ー先生sideー
カタカタヘルメット団の前線基地を難なく壊滅させ、全員が足取り軽くアヤネの待つ教室に戻った。
「おかえりなさい。皆さん、お疲れ様でした」
『ビブラー!』
『ZZZ・・・・』
アヤネが全員を労い、ビブラーバも翅を鳴らして歓待する。ヤドキングは未だに寝ているが。
「これで心置きなく『借金返済』に取り掛かれるわ! ありがとう先生! この恩は一生忘れないから!」
何処か、よそよそしいと言うか、先生を追い出そうとしているようなセリカの態度と、ある単語が気になった。
“・・・・『借金返済』って?”
「・・・・あ、わわっ!」
「そ、それは・・・・」
「ま、待ってアヤネちゃん、それ以上は!」
「・・・・!」
一年生組が慌てて口を噤んでいる。どうやら聞かれたくない内容らしい。
「いいんじゃない、セリカちゃん。別に隠すようなことじゃあるまいし」
「か、かといって、別に話す事でもないでしょ!」
「別に罪を犯したとかじゃないでしょー? それに先生は私達を助けてくれた大人でしょー?」
ホシノの意見にセリカは食い下がるが、ホシノは話そうと言う。しかし先生は、ホシノの言葉に、弱冠の『違和感』を感じていた。
しかし構わず、シロコも参加する。
「ホシノ先輩の言う通りだよ、セリカ。先生は信頼して良いと思う」
「そ、そりゃそうだけど、先生だって結局部外者だし!」
セリカはどんどんヒートアップしていく。
「確かに先生がどうにかできる問題じゃないけどさ。この問題に耳を傾けてくれる大人なんて、先生くらいしかいないじゃ〜ん?」
さっきまでの間延びした口調から一転ホシノは真剣な口調へ変わる。
「悩みを打ち明けてみたら、何か解決法が見つかるかもかもよー? それとも何か他に良い方法があるのかなー、セリカちゃん?」
「う、うぅ・・・・」
『ワシ・・・・』
セリカは先輩のホシノの指摘に言い淀み、肩に乗ったワシボンが離れると、セリカが『ビリリダマ』よろしくーーーー爆発した。
「でっ、でも、さっき来たばかりの大人でしょ! 今まで大人達が、この学校のことを気に留めた事なんてあった!? この学校の問題はずっと私達だけでどうにかしてきた! 今更、大人が首を突っ込んでくるなんて・・・・私は認めない!!」
『ワシボン!』
そう早口で言うとセリカは部屋を出ていってしまい、ワシボンも慌ててセリカの後を追った。
「セリカちゃん!?」
『ビブラー!?』
「私、様子を見てきます」
出て行ったセリカをノノミが追いかけて部屋を出る。
『・・・・・・・・』
対策委員会の教室は重苦しい雰囲気が漂い、ホシノが少し重々しく声を発して、〈アビドス高等学校〉の現状を語り始めた。
「えーと、簡単に説明すると・・・・この学校には借金があるんだー。まあ、ありふれた話だけどさ。でも問題はその金額で・・・・9億円くらいはあるんだよねー」
「・・・・9億6235万円です。〈アビドス〉・・・・いえ、私達『対策委員会』が返済しなくてはならない金額です。これが返済できないと、学校は銀行の手に渡り、廃校手続きを取らざる得なくなります。ですが、実際に完済できる可能性は0%に近く・・・・殆どの生徒は諦めて、この学校と街を捨てて、去っていきました・・・・」
明らかに学生が返済できる額では無い金額に、先生とピカチュウは少し目を見開く。
「そして私達だけが残った」
「学校が廃校の危機に追いやられたのも、生徒がいなくなったのも、街がゴーストタウンになりつつあるのも、実は全てこの借金のせいです。お陰で、学校の周囲も、凶暴化したポケモン達が群れを成して、勝手に縄張りを作って争う状況です」
“事情を説明して欲しい”
「借金をする事になった理由ですか? それは・・・・数十年前、この学区の郊外にある砂漠で、砂嵐が起きたのです。この地域では以前から頻繁に砂嵐が起きていたのですが、その時の砂嵐は想像を絶する規模の物でした。学区の至る所が砂に埋もれ、砂嵐が去ってからも砂が溜まり続けてしまい、その自然災害を克服する為に、我が校は多額の資金を投入せざる得ませんでした・・・・」
