ーアズサsideー
ここは〈トリニティ〉の自治区にあるスイーツ店。
アズサとハクリュー、ヒフミとガルーラは久しぶりに、ハナコとジュペッタ、コハルとヘラクロスと言った『補習授業部』が集まり、学生らしくスイーツを食べて談笑していた。
アズサ達の座るテーブルのすぐ近くに、ハクリューと子ガルーラが一緒に、この店限定のポケモンフーズを食べて笑い合い、ジュペッタがヘラクロスのフーズを悪戯で取り上げてベロベロと舌を出し、母ガルーラがそんなジュペッタの脳天にゲンコツを振り下ろして床に沈め、フーズをヘラクロスに渡した。
「・・・・騒がしいな」
アズサがポケモン達ではなく、外の喧騒に目を向けてそう呟いた。
「今日はついに、あの『エデン条約』が締結される日ですからね! 特別に学校も休日扱いですし、街も人でいっぱいです! 『クロノス放送』の方もさっきいましたし、何だかお祭りっぽいですね!」
「そうですね。折角のお祭り騒ぎなので、先生達も一緒だったら良かったのですが・・・・どうやら条約の方でお忙しそうです」
「・・・・で、どうして私とヘラクロスはここに呼ばれてる訳?」
「それは勿論、私達はまだ『補習授業部』の仲間だからですよ、コハルちゃん♡」
漸く風邪が治り、ここ最近消化に良いお粥等しか食べてなく、久しぶりのスイーツに舌鼓を打ちつつボソッとコハルが呟くと、ハナコは笑みを浮かべて話す。
「先生達ともしましたが、今日は私達だけで『補習授業部』の『卒業パーティー』も兼ねてるんですから、もう少し付き合ってくれません?」
「べ、別に嫌とは言ってないじゃん! み、皆で頑張って、乗り越えた訳だし・・・・ソレに、コレで全部終わりって訳じゃないし。私とヘラクロスはずっと『正義実現委員会』にいるから、押収品の管理室にでも来てくれれば大抵・・・・」
「うん。すぐにでも遊びに行くよ、コハル」
「でしたら今度私も伺いますね。いつか押収されてしまった、『カーマ・ストーラ』を返してもらわないとですし♡」
「カーマ・・・・? 何それ?」
「古典文学の作品ですよ。噴水の所で気持ち良く読んでいたのですが、どう言う訳か急に押収されてしまって・・・・」
「古典文学? ふーん・・・・・・・・ってそんな訳無いじゃん! アンタが読んでる時点で絶対エッチなヤツでしょ! エッチなのはダメ! 焼却!!」
「うーん。押収は兎も角、古書館で借りたものなので燃やされるのは困るのですが・・・・」
コレでこの『補習授業部』のメンバーが集まるのが最後かも知れないと感じておりハナコは、コハルにも居て欲しいと伝え、コハルは『正義実現委員会』の管理室に行けば自分に会えると言うと,アズサはすぐに会いに行くと言い、ハナコは押収された本を返して貰うと言うが、卑猥な本であると見抜き、コハルとハナコといつものやり取りを繰り広げる。
「あれ、アズサちゃん。もしかしてそのぬいぐるみ、ずっと持ち歩いているんですか?」
と、ソコでヒフミはアズサの鞄の中に『インテリなペロロ様』のぬいぐるみが入っている事に気付き、アズサはぬいぐるみを取り出した。
「うん。大事な物だから、やっぱり持ち歩かないと」
「そ、ソコまででしたか・・・・いえ、ありがたいんですが! 『モモフレンズ』の世界は広いですし、折角なら他にも色々集めてみませんか? 今度是非お店とかにも・・・・」
「うん。楽しみにしてる」
「はい、是非! 今度ペロロ様の冒険アニメも公開される事ですし!」
「・・・・アニメ?」
アズサが自分がプレゼントしたぬいぐるみを『大事な物』と言ってくれて、ヒフミはとても喜び、一緒に店やアニメもあると言うと、アズサは目を輝かせて聞き返した。
「はい! 仲間達と力を合わせて悪を打ち砕き、共に苦難を乗り越え、最後には皆笑顔で終わると言うそのエンディングがスゴい感動的だそうで・・・・!」
「ソレ、だいぶネタバレじゃない?」
「え、あっ!? い、今のは忘れてください!?」
