『シスターフッド』とハナコの約束
ーセイアsideー
「・・・・・・・・・・・・」
〈トリニティ〉の『ティーパーティー』のホストの1人、百合園セイアは、パートナーである『ネイティオ』と『ブリムオン』と『フワライド』をボールに収め、『隠し玉』の入ったハイパーボールも収め、自分がいる〈トリニティ〉の『秘密の部屋』にて、『襲撃者』と対峙しようとしていた。
ガシャン・・・・と、扉も窓も鉄格子で閉められた部屋に入ってきた『襲撃者』はセイアに向けて声を発する。
「・・・・『百合園セイア』?」
「ああ、そうだよ。君を待っていたんだ、〈アリウス分校〉所属『白州アズサ』」
「・・・・待ってた? 私を?」
セイアの言葉に『襲撃者』、『白州アズサ』が訝しげに返答する。
「うん、“夢でもこのシーンを見ていたからね”。何と説明するのが良いかな・・・・まぁ、『予知夢』のようなものだと思ってくれると良い。時々、そういう夢を見るんだ。後で現実になってしまう夢、それ以外にも色々な夢をね。ネイティオのような『予知能力』とは違うね」
「・・・・つまり、これから私が何をするかも分かってる、と?」
「ああ、私のヘイローを壊しに来たんだろう?」
セイアは予知夢や不思議な夢をよく見ると、アズサに打ち明ける。するとアズサはこの後自分が彼女にする事も分かっているのかと問うと、セイアはアズサの目的をピタリと当てて見せた。
「他にも仲間がいたようだけれど、君だけがここまで到達した。素晴らしい力だ、白洲アズサ」
「・・・・分かってて、どうして逃げなかった?」
「・・・・無意味だからさ。『全ては虚しいものである』・・・・〈アリウス〉が大好きな言葉だったね。同じ事だ。未来が見える私にとって、足掻く事は無意味」
セイアはアズサだけがこの部屋に辿り着いた事を褒めるが、アズサの方は『未来視』で自分が殺されるのが見えている筈なのに、何故逃げないのか聞くと、セイアはそんな事は無意味と諦めているようだった。
「『死』というものが、〈キヴォトス〉において見えにくい概念であるのは確かだ。ポケモン達の方が“死”は身近だよ。ソレでもやはり私達は生きているのだし、ともすれば『死』が隣り合わせでないなんて事は有り得ない」
「・・・・・・・・」
「『ヘイローを壊す』・・・・つまり誰かが、私の死を願っている。そして君は、この秘密の部屋まで他の誰にも気づかれずに侵入してきた。ここまでの事が出来てしまうのだから、やはり足掻いても無駄さ・・・・君の立場からだってそう思わないかい、白洲アズサ?」
〈キヴォトス〉の人間達は『ヘイロー』の加護で『死』と言う概念からは程遠い、ポケモン達の方が『死』は身近である。しかしだからと言って、『キヴォトス人は死なない』と言う訳では無いと、セイアはアズサに語り掛ける。
そしてアズサがセイアの目の前に立っている事で、セイアは足掻く事は無駄だと言ったのである。
「まあそれ以外にも理由が無い訳ではないが・・・・所で、君は以前にも『ヘイロー』を壊した事が?」
「・・・・いや、無い。でも『やり方は習った』」
「『習った』・・・・?」
「肉体に取り返しがつかない、致命的なダメージを与える・・・・与え続ける」
セイアはアズサに、『ヘイローを壊した経験』があるのかと尋ねるが、アズサはその経験は無いと答え、『ヘイローを壊す方法を習った』と答える。
その話に、セイアは訝しげに問うと、アズサは肉体にダメージを与え続けるというものだと答える。
「普通は5.56mm弾を何発撃った所で、殆ど致命傷にはならない筈。でも、ダメージが無い訳じゃない。尋常じゃない量の弾薬、そしてダメージを与え続けるだけの圧倒的優位と、その為の時間。それらを『異常な程』叩きこみさえすれば・・・・銃火器だけで『ヘイロー』を壊す事も、不可能じゃない。銃火器以外だって、幾らでもある。病気だって無い訳じゃない。例えば、『水や食料の摂取を長期間に渡って強制的に絶つ』。更にポケモン達を使えば良い。『ひこうタイプやみずタイプによって呼吸ができないような環境下に強制的に閉じ込める』、『ポケモンの技を使って身体機能が停止するほどの流血をさせる』、『強力な毒を浴びせる』、『こおりタイプの技で体温が一定以下になるような状態でずっと拘束し続ける』・・・・『死』に至らせる方法は、幾らでもある筈だ」
