ー先生sideー
“・・・・・・・・・・・・・・・・”
『ピカ・・・・』
ハナコから聞かされたミカの『真意』を、先生とピカチュウは黙って聞いていた。
「まあそう言いつつ、こうして全部先生に伝えてしまった訳ですが・・・・少しだけ、ミカさんに意地悪しようと思ったのですけど・・・・何だか最後は本当に、嫌がらせをしてしまった感じもありました。・・・・頭に血が昇ってしまったようです。今度謝らないと・・・・」
ハナコもやり過ぎてしまったと感じたようである。
「ですが、今の所顛末はこう言った形になるしか無さそうです。〈ゲヘナ〉の事が嫌いだったミカさんが、ホストになる為に『ティーパーティー』を襲おうとした。襲撃を指示したのは聖園ミカさん。実行したのは『アリウススクワッド』。そして最終的に、セイアちゃんがいた部屋を爆破したのは白州アズサちゃん。各々に、違う『目的』があり・・・・その行動の結果が次から次へと連鎖し、『誤解』と『不信』が混ざり合い、今ここに辿り着いた・・・・・・・・コレが『結論』、なのでしょうか」
コレまでの顛末をハナコが簡潔に並べていく。アズサと『アリウススクワッド』、そしてミカ。それぞれの思惑が複雑に絡み合って、今の状況に至った。
“どうなんだろうね・・・・”
しかし、先生の見解は違うようだ。
“例えばミカも、最初はただセイアに『意地悪』しようと思っただけ・・・・とか”
「・・・・先生? 急に、何を・・・・? 仮定の話だとしても、かなり極端な想定に思えますが・・・・えっと、一応考えてみますと・・・・」
先生の言葉が突拍子がないので一瞬戸惑うハナコは、すぐに思考を巡らせ、ブツブツと呟く。
「ミカさんの性格を考えるに・・・・実際の所はさておき、ミカさんは『政治に向かない』と言われるくらい、傍から見ると余り計算等せずに行動するタイプです。毎日のように小難しい事を言ってくるセイアちゃんに、苛立ちを覚えていた・・・・? まあ、セイアちゃんは確かに『性格が良い』とはあまり言えない感じではありますが・・・・」
流石と言うか、先生の突拍子の無い言葉からミカの性格からセイアとの関係性を考えて、ミカの行動を分析し始める。
「ミカさんがソコに対して『意地悪』しようとして、〈アリウス〉を・・・・さ、流石に無茶と言いますか、恣意的‹シイテキ›過ぎる形になってしまうと言いますか・・・・」
“うん、そうかもね”
「・・・・先生、簡単に納得されるんですね・・・・?」
“或いはミカは、本当に〈アリウス〉と仲直りする事が『目的』だったとか”
セイアに『意地悪したい』と言う考えで、〈トリニティ総合学園〉を恨んでいる〈アリウス分校〉を巻き込むだなんて、余りにも荒唐無稽な推察に、ハナコは苦笑してしまい、先生も頷いてみせながら、〈アリウス分校〉との和解と推察した。
「・・・・・・・・仲直りする事が『真の目的』で、その意図を利用された・・・・? ソコで〈ゲヘナ〉に対する憎悪が煽られる形で・・・・いえ、先生が仰っしゃりたい事はーーーー私達にはミカさんの『本心』を察する事はできない・・・・そう言う事ですか?」
“私達には、エスパーポケモン達のように相手の心理を理解する能力はない。でも、『楽園に辿り着きし者の真実を、証明する事はできるのか』・・・・”
「『5つ目』の・・・・楽園に辿り着いた者は、楽園の外で観測される事が無い。存在する事を観測できない・・・・楽園の存在証明に関するパラドックス・・・・」
“・・・・証明できないものを、どうやって証明するのか”
「・・・・もし『他者の本心』なんてものに辿り着いたら・・・・ソレはもう、『他人』ではありません。辿り着けないなら、やはり『本心』等分かっていないと言う事で・・・・『楽園』も、『誰かの本心』も一緒・・・・そう言うお話ですか?」
