ー先生sideー
「先生ー! 大丈夫ですかー!?」
“大丈夫! ミライドンが助けてくれたんだ!”
「『ミライドン』? その子の名前ですか!?」
“うん! ソレよりもーーーー”
『ンガァアアアアアニ!!』
巨大ガケガニが雄叫びを上げると、先生達に怒りの眼つきで睨みつけ、巨大なハサミで攻撃してくる。
が、ミライドンとゼブライカが駆け出し、それを回避する。
“二人とも! 先ずはこのガケガニをなんとかしよう!”
「「はい!」」
駆け抜けるゼブライカに乗るユウカとノアが武器の銃口を巨大ガケガニに向け弾丸を放ち、サーナイトとエルレイドも臨戦態勢に入る。
“アロナ。あのガケガニは?”
《はい! スキャンしてみましたが、何やら体内におかしな成分がガケガニさんの身体を変異させているようです! ですが、身体が大きい以外は普通のガケガニさんと大差ありません! タイプ弱点でゼニガメさんとフシギダネさん、それにルカリオさんなら有利に戦えます!》
“良し! ゼニガメ! フシギダネ!”
『ゼニ!』
『ダネ!』
先生はゼニガメとフシギダネを出す。
“ルカリオ、【はどうだん】! ゼニガメ、【バブルこうせん】! フシギダネ、【はっぱカッター】!”
『ルォオオオオオオオオッ!』
『ガァメェェェェェェェッ!』
『ダネダネダネダネダネッ!』
ルカリオが波動を放ち、ゼニガメが大量の泡を放ち、さらにフシギダネが葉っぱの刃を飛ばし、巨大ガケガニに当てていく。
『ガァアアニィ!?』
苦手タイプの攻撃に巨大ガケガニが怯むが、ルカリオは兎も角、ゼニガメとフシギダネの威力不足と持ち前の防御力があり耐え抜き、すぐにハサミが鉄のように光らせ挟み込む【メタルクロー】で攻撃してくる。
「サーナイト、【サイケこうせん】!」
「エルレイド、【サイコカッター】!」
『サー!!』
『エルゥッ!!』
サーナイトが光線を放ち、エルレイドが肘のカッターを振って斬撃を飛ばし、攻撃を中断させる。
『ンガァァニィィィ!?』
弱くても苦手タイプの攻撃と、強力な攻撃を受け続け、巨大ガケガニが悲鳴を上げる。
その隙に、ミライドンから飛び降りたピカチュウが、ガケガニの腹の下にたどり着く。
“ピカチュウ、【かみなりパンチ】!!”
『ピィカァッ!!』
ーーーーバキィィィ!!
『ンガァァニィィィッ!!』
さらに強烈な攻撃を受けた巨大ガケガニの巨体が少し浮き、攻撃を受けた腹部を抑えながら後退る。
“まだまだ! ゼニガメ、【みずでっぽう】! フシギダネ、【つるのムチ】!”
『ゼニー!』
『ダネフシャー!』
ゼニガメが放水し、フシギダネがツルを鞭のようにしならせながら攻め立てる。
『ンガニガァァァァ!!』
巨大ガケガニはドロを吹き出す【マッドショット】で【みずでっぽう】を防ぐと、その腕のハサミにフシギダネのツルが巻き付く。
『ンガニガニィィィィッ!!』
このままでは不利と悟ったのか、巨大ガケガニは岩壁をよじ登って退却する。
が、しかしーーーー。
『フシェ? フシェシェシェー!?』
『ゼニガー!?』
“フシギダネ!? ゼニガメ!?”
ツルが絡まったフシギダネは引きずられ、ゼニガメが助けようとフシギダネの前足を掴むが止まらず、そのまま二匹仲良く一緒に巨大ガケガニに連れ去られてしまった。
“まずい! アロナ!”
《はい先生! ゼニガメさんとフシギダネさんの反応はーーーーここです!》
アロナが示した二匹の居場所がスマホロトムに転送される。
“ここか・・・・でも、迷路のように入り組んでいるこのエリアでどう行けば・・・・”
「先生!」
と、先生が悩んでいると、サーナイトとエルレイドをボールに戻し、ゼブライカに乗ったユウカとノアが先生の乗るミライドンに近づく。
“ユウカ。ノア。二人とも大丈夫?”