「その通りだ。だからこそポケモン達は私達〈キヴォトス〉の人間にとっては、良き隣人で、良き友人で、良きパートナーで、素晴らしい家族であると同時に、私達を滅ぼせる存在でもあるのだ」
セイアはポケモン達は〈キヴォトス〉人にとって『素晴らしい友』でもあるが、『脅威』でもあると伝えると、アズサは更に声を発する。
「それに、『百合園セイアは身体が弱い』と聞いている」
「だから、その銃火器でも十分だと?」
「・・・・ソレもあり得ない話じゃない。でも今の私には十分な時間も、優位性も保障されてない。だから、この特殊な爆弾を使用する。コレで『ヘイローを破壊』する」
「つまりそれは、『ヘイローを破壊する爆弾』という事かい? 聞いた事のない技術だが・・・・成る程、〈アリウス〉はそういう研究をしていると。『ヘイローを破壊する方法』、すなわち『人を殺す方法』を」
セイアが身体が弱いから狙ったようだが、アズサには時間の余裕がない為、〈アリウス〉で作られた『ヘイローを破壊する爆弾』によって、セイアの『ヘイロー』を破壊すると言い、セイアは推測した。
ーーーー〈アリウス〉では、『人を殺す研究』を行っているのだと。
「・・・・あぁ、そしてそういう事を習った。『学校』とは、“そういう事を『習う』場所なのだろう”?」
「・・・・そうか・・・・〈アリウス〉は、ソコまで・・・・」
「・・・・」
アズサが〈アリウス〉では・・・・『学校』では『そういう事を習う場所』だとセイアに尋ねるが、セイアは〈アリウス〉の現状を嘆くように呟き、アズサに近づく。
「・・・・白洲アズサ、1つ聞かせてほしい。君は『人殺し』になってしまっても大丈夫なのかい?」
「・・・・・・・・」
セイアは、自分の『ヘイロー』を破壊する事で、『人殺し』になってしまう事を質問するが、アズサは答えず黙ってしまう。
「私は見たんだ、『人殺し』になることを恐れる君の姿を。君が望んだかどうか、他に選択肢があったかどうか・・・・その辺りは実の所、さしたる問題じゃない」
セイアの脳裏に、ボロボロの服を着て、1人孤独に両膝を抱えて踞っているアズサの姿が浮かんだ。
「『人殺しは人殺しである』。その明確で絶対的で、何より絶望的なまでに分かりやすい命題がその身に刻まれてる。そして、この世界に残り続ける。そうなってしまった後に君が感じる絶望、苦しみ、怒り、後悔と挫折、そして無力感・・・・ソレらは、誰に届くことも無く虚空へと消えていく。君も〈アリウス〉なら知らない筈が無い。『Vanitas vanitatum』・・・・この世界の真実を・・・・しかし、私は知ってるんだ。君がこの言葉に同意しながらも、どこかで否定しているという事も」
アズサが良く口にする〈アリウス分校〉の言葉、『Vanitas vanitatum‹全ては虚しい›』と言う『呪いの言葉』をセイアが呟くが、アズサはソレを否定している事も言った。
すると、周囲の空間が変わり、コンクリートの敷き詰められた建物の中に咲く花が現れた。
「・・・・・・・・」
「・・・・そうだろう? その花を見つめながら、君はそう考えていた。『全ては虚しいもの』だ・・・・しかし、ソレでも足掻かなければならない。コレが君の根幹に根差すもの、君を現す心象・・・・私にはよく分からなかったけど。となると、君は実の所・・・・」
すると空間が元の部屋に戻った。
「・・・・私を殺しに来たのではなく、私に助言を貰いに来たんじゃないのかい? 君がこの先、『どう足掻くべきなのかについて』」
“・・・・・・・・・・・・”
『・・・・・・・・・・・・』
ソレを最後に、この『記憶の世界』を『夢』で見ていた先生とミュウツーの視界は真っ白に染まった。
ー先生sideー