先生が夢の中でセイアに教えてもらった『七つの古則』の『5つ目』を口にすると、遠回しに「私達の推測では、ミカの本心を証明できない」と伝え、聡明なハナコはその意図を理解した。
「・・・・確かに、そうかもしれませんね。私達はエスパーポケモン達のように誰かの心に直に触れる方法も、その『真実』を証明する術も持ってはいません。『誰かの本心を理解した‹楽園に辿り着いた›』と言う言葉を、どうすれば『本当』だと証明する事ができるのか・・・・正に『矛盾』・・・・不可能なのでしょうか。『他者の心を理解する方法』は、無いのでしょうか・・・・?」
“・・・・無いんだろうね、きっと。僕達人間は、そんな便利な能力なんて無い”
ハナコの問いかけに、先生は小さく首を横に振る。
「・・・・・・・・」
“ソレはきっと、『不可能な証明』・・・・”
先生は不可能と言いながらも、言葉を続ける。
“・・・・だとすればもう、信じるしかないのかも知れない。ーーーーソコに『楽園』がある、って”
「・・・・そう、ですね」
先生の言葉に、ハナコも頷く。
「考えてみれば、先生は最初からそうでしたね。この『疑惑と疑念で満ち溢れたお話』の、初めからずっとーーーー」
先生はずっと信じていた。
ヒフミをーーーー。
コハルをーーーー。
アズサをーーーー。
ハナコをーーーー。
ハスミをーーーー。
〈ゲヘナ〉のヒナをーーーー。
ナギサをーーーー。
ミカをーーーー。
セイアをーーーー。
「勿論ミカさんやナギサさんを含め、先生は生徒達を疑わない・・・・そう言う事ですか?」
先生は学校の違いも、所属も関係なしに、生徒達を分け隔てなくに信じていた。ソレが先生が、先生としての『在り方』なのかと聞いた。
「・・・・例えその結果として、誰かに裏切られても?」
“その時はきっと、何か事情があるに違いないから”
「どうして・・・・先生はどうして、そんなに・・・・」
“『先生』が『生徒』を信じないと、何も始まらない・・・・。『大人』だから、皆を信じたい”
裏切られても生徒を信じようとする先生に、ハナコは何故ソコまでと聞くと、先生は『先生』として、『大人』として、生徒達を信じると応えた。
そして先生の脳裏に、ミカの姿が浮かんだ。
“ナギサとミカがいつかまた、お互いに本音を打ち明けられる日が来て欲しい”
初めてナギサとミカと会ったあの日に見た2人の姿こそが、本来の2人の関係性なのだと先生は確信している。
“いつか、きっと。その為に私も・・・・『エデン条約』が終わったらまた、もう1度すぐに会いに行く。ミカにも。ナギサにも”
『ピカチュウ!』
またあんな風に他愛のなく話し合っている2人に戻って欲しい、その時はセイアも一緒に、と先生は願っていた。その為にも、『エデン条約』と『ある問題』を片付けて、ナギサやミカと本気で向き合いたいと伝えた。
「そうですね・・・・全て片付いたら、皆でもう1度・・・・どうなるかは分からずとも・・・・私達は、お互いに手を伸ばして努力するしかありません。そう言う事ですよね」
『ジュペ』
ハナコも今度はナギサとミカ、セイアも交えて皆で他愛のない事でお茶を飲んだり、勉強したり、遊んだりしてみたいと思い、ジュペッタも頷いてみせた。
“きっとソレが、私達のできる唯一の事だから・・・・”
「・・・・はい、そうですね////」
『ジュペジュペ』
照れ臭そうに微笑みながらハナコも頷き、ジュペッタもウンウンと頷いた。
ーハスミsideー
そしてソレからまた暫く経ちーーーー。
「きええええぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!!」
『ブギィイイイイイイイイイイッ!!!!』
ーーーードゴオォォォォォォォォン!!!!
ーーーーズゴオォォォォォォォォン!!!!
