ハナコが、ヒフミがナギサと会話した事を先生に話した。
* * *
ーヒフミ(過去)sideー
「・・・・ヒフミさん」
「な、ナギサ様、少し痩せられましたか・・・・? だ、大丈夫ですか?」
『ティーパーティーのテラス』にて相も変わらず優雅に座っているナギサだが、その顔は弱冠やつれており、後ろに控えているタブンネとイエッサン(♂)とポットデスも心配そうに見ていた。
が、ナギサは椅子から立ち上がり、ヒフミと向き合う。
「・・・・ヒフミさん、どうかキチンと謝らせて下さい」
「?」
『・・・・・・・・』
ヒフミに謝りたいと言う心底申し訳なさそうな顔になるナギサに、ヒフミは首を傾げ、ヒフミの側にいるガルーラは黙ってナギサを見据えている。
「私は、ヒフミさんの事を疑いました」
「えっ、あっ・・・・」
そう言われ、ヒフミは漸く思い至った。
「コレまでヒフミさんが理不尽に負った傷を考えると、私はこの場で紅茶をかけられたとしても、ガルーラさんに殴り飛ばされたとしても何も言えません」
『補習授業部』で『スパイ』のような事をさせて、その実ヒフミも『裏切り者の候補』として処分しようとした事を、心の底から後悔しているようだった。
「ヒフミさんが、『水着姿の犯罪者集団のリーダー』だなんて・・・・私はどうして、そんな事を・・・・」
「えっ、と・・・・」
『・・・・・・・・』
しかし、当のヒフミは先生から『疑われた理由』を聞いており、『自業自得』、『身から出た錆』のようなものなのであまり気にしていなかった。逆に後ろめたい気持ちである。ガルーラも怒っていた理由は、『理不尽な妨害行為』であって、ヒフミに対しての『容疑者扱い』に関しては全く怒っていなかった。
が、ソレを正直に言えないので、ヒフミとガルーラは気不味そうに目を逸らすしかなかった。そんなヒフミ達に構わず、ナギサは凄く真面目な顔で謝罪を続ける。
「私を許してくださいとは言いません・・・・許されるとも、思っていません。ですが・・・・」
「そ、その、ナギサ様。わ、私は大丈夫と言いますが・・・・も、勿論大変な時もありましたが・・・・何よりもまず先に、コレだけは伝えさせて下さい」
そう言ってヒフミは、一拍置いて呼吸をしてから声を発する。
「私はナギサ様を憎んだりなんて、そんなの考えた事もありません。ですからどうか、コレ以上謝らないで下さい・・・・」
「・・・・・・・・私だったらきっと、許せなかったと思います。ヒフミさんは、どうして・・・・」
「ど、『どうして』と言われましても、何ででしょうね・・・・? あ、あはは・・・・」
『『・・・・・・・・』』
まさかその『水着姿の犯罪者集団のリーダー』と言う『噂』が『真実』であり、その事で謝罪するナギサの姿を見ていると、物凄くいたたまれない気持ちになるからだとは言えず、苦笑いで誤魔化そうとするヒフミと、半眼でヒフミに責めるような視線を向けるガルーラ母子。
ーナギサ(過去)sideー
「(『あはは・・・・』)」
はナギサの脳裏に、先日ハナコが伝えた言葉が鮮明に過った。
【ーーーーあはは・・・・えっと、それなりに楽しかったですよ。ナギサ様との『お友達ごっこ』】
「ーーーーゴフッ! ゴホッ、ケホッケホッ!」
「な、ナギサ様・・・・!?」
『ガル!?』
『カル!?』
『タブン!』
『イエッ!』
『ポット!』
突然ナギサの身体が崩れ落ち、側にあったテーブルクロスを巻き込んで両膝を付き、更にテーブルクロスに引っ張られてテーブルの上に置かれていたティーポットとかが落ちそうになり、イエッサンが【サイコキネシス】で浮かせ、タブンネがナギサの傍に行って背中を擦り、ポットデスが傍に行き慰める。
「ケホッ、ケホッ・・・・コホン。いえ、その、お気になさらず・・・・」