「・・・・先生?・・・・起きてください、先生」
『ピカチュウ』
“・・・・ごめん、ちょっと寝てた(何か、夢をみたような・・・・)”
先生が『セイアの記憶』とも見れる夢から覚めると、目の前にピカチュウと銀髪のシスター、『シスターフッド』の代表『歌住サクラコ』と、その足元の影からゲンガーが顔を出していた。サクラコの隣ではマリーとコレクレーとフーパも控えている。
「・・・・お忙しいのは存じておりますが、もう少々集中していただけますと」
“ごめん・・・・”
今先生がいるのは『シスターフッド』の会議室であった。先生は、先日ミカが引き起こした一連の事件の後始末の為に、『シスターフッド』を訪れていたのである。
「確かにここしばらくずっと、事件の後始末と言いますか・・・・〈シャーレ〉と〈トリニティ〉を行ったり来たりしながら色々奔走されていると聞きました。あなたの管轄外の事まで」
“力不足でね・・・・色々とやり切れなかった事とか、沢山あって・・・・”
「・・・・そうでしたか」
サクラコは、先生が寝落ちしてしまうのも仕方ないと思った。
ミカが〈アリウス分校〉と共に事件を起こしてから〈トリニティ〉の色々な所を走り回って、何とか解決しようと奔走していたのであった。
その『理由』は『補習授業部』だけでなく、先生としてミカやナギサの事も救いたかったからである。
「立て続けに色々な事がありましたし、少し整理しておきましょうか。退屈なお話になるでしょう。少なくとも面白くはない事だとは思いますが・・・・整理する事で、進む事ができる事もあります。『事後検証‹ポストモーテム›』と呼ばれるものです。・・・・では本題に入りましょう」
そう言ってサクラコは、コレまで判明した情報を振り返っていく。
「セイアさんの部屋が爆破されたのは、夜中の3時頃。そして彼女が負傷しているのを最初に発見したのは、『救護騎士団』の『蒼森ミネ団長』でした。 ミネ団長は室内の状況を確認した後、すぐにその『事実』を『ティーパーティー』に報告する。『ティーパーティー』は混乱に陥りつつも、情報の隠蔽工作や犯人捜しが始まりました。 しかしその騒動に紛れるようにして、ミネ団長はセイアさんの遺体と共に姿をくらましました。『救護騎士団員』の他の団員さえ行方が分からなかったそうです」
“うん。私も『ティーパーティー側』からそう聞いているよ”
「・・・・ですが、コレは『ティーパーティー視点』の状況です。しかし実の所『セイアさんの遺体』と言う情報自体がフェイク。ミネ団長は『ヘイローが壊された』と言う『偽の情報』を流しつつ、セイアさんを『安全な所』に隠したのです」
そしてセイアとミネが今何処にいるのかは分からない。
アズサを裏で操っていたミカもまた、その事を知らないでいた。
「普通に考えて、『ヘイローが破壊された生徒』が狙われる筈もありません。セイアさんを守る為には、『最善の方法』だったと言えるでしょう。『ティーパーティー』のメンバーが襲撃されると言う異常事態・・・・今は誰を信じるべきかと考える前に自分の手で、と。そう考えたのでしょうか。実際の所『犯人』が、本来であれば情報が集約される『ティーパーティー』のミカさんであった事を考えると、ミネ団長の判断は正しかったと言えますが、・・・・」
〈トリニティ総合学園〉の代表である『ティーパーティー』に、まさか『裏切り者』がいただなんて、〈トリニティ〉全体を揺るがしかねない大スキャンダルである。
「・・・・しかし、まだセイアさんは目覚めていません。爆発の傷は癒えたものの、ずっと眠り続けている状態・・・・ミネ団長も、原因が分からないと言ってました。今もミネ団長とパートナーのピクシー。セイアさんの手持ちポケモン達が、セイアさんの護衛をしつつ、誰も知らない場所に身を隠してます。・・・・おおよそといった形ではありますが、この辺りが百合園セイアさんが襲撃された件についてのお話です」
と、サクラコと話し合っていると、会議室の扉がガチャっと開かれ、ソコから1人の少女が現れた。
“ハナコ!”