説明し続ける内に、アヤネの顔色が段々と沈んでいく。
「しかしこのような片田舎の学校に、巨額の融資をしてくれる銀行は中々見つからず・・・・」
「結局、悪徳金融業者に頼るしかなかった」
アヤネの説明に、シロコも混ざり、アヤネが続ける。
「・・・・はい。最初の内は、すぐに返済できる算段だったと思います。しかし砂嵐はその後も、毎年更に巨大な規模で発生し・・・・学校の努力も虚しく、学区の状況は手がつけられない程悪化の一途を辿りました・・・・」
自然の猛威か、ポケモンの影響なのか分からない、砂嵐による災害が、今尚〈アビドス〉を苦しめていったようだ。
「・・・・そして遂に、〈アビドス〉の半分以上が砂に呑まれて砂漠と化し、借金はみるみる膨れ上がっていったのです・・・・」
「・・・・・・・・」
「・・・・・・・・」
ホシノとシロコも、黙してしまった。
「私達の力だけでは、毎月の利息を返済するのが精一杯で。更に凶暴化したポケモン達の縄張り争いな巻き込まれたりして・・・・弾薬も補給品も、底をついてしまっています」
“成る程。それと、凶暴化したポケモン達って・・・・。さっき話に出てたサダイジャやワルビアル達の事だね?”
先生の問いに、アヤネは首肯してから説明する。
「はい。この学校のさらに奥にある『アビドス砂漠』で縄張り争いをしている四体のポケモン達が、『サダイジャ』。『ワルビアル』。『バンギラス』。そして、『ドラピオン』です」
「っ・・・・」
『グルル・・・・』
『ドラピオン』の名が出た瞬間、シロコとイワンコの目が鋭くなったが、アヤネは構わず、ホワイトボードに円型の地図らしき物を描き、その円を下の方が大きく二等分にし、上は小さく二等分した歪に四つに切り分けられた様な区画を作ると、最も広い下の二つに、『サダイジャ』と『ワルビアル』と書くと、上の二つに『ドラピオン』と『バンギラス』と記した。
そして、『サダイジャ』と『ワルビアル』の縄張りの境界線の下の隅っこ辺りを大きく塗りつぶすと、『アビドス』と記した。
「とまあ、この隅っこの隅の境界線の中に入っているのが、この『アビドス高等学校』で、サダイジャの群れとワルビアルの群れが、日夜縄張り争いを続けていて、うちの学校も巻き込まれたり、追い出そうとしているのかちょっかいかけられたりしてるんだよねー」
「はい。サダイジャ達もワルビアル達も数が多く、それ故に縄張りも広いんです」
「ん。さらに上の方には、同じくらい数が多いドラピオンの群れと、少数だけど攻撃力と戦闘力が高いバンギラスの群れがいる」
“この二匹の縄張りはそんなに広くないんだね”
「はい。ドラピオン達とバンギラス達の方は、お互いに攻撃力の高いポケモン達が縄張り争いをしているので、お互いに牽制し合った膠着状態が続き、その隙に数が多い他の二つの群れが勢力を広げているようです」
「でもー、下手にこれ以上勢力を広げると、ドラピオンの群れやバンギラスの群れに目をつけられるから、サダイジャの群れとワルビアルの群れは、先ずは同じく勢力が広いお隣さんを始末しようって事にしたみたいだねー。因みに四匹のボスポケモン達には、片目や身体の何処かに大きな傷がある上に、身体の大きさが通常の個体より一回り大きいのが特徴だよー」
「セリカがあそこまで神経質になってるのは、これまで誰もこの問題にまともに向き合わなかったから、話を聞いてくれたのは、先生、あなたが初めて」
「・・・・まあ、そう言うつまらない話だよ。で、先生のお陰でヘルメット団って言う厄介な問題が解決したから、これからは借金返済と縄張り争いの鎮圧に全力投球できるようになった訳ー」
重い空気を変えようと、ホシノが明るく言う。
「もしこの委員会の顧問になってくれるとしても、借金や野良ポケモン達の事は気にしなくていいからねー。話を聞いてくれただけでもありがたいし」
「そうだね。先生はもう十分力になってくれた。これ以上迷惑はかけられない」
ホシノとシロコがそう言ったが、先生は肩に乗ったピカチュウと視線を合わせると、ピカチュウはコクリと頷き、腰のモンスターボールで聞いていたルカリオ達も、ボールを揺らす。