あの言葉はハナコの口から出た出任せであると、頭では分かっているのだが、妙に声色が似ており、更にヒフミに対する後ろめたさから、ヒフミ本人が言ったように幻聴してしまい、立ち上がろうとした身体がまたも崩れ落ち、今度は盛大に床に倒れた。
「ほ、本当に大丈夫ですか・・・・!?」
* * *
ー先生sideー
“(・・・・やっぱりまたすぐに会いに行こう)”
かなりの心の傷‹トラウマ›が刻まれたナギサの身を案じ、先生はナギサのメンタルケアに行こうと決めた。
「うーん、誤解はもう解いたのですが・・・・少しやり過ぎてしまったみたいですね・・・・」
後でヒフミに盛大に怒られ、ガルーラからもゲンコツを振り下ろされて、流石にハナコもやり過ぎたと反省したようで、苦笑してそう言うハナコ。
「・・・・ソレにナギサさんは、どうやら他の方にもーーーーコハルちゃんに謝罪し、何も知らないハスミさんにも謝罪し、私も謝られました、『酷い事をしてしまった』・・・・と」
どうやらナギサなりにケジメを着けていったようである。しかし、苦笑していたハナコはまた顔を難しく歪める。
「・・・・『疑心暗鬼の闇』からは、抜け出せつつあると思います。しかしその代わりではありませんが、ナギサさんは・・・・」
“・・・・何か、私にできる事をしないと”
そう。ナギサは10年来の幼馴染であるミカに裏切られたのだ。その心の傷とて決して小さいものである筈がない。
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
“ソレに、勿論ミカも・・・・”
「ミカさん・・・・先生は・・・・ミカさんの『動機』について、どう思いますか?」
ハナコはミカの事を聞くと一旦黙って思考してから先生に尋ねた。
“・・・・・・・・”
【んー? 聞きたい? 先生にそう言われたら仕方ないなぁ。ーーーーそれはね・・・・〈ゲヘナ〉が嫌いだからだよ。私は本当に、心から・・・・心の底から〈ゲヘナ〉が嫌いなの】
ミカが敵対した『動機』は、ただ単純に『〈ゲヘナ〉が嫌いだから』。余りにも簡単かつ幼稚な理由で『クーデター』を引き起こし、ナギサを裏切ろうとするなんて、ミカはそんな浅慮で短慮な人かつ、冷徹な人間には見えなかった。
「ーーーーナギサさんとミカさん。『親しさ』というのは、外から判断できるようなものではありませんが・・・・お二人は10年と言う長い時間を共に過ごしてきた幼馴染です。真面目過ぎる程真面目で、慎重に慎重を重ねるタイプのナギサさんと、活動的でアクティブなミカさん・・・・性格も殆ど真逆で、傍から見ても『仲良し』とは安易に断定できないお2人でしたが・・・・ですがソレでも、私にはまだ『〈ゲヘナ〉が嫌いだ』と言う理由だけで、あの事件を起こしたとは到底・・・・」
どうやらハナコも、ミカの行動に疑問を抱いているようであった。
「・・・・この前『シスターフッド』の手を借りて、ミカさんに会いに行ったんです。ソコには、先客の方もいて・・・・」
そしてハナコは、その時の出来事を話し出した。
* * *
【わぁっ、ナギちゃんじゃん! いらっしゃい!】
【・・・・ミカさん、調子は如何ですか? 何か不便な事等は?】
〈トリニティ〉の『監獄』にハナコよりも先にナギサがミカと面会していた。
【まあその話で言うなら、不便な事だらけだけどね? デカヌチャン達はボールに納められたまま離されるで少し寂しいんだ。とは言えテレビだってあるし、『地下の牢獄』よりはマシだよ】
収監されている『囚人』だと言うのに、ミカの様子は相変わらずであった。
【いやー、ここに入るなんて思ってなかったなぁ。まあ予想してなかった訳じゃないんだけど、まさかこのタイミングだなんてね】
【・・・・そう、ですね】