『ピカッ?』
「あまり面白くないサクラコさんに捕まって苦しんでいるのではないかと思い、先生を助けに来ちゃいました。ふふっ♡」
「・・・・冗談を言うタイミングではありませんよ、ハナコさん」
会議室にハナコとジュペッタが入ってくる。ハナコは先生を見るや否やサクラコに冗談を言うが取り合ってはくれなかった。
「サクラコさんは相変わらずですねえ・・・・今度一緒に、ちょっと過激な本でも読みませんか♡ 何となくですが、サクラコさんはそういった方面に免疫が無さそうですし・・・・うふふ♡」
「・・・・ハナコさん。『あの時の約束』、忘れていませんよね?」
「・・・・勿論ですよ」
* * *
ソレは、ミカとの戦闘が終わり、『第3次特別学力試験』を終えて、皆で慰労会を楽しんだ後日。
ミカとの戦闘の際、『シスターフッド』が増援に来てくれた際にハナコの言っていた『約束』が気になった先生が、『シスターフッド』の本拠地である『大聖堂』に赴いた。
【“いた、ハナコ”】
【あら。先生、どうして此処に・・・・】
【・・・・・・・・】
【“前に言ってた、『シスターフッドとの約束』って・・・・”】
【ああ、ソレは・・・・】
先生はハナコを見つけると慌てて駆け寄り、彼女が『シスターフッド』とした『約束』について問うた。
【・・・・『シャーレ』の先生、コレはアナタが介入するべき問題ではありません】
【“ハナコは『補習授業部』の、私の生徒だから”】
【あらまあ・・・・】
【・・・・・・・・】
しかし、サクラコが先生に関わるなと言うが、先生はハナコは『自分の生徒』だと言って引き下がらないのであった。
【すみません・・・・ソレはその、私が・・・・】
【マリーちゃん・・・・】
サクラコと先生の間に不穏な空気が漂い始め、ソレに耐えられずマリーが口を開いた。
【私がお願いしたんです。ハナコさんを助ける為に、サクラコ様を説得する・・・・その代わりに約束としてーーーーハナコさんに『退学を撤回してもらう』、と・・・・】
【・・・・・・・・】
マリーの言葉に、サクラコは肯定を示すように瞑目する。マリーはハナコを助ける為に尽力したようである。
【私では、ハナコさんを止める事ができなくって・・・・ハナコさんの心の奥底を、分かってあげる事ができなくて・・・・。こんな形になってしまってごめんなさい・・・・でも私は、ハナコさんに学園に残ってほしくって・・・・】
【・・・・いいえ、マリーちゃん】
泣きそうな顔で言うマリーに、ハナコが小さく首を横に振って、穏やかな声で話す。
【マリーちゃんが謝る事ではありません。色々と勝手な事をして、皆を心配させたのは私なんですから、寧ろ謝るのは私です】
【ハナコさん・・・・】
【ごめんなさい、マリーちゃん・・・・心配させてしまいましたね】
ハナコがその優秀性から〈トリニティ〉のドロドロとした政争に巻き込まれ、〈トリニティ〉の薄汚い部分に触れ絶望していく事が悲しく、何も出来なかった事を後悔していたマリーがサクラコに話し、無理矢理『シスターフッド』との関係を持たせて退学を止める事だった訳である。
しかし、ハナコの意思を無視して勝手な事をした事に、マリーは後悔していたようだが、ハナコは優しく言う。
【今の私は、退学しようとは考えてませんから。安心してください】
【本当、ですか・・・・?】
【はい。『補習授業部』で習いましたからね・・・・もう少し、『足掻いて』みようかと。ねえ、先生?】
【“・・・・うん”】
