ーヒフミsideー
合宿3日目の朝。外では小さな鳥系のポケモン達が可愛い鳴き声をあげていた。
「ふぁ・・・・・・・・おはようございます」
「(ポンッ)ーーーーガァラ〜・・・・!!」
「カルラ!」
寝起きで身体を少し伸ばしてから、ヒフミは笑顔でメンバーに挨拶した。ヒフミに続くように、モンスターボールから出てきたガルーラ親子も挨拶をする。
◇
そして教室で『補習授業部』は勉強に励む。
「・・・・よし」
「・・・・・・・・」
「んん・・・・?」
ミニリュウの成長記録を付けつつ、勉強も真面目に取り組むアズサ。
自分の勉強はソレなりに取り組み、にこやかな笑顔で皆を見ているハナコ。
分からない問題に眉根を寄せながら、頑張って答えを出そうと考えているコハル。
「(・・・・あれ? そう言えば今朝から、先生達が見当たらないような・・・・)」
ヒフミも勉強しつつ、先生とピカチュウとイーブイの姿が無い事を訝しそうにしていた。
因みに、ルカリオはハリセンを持って、勉強から脱線しないように見張り役。御三家とヘラクロスとジュペッタとガルーラはボールに収められており、ミニリュウはアズサとのパートナーシップ向上の為に出されている。
「(先生達、一体どこに・・・・?)」
ー先生sideー
その頃、先生は両肩にピカチュウとイーブイを乗せて、プールに行くと、純白の制服に鮮やかなピンク色の髪をした、一見するとお姫様のような1人の生徒と3匹のポケモン達がいた。
「わぁっ、水が入ってるー!」
『イエッサン』
『カヌチャ』
『ブルルル』
『ティーパーティー』のホストの1人、聖園ミカとパートナーであるイエッサン(♀)とデカヌチャンとガラルギャロップであった。
「あはっ、ここに水が入ってるなんて久しぶりに見たなー。もしかしてこれから泳ぐの? それともみんなでプールパーティー?」
この日、先生はミカにプールへと呼び出されていた。先生が連れているのはピカチュウとイーブイであり、『補習授業部』には彼女と会う事は伝えていない。
“お待たせ。用件を聞いてもいいかな?”
『ピカチュウ』
『ブイ・・・・』
「・・・・えへへ。先生は上手くやってるかな、って思って☆」
ミカは様子を見にきたと言って先生の方へと近づく。だが、何やらイーブイが半眼でミカの事を見据えていた。
「にしてもナギちゃん、ずいぶん入れ込んでるみたいだねー。こんな施設まで貸し出しちゃって。ところで、合宿の方はどう? 遠いのを良い事に、何か楽しそうな事してたりしない? 例えば皆水着でプールパーティーとか!」
“・・・・・・・・”
ミカが親しみやすく話しかけているが、先生はいきなり呼び出された事で警戒していた。
「・・・・あはっ☆ ソコまで警戒されちゃうのは心外だなー。私こう見えても繊細で、傷つきやすいんだよ? 」
『『・・・・・・・・』』
「所でここ、食事とか大丈夫? 何か美味しい物でも送ろうか? ケーキとか紅茶とか」
先生の態度を心外だとミカは笑っているが、ピカチュウとイーブイは彼女を黙って睨みつける。3人の視線に観念したのか、ミカは観念したように声を発する。
「・・・・・・・・ふふっ、ごめんね。先生もあんまり長い前置きは好みじゃないかな?」
『カヌチャ・・・・』
「そうだねデカヌチャン。じゃあ、本題に入るとしよっか?」
ミカは先生との会話を盛り上げようとしてみたようだが、あまり意味が無かったので本題に入ろうとする。
「あっ。ちなみに私がここにいることについて、ナギちゃんは知らないよ? 見ての通り、付き添いも無しの私の単独行動!」
どうやら、ここにはミカの独断で来たようだ。
「と言う訳で、改めて本題だけどーーーー・・・・先生、ナギちゃんにから『取引』とか『提案』されなかった?」
“『取引』?”