【まあまあ、予想できないことが起こる事も人生の醍醐味ってことで。そんな感じにしておこ?】
ミカ自身、まさか監獄に入れられるとは思っていなかったが、ソレも人生の醍醐味だとポジティブな事を言う。
しかし・・・・。
【・・・・・・・・】
【・・・・・・・・】
幼馴染の2人の間には、重苦しい沈黙が充満していった。
【・・・・本当に、ナギちゃんが来てくれるとは思ってなかったよ】
【・・・・・・・・】
ミカはナギサが自分に会いに来るとは思わなかったようであり、ナギサも何処か悲しそうにミカを見つめていた。
【もう会えないんじゃないかなって、そう思ってた】
【・・・・まさか。私とミカさんの仲ですよ?】
【ふふっ、それもそうだね。幼馴染なんだし?】
【・・・・・・・・】
クーデターの陰謀が暴かれ、監獄へと投獄されたミカは、もう2度とナギサ会えないと思っていたようだが、ナギサはミカが自分を殺そうとしたにも関わらず、『幼馴染』だからという理由でこの場に赴いたのである。
【で、どうしてここに来たの? 『尋問』ならもう、飽きる程された後だけど?】
が、ミカの態度は冷たいものであったが、ナギサは怒る事なく聞いていた。
【ナギちゃんが直接来たってことは、それ以外に何か用事でもある感じ?】
【・・・・『アリウススクワッド』は・・・・】
【〈アリウス〉の『生徒会長』が秘密裏に組織した、『特殊部隊』。聞きたいのはそれだけ? ソレについては私、尋問の時にも言ったよ? 〈アリウス〉との接触のきっかけから、『アリウススクワッド』のメンバー構成まで。知ってる事は全部話したはずだけど?】
【・・・・はい。ソレは私も確認しました】
ナギサはミカに『アリウススクワッド』について聞こうとするが、当然そんな事はとっくに尋問済みだとミカは言う。ナギサも既にその事は知っていると言った。
【それで? じゃあまだ何か、隠し事があるんじゃないかって? なら試しに爪でも剥いでみる? 『シスターフッド』だっけ、どこかの誰かさんたちのやり方でさ」
【・・・・『シスターフッド』ではなく、かつての『聖徒会』のやり方でしょう。ソレに、もうそのような『野蛮な方法』は許しません】
【あははっ、言ってみただけだよ。知ってるもん、優しい優しいナギちゃんはそういうの苦手だもんね?】
【・・・・・・・・】
ミカは、『シスターフッド』のである『ユスティナ聖徒会』の『拷問』の話を持ち出してナギサを煽るが、ナギサはそんな事はしないと断言すると、その答えは想定済みと言わんげに言うミカ。
【・・・・私がこんな事を言うのもなんだけどさ、もう〈アリウス〉の事なんてどうでも良くない? 『ティーパーティーのホスト‹私›』っていう『後ろ盾』も無くなった事だし、もう〈アリウス〉の『兵器』も『補給』も全部途絶えつつある筈。『スクワッド』は残ってるけど、ソレに〈アリウス分校〉の残りの兵力を足し合わせた所で、『正義実現委員会』が動けば何とかなるんじゃない?】
【・・・・はい、ソレについては検討済みです。少なくとも『エデン条約』の段階で、今の〈アリウス分校〉は大した危険要素になりません】
【うん、だよね。私もそう思う。・・・・そう言えば尋問でも聞かれたけど、最後まで〈アリウス〉の『自治区』の事は分からなかったなぁ】
ミカもナギサも、〈アリウス分校〉と『アリウススクワッド』に対しては警戒心をソレ程抱いていないようである。しかし、〈アリウス分校〉の『場所』や『内情』までは、『協力者』であるミカでも殆ど知らないようである。〈アリウス分校〉の方も、ミカにソコまで教える程の関係ではなかったようだ。