昼間の〈トリニティ〉の自治区の市街にて、今日も『正義実現委員会』は不良生徒達の鎮圧していた。
ツルギとパートナーのコノヨザルが不良生徒達を相手に大暴れしている。
『チャー・・・・!』
と、ツルギのもう1人のパートナーのチャーレムが、ツルギとコノヨザルのブッ飛ばした人や車とかを【ねんりき】で安全に地面に置き、護送車の中に入れていく。
「ツルギ先輩とコノヨザル、今日は絶好調ですね。チャーレムも見事なフォローです」
『カポッ』
「・・・・正直、任務続きで疲れもあったのですが、こんな姿を目の前にして弱音は吐けません。私達も先輩達を見習って、もっと頑張らないと!」
『カポカポッ!』
ツルギとコノヨザルが不良生徒をブッ飛ばし、チャーレムが上手くフォローしているのを見て気合を入れているのは、マシロとカポエラーである。
《ハスミ先輩ちーっす。さっきちょっと誰かさんに、学校にあった備品の戦車を奪われちゃいましてー》
と、マシロとカポエラーが気合を入れると、ハスミの持つ無線機に、別行動をしているイチカからの無線が入った。
「何ですって・・・・!?」
《ちょっと頭数が足りないんで来てほしいんすけど・・・・おわっ、何かスゲードリフトしてる!? なんつーテク! ハリテヤマ! 【こらえる】で受け止めるッスよ!》
《テヤマッ!!》
《クゥゥゥゥ!》
《うわっ!? 何スか!? 何で『ハクリュー』が(ブツッ!)》
イチカの報告によると、備品の戦車が盗まれ現在暴走中であり、手持ちのハリテヤマが止めているようである。
「今はバタバタしているのですが・・・・えっと、コハルとヘラクロスがまだ校内に・・・・。いえ、コハルは風邪で休んで、ヘラクロスは看病をしているんでしたね・・・・」
「そもそもコハルさんはまだ『補習授業部』の所属ですよ。と言う訳で先輩、私達が行ってきます! 行きましょうカポエラー!」
『カポエラー!!』
ハスミはコハルとヘラクロスを頼ろうとしたが、今日は休みで、今は『補習授業部』に所属しているので、代わりにマシロとカポエラーがイチカとハリテヤマの元へと向かった。
ーーーードカアァァァァァァァァンッ!!!
「ぎゃははははははははぁっ!」
『ブギイイイイイイイイィッ!』
『チャ〜・・・・』
「まあ、ここはツルギ達に任せてもよさそうですね・・・・私達も一緒に行きます!」
『クワッ!』
『イトイト!』
この場はツルギとコノヨザルが派手に暴れているので、結局ハスミとネギガナイトとタイレーツを連れて戦車の元へ向かった。
ーーーーそして、この戦車を盗んだ戦車泥棒と一緒にいる生徒は、後に『シャーレの先生』を巻き込んで、ツルギ達とマシロ達と共に海へバカンスに行く事になるのだった。
ーハナコsideー
そしてここは『シスターフッド』の大聖堂。『シスターフッド』に良く出入りするようになったハナコは・・・・。
「・・・・・・・・////」
「・・・・・・・・」
顔を赤くするヒナタに、ハナコが後ろから抱き着き、ヒナタは思わず逃れようとしていた。
「あ、あの、ヒナタさん・・・・?」
「はい、どうかしましたかヒナタさん?」
「あの、背中に何かが当たっているような・・・・?////」
そう。ハナコがヒナタを背中から抱き着きと、おのずとハナコの豊満な胸が当たり、柔らかく潰れているのだ。
「そうですねぇ、困りましたねぇ♡」
「あうぅ・・・・////」
とぼけながらもハナコはヒナタの背中から離れず、ヒナタは更に顔を赤くする。
「えっと、ハナコさん? 何かお辛いことでも・・・・?」
「いえいえ、何もありませんよ。お出かけしたいタイミングにこうして頼み事をされて、何日も資料整理という『大切な』お手伝いに従事させられているだけですから。まあ全員一緒ではありませんでしたし・・・・何1つ問題はありません♡」
「うぅ、ごめんなさい・・・・ハナコさんが怖い・・・・」
そんなハナコにマリーは心配そうに声をかけると、ハナコはどうやら何日も資料整理を手伝わされて、その憂さ晴らしを(おそらく原因である)ヒナタでしているようで、マリーには嫌味を返す。
そんなハナコの笑顔の裏にある威圧感に、マリーは思わず謝るのであった。
ー先生sideー
そして先生は、〈ゲヘナ学園〉の生徒会・『万魔殿‹パンデモニウム・ソサエティー›』の議事堂に赴いていた。
「キキキキッ! お前が『シャーレ』の先生か!」
“あ、はい・・・・”
「なるほど、これは予想外だ! いっそ愉快なくらいにな! キキキキキキッ!」
“えっと・・・・こんにちは。君が〈ゲヘナ〉の『生徒会長』・・・・?”