「例えば、そうだなぁ・・・・『トリニティの裏切り者』を探してほしい、とか」
本題に入ったミカは、ナギサに『トリニティの裏切り者を探す』よう取引されたかと聞いてきた。
“・・・・・・・・”
『『!?』』
「・・・・ふぅ、やっぱり。もうナギちゃんったら、予想通りなんだから」
ミカにナギサとの取引を問われた先生は、何も答えず押し黙る。しかし、先生の態度と横に居たピカチュウとイーブイの反応から、ナギサに取引を持ち掛けられたことを悟ったようだ。
「何か詳しい情報とかは? そう言うのは何も無しで、ただ『探して』って言われた感じ? 『理由』とか、『目的』とかは? どうして『補習授業部』がこういうメンバーで構成されてるのかとか、ナギちゃんは教えてくれなかった?」
“いや、教えてもらってないけど・・・・”
「・・・・そっかー。もう、何も教えずに先生にこんな重荷を背負わせるなんて・・・・」
“・・・・その提案は断ったよ”
さらにミカはナギサに呆れながら、情報をどこまで教えてもらっているのかを先生に聞くが、先生はミカにナギサの提案は断ったと言った。
「・・・・え? そうなの? どうして? 自分の生徒を疑いたくないから? それともーーーー」
“それは、私の役目とは違うかなって”
「・・・・へぇ?、」
ミカに断った理由を先生に聞くと、先生は『自分の役目ではない』と答える。ソレを聞いたミカは、少し先生に興味を持ったような顔をする。
「そっかそっかぁ・・・・確かに先生は、『シャーレ』の所属だもんね。トリニティとは本来無関係の『第三者』。成る程ね。まあ、私達にとってはずっと〈トリニティ〉そのモノが世界の中心みたいな感じだから、アレだけど・・・・面白い答えだね。成る程、新鮮かも。ソレはソレで正しいよね」
“・・・・・・・・”
ナギサの提案を拒否したという先生の話を聞いて、ミカは1人で納得したようである。
「それじゃあ先生は、誰の味方?」
笑みを浮かべながら目を細めたミカが、先生の目を見上げて探るように問う。
「もし〈トリニティ〉の味方じゃないんだとしたら・・・・〈ゲヘナ〉の味方? もしくは『シャーレ』の大元である〈連邦生徒会〉かな? ソレとも、誰の味方でもない・・・・とか?」
そして、ミカは先生は誰の味方なのかと、答え難い質問で先生を問い詰めるミカ。
“私は、生徒たちの味方だよ。ソコに〈ゲヘナ〉だの、〈ミレニアム〉だの・・・・〈トリニティ〉だのなんて関係ないよ”
「・・・・・・・・あ、あぁー・・・・。生徒達の味方、かぁ・・・・それは予想外だったなー・・・・」
先生は何の逡巡も躊躇いも無く、自分は『生徒達の味方』だと答える。目をパチクリとさせたミカが、先生から少し離れ、困ったように苦笑した顔になる。
「・・・・あ、あのさ・・・・って言う事は、その・・・・先生は一応、私の『味方である』・・・・って考えても良いのかな? 私も一応この立場とはいえ、『生徒』には変わりないんだけど・・・・」
『・・・・・・・・』
その『答え』を聞いて、自分の味方でもあるのかと再び先生に問いかけるミカ。その目には、妙な輝きがあった。
そしてミカのその態度が、イーブイは目を細める。
“もちろん、ミカの味方でもあるよ”
「・・・・わーお。サラッと凄い事を言ってのけるね、先生・・・・」
『(イラッ)』
『ピカピカ・・・・』
「『大人』だねぇ。そういう話術?って思う気持ちもあるけど・・・・うん、ちょっと純粋に嬉しいかも。えへへ・・・・」
そして先生はミカのことも味方であると、堂々と答える。思っても見なかった答えに、ミカは今日一番の驚きの声をあげ、その態度にイーブイはイラッと来てしまい、ピカチュウに宥められた。
「・・・・でも、それを額面通りに受け取るのもちょーっと難しいなぁ・・・・だってそれは同時に、“誰の味方でもない”って解釈もできるよね? だからそのまま受け取るんじゃなくて、私から先生に『取引』を提案させてもらおうかな」
“『取引』・・・・?”
だが、ミカは先生の言葉を額面通りには受け取らないと言って、『取引』を持ち掛ける。
『ブイィ〜ッ! ブイブイブイ〜!!』
「えぇー? 良いのかなぁ・・・・そんな怖い態度取っちゃってさぁー。私だって先生にタダで私の『取引』に応じて欲しいって言ってるんじゃないんだよ? コッチも先生が気になることを知ってるんだからね?」
ソレを聞いたイーブイはミカの態度に怒ったのか、歯をむき出しにして、「そんなの必要ないから先生から離れろ! さっさと出ていけ!!」と、言わんばかりに威嚇した。しかし、ミカはイーブイの威嚇に構わず、先生との取引を進めようと、先生にソっと近づき、声を潜めて話し出す。
「『補習授業部』の中にいる『裏切り者』が誰なのか、教えてあげる」
“・・・・っ!”