「はい。あのガケガニが襲いに来た瞬間、ゼブライカにすぐに乗りましたから。それよりも、ゼニガメとフシギダネが・・・・」
“・・・・居場所は分かってる。ココだよ”
二匹を心配するユウカとノアのスマホロトムに、二匹の居場所を送った。
「・・・・ノア、道順分かる?」
「・・・・この辺りなら・・・・うん。知ってる道よ」
“・・・・どういう事?”
「ノアは一度見聞きした情報をほぼ完璧に暗記できる『瞬間記憶能力』の持ち主なんです」
「知ってる道ですし、この進路方向なら『近道』も分かりますよ」
ユウカの言葉に先生は顔が驚くが、ノアの言葉に喜色に染まる。つまり、追跡ができると言う事だ。
“よし。それじゃあ追跡開始だ”
ピカチュウをミライドンに乗せ、ルカリオをボールに戻すと、一同はノアの案内で巨大ガケガニより先回りしようと駆け抜ける
ーユウカsideー
ユウカは先生が乗ったミライドンを時々観察していた。
「早いわね・・・・」
「うん。ゼブライカは早い方だけど、あのポケモンもかなり速いわ。一体、何なのかしら・・・・?」
ユウカとノアは、ゼブライカについて来れるミライドンを訝しそうに眉根を寄せて見ていた。
ー先生sideー
そして、巨大ガケガニの進行方向に先回りして渓谷の上段にたどり着き、下段を見下ろす。
“・・・・間もなくガケガニが来るよ・・・・”
「・・・・・・・・」
先生の報告を聞きながら、ノアは顎に手を当てて、渓谷の下段にある岩壁を訝しそうに見つめていた。
「どうしたのノア?」
「・・・・前にこの辺りを調査に来た時、あんな大岩なんて無かった筈だよ」
ノアが指差す先を見ると、岩壁に寄りかかるように、巨大ガケガニと同じ位の大きさの岩を指していた。
“・・・・本当? ノア?”
「・・・・・・・・はい。前にあの岩壁には、教室くらいの広さをした洞穴がありました。それが大岩で塞がれてる?」
「・・・・『瞬間記憶能力』があるノアが言うなら、そうなんだろうけど、でもどうして?」
と、話していると、巨大ガケガニがやって来た。
先生達は身を屈め、ユウカはゼブライカをボールに戻し、ノアと共にサーナイトとエルレイドを出した。
そして、巨大ガケガニが大岩の前に立ち止まると。
『ーーーーガァァァニィィィ!!』
ーーーーグワシャァァァァァァァンン・・・・。
なんと、大岩を破壊した。土煙が辺りを覆い、巨大ガケガニの巨体の上を除いて見えなくなる。
と、その時、風が吹いて来て土煙を晴らすと同時に、先生達の鼻に、“甘い香り”が鼻腔をくすぐった。
“っ・・・・何だろう?”
「甘い、匂い・・・・?」
「あの洞穴から・・・・?」
一同が甘い香りに眉根を寄せるが、再び巨大ガケガニに目を向けると。
『(ムシャムシャムシャムシャムシャムシャムシャムシャムシャムシャ・・・・)』
巨大ガケガニは、ノアが言っていた洞穴にその平べったい顔を近づけ、何かを咀嚼している音を響かせていた。
と、ソコで、巨大ガケガニの足元に、目を回しているフシギダネとゼニガメがいた。
“フシギダネ! ゼニガメ!”