アズサが聞き返すと、ヒフミは勢い余って今度公開するペロロ様のアニメのあらすじを全て話してしまい、ハナコとのやり取りを終えたコハルはネタバレを指摘すると、ヒフミは慌てて忘れてくれと言うのであった。
「ふふっ、ヒフミちゃんはそういった『ハッピーエンド』が好きなんですか?」
「は、はい、そうですね。やっぱり普通過ぎますかね・・・・?」
「・・・・悪いとは言わないけど、ちょっとありきたりじゃない? 最終的には皆で仲良く大団円とか」
「・・・・私も、『ハッピーエンド』はよく分からないな。頑張った所で世界はそうそう変わらない、傷は無かった事にはならない。それがこの世界の『真実』だから」
「あうぅ・・・・皆ダーク寄りなんですね・・・・」
映画のあらすじを聞いて、ハナコはヒフミにハッピーエンドが好きなのかと尋ねると、ヒフミはありきたりだが、ハッピーエンドが好きだと答えるが、コハルとアズサは割と現実的な意見を述べるのであった。
「私はそういうのはちょっと辛くって・・・・やっぱり皆で幸せになれるハッピーエンドが好きです」
「まあ、好みは人それぞれですからね。ちなみに私はヒロインが目を蕩けさせて、涎を垂らしながら許しを請うタイプのエンディングが好きです♡」
『ジュペ』
ーーーースパァンッ!
「ばっ、バカじゃないの!? そんなエンディングあるの!?////」
「うーん、結構あると思いますが・・・・」
しかし、やはりヒフミはハッピーエンドが好きなようで、ソレを聞いてハナコは彼女の意見を肯定しつつ、自分の好みのエンディングを言うと、床に沈んでいたジュペッタが即起き上がり、いつものようにハナコの頭にハリセンをかまし、いつものようにコハル(猫目&赤面)がツッコミを炸裂させた。
「・・・・とはいえ言えヒフミが好きなら悪いものだとは思わない。ソレもソレで良いのだと思う」
「・・・・アズサちゃーーーーんっ!」
ーーーーギュゥゥゥゥッ・・・・。
「ひ、ヒフミ・・・・苦しい・・・・」
「あらあら♡」
「ひゃぁぁぁ・・・・っ!?////」
最後にアズサがヒフミ言う事を肯定すると、ヒフミは感極まってアズサに両手を広げて思いっきり抱きついた。
ソレを見てハナコは微笑ましそうに眺め、コハルは赤面し、母ガルーラはウンウンとにこやかに頷き、ハクリューと子ガルーラ、ヘラクロスとジュペッタも微笑む。
「このまま、全てが終わったら・・・・」
すると、ハナコは何処か感傷的に言葉を紡ごうとしたが。
「いえ、今日の調印式が終わったら、先生とゆっくり話したいですね」
「・・・・うん、私も。それにピカチュウにルカリオにイーブイ、ワカシャモやヌマクローにジュプトルにも、ハクリューのトレーニングバトルの相手をして欲しい」
「・・・・先生達、ここにいれば良かったのに」
「そうですね・・・・今先生達は、古聖堂にいらっしゃるのでしょうか。『シャーレ』の先生として『エデン条約』の締結を見届ける、と言っていましたけど。多分、忙しくされてるんでしょうね・・・・?」
落ち着いたヒフミを引き離すと、アズサもハナコの言葉に頷き、コハルは先生達がいないことに不満そうでヒフミも同意するのだが、『エデン条約』の締結を見守ると言う仕事なので、仕方ないと割り切る。
「あ、そう言えば皆さん。先生が今度、『特別学力試験』の合格に『プレゼント』を持って来るそうですよ」
「『プレゼント』? 最新式の装備か?」
「・・・・もしや、先生秘蔵の『禁書』を!?」
「だ、駄目よそんなの! 死刑////」
「あ、アハハ、多分そう言うのじゃないと思いますけど・・・・」
ー先生sideー
そしてその頃、先生とピカチュウは古聖堂内の中央ホールにて、暇を持て余していた。
“(ミュウツーにもしもに備えて上空に行ってもらったけど・・・・)・・・・暇だなぁ”
『チャ〜・・・・!』
男1人、ポケモン一匹で、この広いホールを見回しながら退屈そうに身体を伸ばしていた。
“ーーーーまだ暫く暇そうだし、適当にぶらついてみようかピカチュウ?”