「ナギちゃんの言う『〈トリニティ〉の裏切り者』、今必死に探して退学にさせようとしているその相手。実際の所、もう少し複雑で大きい問題もあるんだけど・・・・今このまま、先生がナギちゃんに振り回される姿を唯々見てる・・・・何て言うのは、ちょっと申し訳ないなって」
ミカが『取引』の為に持って来た『情報』と言うのは、ナギサに探すように言われている『〈トリニティ〉の裏切り者』の『正体』についてであった。
「・・・・そもそも、先生の事を『補習授業部』の担任として招待したのは私だからね。この事は知ってた?」
“ミカが・・・・?”
どうやら、先生を『補習授業部』の『顧問』にしたのは、ミカの提案だったようである。
「うん、ナギちゃんにはずっと反対されてたんだけどね。せっかくの『借り』をこんな風に使うのはどうとかこうとかで。先生とナギちゃんの間に、色々あったんだね?・・・・まあ、私の方にも色々あって。〈トリニティ〉でも〈ゲヘナ〉でもない、『第三の立場』が欲しかったの」
ナギサの言う『借り』と言うのは、〈アビドス〉で兵力を貸した事だろう。そしてミカは、『〈トリニティ〉の裏切り者』の正体を知っていると言った。
「・・・・ああ、『裏切り者』のお話だったね。『補習授業部』にいる、『〈トリニティ〉の裏切り者』、それは・・・・」
そして、ミカが先生に呟いた。
「・・・・白洲アズサ」
ーアズサsideー
時間は少し遡り、夜遅く。
「・・・・・・・・・・・・」
ミニリュウを連れないで見張りとして外に出ていったアズサは、『合宿所』からコッソリと抜け出し、〈トリニティ〉の自治区にある『廃墟』へと向った。
「ーーーー遅かったな」
「・・・・・・・・」
『廃墟』にてアズサは、1人の女性と対面した。
裏が青となっている長い黒髪に黒い帽子を被り、顔の半分を隠す程の軍用マスクを付け、その目は大型の鳥系ポケモンのように怜悧で鋭く、スラリと引き締まった体躯に長い手足をし、ヘソ出しノースリーブインナーの上に白いロングコートを崩して羽織っている格好をし、その手にはアサルトライフルを所持した。
足元には〈ゲヘナ〉のイオリと同じく、『ダークポケモン・ヘルガー』がいるが、コチラは黒い肌が青っぽい紺色となり、赤い部分はオレンジになる『ダークポケモン・ヘルガー(色違い)』であった。
そしてその女性はアズサに問い掛ける。
「守備は?」
「・・・・今の所、“計画通り”」
アズサは静かに、その問い掛けに応えた。
ー先生sideー
そして現代。先生はミカから聞かされた、『〈トリニティ〉の裏切り者』の名を。
『ピカァッ!?』
『ブイブイッ!!』
“アズサが・・・・?”
ミカが名を明かした『〈トリニティ〉の裏切り者』の名は、白洲アズサであった。そしてその名を聞いて、ピカチュウは驚愕し、イーブイは「デタラメ言うな!!」と威嚇し、先生は動揺してしまうのは必然であった。ミカは、ソレでも話を続ける。
「うん。知ってるかもしれないけどあの子、実は〈トリニティ〉に最初からいた訳じゃないんだ。随分前に〈トリニティ〉から分かれた、いわゆる『分派』、〈アリウス分校〉出身の生徒なの。・・・今の所うーん、よく考えると『生徒』って呼んで良いのか分からないんだけどね」
“どういう事?”
「『何かを学ぶ』ということが無い生徒のことを、生徒って呼べるのかな?」
更にミカは、アズサは昔〈トリニティ〉から分かれた、〈アリウス分校〉なる分派出身である事も明かした。
“この事を、私に教える理由は何?”
「・・・・ふふっ」
思わず目を細める先生を見て、ミカは小さく笑みを浮かべる。
「・・・・良い眼だね、本当に。期待しちゃうな。アレコレ誤魔化しても仕方なさそうだし・・・・うん、端的に言おっか」
“・・・・・・・・”
「あの子を、守ってほしいの」
そしてミカは、『〈トリニティ〉の裏切り者』であるアズサの事を、守ってほしいと言い出したのだ。
“ーーーーアズサが、裏切り者だって言ったね・・・・?”