「エルレイド、【テレポート】で二人を救出して」
『レイド!』
ノアの指示に従い、エルレイドはヒュン、と姿を消すと、フシギダネとゼニガメの元に行き、絡まったツルを切り捨てると、再び【テレポート】して戻ってきた。
『フシェフシェ〜・・・・』
『ガメガ〜・・・・』
目を回しているフシギダネとゼニガメだが、外傷は殆ど無かった。どうやら巨大ガケガニの荒っぽい逃げ足に振り回されたようだ。
“フシギダネ! ゼニガメ! ケガが無くて良かったよ”
「でも一応治療しておきますね。サーナイト、【いやしのはどう】よ」
『サナサー』
サーナイトの両手から光の波動が放射され、フシギダネとゼニガメの身体を包み込むと、二匹の顔色が良くなっていった。
と、その時、
『ーーーーガァニガァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!!』
『っ!』
突如エリア全体に響く程の雄叫びを上げた巨大ガケガニの身体が、力が漲ったように元気になり、甲羅の薄皮が剥がれ、キラリと光った。
“・・・・あれは”
『(ギロリ!)』
先生がそれに目を向けると、巨大ガケガニがコチラに気づいたのか視線を向け身を屈めると、盛大にジャンプした。
『なっ!?』
先程よりも高いジャンプ力に、先生達も目を見開くが、そんな先生達を飛び越えて、巨大ガケガニが先生達を崖に追いつけたような立ち位置に着地した。
ーーーードガァァァァァァァンン・・・・ビシビシビシビシビシビシ・・・・。
またもや大きな土煙を上げると同時に、先生達の足元の岩場に大きな亀裂が走っていき、今にも崩れそうに揺れ始めた。
“ま、まずい! ユウカ! ノア! サーナイトとエルレイドの【テレポート】で、あの洞穴に飛ぶんだ!”
「先生は!?」
“私は大丈夫! 早くするんだ!”
「「は、はい!」」
『サー!』
『エルッ!』
ユウカとノアがパートナー達に抱きつかれ、【テレポート】すると、先生は『シッテムの箱』を持った左腕にゼニガメを担ぎ、右腕にフシギダネを抱え、頭にピカチュウがしがみついた。
『ーーーーンガァァニィィィッ!!』
巨大ガケガニがハサミを振り上げて地面を叩くと、亀裂が更に広がりそして、砕けた。
“うわぁあっ!”
『アギャァォッ!!』
バランスを崩しそうになる先生だが、ミライドンが先生の襟を咥えて思いっきり後ろに投げると、自分の背中に乗せ、砕け落ちる岩壁を跳びながら、一際大きな岩壁の破片を足場にジャンプすると、ユウカ達のいる下段の地面に着地した。
「先生!」
「無事ですか?」
“・・・・な、なんとかね、ありがとうミライドン”
『アギャァッ!』
先生の言葉にミライドンが応えると、巨大ガケガニが崩れる岩壁と共にコチラに向かってくる。
「先生! ガケガニが!」
“・・・・こうなったら最後の戦いだ。あのガケガニは『いかりのこうら』を使用したから、他の皆の攻撃も通じる筈だよ”
ガケガニの特性の一つ『いかりのこうら』。自身の攻撃力とスピードを向上するが、防御力が著しくダウンしてしまう諸刃の剣のような特性である。
「防御力がダウンしているなら、苦手タイプではない攻撃にもダメージを与える事ができる、と言う事ですか?」
“そう。それに、この狭い場所であの巨体じゃ小回りの利く動きがし難い筈だよ”
確かに、今向かっている巨大ガケガニは周りの岩壁が少し邪魔で真っ直ぐにしかこれないようだ。
“二人共、良いかいーーーー”
先生が作戦を伝える。
「「・・・・はい!」」
『ーーーーゼニ!』
『ーーーーダネ!』
ユウカとノアがコクリと頷くと、漸く目を覚ましたゼニガメとフシギダネが、先生から飛び降りると、巨大ガケガニが睨んだ。
“良し。ルカリオ! ヒトカゲ!”
『カルォッ!』
『ガゲェ!』
ルカリオとヒトカゲを出し、ヒトカゲはゼニガメとフシギダネと並ぶ。
『ーーーーンガァァァァニィィィィッ!!』
巨大ガケガニは両手のハサミを光らせ、【メタルクロー】を繰り出す。
“【メタルクロー】ははがね技。となればーーーーヒトカゲ! 右手の【メタルクロー】に向けて【かえんほうしゃ】! ゼニガメ! フシギダネ! 左手の【メタルクロー】に向けて【バブルこうせん】と【はっぱカッター】!”
『カゲーー!!』
『ゼニーー!!』
『ダネーー!!』
迫るハサミをそれぞれの技で防ぐ。はがねタイプの弱点であるほのお技で防ぎ、もう片方のハサミをゼニガメとフシギダネの技で防ぐ。
『ーーーーンガァァァニィィィィ!!』
巨大ガケガニが突進するように突っ込もうとする。
しかしーーーー。
“ユウカ! ノア!”