『ピカチュウ』
先生の言葉にピカチュウは頷き、先生の肩に乗り、古聖堂内を歩くと。
「ーーーーすみません、業者の方ですか? コチラは入れませんのでご遠慮を」
「ーーーーソコ、コッチは関係者用だ。見物人はアッチの方に」
と、ソコで、〈トリニティ〉の『正義実現委員会』の部員にパートナーのバルキーと、〈ゲヘナ〉の『風紀委員会』の委員とパートナーのニューラに同時に遮られた。
“えっと・・・・一応関係者です・・・・”
先生が弁解するが、部員と委員は先生そっちのけでお互いに盛大に火花を散らしながら睨み合っていた。
「・・・・ソコの風紀委員の方、今この線を越えませんでしたか?」
「は? ソッチが先に踏んでたから、退かそうとしたんだけど?」
『バルキっ!』
『フシャァァァァ・・・・!』
「もしかして〈トリニティ〉の奴ら、喧嘩売ってんのか? こうなったら話は早い、取り締まってやる!」
『グルルルル!!』
「なっ、急に増員・・・・!? 支援を要請します、増援を!」
今度は別の『風紀委員会』の委員と『デルビル』がやって来たのを見て、無線で増援を要請する『正義実現委員会』の部員がしようとするとーーーー。
「ーーーーきひひっ・・・・」
『ーーーーブヒィィィィ・・・・』
『ーーーーチャ・・・・』
『正義実現委員会』の委員長、『剣先ツルギ』が両校の間に入り、パートナーの『コノヨザル』が『ゲヘナ風紀委員会』の前に、チャーレムが『正義実現委員会』の前に立ち、「ソコまでだ」と言わんばかりに双方をとめる。
「「ひいっ!? 急に委員長!?」」
「ぞ、増援処かツルギ先輩・・・・!?」
『ーーーー!!?』
〈ゲヘナ〉の風紀委員長のヒナに匹敵する実力者とその手持ちポケモン達の登場に、風紀委員の2人とポケモン達は顔を青ざめさせ、同じ委員会のメンバーである子とバルキーもビクッと脅える
「ーーーーくひひひひひひひひっ・・・・ひゃっはぁあぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
『ひ、ひいいいいいいいいっ?!』
『ーーーーーーーー!?』
奇声を上げるツルギの迫力に、双方は自分のポケモンと抱き合って脅える。
「ーーーーあ、あの・・・・! 皆さん、ここで喧嘩はダメです・・・・」
『ノワ・・・・』
ヒナタがオズオズと仲裁に入り、ヨノワールも同意するように頷いた。
「・・・・・・・・」
「折角平和の為に、こうして集まったのですから・・・・そ、そうでしょう? ツルギさん?」
「・・・・・・・・ここにいらっしゃるのは、『シャーレ』の先生だ。覚えておけ」
「「は、はい!」」
『『ニャァ!/ガウ!』』
「き、肝に銘じますっ!」
『バルっ!』
ヒナタに窘められ、ツルギは一瞬機能停止したかのように動かなくなるが、少し冷静な雰囲気に戻り、仲裁しようとしていた先生の事を恐ろしい顔で紹介すると、双方の委員とポケモン達は直ぐ様その場で見事なまでの敬礼をすると、バタバタと走り去った。
“えっと、ごめんね・・・・それにツルギ、ありがとう”
「・・・・い、いえ、そんな・・・・とんでもありません、先生。ではその、私は他の任務がありますので・・・・////////」
『『・・・・・・・・・・・・』』
それぞれの委員が去ると、先生はツルギに謝罪とお礼をし、ソレを聞いたツルギはいつもの狂気と恐ろしさに満ちた顔が消え失せ、雰囲気もしおらしく、顔も真っ赤になった『恋する乙女』の顔となり、呆れたように半眼になったコノヨザルとチャーレムを連れてその場を立ち去って行った。
「ふぅ・・・・」
“やっぱりツルギは優しい・・・・”
『ピカチュウ』
「はい・・・・えっ!?」
『ヨワ!?』
去っていくツルギの後ろ姿を眺めながら、ヒナタは安堵したような溜め息を溢し、先生はわざわざ駆け付けてくれたツルギの事を『優しい』と言い、ピカチュウも笑顔で頷くと、ヒナタとヨノワールは驚きの声をあげる。そして、先生はヒナタに声をかけ挨拶をする。
“助けてくれてありがとう。ヒナタとヨノワール、だよね?”