「うん。ソレで、あの子を守ってほしいの」
『裏切り者』である筈のアズサを守って欲しいと言い出したミカに、どう言う意図があるのかも
「・・・・あー、ごめんね、ちょっと単刀直入すぎたかな? ナギちゃんの悪い癖が移っちゃったのかも。戸惑ってる先生達の為に、もう少し最初の方から説明してみようかな? 私はナギちゃんとセイアちゃんみたいに、あんまり頭が良いわけじゃないんだけど・・・・。ちゃんと伝わるように、頑張ってみるね、」
“うん、お願い”
しかし、先生達は分からない部分が多かったので、ミカは先生達に分かりやすく説明を始めた。
「まず、この〈トリニティ総合学園〉について。ナギちゃんがこの前言ってた通り、その1番の特徴は『沢山の分派が集まってできた学校』だって事」
“・・・・・・・・”
『『・・・・・・・・』』
「〈パテル〉、〈ファリウス〉、〈サンクトゥス〉・・・・この3つの分派が〈トリニティ〉の中心になったって言うのは前も話した通り。でも正確には他にも、今の『救護騎士団』の前身に当たる派閥とか、『シスターフッド』とかも含めた大小さまざまな派閥が幾つもあるの」
つまり、様々な派閥が集まり、その3つの分派が中心となって出来上がって、トリニティ‹3つ組›となり、〈トリニティ総合学園〉となったと言う訳である。
「元々そう言う沢山の派閥が、まるで今の〈トリニティ〉と〈ゲヘナ〉みたいな形で、お互いにお互いを敵視してて。毎日毎日ポケモン達、ソレこそ、『伝説級のポケモンを大量に呼び出して』まで使った紛争ばっかりの時代があったんだって」
“『伝説級のポケモン』? でも、彼らがそう簡単に〈トリニティ〉に集まるなんて・・・・それに、彼等を簡単にゲットして戦力にできたの?”
先生の疑問は尤もである。『伝説級のポケモン』が1か所に集まるなんて先ずないし、そもそもゲットして手持ちするなんて並のトレーナーでは不可能だ。できるとしたら、〈ゲヘナ〉のヒナや〈ミレニアム〉のネル、『正義実現委員会』のツルギやハスミくらいの実力者では無いと不可能であろう。
「うん。先生の疑問は尤もだね。でも、当時の〈トリニティ〉には、ソレができる『存在』がいたの。今は『その存在』は封印されているんだけどね」
ミカは先生の疑問にそう応えて、話を戻そうとする。
「ーーーー話を戻すね。ソコで、『もうこれ以上戦いを続けるんじゃなくて、仲良くしよう』っていう約束をすることになったの。私たちはもう戦わなくて良い、一つの学園になろう・・・・そんな話をしたのが、いわゆる『第一回公会議』」
“うん、どこかで聞いた事ある”
「そうだよね、ソレで・・・・その会議を経て生まれたのが、今の私たちがいる〈トリニティ総合学園〉。今でも分派だった頃の余波が無いと言えば嘘だけど・・・・時代の流れって所かな? 今ではもう、そんなの全然気にしてないっていう声の方が多いはず」
ミカはソコまで説明すると、小さく溜め息を吐いてから続ける。
「でもその会議は、円満に話し合いが終わった訳じゃなくて・・・・その時、最後まで反対していた学園があったの。それが、〈アリウス〉」
賛成する者達がいれば、反対する者達も現れるのは当然とは言え、ソコから何やらキナ臭い雰囲気が出てきた。
「元々は私達とあんまり変わらなかった筈の、1つの分派。経典に関するちょっとした解釈の違いがあったくらいで、結構色んなところが似てたんだって。ちゃんとチャペルの授業もあったし、見た目のほとんど一緒で・・・・それでいて、〈ゲヘナ〉の事を心底嫌ってた」
“・・・・・・・・”
『『・・・・・・・・』』
「でも、そのアリウスは連合を作る事に猛烈に反対して・・・・最終的には、争いに繋がっちゃったの。連合になって強大な力を持つようになった〈トリニティ総合学園〉は、『伝説級のポケモン』達を呼び寄せて、その大きな力で〈アリウス〉を徹底的に弾圧し始めた」
元々〈アリウス〉は〈トリニティの派閥〉と大した違いはなかった。しかし、〈アリウス〉は連合となるのに猛烈に反対し、結果的に〈トリニティ〉から弾圧されたようである。
「あまりにも大きな力を持ち過ぎると、その強さを確認したがる・・・・なんて言うのは、ポケモン達にも言えるけどね。詰まる処、〈アリウス〉は悲しい事に丁度良いターゲットだったって言えるのかもしれない。そうして、アリウスは潰された。そして〈アリウス〉は『トリニティ自治区』から追放されて、今は・・・・詳細は分からないけど、キヴォトスのどこかに隠れてるみたい。相当激しい戦いだったんだろうね。その後全然見つからないような場所に隠れたみたいで、多分、〈連邦生徒会〉ですら未だにその自治区が何処にあるか分かってないくらいなの」