「「はい!」」
スタンバっていた二人が、サーナイトとエルレイドに指示を飛ばす。
「エルレイド、全力で【リーフブレード】!」
「サーナイト、続いて【ムーンフォース】!」
『エルッ! レイドォォォォ!!』
『サァァァァ!!』
エルレイドが両腕の刃に葉っぱをまとった緑色のエネルギーを十字切りするように斬撃として飛ばすと、サーナイトがその後を追うように、頭上に月のようなエネルギーを生み出して放出すると、十字の斬撃の後押しをするように、巨大ガケガニの装甲の薄い腹部へと当たった。
『ンガァ、ガァァニィィ・・・・!!』
が、巨大ガケガニは耐えようと踏ん張る。
“ダメ出しだ! ピカチュウ、【かみなりパンチ】! ルカリオ、【コメットパンチ】!”
『ピィィカァァッ!!』
『リォォォォォッ!!』
ピカチュウが稲妻を纏った拳で、ルカリオが星を乗せた鉄拳で【ムーンフォース】を押し出した。
『ガ、ガガガーーーーガァニィイイイイイイイイイイイイイイイイイ!!!』
ーーーードゴォオオオオオオオオオオオオオオンン!!
流石に耐えられなくなり、巨大ガケガニが吹き飛び、岩壁に叩きつけられた。
“・・・・・・・・”
『・・・・・・・・』
先生達はジッと巨大ガケガニを見ると、目を回している巨大ガケガニがいた。
「ーーーー戦闘不能、って所ですかね?」
“うん。私達の勝ちだ”
『はぁ〜・・・・』
先生が勝利宣言すると、一同は息を盛大に吐いた。
「・・・・まさか、あんな巨大なガケガニがいたなんて」
「でも、どうして私達を?」
“多分。縄張りに入ってアーマーガア達と騒いでいた私達に怒っていたのかもね”
恐らくこの『岩壁エリア』のボスである自分の縄張りで、先程まで大騒ぎしていた先生達に腹を立てたと先生は推測する。
“ーーーー・・・・さて”
そして先生は、後ろにある洞穴に目を向けると、ピカチュウが先生の肩に登り、ルカリオと御三家が隣に立ち、後ろでミライドンも来る。
“あの中を調査してみよう。もしかしたら、あのガケガニが異常に巨大化した謎が分かるかも”
「「はい!」」
ユウカとノアもパートナー達を引き連れて、洞穴の中に入っていった。すると、中は光源となるヒカリゴケだけでなく、とても甘い香りに包まれていた。
“ーーーーう~ん、良い香りだね”
「ケーキ屋さんに行ってもこんなに甘くて良い香りはしないですよ♪」
「何だか匂いだけでお腹いっぱいになりそうです♪」
ユウカもノアもやはり女の子なのか、甘い香りに包まれた空間にご満悦である。
『ピカピピ!』
と、ソコで、ピカチュウが指差すとソコにはーーーー“ピンク色に光る植物の群生があった”。
“(スンスン)・・・・これがこの香りの正体だね”
「これを食べたから、ガケガニは大きくなったんでしょうか?」
「この洞穴を大岩で隠していたのは、この植物を独り占めする為だったんですね」
ユウカもノアも訝しそうに眉根を寄せると、先生は『シッテムの箱』でこの植物の写真を撮ると、アロナに解析してもらった。
“(・・・・どう? アロナ?)”
《ーーーーこれは、『秘伝スパイス』ですね》
“(『秘伝スパイス』・・・・?)”
《はい。〈キヴォトス〉の古い薬草図鑑に記録がありました。名を『ひでん:あまスパイス』。胃を健康にしてくれて、食べ物を消化しやすくしてくれて、さらに腹痛、食欲不振にも効果絶大のようです。これ以上の事は持って帰って、詳しく分析して見るしかありませんが》
“(なるほど。ありがとうアロナ)”
《お安い御用です!》
アロナが満面の笑みを浮かべ、先生は改めて『あまスパイス』を見る。
「先生?」
“これは秘伝スパイスのあまスパイスだね”
「秘伝スパイス? まさかこれがあの巨大ガケガニを?」
“詳しく分析して見たいし、少し持っていこう。ユウカ、『エンジニア部』の皆にも、このスパイスの事を調べてもらえるかな?”