【・・・・ありがとうございます。ハナコさん、先生】
ハナコはマリーを安心させるべく退学は考えていないと言った。皮肉だが、ナギサが『裏切り者』を始末する為に、その候補である生徒達を集めた『補習授業部』で、先生や仲間達と出会い、その日々がハナコの心境は大きく、そして良い意味で変えたようである。
【・・・・ですが、ソレでは1つでは足りませんよ】
【ゲンゲ・・・・】
ハナコとマリーの美しい友情のシーンに水を指すようなサクラコに、サクラコの影にいるゲンガーは半眼で「空気読めよ」と言わんげに見上げる。
【サクラコ様・・・・?】
【もう1つ、『お願い』があります。ハナコさん】
【・・・・・・・・】
サクラコは、ハナコに対して、『もう1つのお願い』を口にした・・・・。
【ソレはーーーー】
* * *
そして現在ーーーー。
「・・・・『登校時の服装には、裸のみを認める』・・・・そんな校則を作り、〈トリニティ〉を『裸の楽園』へと変える計画に手を貸してほしい・・・・という事でしたよね?」
『ジュペ〜♡」
「ええ、そうでーーーー・・・・はい?」
『ゲブフッ!』
『フバッ!』
『ゴレっ!』
そしていつものハナコ節の卑猥な話を切り出し、ジュペッタは「いや~ん」と、わざとらしく身体を隠し、サクラコが目を点にし、ゲンガーとフーパとコレクレーは盛大に吹き出した。
「まさかシスターフッドがこんな陰謀を企んでいたなんて・・・・流石サクラコさん、謎に包まれた秘密主義集団の長ですね」
意趣返しなのかサクラコを揶揄い始めるハナコ。ここに自分とジュペッタ、先生とピカチュウ、サクラコとゲンガー、マリーとコレクレーとフーパしかいないので更に口を動かす。
「ソレにあの例外に関する条項、『原則は全裸。ただしシスターフッドのみ、登校時にベールの着用を認める』・・・・流石の私も慄きましたよ。裸にベールだなんて、何という新しい世界・・・・」
「はい・・・・っ!?」
更に、サクラコが卑猥な校則を作ろうとしていると言い出し、コレまで鉄面皮と言うか冷静だったサクラコの顔が崩れ始め、ソレに構わずハナコは摸し立てる。
「ですが、今の立場では協力せざるを得ません・・・・そしてやるからには、必ずや成功させてみせます! しかしそのベールの件はズル過ぎます。ですのでコレは私からの『提案』ですが、『原則は全裸。ただし全生徒、靴下だけは着用可能とする』と言うのは如何でしょうか! コレを飲んで下さるなら、その『計画』に協力しましょう!」
「さ、さささサクラコ様!? そ、そんな計画を・・・・!?」
「違いますよ!?」
そして純真なマリーが信じてしまい、慌ててサクラコが止めるのであった。
「そんな・・・・」
「『そんな・・・・』ではありません! いきなり何を言っているのですかアナタは! 『私達がハナコさんの頼みを聞く代わりに、ハナコさんも私達からの頼みを1つ聞く』そういう約束でしょう!?」
「・・・・ああ、そんなお話もありましたねぇ」
サクラコに全力で否定され、ハナコはわざとらしく悲しんでみせるが、サクラコは更に怒りながら本来の『約束』を言い出し、ハナコは『少しやり過ぎましたね』と言わんげに苦笑した。
そしてサクラコは、一旦お茶を飲んで平静を取り戻した。
「はぁ・・・・。本当なら、アナタが『シスターフッド』に入ってくれればソレが1番良いのですが・・・・ソレはアナタをただ虐めて、追い詰めるようなものでしょうから」