〈トリニティ〉によって、徹底的に潰された〈アリウス〉は、現在〈キヴォトス〉の何処かで息を潜めて暮らしているとの事だ。
表面はお淑やかで美しい〈トリニティ〉だが、裏面はかなり殺伐でドロドロとした歴史があったようである。
「大半の生徒たちにとっては、『そんな学園あったっけ?』って感じだと思う。殆どはきっと、そんな争いがあったことすら知らない。そうして表舞台には姿を現さなくなって、今となってはその影すらも薄くなってしまった存在・・・・それが『アリウス分校』だよ」
“アズサがその、『アリウス分校』の出身・・・・”
「うん」
先生は改めて、アズサがその『アリウス分校』の出身である事を再確認ミカに問うと、ミカはコクリと頷く。
どうやらアズサの背景には、とてつもない暗い影が潜んでいたようである。
「それで・・・・ナギちゃんが推進している『エデン条約』、アレはさっき話してた『第一回公会議』の再現なの。『エデン条約』・・・・大きな2つの学園が、これからは仲良くしようねって約束」
“・・・・・・・・”
「・・・・何だか、良いお話に聞こえるよね? でも本当の所はどうだろ。だってその核心は、〈ゲヘナ〉と〈トリニティ〉の武力を合わせた『エデン条約機構』、通称『ETO』と呼ばれる全く新しい武力集団を作る事なのに」
ミカは話を現在に戻し、『エデン条約』はかつて行われていた『第一回公会議』の再現だと言った。
「・・・・そう、『エデン条約』って言うのは、言ってみればある種の『武力同盟』。〈トリニティ〉と〈ゲヘナ〉の戦力を合わせた、一つの大きな『武力の集団の誕生が目的』・・・・」
ナギサの『目的』は、『〈キヴォトス〉の『3大校』の2つ学校で同盟を結び、〈キヴォトス〉最大の武力集団を作る事』、であると伝えた。
「そんな、圧倒的な力を持つ集団が誕生するの・・・・『連邦生徒会長が行方不明』、って言う、こんな混迷の時期に。その大きな力を使って、ナギちゃんは果たして何をしようとしてるのかな? 会長が不在の〈連邦生徒会〉を襲撃して、自分が『連邦生徒会長』にでもなるとか? それとも〈ミレニアム〉っていう新しい芽を摘んでおくとか?」
ミカはエデン条約を締結した後のナギサの目的を推察する。彼女は〈連邦生徒会〉だけでなく、〈ミレニアム〉の名前すらも出して、先生達の危機感を煽ろうとする。
「もちろん細かい目的は知らないけど・・・・でも、コレだけはハッキリ言えるよ。そんなに大きな力を手に入れたら、きっと自分が気に入らないものを排除する・・・・。昔、〈トリニティ〉がアリウスにしたみたいにね。あるいはもしかしたら、セイアちゃんみたいに・・・・」
““セイアみたい”・・・・?”
「・・・・ううん、ごめんね。今のは失言だったかな」
不意に口にしたセイアの名前に、ミカは「しまった」と言わんばかりに口を閉ざすが、ソレで黙っている先生ではない。
“セイアは、何があったの? 入院してるって聞いてるけど?”
「・・・・・・・・前にお話しした通りだよ。セイアちゃんは、入院中なの」
“・・・・今どこにいるのか、聞いても良い?”
「うーん・・・・。先生は、本当に知りたい?」
『イエッサン・・・・』
『チャー!』
『ブルルル!』
ミカは以前と同じく入院中と答えが、先生はミカの反応を見て、ミカは何かを隠していると確信を持ち、セイアの居場所を問う。
そしてソレを聞いてミカは、セイアの真実を知りたいのかと先生に確認するが、ソレまで黙っていたイエッサンとデカヌチャンとガラルギャロップが諌めるように声を上げた。
が、ミカは3匹に向けて手の平を出して、「黙っていて」と無言に示すと、3匹は引いた。
「・・・・・・・・この話をしたら、もう私は戻れない。もしこの先の事実を知った先生が、私のこと事裏切ったら・・・・私はきっともう終わり。それでも、知りたい?」
“裏切るだなんてーーーー”
「・・・・ううん、でも大丈夫だね。だってさっき、先生は私の味方って言ってくれたもん。もしこれで裏切られたって、何て言うのかな・・・・うん、ソレはソレで悪くないと思う。えへへっ」
ミカは先生に真実を教える前に、最後の確認を取る。先生は「裏切らない」と言おうとするが、ミカはソレを遮り、話を続ける。
“・・・・・・・・”
「・・・・セイアちゃんは入院中なんかじゃない」
そう言いながら、ミカは先生に近づき、ソっと呟いた。
「“ヘイローを、壊されたの”」
“・・・・!?”