「キキッ、ああそうさ」
先生は目の前にいる、長い銀髪をした麗人風の美女、『万魔殿‹パンデモニウム・ソサエティー›』の議長の『羽沼マコト』と面会しているが、愉快そうにテンション上げて笑う姿に少し引いていた。
後方にいる恐らく手持ちであろうアーボックとマタドガスもクックック、と笑っている(マタドガスは無表情だが)。
「『万魔殿‹パンデモニウム・ソサエティー›』の議長であるこのマコト様に『協力』の申し出とは、悪くない判断だ」
“・・・・え?”
『ピカァ?』
「キキキキッ・・・・『シャーレ』と『万魔殿‹パンデモニウム・ソサエティー›』。この2つが力を合わせたら、『ゲヘナの風紀委員会』ごとき簡単に壊せる筈だ。至って論理的な判断だと言える」
“何を言っているのかな・・・・?”
先生とピカチュウは、『エデン条約』に参列したいから、〈ゲヘナ〉代表(一応)であるマコトから許可を得るのと、マコトが『エデン条約』に対する考えを聞こうとしていたのだが、当のマコトは何故か、『『シャーレ』が『万魔殿‹パンデモニウム・ソサエティー›』に協力を申し出た』と、意味不明な解釈をし、先生とピカチュウを困惑させた。
「計画は完了した、さあすぐにでも計画を実行・・・・!」
「・・・・あの。そういう会話は、相手がいないところでした方が良いですよ?」
マコトは先生の行動を変な風に曲解して、『風紀委員会を倒す』と言っていたマコトであるが、先生の隣にいた、『ゲヘナ風紀委員会』の行政官である天雨アコも聞いており、頭に血管を浮かばせながら、『表面上はにこやか』に話す。
「マコト先輩・・・・話を変な方向に捻じ曲げないで下さい。こちらの『シャーレ』の先生はあくまで、『形式的な問題』で私達に会いに来ただけです。『エデン条約』にも参列されますので」
「・・・・なら、我々との協力は?」
「はぁ・・・・そもそも今日初めて会ったばかりじゃないですか」
「・・・・・・・・」
変な勘違いをしているマコトに、小柄な体型と非常にボリューミーな臙脂色の髪をした『棗イロハ』は、先生がここに来た意図を伝えると、マコトはキャトンとした。
「・・・・ふっ、そうか。成る程。まあ、『楽しみ』は後で取っておくとしよう」
が、すぐに何かを納得したように頷くと。
「よし、帰るぞイロハ」
「はい? もう良いんですか?」
その場にいたマコトの手持ち以外は首を傾げるが、マコトは構わず含み笑いを浮かべたまま帰ると言って去り、イロハは更に首を傾げながら一緒に帰って行った。
「はぁ・・・・」
“アコも、元気だった?”
「ソレは・・・・まあまあ、ですかね・・・・」
“そう・・・・”
『(ポンッ!)ソーナンス!』
マコト達が帰ってしまい、アコと先生、だけになる。先生はアコのことを慮って声をかけが、アコの返事は何とも素っ気ない感じであり、ソーナンスが勢い良く出てくるが、アコは無言でモンスターボールに戻してから先生に話しかける。
「ーーーーでも意外でした、先生が『エデン条約』に参列されるだなんて」
“そ、そうかな・・・・?”