“ーーーー対策委員会を見捨てて帰る事はしないよ”
「「「えっ?」」」
『ワゥン?』
『ビブ?』
『・・・・ヤン?』
先生の言葉にシロコ達とイワンコとビブラーバが目を丸くし、ヤドキングはパチリと、目を開けた。
“私達も、対策委員会の一員として一緒に頑張る”
『ピカピカッ!』
それを聞いて、アヤネが顔に笑みを浮かべる。
「そ、それって・・・・あっ、はい! よろしくお願いします、先生!」
「へえ、先生もピカチュウも変わり者だねー。こんな面倒な事に自分から首を突っ込もうなんて」
「良かった・・・・『シャーレ』が力になってくれるなんて。これで私達も、希望を持って良いんですよね?」
「そうだね。希望が見えてくるかもしれない」
三人の空気が少し明るくなったのを見て、先生とピカチュウは薄くだが、笑みを浮かべた。
ーセリカsideー
「・・・・・・・・ちぇっ」
『ボォン・・・・』
それを教室の外で聞いていたセリカは、気まずそうな顔になり、不貞腐れたように教室を去った。
セリカの隣で飛んでいるワシボンが、そんなパートナーを心配そうに見つめていた。
因みにノノミは学校の外で、見失ったセリカをサイドンと一緒に探していた。
ー先生sideー
翌日の朝、先生は『アビドス住宅街・45ブロック地区』で、セリカとその隣で飛んでいるワシボンと出会う。
「うっ・・・・な、何っ・・・・!?」
“おはようセリカ! ワシボン!”
『ピッカァ!』
『ワシボン!』
先生とピカチュウが元気よく挨拶すると、ワシボンが笑顔で返した。
が、
「な、何が『おはよう』よ! 馴れ馴れしくしないでくれる? ワシボンも応えなくて良いの!」
『ワシ〜・・・・』
ショボンとなるパートナーを見て、セリカが一瞬顔を曇らせるが、気を取り直して先生に指を一本突き立てる。
「私、まだ先生の事認めてないから! 全く、朝っぱらからのんびり彷徨いちゃって。良いご身分だ事」
“セリカちゃんは、これから学校?”
「な、何よ! 何でちゃん付けで呼んでんのよ!」
まるでニャースが威嚇しているようである。
「私が何をしようと、別に先生に関係ないでしょ? 朝っぱらからこんな所をうろちょろしていたら、ダメな大人の見本みたいに思われるわよ? じゃあね! 精々のんびりしてれば? 私は忙しいの。行くわよワシボン」
『・・・・ボォン』
“学校に行くなら一緒に行こう”
ツンケンな態度のセリカに、先生は一緒に登校しようと言う。
「あのね。何で私があんたと仲良く学校に行かなきゃならない訳?」
露骨に嫌そうな顔をするセリカに、ワシボンは困ったような顔になる。
「それに悪いけど今日は自由登校日、学校に行かなくても良いんだけど?」
“それなら何処に行くの?”
「・・・・そんなの教える訳無いでしょ?」
何やら言いにくそうに言うセリカ。
「じゃあね、バイバイ。行くわよワシボン」
『ワシ・・・・』
セリカはピュンッと、砂埃を立てながら走り去り、ワシボンも風を切りながら追っていく。
“・・・・追おう”
『ピカ』
先生とピカチュウはセリカとワシボンの後を追いかける。
◇
コンビニの近く。
「ひゃあっ!? な、何でついてくるの!?」
“ついていけばセリカちゃんが何処に行くか分かるから”
「何言ってんの!? あっち行ってよ! ストーカーじゃないのっ!!」
声を荒げるセリカだが、先生は構わず追いかけ回す。
「分かった! 分かったってば! 行先教えれば良いんでしょ?」
観念したように、セリカが小さく呟く。
「・・・・バイト」
“・・・・アルバイト?”
「あ、あんたみたいにのんびりしてられないのよ、こっちは。少しでも稼がなきゃ!」
どうやら借金返済にセリカなりの貢献をしているようだ。
「もう良いでしょ? ついてこないで!」
そう言ってまた駆け出すセリカ、それを追うワシボン。
バイト先が気になり追いかける先生とピカチュウ。
◇
『アビドス・市街地』
「うう・・・・しつこい」
“セリカちゃんはどんなバイトしてるの?”