『ピカ!?』
『ブイ!?』
そして遂に、ミカはセイアの『真実』を口にした。
『ヘイロー』。ソレは〈キヴォトス〉の人間ならば後頭部にまるで天使の輪のように浮かぶ光輪。その形は多種多彩。その光輪の恩恵にて、〈キヴォトス〉の生徒達は高い防御力を有しているのであり、ソレは生徒達の生命とも言えるのだ。
セイアは入院ではなく、その『ヘイロー』を破壊された。つまりソレは、〈キヴォトス〉の人間にとって、『死亡してしまった』と言うのである。
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
ソレを聞いた先生とピカチュウとイーブイは驚き、思わずミカに、『質の悪い冗談』なのかと見つめるが、ミカは目を伏せてフルフルと首を横に振った。
「冗談じゃないよ、本当の事。去年、セイアちゃんは何者かの手によって唐突に襲撃された。対外的には『入院中』って事になってるけど・・・・ソッチの方が『真実』。私達『ティーパーティー』を除けば、この事はまだ〈トリニティ〉の誰も知らない。もしかしたら、『シスターフッド』には知られてるかもだけど・・・・あそこの情報網は半端じゃないからね。とにかく、それ位『秘匿事項』なの」
“犯人は、まだ・・・・?”
「・・・・うん、分かってない。『捜査中』って言うか、何も分かってないっていうか・・・・元々セイアちゃんは、秘密の多い子だった事もあってね。・・・・うん、まあそう言う事なんだ」
『ティーパーティー』の『ホスト』の1人のヘイローが破壊された、なんて、大スキャンダルになるので『秘匿』されており、しかもまだ『犯人』は見つかっていないと来たのだ。
「とは言っても、『目星』が付いてない訳ではないんだけど・・・・今の段階で唯の推測を口にするのもね」
“・・・・・・・・”
「・・・・ソレで、話は戻るんだけど。『白洲アズサ』・・・・あの子をこの学園に転校させたのは、私なの」
“ミカが?”
「うん、ナギちゃんには内緒でね。生徒名簿とかそう言う書類を全部捏造して、あの子を入学させた」
ミカは話をセイアから〈アリウス〉とアズサの事へと戻し、アズサを転入させたのは、自分であると伝えた。
「・・・・どうして?って、思うよね。 『アリウス分校』は今もまだ、私達の事を憎んでいる。私達はこうして豊かな環境を謳歌しているのに、彼女達は劣悪な環境の中で、『学ぶ』と言う事が何なのかも分からないままでいる・・・・。私達から差し伸べた手を、〈連邦生徒会〉からの助けも拒絶し続けてるの。過去の憎しみのせいで。・・・・私は、『アリウス分校』と和解がしたかった」
勉強をしているアズサを見ていると、今まで『学び』ができていなかったのが良く分かる。そしてミカは、〈アリウス〉と和解がしたかったからと答えた。
「でもその『憎しみ』は、簡単には拭えない程大きくて・・・・コレまでの間に積みあがった『誤解と疑念』もあまりに多い。私の手には、負えないくらいに」
しかし、〈アリウス〉は〈トリニティ〉に対しての『恨み』を未だに持っていたようで、ミカの望み通りにはいかなかったようである。
「けどナギちゃんもセイアちゃんも私の意見には反対だった・・・・『政治的な理由』でね。でも、ソレも分からない訳じゃない。私達は、『ティーパーティー』だから」
そして当然、ナギサとセイアにも政治的な理由で反対されたようである。
「私は不器用だから、そう言う『政治』とかはちょっと得意じゃないんだけど・・・・でも、また今から仲良くするのってそんなに難しいのかな? 前みたいにお茶会でもしながら、お互いの誤解を解くことはできないのかな?」
“・・・・・・・・”
その『答え』は、簡単ではない。長い歴史から積み上げられた『遺恨』と言うのは、簡単には拭え無いから。
「私はあの子・・・・『白洲アズサ』という存在に、『和解の象徴にな』って欲しかったの。あの子についてはソレほど詳しい訳でもないんだけど、〈アリウス〉でもかなり優秀な生徒だったみたいだし、その可能性に賭けたかった」
仲間の2人に反対されても、〈アリウス〉から拒絶されても、ミカは諦めきれなかったようであり、『和解』の理想を、白洲アズサに託して転入させたのが、ミカの真意であった。