まさか先生が『エデン条約』に参列するのが、アコには意外だったようだ。実は先生は〈アビドス〉での事件から、ずっと『エデン条約』に注目していた事を言う訳にもいかないので惚ける事にした。
「という事は、この後は〈トリニティ〉に・・・・?」
“さっき〈トリニティ〉に行ってから、ここに来たところ”
「なっ、いつの間に・・・・!? 風紀委員会の行政官である私が、そんな重要な情報を見逃していた・・・・!? いくら条約の準備で忙しかったとは言え、先生の行動を把握できていなかっただなんて・・・・」
どうやらアコは、行政官でありながら先生の動向を見逃していた事を悔やんでいた。。
“アコ、落ち着いて・・・・”
「ふぅ・・・・。委員長にも先日言われてしまいました、少し落ち着いた方が良いと・・・・」
“ヒナは今仕事中?”
「委員長は、今所用で〈ゲヘナ〉の外に・・・・」
先生がアコ落ち着かせると、ヒナはどうしているのかと聞いたが、アコは説明しようとした途中、歯切れが悪くなった。
「いつも通り、お忙しい毎日です・・・・『エデン条約』が締結されたら、委員長のお仕事も減るとは思いますが・・・・」
“そっか・・・・”
『エデン条約』の締結によってヒナの仕事が減って欲しいと思っているようだが、その表情は優れない。
先生の脳裏に、以前ヒナが言っていた言葉が過ぎる。
【・・・・色々面倒だし、『引退』するのもアリかなって】
“【『引退』?】”
【ETOができたら、今より遙かに〈ゲヘナ〉の秩序はマシになる筈。そうなったらもう、私が風紀委員長じゃなくても良いでしょう】
もしもアコがヒナが『引退』を考えている事に気付いているのなら、表情が優れないのも当然だろう。
「・・・・兎に角、先生の用事は終わりですよね。お帰りはアチラの方・・・・」
ーーーーガチャ・・・・。
「・・・・見送る」
「い、委員長?」
そしてアコは先生を帰らせようとすると、部屋の扉が開き、ソコに丁度帰ってきたヒナと四獣達が現れる。ヒナは先生が帰ろうとするのに気づき、見送ると言い出した。
「明日まで『出張』だった筈では・・・・?」
「思ったより早く片付いたから。アコもお疲れ様、私が送ってくるから休んでて」
「あ、はい・・・・」
ヒナの予想外の帰還にアコは驚くが、ヒナから休むように言われて引き下がる。
「ほら、先生」
“うん”
ヒナに案内され、先生とピカチュウは夜の〈ゲヘナ学園〉の廊下を歩いていると、ヒナが先生に話しかけた。
「ふぅ・・・・ソレで、先生。『〈トリニティ〉の件』は落ち着いた?」
“まだ全然。どうにかしたいことが山積みで・・・・。『エデン条約』が終わった後に、また色々やる予定・・・・”
「そう・・・・と言う事は、私にも言ってない事をまた色々と抱えてるってわけね」
『美食研究会』のドタバタ騒ぎの際に、先生はヒナに〈トリニティ〉で起こっている『問題』を話していたので、ヒナもある程度の事情は知っているが、何やら寂しそうな顔をしていた。。
「あの時に私に言った事が本当に全部なら、まだ終わってない筈が無いと思うのだけど?」
“ごめん・・・・”
「・・・・別に、『どうして全部言わなかったの』って責めてる訳じゃない。〈アビドス〉ならまだしも、〈トリニティ〉の事だし。やたらと複雑で、色々先生側にも考える事とか事情があっただろうし・・・・」
“ま、まあ・・・・でも『水着パーティー』の件は全部説明した通りだよ”
「そっ、そう言うのは良いの! ああもう・・・・////」
『『『(キランっ)』』』
ヒナは〈トリニティ〉の『問題』が終わっていない事にジト目を向けると、先生は思わず謝罪するが、別に責めている訳ではないとヒナが宥めると、先生が『水着パーティー』の事を話すと、ヒナが頬を少し赤くして、初めて狼狽えたような声を上げると、アブソル達は何やらニヤリと笑いながら目を光らせた。