「分かりました。『ウタハ先輩』達に分析してもらいましょう」
そう言って、先生達は『ひでん:あまスパイス』を幾つか手に入れる。
『っ・・・・アギャァ・・・・』
と、そこで、ミライドンが洞穴の出入り口を見て、怯えたような声を上げた。
“?・・・・ルカリオ”
『カル』
先生はミライドンの様子を見て、ルカリオを先行させると。
『っ! カルォ!』
ルカリオが驚いたような声を上げ、一同は洞穴の出入り口の近くにまで行き、外を警戒してユウカとノアが顔をゆっくりと出すと。
『ガー! ガー! ガァー!!』
洞穴のある岩壁上空に、アーマーガアの群れが飛んでいた。
「アーマーガア!? もしかしてさっきの奴ら!?」
「もう戻ってきたなんて・・・・!」
『ーーーーアギャァ!』
ミライドンが自分の首にぶら下げていた『立方体のケース』を先生に差し出した。
“・・・・ん? くれるのかい?”
『アギャ!』
ミライドンが頷くのを見ると、先生はケースを開けると中身はーーーーモンスターボールだった。
“・・・・ひょっとして、君は誰かの手持ち?”
『アギャギャ』
ミライドンが首を横に振って否定する。先生はアロナに解析を頼んだ。
“(アロナ。このモンスターボールは?)”
《はい。・・・・・・・・っ、先生。このモンスターボール。普通のモンスターボールではありません。見てくれは市販の物ですが、中身はかなり改造されています。恐らく『ミライドンさん専用のモンスターボール』だと思われます!》
“・・・・・・・・”
謎のポケモン・ミライドン。
それを狙うアーマーガアの群れ。
巨大ガケガニの襲来。
『秘伝スパイス』の発見。
最早今日一日で濃い時間を過ごした。そろそろ帰らないとリンの【ふぶき】が吹き荒れる可能性が高い。
“良し。ミライドンも連れて行こう”
もうこうなったらやぶれかぶれのヤケクソと言わんばかりに、先生がモンスターボールをミライドンに差し出すと、ミライドンは。
『アギャァス♪』
嬉々とした顔でモンスターボールに顔を近づけ、ボールの中央のスイッチを鼻先で押すと、ボールが独りでに開き、そこから出た光がミライドンを包み込み、ボールの中へと収納した。
そして、中央のスイッチが赤く光り、ボールがフルフルと揺れてから、スイッチの光が消えて元の白になり、捕獲完了を示した。
“ーーーーミライドン。ゲットだぜ”
ーーーードゴォォォンン!
“うわっ!?”
と、先生がそう言った瞬間、外からの衝撃音に驚き、その際、ケースを地面に落としてしまう。再び外の光景に目を向けると。
『ーーーーンガァアアアアアアアアアニィイイイイイイイイイイイイイイ!!』
『ガァー! ガァー! ガアァーッ!!』
目を覚ました巨大ガケガニが、アーマーガア達を見るなり、ハサミを振り回して暴れ出し、アーマーガアも怯んでしまった。
「ガケガニが、アーマーガア達を攻撃している?」
「多分、また自分の縄張りを荒らしに来たと思ったのね」
“ーーーーユウカ。ノア。サーナイトとエルレイドの【テレポート】は後何回使える?”
「「・・・・・・・・」」
ユウカとノアが、パートナーに目を向けると、エルレイドが指を三本立て、サーナイトもそれを見て頷く。
「・・・・多分、二人共あと三回が限界だと思います」
「【テレポート】で離脱するのですか?」
“うん。あの乱戦の中、私達がノコノコ出ていったら、ガケガニやアーマーガア達は標的を私達になるかも知れないからね”
「わかりました。それじゃ、すぐに」
そう言うと、先生はピカチュウ以外の仲間達をポールに戻し、ピカチュウを肩に乗せ、ユウカ達と手を繋ぎ合い輪を作ると。
「「【テレポート】!」」
『エルッ!』
『サナ!』
そのままこの場を離脱した。その際、先生は気づかなかった。ケースに仕込まれていた小さな発信機の存在に。
ーーーーグララララ・・・・グシャっ!