「ああもうっ! 意味分かんない! 駄目大人! あっち行けってば! ぶっ○すわよ!?」
そう怒鳴って、セリカは再び砂埃を立てて走り去り、ワシボンが追う。
“・・・・・・・・”
『ピカ・・・・』
途方に暮れる先生とピカチュウ。
するとふと、ミライドンが入ったボールがクンクン、揺れた気がした。
ーセリカsideー
先生を振り切ったセリカとワシボンはその後。
『ワシボーン!』
「いらっしゃいませ! 『柴関ラーメン』です!」
ワシボンが来店したお客さんを歓迎するように笑みを浮かべて鳴き声を上げると、空かさずセリカが満面の笑みを浮かべ、元気よく接待をしていた。
「何名様ですか? 空いてる席にご案内いたしますね! ポケモン達もどうぞ!」
店の制服に三角巾を被り、メニューを持って案内し、
「少々お待ち下さい! 三番テーブル、替え玉追加です!」
テキパキとこなすその姿は、まさに看板娘と言っても過言ではなかった。
ーーーーガララッ。
『ワシワシボーン!!』
と、新しい来客に、ワシボンがいつもより大声で歓迎したような声を上げ、セリカが出迎える。
「いらっしゃいませ! 柴関ラーメンで・・・・わわっ!?」
そして、新たなお客様を見て、セリカの笑顔が凍り付き狼狽する。何故ならばーーーー。
「あの〜☆ 五名とポケモン六匹なんですけど〜!」
『ドンド〜ン☆』
「あ、あはは・・・・セリカちゃん、お疲れ・・・・」
『ビブラ〜♪』
「お疲れ」
『ワン』
ノノミとサイドンが明るく、アヤネが苦笑し、ビブラーバは翅を鳴らし、シロコとシロコの頭にしがみついたイワンコはいつも通りに挨拶した。
「み、皆・・・・どうしてここを・・・・!?////」
『ワシワシ! ワシボン♪』
セリカは顔を赤くするが、ワシボンは笑顔で歓迎していた。
「うへ〜やっぱここだと思った」
『ヤドヤド〜』
“どうも・・・・”
『ピカチュウ・・・・』
『カルッ』
ホシノとヤドキングが呑気に挨拶し、先生とピカチュウは何処か気まずそうに、ルカリオはクールに挨拶した。
「せっ、先生にピカチュウ、それにルカリオまで・・・・やっぱストーカー!?」
警戒するセリカに、ホシノが口を挟む。
「うへ、先生は悪くないよー。セリカちゃんのバイト先と言えば、やっぱここしかないじゃん? だから来てみたの」
「ホシノ先輩かっ・・・・!! ううっ・・・・!」
まさかの身内の企みに、セリカは歯噛みする。
「アビドスの生徒さんか? セリカちゃん、お喋りはそれぐらいにして、注文受けてくれな」
『ウソウソ〜♪』
すると厨房から、大きな柴犬の姿をし、頬に切り傷があり、頭に三角巾、服装は作務衣に前掛けを付け、キセルを咥えた柴関ラーメン店長『柴大将』と、樹木のような姿をしており、腰を曲げ両手の先に葉のようなものを持ち、ご丁寧に三角巾とイラスト入りのエプロンを着用した『まねポケモン・ウソッキー』が、陽気に踊りながら現れた。
「あ、うう・・・・はい、大将。それでは広い席にご案内します・・・・こちらへどうぞ・・・・」
渋々とした態度で、セリカが広い席へと案内した。
そして席に着いたシロコ達とポケモン専用の席に座るピカチュウ達、先生はシロコとホシノの、ノノミとアヤネのどちらに座ろうかと悩んでいると、
「はい、先生はこちらへ! 私の隣、空いてます!」
「・・・・ん。私の隣も空いてる」
ノノミとシロコが自分の隣にどうぞと言ってくる。
先生はどちらに座ろうかと悩んでいると。
『ウソウソ〜♪』
ウソッキーが予備の椅子を持ってきて、丁度テーブルの上座に座るように指した。
“ここに座って良いの?”