「・・・・まぁ、兎も角。『色んな観点があって、味方によって真実は変わるかも知れない』・・・・あの時先生はそう言ってたけれど。例え『トリニティの裏切り者』が見つかったとしても、ソレは『特定の観点からの真実』に過ぎない・・・・ソレだけで全てを判断するのは難しい。情報だけを鵜呑みにせず、色んな観点から他の真実をも探しつつ、自分にできる努力をし続ける。何故ならソレは・・・・」
ヒナは以前先生に言われた事を思い出しつつ、先生が今後やるべき事を話すと、一拍置いてから改めて先生に問いかけるように口を開く。
「・・・・その子達は、先生に信じられてるのね」
“ヒナの事も信じてるよ”
『補習授業部』の子達が先生に信じられている事に、少し妬いている言動を見せ、先生はヒナの事も勿論信じていると言った。
「っ! 急に何を・・・・! 後、ソレは前にも聞いた!////」
『ーーーーーーーーーーーーー』
『(ガリガリガリガリ・・・・)』
『(ゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・・)』
またもやヒナは顔を赤くし、アブソルは『フレーメン反応』をし、ゴロンダは全身を搔き、ドンカラスはヒナに向かって「壁ドンしろ! キスしろ! 『既成事実』を作ってしまえ!!」と言わんばかりのオーラを放っている。
「全くもう・・・・」
そんな『家族』の反応を視界に入れないようにし、ヒナは先生とピカチュウを連れて廊下を進んでいく。
そして、〈ゲヘナ学園〉の広場に到着すると、先生はミライドンを出し、ピカチュウを頭に乗せ、先生はミライドンの背中に乗り込んだ。
「帰り道、気を付けて」
“・・・・もしかしてだけど、まだアコに引退のこと話してない?”
「・・・・そうね」
先生は帰り際、ヒナの引退の話をアコは知っているのかと聞く。
「先生以外はまだ誰も知らない。アコは何となく気付いてるかも知れないけど。『引退』と言ったって、そんなに大袈裟な事じゃない。少し疲れたから休みたいってだけで・・・・」
やはりアコはヒナの『引退』を察しているようである。だからあんなに表情を曇らせていたのだろう。
「・・・・この話はやめよう。そんなに大事なことでもないし。・・・・じゃあまた、調印式で」
“うん、ありがとう。ヒナ”
『ピカチュウ』
『アギャァ♪』
ピカチュウもお礼を言い、ミライドンはヒナに頬ずりすると、ヒナ達と別れるのであった。
◇
それから、また時間が経ってーーーー『エデン条約調印式』、当日を迎えた。
《今この動画をご覧の皆さん、こんにちは! 〈クロノススクール報道部〉のアイドルリポーター、川流‹カワル›シノンと! 相方の『ソーナノ』です!》
《ソーナノ!》
報道された映像に映るのは、報道特化の学園〈クロノススクール〉にある『クロノス報道部』に所属する、長い金髪をポニーテールにし、翠眼の瞳の瞳孔が☆のようになった健康的な褐色の肌と抜群のプロポーションをし、下乳と引き締まったウェストを晒している『川流シノン』。
そのパートナーである、ニコニコと愛らしい笑顔をしたツインテールのような腕があり、頭にはリーゼントのような突起があるソーナンスの進化前、『ほがらかポケモン・ソーナノ』がキャスターのように報道していた。
《本日は遂に締結される、〈ゲヘナ学園〉と〈トリニティ総合学園〉の『エデン条約』の調印式。その現場に来ております! 私は今、『通功の古聖堂』の傍にいるのですが・・・・》
『通功の古聖堂』の前には、〈トリニティ〉の生徒と〈ゲヘナ〉な生徒がそれぞれ聖堂の前に敷かれたカーペットの左右に縦列に並び、向かい合いながらそれぞれの校章が入った校旗を掲げている。
《・・・・・・・・・・・・・・・・》
しかし、〈トリニティ〉の生徒達は顔はお淑やかに微笑んでいるのだが、目は全く笑っておらず、光すら宿っていなかった。
足元にいる花と一体化したようなポケモン『ガーデンポケモン・フラージェス』も、それぞれ『あかいはな』、『あおいはな』、『きいろのはな』、『オレンジいろのはな』『しろいはな』と姿が異なるタイプが並び、視線を鋭くしていた。
《・・・・・・・・・・・・・・・・》