【自治区への入り方をちゃんと知ってるのは・・・・多分『スクワッド』のリーダー、『サオリ』くらいだと思うよ? ソレについて知りたいなら、アズサちゃんをちょっと脅して聞いてみたらどう? 『裏切り者』とは言え『当事者』なんだし、何か知ってるんじゃない?】
【そ、それはその・・・・】
ミカは『アリウス自治区』の場所を知りたそうにしているナギサに、アズサを脅す事を提案するが、ナギサは顔を顰めて歯切れの悪い反応を示したので訝しそうに眉根を寄せると、すぐに察したように声を上げた。
【・・・・? あ、あー、分かった。ナギちゃんがそんなに歯切れが悪いのって、もしかしてあれ? 先生に意地悪したから、これ以上『シャーレ』の下にいるアズサちゃんに色々問いただすのは気まずいとか?】
今やアズサは『シャーレ』の先生の庇護下にある。ソレに前回の騒動の件もあり、コレ以上先生と揉め事を起こせば最悪、『シャーレ』を敵に回す事になってしまうのもある
【でもまあ確かにそんな事をしようとしたら、先生はアズサちゃんを守ろうとするんだろうね。別にナギちゃんを邪見に扱うって訳じゃないだろうけど】
【・・・・・・・・】
ミカはそう言うが、ナギサの顔はとても悲痛な色に染まっていた。
【その顔・・・・ナギちゃん、アレから先生に会ってないでしょ? アソコまで酷いことをして、合わせる顔が無い・・・・って感じ? あはっ、思春期の女の子だねえ、ナギちゃんも。・・・・ま、それは私も同じなんだけど」
そしてミカは、ナギサが先生と会うのを避けているのを見抜くが、自分もあんな事件を起こした手前、合わせる顔が無いと感じている事を打ち明けるのであった。
【先生さ・・・・何度も何度も私に会おうと、ここまで来るの。その度に断るのも、結構大変なんだよね。私はこうして閉じ込められてる立場なんだから、『シャーレの権限』でも何でも使って、強制的に出てこさせれば良いのにね?・・・・まあ、そういう人じゃないか。ナギちゃんも知ってるでしょ。私が先生に色々な情報を流してたのは、ナギちゃんも知ってるよね? アレで先生が裏切ってれば、話は簡単だった】
先生は何度もミカに会おうと監獄に足を運んでいるようで、ミカは面会を断り続けているようである。そして先生が自分に靡いてくれればとミカは嘆く。
【そうでなくても、私の言う事を全部信じるか、ナギちゃんの言う事を全部信じるか・・・・そうしてくれば、もっと分かりやすい展開の筈だった。もっともっと動きやすかった。そう、だからいっそナギちゃんにでも、私が言ったことを全部そのまま流したりしてれば・・・・多分今頃は堂々と、ここまで来た先生に笑って会えてたんだろうな」
【・・・・・・・・】
仮に先生が、どちらかの言う事を全部信じていれば、事態はもっと分かりやすい展開になっていたと嘆く。しかし実際、先生はどちらの言う事も全て信じる事も、それをバラす事めしなかった為、ミカは先生に会うのが気まずいのだである。そしてソレは、ナギサも同じであっま。
【・・・・ねぇナギちゃん。考えようによってはさ、何だかんだで全部上手く行ったんじゃないの? 『トリニティの裏切り者』はこうして捕まった。〈アリウス〉はもう『脅威』にならない。これで『エデン条約』さえ締結できれば、ナギちゃんの望んだ『平和』が現実になるじゃん】
【・・・・・・・・】
【『ハッピーエンド』、良かった良かった】
そして最後にミカは、色々あったが、終わってみれば全て上手く収まったと言い出し、後は『エデン条約』の締結さえすれば『ハッピーエンド』だと言いだした。
【・・・・何も良くありません・・・・】
が、ナギサは感情を押し殺したかのような声を発した。
【何が良かったんですか、この状態で・・・・ミカさんが、『裏切り者』で・・・・。どうして、“私のヘイローを破壊しようとしたんですか”?」
【・・・・・・・・】