「ナギちゃんを説得して、ちゃんと正式に進めるって言う手段もあったかも知れないけど・・・・ソコについてはちょっと疑っちゃったって言うか・・・・ナギちゃんはそう言うの、聞いてくれないだろうなって思って」
確かに、失礼だがナギサは真面目故にそう言う融通が利かなさそうなイメージがある。
「もし『エデン条約』が締結されたら・・・・その時はもう今度こそ本当に、〈アリウス〉との和解は不可能なものになっちゃう。だから、どうにかその前に実現させたかった。〈アリウス〉の生徒が〈トリニティ〉でもちゃんと暮らしていけて、幸せになれるんだって・・・・皆に証明して見せたかった。そんな中でナギちゃんが〈トリニティ〉に『裏切り者』がいるって言い始めて・・・・」
『エデン条約』が締結されれば、〈アリウス〉と和解する事は完全に無くなってしまうと、ミカは考えた。〈アリウス〉でも仇敵である〈トリニティ〉と共に生きていけると、証明したかった。しかし、ソコで『裏切り者』の存在が現れた。
「・・・・ナギちゃんが、どうしてそんな事を考え始めたのか分からない。私がそうやって動いてる時に、何かやらかしちゃったのかも知れない。ソレでナギちゃんは条約の邪魔をさせまいとして、『補習授業部』を作ったの。最初は『補習授業部』って何の事かと思ったけど・・・・あ、そう言えば先生、何であの子達なのかって、聞いた事ある?」
“・・・・いや、ソコまでは聞いてないよ”
「ーーーー彼処にいるのは、ナギちゃんが疑った子」
そして漸く、『補習授業部』の話になり、ミカは何故メンバーがあの4人なのかを先生に話し始めた。
「ハナコちゃんは、凄い変わったところがあるけど、本当に、本当に優秀な生徒。昔は生徒会長候補として、『ティーパーティー』の候補として挙がっていた事もあった位」
“(やっぱり・・・・)”
先生が察していた通り、『補習授業部』の4人はナギサが怪しいと疑った人物である。ミカは初めにハナコの経歴を話した。
「『シスターフッド』も、あの子を引き入れようと頑張ってたって聞いたな。上手くはいかなかったみたいだけど」
『ピカ〜・・・・?』
『ブイ〜・・・・?』
『シスターフッド』と言えば、『正義実現委員会』にも匹敵し、『ティーパーティー』にも意見できる〈トリニティ〉でも高い影響力を持つ組織だと聞いた。
そして、敬虔な修道女の組織に、今までの言動と奇行から、ハナコがスカウトされる姿が思い浮かばず、ピカチュウとイーブイは難しげに眉根を寄せる。
ソレを見て、イエッサン(♀)達も同意なのか、苦笑していた。
「礼拝堂での授業で、あの敬虔な空気の中1人水着を着て現れた時なんか凄かったね。私偶々ソコにいたんだけど、シスターに追い出されて、皆凄い表情だったんだよ。あはっ♪」
『『(コクコクッ!)』』
そして次に聞いた礼拝堂に水着で現れたハナコの奇行の話を聞いて、「ソレがハナコだよね」と言わんばかりに首肯した。
「・・・・でも、あんなに優秀で将来を見込まれてたのに、あの子は急に変わっちゃったの。落第直前の状態になるく位に。・・・・どうしてだろうね?」
優秀な生徒であったハナコが、急に奇行に走り、落第生となってしまって現在に至る。
「確かに、ソレで探りを入れたくなる気持ちは良く分かる。あの子は既に〈トリニティ〉の上層部とか色んな所と交流があって、結構な数の『秘密』を知っちゃったってこともあって。ナギちゃんにとっては、気にせざるを得ないだろうね」
“(・・・・多分、そう言うドロドロとした政治的な争いに嫌気が差したんじゃないかな? 『露出狂』になったのは分からないけど・・・・)”
そう言った事情があり、ハナコは〈トリニティ〉の上層部の秘密を色々知っていたが故に、ナギサが警戒しているとミカは考える。が、先生は〈トリニティ〉の政争に嫌気が差したのでは、と推測した。あの『露出癖』は理解できなかったが。
ミカはハナコの事をソコまで説明して、他のメンバーの事を話した。
「コハルちゃんは・・・・あの子はドロドロした政治とか、そんな事とは何の関係も無い、純粋で良い子なんだけど。何であの子がって話をすると・・・・ああ、そういう意味ではあの子は、『疑われたから』じゃないかな。その直接的な原因は本人じゃなくて、ハスミちゃんたちだね」
“ハスミ達・・・・?”