外のガケガニとアーマーガアの戦闘で飛んできた岩が洞穴の出入り口を塞ぎ、さらにその振動で天井の一部が崩れ、人の頭サイズの瓦礫が落ちると、ケースと共に発信機を潰してしまった。
◇
“・・・・やっと、帰ってこれたぁ・・・・”
「はい・・・・お疲れ様でした先生・・・・」
「お疲れ様です・・・・」
シャーレの部室に戻って来られた一同は、まるで長い旅から帰って来た心地で、シャーレの執務室に入っていくと。
「ーーーーおかえりなさいませ、先生」
顔に影が刺したリンが、グチャグチャになった執務室をバックに、それはそれはにこやかな笑みを浮かべていた。
“あっ、リンちゃん・・・・”
「それで早速ですが・・・・この惨状は何なのですか?」
片眉をヒクヒクさせているリンをエーフィとブラッキーが必死に抑えた。
◇
時刻はもうかなり経ち夕方近く。
先生は『秘伝スパイス』で試してみたい事があると言って、リンをユウカとノアに任せて『調理室』へと行き、サンドイッチ作りに励んだ。
そして戻ると、ユウカとノアが破れたガラスをブルーシートで覆い、倒れた本棚やテーブル、ばら撒かれた本や段ボールはサーナイトの【ねんりき】で元に戻し、壊れた備品やゴミをエルレイドが一箇所に集め、片付けを終えたユウカ達だけがいた。
“お待たせー! あれっ? リンちゃんは?”
「何とか納得していただいて、執務室の備品やデータ、壊れたものやらの事後処理の為に一度〈サンクトゥムタワー〉に戻りました」
「それで先生。『秘伝スパイス』で何を?」
“うん。スパイスとして作ったから、それを使った特性あまサンドイッチ! どうぞご賞味あれ!”
先生が取り出したのは、甘い香りが溢れるサンドイッチだ。
一同はシャーレの中庭に出て、そこに設られた休憩スペースの椅子に腰掛け、テーブルにサンドイッチが並べられた。
勿論、各々の手持ちポケモン達の分もだ。
時刻はとっくにお昼を過ぎている。皆空腹なのは間違いなく。食欲をそそられる甘い香りを放つサンドイッチにゴクリと喉を鳴らす。
そして・・・・。
ーーーーポンッ。
『アギャ!』
ミライドンが自分から出てきた。
“あっミライドン。君の分もあるよ。特に大きなサンドイッチを作ったから!”
先生が皆のより一回り大きなサンドイッチをミライドンに差し出した。
『スンスン・・・・ガツガツ・・・・!』
ミライドンはガッツクようにサンドイッチを食べた。
「あっコラミライドン! お行儀が悪い!」
「まぁまぁユウカちゃん。お腹空いていたんだよ」
“さ。私達も食べよう”
『いただきます!』
『ーーーー!』
先生達の声に合わせ、ピカチュウ達もサンドイッチを食べた。
その瞬間、口の中に広がる甘い香り、噛みしめる度に具材のお肉や野菜が、まるで高級スイーツのように感じてしまう。喉を通すと胃の中に栄養が染み込み、身体中の疲労が全て消えていく感覚。
『美味しい!!』
『ーーーー!!』
全員がそう言ったその瞬間、
『アギャァス!!』
『うわぁっ!?』
突如、ミライドンの身体が紫色に光り、先程まで何処かヨロヨロだった身体に活力が漲り、力が迸っているのが見て分かった。
『アギャァアアアアアアアスッ!!』
するとミライドンがバイクの形、『ドライブモード』に変わると、後ろ足のジェットエンジンからロケットのように炎が噴射され、先程とは比べ物にならないスピードで中庭を走り回っていた。
“凄い速い!”