『(コクコク!)』
ウソッキーが笑みを浮かべて頷くと、先生は椅子に腰掛け、それを確認すると、ウソッキーは厨房に戻っていった。
「あらら〜、残念でした」
「ん。残念」
「私のバイト先で変な事しないで!////」
残念そうな顔をするノノミとシロコにセリカが顔を赤くして怒鳴った。
そしてノノミはターゲットをセリカに変える。
「セリカちゃん。バイトのユニフォーム、とってもカワイイです☆」
「いやぁー、セリカちゃんってそっち系か。ユニフォームでバイト決めちゃうタイプ?」
「ち、ち、違うって! 関係ないし! こ、ここは行きつけの店だったし・・・・////」
ホシノにまで揶揄われ、顔を赤くするセリカ。
「ユニフォーム姿のセリカちゃん、写真撮っとけば一儲けですそうだねー。どう? 一枚買わない、先生?」
“う~む・・・・”
「変な副業はやめてください、先輩。先生も乗らないでください・・・・」
アヤネが呆れた顔で言う。
「バイトはいつから始めたの?」
「い、一週間ぐらい前から・・・・」
「そうだったんですね☆ 時々姿を消していたのは、バイトだったと言う事ですか!」
「も、もう良いでしょ! ご注文はっ!?////」
これ以上揶揄われたらたまらないと言わんばかりに声を荒げるセリカ。
「『ご注文はお決まりですか』でしょー? セリカちゃーん、お客様には笑顔で親切に接客しなきゃー?」
「あうう・・・・ご、ご注文は、お決まりですか・・・・」
ホシノに指摘され、笑顔を引き攣らせながらオーダーを取るセリカ。
「私とサイドンはチャーシュー麺をお願いします!」
『ドン☆』
「私とイワンコは塩」
『ワン!』
「えっと・・・・私とビブラーバは味噌で・・・・」
『ビブラー!』
「私とキンちゃんはねー。特製味噌ラーメン! 炙りチャーシュートッピングで! 先生達も遠慮しないで、ジャンジャン頼んでねー。この店、滅茶苦茶美味しいんだよー? アビトス名物,柴関ラーメン!」
『ヤドキン・・・・』
ノノミとホシノはからかい半分だが、ちゃんと注文をした。
“・・・・じゃぁ、私達も特製味噌ラーメンで・・・・”
『ピカ』
『カル』
先生からの注文にますます顔を顰めるセリカだが、ちゃんと注文を取る。
「・・・・ところで、皆お金は大丈夫なの? もしかして、またノノミ先輩に奢ってもらうつもり?」
「はい、私はそれでも大丈夫ですよー☆ このカードなら、限度額までまだ余裕がありますし」
そう言って、ノノミが金色に輝くゴールドカードを取り出した。しかし、ホシノが却下する。
「いやいや、またご馳走になる訳にはいかないよー。きっと先生が奢ってくれる筈。だよね、先生?」
“・・・・えっ? 初耳だよ!?”
「あはは、今聞いたから良いでしょ!」
ホシノがそう言うと、先生はダッと駆け出し逃げようとする。が、ルカリオが「諦めろ」と言わんばかりに先生の襟を掴んで捕まえた。
「逃げられないよー」
さらにホシノも加わり、先生の身体をまさぐる。と、『大人カード』を取り出した。
「うへ〜『大人カード』があるじゃん。これは出番だねー!」
「『大人カード』を使う場面でもなさそうですが・・・・。先輩、こうするつもりで、私達をご飯に誘ってくれたんですね」
アヤネが呆れたように見て呟く。
「先生としては、カワイイ生徒達の空腹を満たしてやれる絶好のチャンスじゃーん?」
“・・・・・・・・嵌められた”
ガックシとなる先生に、ノノミがこっそりと耳打ちする。
「・・・・先生、こっそりこれで支払って下さい♥」
ノノミが自分のカードを差し出すが。
“だ、大丈夫だよノノミ。ここは私か支払うから・・・・”
「でも・・・・」
“気持ちは受け取っておくよ、ありがとう”
そして、美味しいラーメンに舌鼓を打ち、店を出た。
“ーーーーあぁ、美味しかった!”