当然、ナギサにとっては何も良くない状況である。探していた『トリニティの裏切り者』は幼馴染のミカで、彼女は自分のヘイローを破壊しようとしていたのだから。
【・・・・どうしてですか? 〈ゲヘナ〉が憎いからですか? ソレが理由で、私の事を・・・・? ソレに、セイアさんの件もそうです。何故、どうして・・・・】
【・・・・・・・・】
ナギサは何故自分を殺そうとしたのか、何故セイアを殺そうとした理由を尋ねるが、ミカは何も答えてはくれなかった。
【あの時、セイアさんが死んだと聞いた時。『衝撃』と『恐怖』・・・ソレと同時に、『きっと次は私だ』と思いました。私達の中で最も賢く、『予知夢』という『武器』まで持ち合わせたセイアさん・・・・〈トリニティ〉でも一等危険な彼女を最初に襲うのは、ある意味理解できます。ミカさんは政治的には基本アレですし・・・・となればきっと、次は私だろうなと・・・・】
【・・・・もしかして私、今悪口言われてる?】
セイアがアズサに襲われ死んだと聞かされた時、ナギサは次に狙われるのは自分だと感じた。セイアは『ティーパーティー』のホストの3人の中で1番優秀で、特殊な能力があるからだが、ミカは政治的には戦力外だと思っているナギサは、次はミカではなく自分だと思ったようである。ミカは何気に馬鹿にされたて感じ、目からハイライトが一瞬消えた。
【ですから、もし私に何かあったら・・・・後は全て、ミカさんに頼もうと思っていました。だからその前に、ミカさんち危害が及ぶ前に・・・・『犯人』を見つけ出そうと思っていたんです。ましてや、ミカさんまで怪我をさせたくありませんでしたし・・・・】
だからこそ、先生達やヒフミ達にアソコまで酷い仕打ちを繰り広げていたと言う。
【一体誰が・・・・〈ゲヘナ〉? 〈連邦生徒会〉? ソレともあの〈ミレニアム〉の『ビックシスター』が? 〈レッドウィンター〉の『独裁者』が? 〈山海経〉のあの『黒い君主』が・・・・? 『裏切り者』は誰なのか、ずっとソレだけを考えて・・・・まさか、いやもしかしたら、でも・・・・! それで、私はーーーー」
全てはミカを守る為に、ナギサは必死になって裏切り者を探していた。だからこそ、『補習授業部』にアソコまで酷い仕打ちをしたんだと打ち明ける。だが、守ろうとしたミカこそが『裏切り者』であった。ソレを話すだけで、ナギサがどれだけ心を擦り減らしてきたのかが良く分かる。
【ナギちゃん。・・・・もう良いの。コレはそんな複雑なお話じゃない。〈ゲヘナ〉の事が大っ嫌いな私が、その為に幼馴染をも殺そうとした。ソレだけの話だよ】
【・・・・何かが、あったのではないですか? 『手違い』が、『誤解』が・・・・何か事実からは見えない、『真実』が・・・・】
【・・・・『真実』? あははっ! あーもう、だから私はナギちゃんの事が好きなんだなぁきっと。こういう、純粋なナギちゃんの事が。そんなものはないよ。私がセイアちゃんをやっつけようとした、その上ナギちゃんの事も。ただソレだけ】
ソレでも、どうしてもミカが『裏切り者』だと信じられない、信じたくないナギサに、ミカがはっきりと自分のやろうとしたことを述べる。しかし、本人の口から聞いてもなお、やはりナギサは信じられないようである。そんなナギサのことをミカは笑う。
【ナギちゃんはよく知ってるでしょ? 私、好き嫌いが激しいの。ただそれだけだよ。どうしても〈ゲヘナ〉とは仲良くできなかった、それだけのお話。あんな奴らと同じ空間にいるなんて耐えらんない。ナギちゃんはそうじゃないの?】
【・・・・それで、〈アリウス〉と手を組んだのですか?】
【うん、私は『人殺し』だよ? 気に喰わない事があったらそれくらい、当然のことでしょ?】