そして、〈ゲヘナ〉の生徒達も顔はにこやかにしているのから不機嫌そうで、目は〈トリニティ〉の生徒達と同じく光を宿しておらず、寧ろガン飛ばしているように見える。
その後ろに、黒い体色をした身体を横にしたバネのようにくねらせ、尻尾の先端が刃になり、大きな口から2本の毒の滴る牙を生やした『キバへびポケモン・ハブネーク』が舌をチロチロと出しながら威嚇していた。
《既に現場は熱が籠もっており、互いに譲らないと張り詰めた空気なっております! 誰かが一歩間違えれば、この場が大惨事になりそうな空気です! 感じるでしょうかこの空気感!》
《ソーナノ?》
シノンが空気を読まずに不安に駆り立てるような事を言い、ソーナノは首を傾げるが、この両校の誰かが鉛玉1発でも放つか、ポケモン一匹が少しでも不審な動きでもすれば、すぐさま銃弾とポケモンの技が放たれるような緊迫した空気の中では、他に言いようがないとも言える。
『和平』の為の調印式なのだが、まるで抗争ーーーー否、戦争でも始めそうな、正に一触即発の空間であった。
《『犬猿の仲』と言いましょうか、『呉越同舟』と言いましょうか! 私達のよく知る〈トリニティ〉と〈ゲヘナ〉の様相です!》
《・・・・ソーナノ》
《え? 何ソーナノ?》
と、ソコまで喋ると、シノンはソーナノに腕を引っ張られ、画面の端に目を向ける。
《・・・・はい? 余計な事を言うな? 早く決めろ? 仕方ないですね、今日も画面外から飛んでくる言葉が拳に変わる前に、チャチャとお話を進めていきましょうソーナノ!》
《ソーナノ!》
どうやら色々の言っちゃうシノンに、上の方からストップが入ったようだ。シノンは画面を『通功の古聖堂』へとカメラを向ける。
《物凄い威圧感ですね! ここが調印式の会場である、古聖堂の様子です! 『どうしてこの場所が選ばれたのか』と言う事に付きましては、どうやら或る筋と情報によると、『〈ゲヘナ〉の首脳部からの提案』との事です!》
《ソーナノ!》
《コレは意外! ここがかつて、〈トリニティ〉の『第1回公会議』が開催された歴史的な場所だからでしょうか?》
《ソーナノ?》
《いえいえソーナノ、そうではないようです。どうやらその理由は・・・・『コレほど大きなイベントなのだから、大きく権威のある場所が良い』との事。要するに、『デカい場所の方がカッコいいだろうが!』との事です! 成る程、分かりやすいですね!》
《ソーナノ!》
要は〈ゲヘナ〉の首脳部、『万魔殿‹パンデモニウム・ソサエティー›』の議長であるマコトの見栄のようだ。
《少々話は変わりますが、先程申し上げた『第1回公会議長』、そしてソコで定められた戒律は、当時『ユスティナ聖徒会』と言う強力な集団が守り抜いたと言われています。果たしてソレが関連しているのでしょうか、本日は〈トリニティ〉の『シスターフッド』もこの調印式に参加している事が確認されています! コレまで長い間、対外的な活動を自ら禁じていた『シスターフッド』・・・・彼女達がここに来て、何故登場したのでしょうか? 先程の『ユスティナ聖徒会』、今では歴史の中に消えたその組織の後身を自任する・・・・そう言う意味合いがあるのでしょうか?》
《ソーナノ?》
《さあ、〈トリニティ総合学園〉に吹き荒れる政治の嵐の行方は果たして・・・・はい? 難しい話はいい? 視聴率とアクセス数が落ちる?》
と、またもシノンが画面の端に目を向けてからそう呟く。
《政治もやってられませんが、デスクからの圧力もやってられませんね! しかし、私達には言論の自由がーーーー》
ーーーーピシュン・・・・。
シノンが更に言葉を紡ごうとするが、画面が真っ暗になってしまった。
ーーーー現在回線の影響等により、映像が乱れております。少々お待ち下さい。
と、自動音声が流れるが、すぐにシノンとソーナノの姿が映された。
《・・・・『エデン条約』が締結されるとその後、両学園の首脳部は古聖堂にて『エデン条約機構‹ETО›』の総説に同意する事になります!》
《ソーナノ!》
シノンは先程と違って真面目に報道し、手に持った両学園の校章が入った『機密情報』と記されたファイルを見せた。