『ピカピカ♪』
『カルゥ』
「いやぁー! ゴチでしたー、先生!」
『ヤドヤド〜!』
「ご馳走様でした」
『サイドン』
「うん。お陰様でお腹いっぱい」
『ワンワン♪』
「早く出てって! 二度と来ないで! 仕事の邪魔だから!」
満足した先生達と違って、セリカはずっとプリプリしていた。
「あ、あはは・・・・セリカちゃん、ワシボン、また明日ね・・・・」
『ラーバ♪』
『ワシボン♪』
苦笑するアヤネと違い、ビブラーバとワシボンは笑顔で挨拶し、セリカが爆発する。
「ホント嫌い! 皆死んじゃえー!!」
「あはは、元気そうで何よりだー」
“それじゃ帰ろう”
「ん、先生。帰ったらイワンコをピカチュウとバトルさせて欲しい」
『ワン!』
“えっ? 良いよ”
「あ、シロコちゃんズルいです。先生、私のサイドンもルカリオさんとバトルさせて下さい☆」
『ドンドン!』
“良いよ”
と、和気あいあいと帰っていった。
◇
「お疲れ様でしたー」
『ワシボーン』
そして、バイトを終えたセリカとワシボンも、店を出て帰路につく。
「はあ・・・・やっと終わった。目まぐるしい一日だったわ」
『ワシワシ』
「アンタはずっと楽しそうだったけどね」
『ワシ〜?』
疲れたように呟くセリカに同意するように頷くワシボンに、ジトッと半眼で睨むが、ワシボンは目を逸らして恍ける。
「はあ・・・・皆で来るなんて・・・・騒がしいったらありゃしない」
『ワシ』
ブツクサと愚痴るセリカの隣を飛びながら、ワシボンは「そうだったね」、相槌を打ちながら聞いていた。
「人が働いているってのに、先生先生って、チヤホヤしちゃって。ホント迷惑、何なのアレ」
『ワシ』
「ホシノ先輩、昨日の事があったからわざと先生を連れてきたに違いないわ!」
『ワシワシ』
「・・・・ふざけないで。私がそう簡単に折れると思ったら大間違いなんだから」
『ワシボン』
スタスタと悪態を吐いていくセリカに付いていきながら、ワシボンが悲しそうな顔をして見つめる。
「・・・・分かってるわよ。いくら何でも、態度が悪かったって事くらい・・・・。でも、大人なんて信用できないよ。私達が頑張らないと・・・・」
『・・・・・・・・』
その視線に気づいたセリカの言葉に、ワシボンは目を伏せなからも付いていく。
ー???sideー
「・・・・・・・・」
そして、そんなセリカとワシボンを見つめる人間達。
「アイツか?」
「・・・・はい、そうです。〈アビドス対策委員会〉のメンバーです」
「準備はいいか? 次のブロックで捕獲するぞ」
それは、カタカタヘルメット団であった。
ーセリカsideー
街を歩くセリカは、人の姿が少ないブロックを見渡す。
「・・・・そういえば、この辺も結構人がいなくなったなあ。前はここまでじゃなかったのに。・・・・治安も悪くなったみたいだし」
砂漠の影響で徐々にいなくなる人々と悪くなる治安を見て、セリカは気合いを入れ直す。
「このままじゃダメだ。私達が頑張らないと・・・・そして学校を立て直さないと・・・・」
その『私達』の中に、先生達は入っていない。
「取り敢えずバイト代が入ったら、利息の返済に充てて・・・・」
『っ! ワシー!』
「(ドン)わきゃ!?」
突然、ワシボンがセリカにずつきをして、セリカの身体がガクッと倒れる。
その瞬間ーーーー。
ーーーーババババババババババババ!!