ミカは相変わらずゲヘナへの憎悪を口にする。そしてナギサはその為にアリウスと手を組んだのかと問うと、ミカは自分は『人殺し』だから当然だと答えた。
【セイアちゃんが例え生きてたとして、私があの子を殺そうとしたって『事実』が消える事は無い。ナギちゃんは私の『こういう側面』を知らなかった、ただそれだけ】
【どうして・・・・私は・・・・】
【『私はあれだけ長い間一緒にいたのに、気づかなかったのか』?・・・・その『答え』は私よりも、ナギちゃんの方が良く分かってるでしょ?」
【それは・・・・】
ナギサの脳裏に、以前先生に面と向かって『どうやって? 証明できるのですか? ヒフミさんの心を、本心を、本音を、どうやって証明するというのですか? そうではない、『誤解だ』、『事情』がある・・・・その言葉に、どれだけの意味が? どれだけの『真実性』が?・・・・心の中身など、証明できるものではありません。ヒフミさんの優しい心、礼儀正しい所、優しい所・・・・ソレらを痛いほど知っていても、『本音』を知ることはできないのです。当然です・・・・どう足掻いたって私達は、所詮『他人』ですから』と、客観的に見ても『疑心暗鬼』に捕らわれきった言葉が浮かび上がった。
【・・・・『私たちは他人だから』。ね、分かる訳ないじゃん?】
【・・・・・・・・】
まさかこんな形で自分の言葉が自分に返ってくるとは思わず、ナギサは顔を顰めるが、すぐに戻す。
【・・・・今日は、帰ります】
【うん、気を付けてねナギちゃん。お見送りはしてあげられないけど】
【・・・・せめて、デカヌチャン達だけはアナタの傍に置いておけるようにしておきます】
【あっ、ソレなら少しはここの生活もマシになるかな☆】
ソレだけ話し、ナギサは監獄から出ていった。
ーーーーガチャン!!
監獄の扉が重く閉まる。
【・・・・・・・・】
ーーーーガチャン!!
が、しすぐまた、監獄の扉が開かれた。
【・・・・どうして、そんな『嘘』を吐くんですか?】
【うーん、今日はお客さんが多いね。次はハナコちゃんか】
次に入ってきたのはハナコであった。ハナコは、先程の会話を聞いていたのか、ミカが『嘘』を吐いていると見抜いていた。
【・・・・まあ私の方はどちらかと言いますと、『役割上の都合』ですが】
【そっか。まぁナギちゃんと一緒に来た訳じゃないなら、『シスターフッド』の差し金? もしかして傘下に入ったとか?・・・・まあ、私にとってはどっちでも良い事だけど。ソレよりさ、『嘘』ってどう言う事? 私がいつ、何の『嘘』を吐いたって?】
【シスターフッドからの情報を合わせて、ミカさんのこれまでの動きを推測していたんです。それによって目標や目的を探る・・・・一種の『ポストモーテム‹事後検証›』のようなものでしょうか。要するに、聖園ミカさんはどうしてこのような事件を起こしたのか・・・・? と】
【うわぁ、当事者の前でそれを語るの? 良い趣味してるね?】
ミカはナギサに『嘘』を吐いているというハナコの言葉に不快感を滲ませつつ聞いてくると、ハナコは『シスターフッド』の情報とミカの行動を推察する事によって、彼女の動機を暴こうとしている。それを当事者の自分に話すのかと、ミカは顔は笑顔で、目は全く笑わずに威圧してきた。
【・・・・ミカさんは〈ゲヘナ〉の事を憎んだ『結果』として、『エデン条約』を壊そうとしました。コレは確かにそうでしょう】
【・・・・・・・】
【『誰』に煽り立てられたのか、或いはその『誰か』がいるのか、そしてどういう経緯でその決心に至ったのかは分かりませんが・・・・最終的に、『ホスト』になる為に〈アリウス〉と手を組みました。最初の計画は単純に、セイアちゃんを拉致して幽閉する程度だったのではないでしょうか。『ホスト』になる為であれば、ソレで十分ですから」】