どうやらハナコを『シスターフッド』に入れるのが『条件』ではないようだ。
・・・・色々な意味で『シスターフッド』の『獅子身中の虫』になりそうだからかも知れないが。
「・・・・今回の事件を契機として、私達のこれまでの『無干渉主義』も変わっていきます。政治的な事にも徐々に、足を踏み入れる事になるでしょう。その過程できっと、色々ある筈です。その時、ハナコさんのような方から助けてもらえるというのは大きなキーになり得ます。あくまでそういうお話ですよ」
「まあ、その程度なら構わないのですが・・・・はぁ・・・・」
今回のミカの、『ティーパーティー・ホストの裏切り』と言う事態が起き、『シスターフッド』も〈トリニティ〉の内政に干渉するようになった。そしてハナコには、政治的な状況になったら協力するとの事のようだ。
ーーーーハナコは本人は内心残念そうなのが表情に出ていた。
「どうしてそう残念そうな表情をするのですか・・・・いえ、もう話をそちらに戻さないでほしいのですが・・・・」
その表情が先程の『計画』についてなのか、政治的な話に関わる事についてなのかは、サクラコは言及しなかった。
“・・・・ハナコは、本当に嫌じゃない?”
「先生・・・・」
そしてソレを見た先生は、ハナコを気に掛ける言葉をかけた。元々ハナコはそう言うドロドロとした政争に嫌気が差して〈トリニティ総合学園〉を『退学』しようとしていたからだ。
「・・・・無理矢理に、という手段はとりません。どちらにせよハナコさんには『手伝っていただく』という形ですし、無茶な事を要求するつもりもありませんから」
「・・・・ありがとうございます、サクラコ様」
一応サクラコも、心配する先生を安心させたく、あくまで『手伝い』という形で無理矢理に動いてもらう事はしないと言い、マリーが感謝した。
「話が逸れましたね・・・・『本題』に戻りましょうか。えっと・・・・」
「『全裸登校』についてのお話ですね♡」
『ジュペ』
ーーーースパンっ!
「はい、その話・・・・ではありません! 話を戻さないでと言ったでしょう・・・・!」
サクラコが話を本題に戻そうとすると、ハナコが『全裸登校』の話を持ち出し、ジュペッタが「いい加減しつこい」と言わんげにハリセンで叩き、サクラコにも注意されるのであった。
「ふう、仕方ありませんねぇ・・・・『セイアちゃんの襲撃事件』、その話に戻りましょうか。『実行犯』はご存じの通り、アズサちゃんだったようです」
『本題』である『セイア襲撃事件』に漸く戻り、ハナコは自分が知る限りの情報を話す。
「・・・・セイアちゃんの部屋が爆破されたのは夜中の3時です。しかし、その部屋に侵入したのは夜中の2時頃。ここには空白の約1時間があります。『侵入者』・・・・アズサちゃんはセイアちゃんと一緒に1時間、そのお部屋にいたんです」
「その60分の間、お二人の間には一体どんなお話があったのか・・・・」
「アズサちゃんは、あまり詳しくお話してくれませんでしたが・・・・」
アズサとセイアは爆発の間に1時間ほど一緒にいたことが発覚したが、アズサはその『空白の1時間』に何があったのかは誰にも話していなかったようである。
* * *
ソレは先日、〈トリニティ〉の『相談室』の前にて、アズサとアズサを守るようにトグロを巻くハクリュー、そして付き添いのヒフミとガルーラ、ハナコとジュペッタがいた。