セリカが立っていた場所に銃弾が飛んできた。
「・・・・っ!?」
すぐに起き上がり銃を構えたセリカと、目を鋭くしたワシボンが周囲を見ると、いつの間にか、カタカタヘルメット団が自分達を包囲していた。
「・・・・何よ、アンタ達」
「黒見セリカ・・・・だな?」
ヘルメット団のリーダーが問うてくる。
「・・・・カタカタヘルメット団? あんた達、まだこの辺彷徨いてんの?」
『ワシ・・・・!』
セリカの目に色が無くなり影が射すと、ワシボンも目を鋭くする。
「丁度良かった。虫の居所が悪かったの。二度とこの辺りに足を踏み入れないようにしてやるわ・・・・!」
「クックック、コイツらを見ても・・・・そう言えるかな!?」
ヘルメット団のリーダーが、二個のモンスターボールを投げると、その中からーーーー。
『ワルビアール!』
『ジャァーッ!』
何と、アビトス砂漠の四匹のボスポケモンの内の二匹、体の色が赤く変化し、体格もマッシブで、一見すると怖そうな顔に大きくつり上がったサングラスのような模様の中に、小さくてつぶらな瞳があるワニのようなポケモン『いかくポケモン・ワルビアル』。
首を覆う大きな砂袋とバネ状に巻いた身体をし、まるで大きなコロネパンのような姿をしており、鼻穴が大きなヘビのようなポケモン『すなへびポケモン・サダイジャ』であった。
しかも、ワルビアルの額には大きな傷があり、サダイジャの額にも大きな傷があり、体格も普通のサダイジャとワルビアルよりも大きく、それが『群れのボスポケモン』であると察した。
「はぁ!? ワルビアルにサダイジャ!? しかも群れのボスじゃない! な、何であんた達ごときがコイツらを!?」
「ーーーー捕らえろ」
セリカの言葉を無視するように言ってから命令をすると、サダイジャとワルビアルが【すなあらし】を巻き起こし、セリカとワシボンの視界が封じられた。
その時ーーーー。
ーーーードドドドドドーーーーン!!!
『ワシー!』
「ケホッ、ケホッ・・・・」
思い掛けない砲撃が、【すなあらし】ごとセリカとワシボンを吹き飛ばす。
「(対空砲・・・・? 違う・・・・この爆発音は『Fiak41改』・・・・? 火力支援? 何処から・・・・? ち、違う、これは・・・・まさか・・・・。こ、こいつら、半端じゃない・・・・ヤバい・・・・意識が・・・・)」
『ワシワシ!』
戦車砲からの砲撃で気絶しそうになるセリカを、傷だらけになったワシボンが必死に足で持ち上げて逃げようとする。
「・・・・ワシ・・・・ボン、逃げ・・・・て・・・・」
『ワシ!? ボンボン!!』
逃げてと言うセリカに、ワシボンが首を横に振って拒否する。しかし、爆煙の向こうから、ワルビアルの足音と、サダイジャの身体を引きずる音が、セリカの耳には異様に良く聞こえた。
「・・・・逃げ、て・・・・逃げろーっ!!」
セリカが痛む身体を必死に動かして、ワシボンを振り払う。
『ワシ!!・・・・・・・・ワシボーーン!!』
ワシボンは目に涙を浮かべながら、爆煙の中を飛び去るワシボン。
「・・・・・・・・ゴメン、ね・・・・ワシ・・・・ボ・・・・」
そこまで言って、セリカは意識は闇に沈んでいった。
ーヘルメット団sideー
完全に気を失ったセリカに、ヘルメット団が近付く。
「・・・・続けますか?」
「嫌、生かさなれば意味がない。この程度で良いだろう。車に乗せろ。ランデブーポイントへ向かう」
「・・・・黒見セリカのポケモンが逃げましたが」
「一班に追撃させろ。仲間を呼ばれたら厄介だ。必ず仕留めろ」
「はっ!」
ヘルメット団リーダーの指示を受け、団員が了解を示すと、セリカを担いで車に運び込み、そのまま走り去っていった。
『・・・・・・・・・・・・・・・・』
しかし、その光景をビルの屋上から見つめている『影』がいた事に、誰も気付いていなかった。
『ーーーーーーーーーーーーーーーー』
そして、その『影』が、セリカのワシボンを追うヘルメット団の部隊を睨むと・・・・。
ーーーーピシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンンン!!!
アビドスには絶対に聞こえる筈がない落雷の音が鳴り響いた。
ー先生sideー
ーーーーピシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンンン!!!
“っ!”
『ピカッ!?』
と、そこで、アビドスで寝泊まりできるカプセルホテルに入ろうとした先生とピカチュウが、轟音響く落雷の音が聞こえ、何やら不穏な気配を感じた。
ボスポケモン達は通常よりも大きいサイズです。セリカのワシボンを助けた『影』は一体? そして、誘拐されたセリカの運命は!?
柴関ラーメンの大将&ウソッキー。
大将と舎弟のような関係。元はサダイジャの縄張りに住んでいたウソッキーだが、ワルビアル達との縄張り争いに巻き込まれ、住んでいた場所から逃げ、お腹を空かして倒れている所を大将に助けてもらい。大将の店で働くようになった。今では餃子やチャーシュー作りに専用手袋を使って皿洗い等をこなしている。