「・・・・あ、はい! あの時以来ですね、先生」
『ヨワ・・・・』
“あの時、『シスターフッド』が来てくれて助かった”
「い、いえ。私はあの時、あまりお役にも立てず・・・・。私はただやたら力があるだけで・・・・あまり役立たずですみません・・・・」
“そんなことないよ。今日は他のシスターたちも?”
先生は以前、ミカと〈アリウス〉の部隊との対決の際に、自分達を助けてくれた事を感謝する。しかし、あまり役に立っていないと思っているヒナタは謙遜するが、先生はそんな事は無いと言って彼女を慰めると、サクラコ達の事を聞いた。
「あ、はい。サクラコ様の指示なんです。前回の事件をきっかけに、方針が少し変わった事もありまして・・・・」
『シスターフッド』がこの古聖堂を提供し、警備にも関わっているのは、サクラコの指示によるものの様だ。
「これまでの『無干渉主義』がこの前の事態を招いた・・・・そう考えたのかも知れません。これからはもっと積極的に、対外的な活動をされていくとの事で。シスターサクラコも、もうすぐ到着されるかと思います」
“『シスターフッド』は何をしているの?”
「私達は基本的に色々と調印式の手伝いと言いますか、色んな方の案内や警備のお手伝い等・・・・」
どうやら、サクラコはコレまでの『シスターフッド』の『無干渉主義』が、『ティーパーティー』の内輪揉めに繋がったと感じ、積極的に干渉するようになったようだ。
「あ、宜しければ先生に、古聖堂を案内しましょうか?」
“良かったら、お願いしても良い?”
「はい、今はまだ時間もありますので。ソレでは、コチラへ・・・・」
丁度暇を持て余していたし、自分とピカチュウだけではまた両校の委員に絡まれてしまうので、ヒナタの提案を承諾し、ヒナタとヨノワールに案内されながら、古聖堂内の回廊を歩いていた。
“凄い所だね”
『ピカァ・・・・』
石造りの建物の回廊には、アチコ小さくに草が生えており、正に『廃墟』と呼ぶに相応しい雰囲気があった。中央ホールとは大分違う。
「はい。この『通功の古聖堂』は長い間、廃墟として放置されていましたが・・・・今回ここで調印式を締結する事が決まり、大々的な修理が行われたそうです。その決定については〈トリニティ〉のナギサさんと、〈ゲヘナ〉のマコトさんとが合意したものだと聞きましたが・・・・」
ナギサは騒動まで引き起こしてまで漕ぎ着けた『エデン条約』の為だろうが、この条約に対して何処まで本気になっているのか分からないマコトに、少し訝しげになる。
「ソレでも全体が修理されたと言う訳ではなく、調印が行われる場所だけのようですね。『下の方』はまだ廃墟の状態で・・・・」
“『下の方』・・・・?”