ハナコはミカの威圧等何処吹く風で、ミカの『動機』を推察していく。そしてミカは黙って彼女の言う事を聞く事にした。
【しかし、それを実行する『アリウススクワッド』の考えは違いました。彼女達は初めから『セイアちゃんのヘイローを破壊するつもり』だった・・・・その後の一連の流れは、これまた色々な見方がありますが・・・・兎に角ミカさんは、『セイアちゃんが死んだ』と報告を受けました。この時から、“ミカさんの心は壊れ始めたのではないでしょうか”。恐らく、パニックに陥った事でしょう。セイアちゃんが死んでしまうなんていう、取り返しのつかない事になってしまった、自分は実質的に、『人殺し』になってしまった・・・・こうなった以上、もう徹底的に最後までやり抜くしかない。何を犠牲にしてでも、最初に描いた所まで辿り着くしかない・・・・そんな、『自暴自棄』ともいえる『破壊的な衝動』で・・・・】
【ねぇねぇ、ちょっと待ってよ。勝手に人の心を推理しないでくれる?】
ミカはあくまでセイアをちょっと脅して幽閉する程度だったが、〈アリウス〉は元からセイアを始末するつもりであり、当然その通りに作戦を進め、セイアが殺されたという『最悪の結果』を聞き、ミカの精神はパニック状態に陥り、『自暴自棄』になってここまで来てしまったというのがハナコの推測であった。
しけし、ミカはイラついてきたのか、顔は笑顔のままハナコを睨みつける。
【セイアちゃんを殺せって指示したのも私、幼馴染であるナギちゃんをどうにかしようとしたのも私だよ? 頭の良いはずのハナコちゃんが『自暴自棄』とか『衝動』とか、一体何を言ってるの?】
【・・・・いいえ。私は、アナタが言った言葉を覚えています】
『うん、“私の指示だよ”。セイアちゃんってば、いつも変な事ばっかり言って。『楽園』だのなんだの、難しい事ばっかり。でも『ヘイローを破壊しろ』とは言ってないよ。私は『人殺し』じゃない。ただ卒業するまで、檻の中に閉じ込めておいた方が良いなって思っただけ。でも、自然にああなっちゃったの』
ソレは、先日の体育館での戦闘でミカ本人が口にした言葉であった。
『セイアちゃんがあんな事になっちゃったのが、ここまで事態が大きくなった『きっかけ』なんだよ? そこからもう色んな事がどうしようもなくなっちゃったわけだし・・・ねえ、その辺りどう思う?』
ハナコはあの時の発言を思い返して口にする。自分が殺した訳じゃないという言い、アズサがセイアを殺してしまったと思っているような発言に、今の発言の矛盾を言った。
【他にも幾つか『不自然な点』があります。私はあの時『トリニティの本当の裏切り者が存在する』とは思っていましたが、あそこで本当に姿を表すとはソコまで思ってませんでした。何故ならソレは、ご自身の1番の『利点』を投げ捨てる事になるからです。戦略的に考えれば、あのような行動に出る筈がありません」
【うん、それは私も反省してるよ。あーあ、私がもうちょっと賢かったらーーーー】
【ミカさんは『〈アリウス〉がナギサさんを殺すのが怖かった』・・・・? そうではありませんか?】
【・・・・・・・・】
最後にミカは自分から先生達の前に姿を表したのは不自然だと思って言うと、その事についてミカは自分のミスのように話すが、ハナコがミカの言葉を遮るように声を発した。
【セイアちゃんの時のように、〈アリウス〉がナギサさんの『ヘイロー』を破壊するかもしれない。そう思ったのでは?】
そしてさらに幾つかのおかしな点があり、ソレをハナコはミカに述べていく。そして、体育館での戦闘の際に、『・・・・そう言う訳だから、ナギちゃんを返してくれる? 大丈夫、痛い事はしないよ。まあ、残りの学園生活は全部檻の中かも知れないけど』と言っていた。