《そうすると〈トリニティ〉と〈ゲヘナ〉・・・・長年敵同士だったこの2つの学園は、お互いの間で行われる紛争について、共に解決すると言う責務を負う事になります! この古聖堂で締結されると言う事もあり、神聖な戒律の守護に従い、その義務を誠実に果たす事が期待される事ではないでしょうか!》
《ソーナノ?》
《ややこしいですよねソーナノ。簡単に言いましょう! コレまでいがみ合ってきた事でも有名なこの〈キヴォトス〉の2つの巨大な学園が、遂に平和の為手を取り合おうとしているのです! さあそんな大事なタイミングで、我らが『連邦生徒会』は何をしているのでしょうか? 昨日行われた『連邦生徒会』による緊急記者会見の様子をご覧ください!》
シノンがそう言うと、画面が切り替わり、リンと他のモモカやアユムと言った『連邦生徒会』の主だったメンバーが左右に並んだ姿が映し出された。
《・・・・以上で会見を終えます》
《ちょっと待ってください行政官! ソレはつまり、『連邦生徒会長』の行方はまだ分かっていないと言う事ですか?》
《要するにそうです》
《要約しなくてもそうでは!?》
映された場面は、会見が終わり質問に移る所であった。そして質問の内容は先生が来る前に失踪した連邦生徒会長の話であった。
《『連邦生徒会』の能力について、世間の評価は厳しくなっています。この点についてはいかがでしょうか?》
《まあ仕方ないんじゃん?》
《モモカちゃん・・・・!》
《不確定な情報につきましては、現段階でのコメントは差し控えさせていただきます》
どうやら『連邦生徒会長』の失踪によって、『連邦生徒会』は言及されているようであった。世間の風当たりが強くなると記者の生徒が言うが、モモカはお菓子を食べながらやる気ゼロな態度で仕方ないと答え、アユムに注意され、リンは質問を控えると言う。
《それぞれの自治区で起きている『ジェントリフィケーション』への対応策はどうなっていますか?》
《まだ『R』事件が解決していないのですが?》
《『SRT特殊学園』の問題が決定した事、ソレと以前の『サンクトゥムタワー』での騒動は何か関係があるのですか? タワーの1部が焼失したとの情報もありますが?》
《〈トリニティ〉と〈ゲヘナ〉の『エデン条約』につきましては、どのようにお考えですか?》
《各学校の自治区て起きた事件につきましては、基本的にはそれぞれの学園に対応に委ねています。『連邦生徒会』の無闇な介入は却って無責任かと考えます》
《まぁ、介入する時間も人手も無いし》
《モモカちゃん・・・・っ!》
その後、幾つも記者の生徒達から質問を振られるが、リンはそれらを冷静に流し、『エデン条約』の事も聞かれるが、興味はなさそうであった。
《ソレでは、この辺りで終了とさせていただきます》
と言い、会見の映像は消え、シノンとソーナノに切り替わった。
《はい! つまりは『あんまり興味無い』と言う事ですね! 流石は『連邦生徒会』! その大らかさは天を突き抜けるようです!》
《ソーナノ!》
《ソレでは次に、この『エデン条約』に参加する各学園の主要人物につきましてーーーー》
“ーーーー間もなく、だね”
『ピカチュウ』
先生がスマホロトムに映し出されたニュースを消すと、人けのない場所にコッソリと行き、懐にある『マスターボール』を開き、ソコからミュウツーが出てくる。
“ミュウツー。もしかしたら、『Rの原料』を持つ『ゲマトリア』のメンバーが現れるかも知れない。君は上空から、監視をしてくれないかな?”
《よろしいのですか? 先生の守りが疎かになってしまいますが?》
“今回は、君にも動いて貰わないといけないと思う。こっちにはヒナ達もいるし、大丈夫だよ”
《・・・・分かりました。では先生。10分毎、もしくは何か異変があれば、念話で連絡をします》
“うん。お願い”
『ピカチュウ』
先生とそう会話すると、ミュウツーは上空へと飛んでいき、先生とピカチュウは『通功の古聖堂』へと向かった。
間もなく始まる。