「あくまで噂ですが、この古聖堂の地下には大規模な『地下の共同墓地‹カタコンベ›』が存在するそうです。数十キロにも及ぶ地下墓地・・・・『第1回公会議』の時の記述でも、終わりが見えない程だったと言われていて・・・・」
と、ソコで回廊の通路の1つが『立入禁止』とテープが貼られているのを見た。
「・・・・あ、コチラの方は塞がれてますね。まだ修理中で危ないからでしょうか」
“色んな歴史がある場所なんだね”
「はい。何せ、『第1回公会議』が開かれた所ですから。公会議において締結される『戒律』と言うのは、神聖なものです・・・・その『神聖さ』と言いますか、戒律の『守護者達』をその名残のような『何か』が、まだここに残っているような感じすらします」
“『守護者』?”
「はい、ソレについては何と言えば良いのでしょう・・・・『約束』と言うのは、同時に『破った時に関するルール』が一緒に設けられる事が多いですよね? そうでなければ、誰も『約束』を守らないと言う事もありますし・・・・」
“うん。そうだね”
「その『ルール』、『制約』の役割を持つ人々の事を、『戒律の守護者』と呼んだんです。『約束』を破る者達に対処する〈トリニティ〉の武力集団・・・・ソレが、『ユスティナ聖徒会』です」
先生はヒナタからこの『通功の古聖堂』の歴史を聞いている内に、何度か耳にした『ユスティナ聖徒会』の事が聞かされた。
“つまり、今の『正義実現委員会』みたいな・・・・?”
「はい。歴史的には、私達『シスターフッド』の前身でして・・・・」
ーーーーピロン♪
と、メッセージ受信の音楽がヒナタのスマホロトムから鳴り、ヒナタが手に取ってメッセージに目を走らせた。
「あ、サクラコ様が到着されたみたいですね。ナギサさんの到着もそろそろだそうです。中途半端になってしまってすみませんが、そろそろ行きましょうか」
〈トリニティ〉側の上層部は集まって来てので、案内は終了する事になり、先生とピカチュウ、ヒナタとヨノワールは中央ホールへと戻った。
ーヒナsideー
「準備はできた?」
「・・・・はい、大丈夫です。ああそう言えば万魔殿‹パンデモニウム・ソサエティー›から、古聖堂まで行く為の車を貸して貰いました」
そしてコチラは〈ゲヘナ学園〉の『風紀委員会・本部』。
ゴロンダに身嗜みを整えてもらったヒナも、『エデン条約』の調印式が行われる『通功の古聖堂』へと赴こうとしていた。
「・・・・車? どうして?」
「『万魔殿‹パンデモニウム・ソサエティー›』は今回、最新の『飛行船』を購入したようで・・・・『空を飛ぶ私達と綺麗に比較できるように、貴様らは地べたを這って来』とマコトさんが・・・・」
『(ポンッ)ソーナンス!』
『・・・・ガァ』
『万魔殿‹パンデモニウム・ソサエティー›』はわざわざ『飛行船』を購入し、ヒナ達に対して嫌味も混ぜた伝言をアコが頭に血管を浮かべて伝え、ソーナンスが飛び出て来ると、ドンカラスが総勢400匹以上のヤミカラス達を総動員して、ご自慢の『飛行船』の耐久力を調査してやろうとしたが、ヒナが「止めなさい」とアイコンタクトしてから、ハァと溜め息を吐いた。
「・・・・またそう言う所に予算を・・・・まあ、今更か。コレまでずっと調印式への出席をさせまいと邪魔しておいて、最後はこうして用意っていうのも変な話だと思うけれど」
そしてその予算の決済もヒナに押し付けようとするのが、マコトの手口なのだ。
「イオリやチナツたちも待ってる、急ごう」
「・・・・・・・・」
調印式に急ごうとするヒナは、隣で表情を曇らせたアコを見て、1度立ち止まる。
「はあ、気に食わないのは分かるけど・・・・言ったでしょう。アコ。別に『風紀委員会』が解散する訳じゃない、コレはただ『エデン条約機構』という足枷を『万魔殿‹パンデモニウム・ソサエティー›』に嵌める為のもの」
「・・・・はい、分かってはいるんです。『風紀委員会』は殆ど変わらないでしょう、そしてマコトには制限が付く。ですが、その時委員長は・・・・」