コハルとヘラクロスはいない。2人は一応『正義実現委員会』に所属しているメンバーであり、『ティーパーティー』の監察に介入してくると『ティーパーティー』の面子に関わるので、2人は外で待機して貰っている。
先生は暫くーーーー正確に言うと、『エデン条約』が締結されるまでは〈トリニティ〉に滞在するので、その手続きと事後処理、更にリン達やベイリーフ達の説得の為に一旦『シャーレ』に戻っていた。
【【・・・・・・・・・・・・・・・・】】
固唾を呑む一同に、『相談室』の中にいるトリニティの監察官が声を発する。
【白州アズサさん、中にどうぞ】
【・・・・・・・・】
アズサは静かに立ち上がると、ハクリューとヒフミ達も共に相談室へと入っていき、監察官にセイア襲撃の詳細を話した。
【・・・・セイアはこう言った。『『エデン条約』によって、〈ゲヘナ〉と〈トリニティ〉間の紛争が無くなれば、〈アリウス〉の問題は時期に解決できるかも知れない。この両校の根深い問題を解決する方法は、少なくとも今はこの『エデン条約』しかないだろう・・・・』と】
アズサは当時、セイアとの間であった会話の内容を話す。
【・・・・しかし同時に、〈アリウス〉は『ティーパーティー』の『ヘイロー』を破壊しようとしていた。ソレが実行されれば、〈キヴォトス〉は『本物の戦場』になってしまう筈。ソレを止めたいかどうか・・・・ソレを聞かれたんだ】
そしてセイアは、『エデン条約』による〈トリニティ〉と〈ゲヘナ〉の関係が改善されれば、いずれは〈アリウス〉の問題も改善されるが、〈アリウス〉が『ヘイローを破壊できる』事が公になれば、コレまでの『喧嘩のような銃撃戦』が、『本物の殺し合い』になってしまう事を危惧し、そんな最悪の事態を止めたいかとアズサに問うていた。
そしてセイアはアズサの考えを首肯しなかった。曰くーーーーセイアは『5番目の古則』、『楽園の証明』は不可能だと、誰よりも理解しているから。
しかしセイアは、『破局』が待ち構えていても、アズサが足掻こうとしているのであれば、どんな結果になるか保証はできないが、自分の知恵を貸すと言った。
【・・・・そして、セイアさんの部屋を爆破させた?】
【・・・・『セイアが死んだ』と偽装する為には必要な事だった。『アリウススクワッド』を騙し切る為の手段は、限られていたし・・・・セイアが全ての事件を隠蔽する為の助っ人として、『救護騎士団』の団長‹蒼森ミネ›を指名した。『この後は全て彼女に託せ』、と】
監察官の問いに、アズサは偽装工作を済ませ、セイアの事は彼女自身の指名で、『蒼森ミネ』に任せたようだ。
【・・・・そして部屋を爆破して逃げた。その後の〈トリニティ〉での騒動や情報を総合して、『アリウススクワッド』は私が任務に成功したのだと信じた。・・・・コレが事の顛末だ】
【・・・・・・・・】
ソレを聞いて、ハナコはセイアの事を思って顔を少し曇らせた。
【その後については、私も知らなかった。まだ意識を取り戻せていないと言う事も・・・・】
【セイアちゃんの外傷は、既に完治しているそうです。セイアちゃんの意識が戻らないのは、ソレ以外の理由みたいで・・・・】
【ではアナタは、襲撃命令を下したのがミカ様だとは知らなかったと?】
【ソレは・・・・】
【ミカさんは自身の正体をずっと隠し切っていました。アズサちゃんのような命令系統に置いて1番下の位置からは、知る由も無かったのでしょう】
【あ、アズサちゃんは『人殺し』ではありません・・・・! あの時もアズサちゃんは、ナギサ様を守ろうとして・・・・!】
【『・・・・・・・・』】