「このスパイスの効果?」
「エルレイド達も、体力が回復したみたいよ」
視線を向けると、ピカチュウ達も元気百倍と言わんばかりにはしゃいでいた。
“・・・・さて、ユウカにノア。今日は色々とありがとう。もう帰って休んだ方が良いね”
「あっ、はい。正直、体力は回復しましたけど、精神面の疲労は・・・・」
“うん。ゆっくり休んで。それと『あまスパイス』の他に、『エンジニア部』の皆にーーーーこれを調べて貰いたいんだ”
「ーーーーこれは・・・・!」
ユウカとノアは、『それ』を見た瞬間、先生の意図を察したようにコクリと頷いた。
そして、ユウカ達は先生から頼まれた『それら』を持って、【テレポート】で〈ミレニアム〉に戻った。
そして先生達も、ユウカ達が帰り、ある程度片付けを終え、ゴミの中から『アーマーガアの羽』を取り、そこに付着していた物の解析をアロナに任せると、精神面での疲労がドッと来て、そのまま仮眠室にてピカチュウとルカリオと御三家、そしてミライドンも交えて爆睡した。
◇
起きると時刻は既に昼近く。かなり眠っていたようだ。他の皆も、ピカチュウとルカリオは起きて、御三家はまだネムネムしており、そしてミライドンはまだ爆睡していた。
“昨日は色々あったからなぁ。・・・・それでアロナ。何か分かったかい?”
先生は、寝ているミライドンをそのままにし、執務室の先生のテーブルに座ると、エルレイドが集めたゴミの中に紛れていた、『アーマーガアの羽』に付着していた物の解析を聞いた。
《ーーーーはい先生! アーマーガアさんの羽に付着していた物ですが、先生の読み通りーーーーここです!》
アロナが〈キヴォトス〉の地図を表示し、ある場所を示した。
“・・・・やっぱりここか。アロナ。アーマーガア達がこのシャーレの来るまでのルートは?”
《それがフシギダネ、いえ、不思議な事に、アーマーガアさん達の来たルートは至る所で、通信機器が異常を起こったのです》
“通信機器が異常を・・・・?”
《はい。アーマーガアさん達の進行をスマホロトムで写真を撮ろうとしたりした人達がいたのですが、突然砂嵐になったり、街頭カメラが突然シャットダウンしたりしたのですが、その箇所をルート順に沿って行くとーーーー此処です!》
“っ!”
アーマーガアの進行ルート、羽に付着していた物の成分、全てが『この場所』に繋がっていた。
先生はある事に気付いたようにハッと肩を揺らすと、スマホロトムを手に取り、以前チナツから貰った『R』に関する情報に目を走らせた。
実は、まだハスミやユウカ達は掴んでいないが、『R』が流通し出したのはーーーー〈ゲヘナ〉近辺だったのだ。
『R』の問題が〈ゲヘナ〉から始まったと知られれば、〈ゲヘナ〉を毛嫌いしている〈トリニティ〉がどんな難癖を付けてくるか分からないし、政治的立場も悪くしてしまう。故にこの情報の事は内密にして置きたかったが、チナツは先生とは良好な関係を築いていきたいと思い、この情報を渡したのだ。
そして先生は、『R』が最初に流通したと思しき場所を見ると、またも『その場所』、〈ゲヘナ〉近くにある『その場所』との中間地点である事が分かった。
《・・・・先生。ミライドンさんの素性、不審なアーマーガアさん達、そして『R』。全てがーーーーここに繋がっていますね?》
“・・・・これを偶然の一言で片付けるのは、かなり乱暴な考えだね”
《はい。そんな何処ぞの小学生名探偵の居候先のヘボ探偵みたいな考え、先生にはありません》
“・・・・ふむ”
『アギャァァ〜〜・・・・』
『ピカピカ』
と、そこで、仮眠室で爆睡していたミライドンがやって来て、大口で欠伸をした。
“・・・・ミライドン”
『アギャ?』
ピカチュウが濡れタオルでミライドンの顔を拭いてあげると、先生に話しかけられ、ミライドンが先生の方に顔を向けた。
そして先生は、『シッテムの箱』の液晶に、『その場所』の映像を映して、ミライドンに見せた。
“ーーーー『この場所』、知ってる?”
『アギャ!?ーーーーアギャァァ・・・・!』
それを見て、ミライドンは怯えたような素振りを見せたが、すぐにコクンと頷き、その映像を鼻先でツンツンする。まるでそれは、“怖いけど、行きたい”、と言う、恐怖と決意のジレンマに陥っているようにも見えた。
“・・・・皆”
『ピカ』
『ルォ』
『カゲ』
『ゼニ』
『ダネ』
『・・・・アギャ』
《はい先生》
“ーーーーどうやら私達は、『この場所』に行く運命だったようだ。行こうーーーー〈アビドス〉へ!”
次回で、謎が蠢くアビドスです。対策委員会のポケモン達に乞うご期待!