先生と会ったあの後、ヒナは『ゲヘナ風紀委員会』の面々に『引退』を話し、アコは納得していないようであった。
そしてヒナはそんなアコに、何かと面倒事しか引き起こさないマコトに足枷に嵌める為だと言い聞かせるが、アコの表情は晴れなかった。
「・・・・取り敢えず今は、式に向かうのが先。・・・・その話は調印式が終わってから、ゆっくりね」
「・・・・はい」
ヒナは先ずは『エデン条約』の調印式を終わらせるのを優先し、『引退』の事は後で話し合う事にした。アコも一応納得したようだが、その顔は晴れやかとは言えなかった。
ーシノンsideー
「あっと! 噂をすれば影! 〈ゲヘナ〉の『万魔殿‹パンデモニウム・ソサエティー›』が新型飛行船に乗ってやった来たようです!」
『ソーナノ!』
『クロノススクール』にある大画面にて、『万魔殿‹パンデモニウム・ソサエティー›』の乗った飛行船が映った事を報道するシノンとソーナノ。
そして飛行船から、〈ゲヘナ学園〉の代表、『万魔殿‹パンデモニウム・ソサエティー›』の面々が降りてきた。
羽沼マコトと手持ちポケモンのアーボックとマタドガスを中心に、棗イロハと手持ちポケモンのニャースが並び。
更に、長身でピンクの長髪や、その頭の左右から伸びる牛のような角をし、軍服のような制服の前を大きく開けて、ハナコ並の大きな胸(右の胸に小さなホクロ)をし、全体的に高飛車で妖艶な雰囲気をした3年生の『京極サツキ』と手持ちポケモンである黄色い体色をし、首の周りに白い毛を襟巻きにした獣人タイプで、イヤらしい目つきと手に持つ5円玉を振り子のように揺らしている『さいみんポケモン・スリーパー』。
黒い長髪に前に湾曲した角をした頭を覆う軍帽を被り、軍服のような制服のロングコートを肩に羽織った人懐っこそうな雰囲気をした2年生の『元宮チアキ』と、緑の体色に赤い眼光をし、背中に4枚、さらに尻尾に2枚の羽がある。背中の3つの大きなツノらしきものが特徴的なトンボのような手持ちポケモン、『オニトンボポケモン・メガヤンマ』。
最後に1番小柄、ソレこそヒナや〈ミレニアム〉の『ゲーム開発部』の才羽姉妹よりも小柄で明るい金髪と金色の瞳。頭には小さいが角が生え、腰には小さいがコウモリの羽と、長い悪魔の尻尾が伸び、黄色の長靴を履いた少女、否、幼女である1年生の『丹花イブキ』と、青紫の体色に頬にあるオレンジ色の部分は袋になっており、膨らませながら縮ませ、お腹の白い部分はまるでサラシのように見える二足歩行のカエルのような手持ちポケモン、『どくづきポケモン・グレッグル』がいた。
「〈ゲヘナ学園〉の議長、すなわち生徒会長の羽沼マコトです! 流石と言いますか、物凄い『カリスマ』です! 多分! アレが〈ゲヘナ〉の生徒会長としての『威厳』!」
『ソーナノ!』
《キキッ・・・・》
シノンとソーナノの解説が聞こえたのか、マコトは薄っすらと笑みを浮かべた。マコトは黙っていれば威厳のある人物に見えるのだ。・・・・黙ってさえいれば。
「そして〈トリニティ総合学園〉における『ティーパーティー』のホスト、桐藤ナギサも古聖堂に到着したようです! 両学園の主要人物が、次々と集まって来ています!」
『ソーナノ?』
「そろそろ〈ゲヘナ〉の風紀委員長も到着との事で、周囲の雰囲気は益々ヒートアップする一方、引き続きこの様子をご覧ください!」
『ソーナノ!』
ー???sideー
ーーーーピッ・・・・。
と、ソコまで放送された『エデン条約』の調印式の現場の映像を見て、スマホロトムの映像が切られた。
「準備は?」
「・・・・問題無し」
『バーン』
「は、はい! 終わりました、チェックもできてますし、色々と確認も・・・・」
『ガララ』
〈トリニティ〉の自治区にある廃ビルの中で、『アリウススクワッド』の『錠前サオリ』が他のメンバーに最終確認をしている。
ブーバーンを連れた2年生『戒野ミサキ』と、アローラガラガラを連れた2年生『槌永ヒヨリ』が準備が完了した事をサオリに報告した。
