物の言い方でしたね。ソレではこれからも、引き続き補習授業部をよろしくお願いします、先生」
ソレを見たイエッサン(♂)はナギサを守れるように身構え、タブンネとポットデスはオロオロとしだす。
そして、『補習授業部』の事について、形式上としてナギサが先生に頭を下げると、イエッサン(♂)達も頭を下げた。
「私達の方から、先生に対して不利益や損害を与える事はありません・・・・と、言いたいところなのですが・・・・」
“・・・・そうとも言い切れないのかな?”
「・・・・そうですね。簡単にはお約束しかねます」
頭を下げた後に、ナギサはまたも先生に釘を刺すように言い、さらに今度は先生自体に損害を与える可能性まで示唆するのであった。
ーーーーカタカタカタカタカタカタ・・・・!!
今度はイーブイ(色違い)と御三家までも、外に出てナギサに物言いたそうにモンスターボールを揺らし、先生は静かに、「落ち着いて」と言いたげにボールを撫でた。
「ですが、だからといって、先生が生徒たちを放っておくような方ではないと思っておりますので・・・・コレからの展開は私にも予測しきれません。どうかこの結末が・・・・できるだけ、苦痛を伴わないものであるとこを願うだけです」
“うん・・・・。考え方は違っても、ソレはナギサと同感かな”
「ああ、ですが一つだけお伝えしておきますと・・・・。『1次試験』において、私達の方では如何なる操作も行っておりません。この部分については、誓って嘘ではない事をお約束します」
“・・・・・・・・”
今一信用できないような事を言うナギサに、先生のポケモン達は(イーブイと御三家はボールに納まりつつも)不快そうにナギサを見据えていた。
「『先生なりのやり方』・・・・ソレが、〈トリニティ〉に利するものである事を願っていますね」
“・・・・うん。私も、ナギサが納得してくれる事を祈るよ。本当はーーーー“生徒と腹の探り合いなんかしたくないからね”・・・・”
「・・・・それでは、また」
遠回しに、ナギサと敵対する事を望んでいないと暗に告げ、ナギサは表面上はにこやかに応じ、先生はピカチュウ達を連れてテラスから退出した。
◇
「ーーーー先生、見てくれ」
翌日の朝。〈トリニティ総合学園〉の裏門に集まり、『合宿所』に向かおうとする先生と『補習授業部』の面々。
すると、大きなリュックサックを背負ったアズサが、『抱っこ紐』に包まれてフルフルと揺れる『ポケモンのタマゴ』を見せた。
“おや、コレはポケモンが生まれるね”
「やはりか・・・・!」
アズサは始めて見せるはしゃいだ様子で、タマゴを抱っこ紐から出すと、地面にサッとハンカチを広げてソっと置いた。
ヒフミとガルーラ、コハルとヘラクロス、ハナコとジュペッタも、どんなポケモンが生まれているか少し興味が出たのかアズサと共に見ると。
ーーーーピシピシピシピシ・・・・パカァン!
『リュー、リュー・・・・』
「おぉ・・・・!」
タマゴを割って出てきたそのポケモンは、細長く手足のない薄い水色の身体をしており、愛くるしいつぶらな瞳に、ギザギザの特徴的な耳鰭を生やしている。体色は背中側と頭部が青で、腹側と鼻先が白く、おでこには白く丸い出っ張りは未成熟の角をした『ドラゴンポケモン・ミニリュウ』であった。
「ミニリュウだ・・・・!」
「『ドラゴンタイプ』って、『フェアリータイプ』が主軸の〈トリニティ〉だとかなり不利じゃないの?」
『ヘラクロス』
「あら、そうとも限りませんよ。相性が悪くても、攻撃が当たらなければ意味はありませんし、アズサちゃんなら強く鍛えられそうです」
『ジュペジュペ』
「おめでとうございますアズサちゃん!」
『カルゥ!』
『ガルラ』
他のメンバーも、新たに生まれたポケモンに各々なりに祝福した。特に母親のヒフミのガルーラは感慨深そうな笑みを浮かべて頷いていた。
“やったねアズサ、おめでとう。ハイこれ、折角だから、ミニリュウの成長記録をつけてね♪”
「むぅ・・・・」
『リュー、リュー♪』
「・・・・・・・・」
何故か自分だけ『課題』が増えてしまい、アズサは不満げな顔をして憮然となり、ミニリュウはアズサによじ登って、首にぶら下がり、甘えるようにアズサに頬擦りすると、アズサは薄く笑みを浮かべてミニリュウの頭を撫でた。
はい。アズサとミニリュウはこうして出会いました。