ハナコは、ミカが本当はナギサが殺されるのを回避したいという願望から、わざわざ姿を表したのではないかと考えたようだ。
【・・・・・・・・】
【ミカさん、アナタは強いです。恐らく純粋な戦闘であれば、『正義実現委員会』のツルギさんとも十分に渡り合えるでしょう。〈トリニティ〉の『ティーパーティー』の3人のホストが所持する事ができる『隠し玉』を所有する程の。勿論あなたには、それ以外の強さもありますが・・・・】
ハナコはミカが、戦闘力だけならば〈キヴォトス〉で3本の指に入るツルギと互角だと言った。
【あの時は、私は余裕のある振りをしていましたが、内心ではかなり危険な状況だと分かっていました。『シスターフッド』の支援があったとはいえ、アナタを制圧するのは簡単ではないはず。最悪の場合、『シスターフッド』の皆さんがリタイアしうるとまで想定していたくらいです】
【買い被りすぎじゃない? あの場で『あの子』を出しても私の言う事を聞いてくれると思えなかったから使わなかっ持ただけだよ】
【確かにそうかもしれません・・・ですが、アナタは投降した。『セイアちゃんが生きている』、その事を聞いた瞬間に】
ハナコはあの時、内心かなり焦っていたと言うと、『隠し玉』すらも使わず、本気で戦ってすらいないミカに疑問をぶつけた。
【・・・・もう良いよ。で、何が言いたいの? だから私が可哀想だって? 本当はそんなことをしたくなかったんじゃないかって?それとも間違った選択をしたおバカさんだねって?」
【・・・・・・・・】
【あはははははっ!】
ミカは自分の内心を暴いて『真実』を知りたいハナコを馬鹿にするかのように、大声で笑ってみせた。
【あー、本当に面白い子だなぁ・・・・】
そしてミカはひとしきりに笑った後、ハナコを面白いと評価した。
【全然違うよ、私はただの『裏切り者』。『友達』も『仲間』も売り飛ばした、『邪悪で腹黒な人殺し』。その『事実』に目を背ける気は無いよ。こんな私、皆に嫌われたって仕方がない】
そして、ハナコの推察を無慈悲に否定し、自分は『ただの人殺し』であると言った。
【・・・・もし、仮に他の理由があったとしてさ。それをどうやって知るの? だってそれが本当だって言ってるのに。それを否定してまで、ハナコちゃんは何を探そうとしてる訳? どうしてソコまで、証明しようのない事に固執するの?】
【私は、ただ・・・・】
【ね、セイアちゃんは今どうしてるの? ハナコちゃん、仲良かったよね? セイアちゃんって本当に無事なの? まさかと思うけど、『本当は死んだのに嘘を吐いた』なんて事はないのね? でもソレならどうして、姿を現さないのかな? ソレとも、今もまだ私を『嘘』で虐めようとしてる所? ハナコちゃんも相当腹黒だもんね。ソコも疑った方が良さそうだったり?】
ミカは何故ソコまで探ろうとするのか、セイアが本当に生きているのか、自分を貶めようとしているのかとハナコに聞いてくる。
【・・・・・・・・今日はコレで失礼しますね、ミカさん。今言った推測については、誰にも言いません。勿論ナギサさんにも】
【うん、好きにすれば?】
【そして、先生にも】
【・・・・・・・・////】
【『推測』、ですからね】
【・・・・・・・・】
【それでは・・・・】
コレ以上は何も聞けないと判断したハナコは監獄から出ていこうとし、ミカも手をヒラヒラさせる。そしてハナコは去り際に先生の名前を出すと、ミカは顔を赤くさせた。
ーーーーガチャン!
監獄の扉が開かれ、ハナコは扉の前にいたジュペッタと合流すると、無情に大きな音を立てて閉まられ、ミカはその扉をジッと見据えた。
【・・・・・・・・・・・・私も大概だけど。ハナコちゃんも、結構残酷だねぇ】
ミカの呆れたような声が、監獄の中に虚しく響くのであった。