「あの『人形』との接触の方は?」
「(スッ、スッ・・・・)」
「・・・・なら問題無さそうだな。全ては整った」
そして最後『人形』の準備の事を1年生『秤アツコ』に尋ねると、アツコは手話でサオリに完了した事を伝え、サオリはコクリと頷き、準備は万全に整ったと告げる。
「こ、コレから辛い事になっていくんですね、皆苦しむんですね・・・・ですが、仕方ありません」
「・・・・そう、ソレがこの世界の真実」
「・・・・・・・・」
ヒヨリとミサキの瞳には光が宿っておらず、マスクで分からないがアツコは沈黙していた。
そして、サオリは一拍置き、帽子を深く被り直してから声を発する。
「ーーーー『アリウススクワッド』、作戦開始」
『アリウススクワッド』はサオリの号令と共に動き出し、『作戦』が開始された。
「『巡航ミサイル』は?」
「既に発射済み。これから5分後に、ターゲット地点に着弾する。『アレ』もたっぷり入っているから、爆発と共に周囲に炸裂するようになっている」
「そうか・・・・『チームⅡ』と『チームⅢ』は?」
「つ、通路の前で待機中です・・・・時間に合わせて、作戦地域に突入する予定ですね」
「古聖堂の崩壊と同時に突入。ミサキとブーバーンは『チームⅡ』と共に〈トリニティ〉を、ヒヨリとガラガラは『チームⅢ』と〈ゲヘナ〉の方を頼む」
「了解」
『バーナー』
歩きながらサオリはミサキとヒヨリにキビキビと指示を出していく。
「『チームⅡ』の方はツルギを警戒しろ。『チームⅢ』の方はヒナに気を付けて動け」
「は、はい! 分かりました! ひ、ヒナさんですね・・・・!」
『ガララ!』
サオリが『巡航ミサイル』の事を聞くと、ミサキは発射された事を話し、その後のプランをスクワッドのメンバーと共に確認していくが、〈トリニティ〉の剣先ツルギと〈ゲヘナ〉の空崎ヒナ、〈キヴォトス〉でも指折りの実力者で、ポケモントレーナーであるこの2人を特に警戒しているようであった。
「『チームⅠ』と『チームⅣ』は・・・・」
「(スッ、ススッ・・・・)」
「ああ、通路に沿って地下へ。知っての通り、『1番重要な任務』だ」
「・・・・・・・・」
残るアツコは手話で話すと、サオリは『1番重要な任務』を任せると言う。
「(ススッ・・・・)」
「『姫』・・・・分かってる。気分は悪いだろうけど、もう少し我慢して欲しい」
「(・・・・コクリ)」
アツコはどうやら『1番重要な任務』に乗り気ではないようだが、サオリが頼むと了解を示すように頷く。
「えっと、サオリさんは・・・・?」
「私は“他に用事”がある。ソレが終わり次第『チームⅤ』に合流予定だ。ーーーーでは、解散」
サオリがそう言うと、『アリウススクワッド』は各々の任務へと向かった。
ーミュウツーsideー
そして〈キヴォトス〉の上空から『エデン条約』の見守っていたミュウツーは、先生の視覚にテレパシーで共有しながら、『通功の古聖堂』の中央ホールに集まる〈トリニティ〉とツルギとハスミが率いる『正義実現委員会』。〈ゲヘナ〉のイオリとチナツの他に多くの『ゲヘナ風紀委員会』を見ると、テレパシーを一時切って、『千里眼』のような能力で他の場所にいる面々にも目を向ける。
そして古聖堂の前にいる〈ゲヘナ〉の氷室セナが率いる『救急医学部』も。
〈トリニティ総合学園〉の監獄のテレビで見ているミカも。
『エデン条約』をそっちのけにしてスイーツに舌鼓を打つ『補習授業部』。
それぞれの思惑や感情が複雑に入り混じっていく中ーーーー『何か』が点火した。
『っっ!!?』
奇妙な『嫌な予感』を感じたミュウツーが辺りを見回すと、『通功の古聖堂』に向かう『物体』を見つけた。
『(アレは・・・・まさか!!!)』
急いで先生へテレパシーで交信と、『物体』の破壊に向かおうとしたーーーー。
『っっ!?』
が、突然、背後から自分を覆い、太陽の光を遮る『黒い大きな影』がいるのを感じ、振り向いたその瞬間、
『ーーーーーーー!!!!』
ーーーービュオオオオオオオオォォォォ!!