「『巨大な武器を持った存在』、それも特にハスミちゃんみたいに、『隠し玉ポケモン』を所持して〈ゲヘナ〉に対して強い憎しみを持っている存在が、自分の統制下に無いという『不安感』・・・・何かが起こるんじゃないかっていう『疑念』・・・・。ナギちゃんはソコに対して、何かしらの備えが欲しかったんだと思う」
“(ハスミって、そんなに〈ゲヘナ〉の事が嫌いなんだ・・・・でも、チナツに対して、そんなに敵意や憎悪を向けていなかったけど・・・・)”
コハルはただ『正義実現委員会の』一員であったが、『ティーパーティー』に従わない組織を抑え込む為に、『補習授業部』に入れられたようである。
しかし先生は、初めてこの〈キヴォトス〉に来た際の、ハスミとチナツの様子を見ていたが、ハスミが嫌っているようには見えなかった。
「『正義実現委員会』だったら多分、誰でも良かったんじゃないかな。ただ取り敢えず『成績が悪かった』から、あの子が選ばれた」
“ソレって・・・・『人質』って事?”
「その通り。察しが良いね」
先日、自分に内緒でハスミとコハルが話をしていたが、その時ハスミが声を荒げていたので、もしかしたらハスミも『退学』の事を知っているのかも知れない。
“・・・・・・・・”
しかし、ソレでも先生は、ハスミがソコまで〈ゲヘナ〉が嫌いとは思えなかった。
すると、ミカが以前起こった事を話した。
* * *
ソレはある日の、『正義実現委員会』の教室にて。
ーーーードンガラガシャーン!!
【クワクワッ!!】
【タイレーツ!!】
ネギガナイトとタイレーツが、暴れて教室の備品に当たり散らしているハスミを必死に抑えようとしていた
【・・・・・・・・・】
その、凶暴なドラゴンタイプのような荒れように、『正義実現委員会』の委員長にして、〈ゲヘナ〉のヒナ、〈ミレニアム〉のネルに並ぶ実力者であるツルギですらドン引きしていた。
【・・・・・・・・】
【ハ、ハスミ先輩、落ち着いて下さーーーー】
マシロもドン引きし、部員の1人が落ち着いてと言うがハスミは止まらない。
【絶対に、絶対に許しません!! 『万魔殿‹パンデモニウム・ソサエティー›』! 〈ゲヘナ〉っ!! どうして、どうしてあそこまで・・・・!!】
【ひっ・・・・!】
ハスミは、〈ゲヘナ〉の生徒会とも言える『万魔殿‹パンデモニウム・ソサエティー›』に何かされたのか、荒れに荒れていた。
そして、一頻りに暴れて、ある程度落ち着いたようである。
【はぁ・・・・はぁ・・・・。よく、よく聞いておいてください。私は今ここに、宣言します】
【【【・・・・?】】】
【コレから私は・・・・私は・・・・っ!】
* * *
「・・・・・・・・」
『・・・・・・・・』
“・・・・そんな事があったんだ・・・・”
「ハスミちゃんは〈トリニティ〉の武力集団『正義実現委員会』の副委員長だし、『隠し玉ポケモン』も所持しているし、〈ゲヘナ〉の事も物凄く憎んでる。『エデン条約』に全力で反対するだろうって言うのは、火を見るよりも明らかじゃない? 『あの〈ゲヘナ〉の同盟なんてー』、って」
ミカとイエッサン(♀)達も、先生達も頬を引き攣らせてしまう。
「後は・・・・ヒフミちゃんか」
“ヒフミは特に何も問題無いと思うけど・・・・”
『ピカピカ』
『ブイブイ』
「ヒフミちゃん、優しくて可愛くて、良い子だよね。ナギちゃんもすっごく気に入ってる。・・・・でも、ソレでもナギちゃんの疑いの目が向いちゃったの」
そして、最後はヒフミである。先生達は1度〈アビドス〉で出会っているので、ヒフミが何を疑われているのかと思っていた。
「どうやらこっそり学園の外に出て、怪しい所に行ってたみたい。〈トリニティ〉の生徒は出入り禁止になってるブラックマーケットとか、彼方此方にね」
“・・・・・・・・”
『『・・・・・・・・』』
ソレを聞いた瞬間、先生とピカチュウとイーブイの目元に影が差し、口は固く閉ざされ、思わず視線を逸らしてしまった。