監察官がまるで尋問するように聞いてくるがアズサは正直に話し、ハナコとヒフミが弁護をするように声を発すると、ハクリュー達も静かに睨みつける。
【・・・・すみません。私はこうして話を聞く事が仕事ですので】
【・・・・ハナコ、ヒフミ、皆、私は大丈夫】
言い方が悪かった事を自覚し、謝意を述べる監察官。アズサは味方の皆に大丈夫と言って、1歩前に出てから口を開く。
【ーーーー私に命令を下したのは、『アリウススクワッド』のリーダー『サオリ』。色違いのヘルガーを連れている彼女が、スクワッドの指揮を取っている】
* * *
「・・・・そうですね。兎に角、白洲アズサさん・・・・彼女が〈トリニティ〉に転校してきて、そして実際にナギサさんを守り抜いた。その事は明白です。その過程で様々な事があったとはいえ、『特別学力試験』にも合格。『補習授業部』は彼女を含めて全員、明確な『結果』を残しています」
「・・・・・・・・」
“・・・・・・・・”
監察官との会話の内容を聞いて、サクラコがアズサの処遇を話そうとし、ハナコと先生が固唾を呑むと。
「文句の付けようが無いでしょう・・・・彼女の書類は、私が『正式な物』にしておきます。『シスターフッド』が保証しましょう。誰にも、異議申し立てなどさせません」
「・・・・ありがとうございます、サクラコさん!」
“本当にありがとう”
『ーーーー!!』
アズサがセイアを殺さず、ナギサも守り抜いたのは明白であり、その事を加味して、サクラコはアズサを正式に彼女を〈トリニティ〉の生徒にする事を先生とハナコに伝え、ピカチュウ達も大いに喜んだ。
「これで白洲アズサさんは、正式に〈トリニティ〉の生徒となりました。まだ問題は山積みですし、特に〈アリウス分校〉の事はまだ何も解決できていませんが・・・・。取り急ぎ、目の前の問題だけは落ち着いたと言えるかもしれませんね。お疲れ様でした。ハナコさん、そして先生」
「ふふっ♡」
アズサの処遇は解決した所で、サクラコはこの会合の締めに入る。アズサが正式に〈トリニティ〉の生徒になった事で、先生とハナコはホッとした。
「では。私は他に用事があるのでお先に失礼します。マリー、行きましょう」
「は、はい」
“ありがとうサクラコ、マリー”
「あの、ハナコさん。先生も・・・・状況が落ち着いたら、後でぜひゆっくりお話しを・・・・」
「ふふっ、そうですね。楽しみにしてますよ、マリーちゃん」
用事が終わったのでサクラコとそれに付き添っていたマリーは退出しようとする。最後にマリーが先生とハナコとお話をする約束をしてその場を後にした。
「ふぅ・・・・アズサちゃんの書類も、コレで何とかなりましたね」
“お疲れ様、ハナコ”
そして、2人の足音が遠退いた所で、ハナコは少し疲れたように溜め息を溢し、先生が労った。
がしかし・・・・。
「はい、先生の方こそお疲れ様です。ですがまだ、色々と残っていますね・・・・ナギサさんの事も、ミカさんの事も・・・・」
そう。アズサの事はコレで一応解決したが、〈トリニティ〉の代表である『ティーパーティー』の問題が残っていたのだ。
「あ、そういえばこの前、ナギサさんがヒフミちゃんと会ったそうです」
“ナギサ・・・・!”
「私もヒフミちゃんから聞いただけですが・・・・」
ハナコはナギサがヒフミと例の騒動後、漸く会った時の事を話し始めたーーーー。
ポケモン達ならば『ヘイロー』を持つ〈キヴォトス〉の人々を『殺せる』かも知れませんね。