赤黒い凄まじい光と衝撃が、ミュウツーに襲い掛かった・・・・。
ーヒフミsideー
「・・・・っ!?」
『クゥゥ!?』
と、不意に見上げた窓の外を見たその瞬間ーーーーアズサが席から飛び出し、ハクリューが慌てて後を追った。
「あれ、アズサちゃん・・・・? どこに行くんですか?」
「聞かなくても良いでしょ、トイレよ!」
「えっと、ですがトイレはアチラではなく・・・・」
ヒフミが突然走り出したアズサに首を傾げるが、視界の隅に入ってきた光に目を向けた。
「・・・・え?」
ヒフミは思わず声を上げる。
蒼穹の空を切り裂くように一直線に飛ぶーーーー『飛行物体』があった。
飛行機・・・・違う。
戦闘機・・・・違う。
ひこうタイプのポケモン・・・・全然違う。
ソレは、長い筒の形状と下から発射されるロケットのバーニアの焔からの光と、吹き出す雲は・・・・。
ーアズサsideー
「・・・・・・・・」
『???』
スイーツ店を飛び出したアズサが、ビルに設置されたデジタルサイネージに映された『エデン条約』の映像を見上げ、ついてきたハクリューも訝しげにアズサと同じ方向に目を向ける。
ーーーーヒュオオオオオオオオォォォォンっ!!
その時、奇妙な風切り音がアズサの耳に入った。
「今、何か変な音が・・・・」
「な、何!?」
否、アズサだけでなく、周りで歩いていたり、『エデン条約』のニュースを見ていた生徒達も聞こえたようだ。
「何かが、飛んで・・・・!?」
「きゃああああっ!?」
と、遂に生徒達も気付いた。この〈トリニティ自治区〉に、『通功の古聖堂』に向かって・・・・ミサイルが飛んで来ている事に。
「(・・・・まだ、終わってなかった? いや、これから始まる・・・・? サオリ、まさか・・・・!?)」
周りの生徒達やポケモン達がミサイルを見てパニック状態になる中、アズサはジッとモニターを見つめ、『アリウススクワッド』が、サオリがやろうとしている事に気付き、逃げる生徒達やポケモン達と逆の方向に走り出した。
『クゥゥ!!』
ハクリューも慌てて追い掛けるが、逃げる生徒達とポケモン達の波に押され、進み辛くなっていた。
そして、『通功の古聖堂』が・・・・。
『エデン条約』の締結を見届けていた先生が・・・・。
車の窓から外を見ていたヒナが・・・・。
手を取り合おうとしていた〈トリニティ〉と〈ゲヘナ〉が・・・・。
突然飛来してきた巡航ミサイルが『通功の古聖堂』に着弾したその時・・・・。
ーーーードカアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァン!!!!
凄まじい閃光と衝撃波、そして・・・・『紫色の煙』に呑み込まれていったーーーー。
次回、惨劇が始まる。