壊滅のスクワッド
ーサオリsideー
【・・・・寒い・・・・】
ソレは幼い頃の記憶、ある日の肌寒い夜。
ボロボロの建物を寝蔵にし、殆ど浮浪児、否、野生ポケモンと同類な生活環境の〈アリウス〉で、サオリは1人地面に座り込んで身体を手で擦り、僅かでも暖めようとしていた。しかし、ソレでも寒さを凌げる事はなかった。
【っ!】
と、そんな時、何かの気配を感じて目を向けると、本来は黒い部分が色褪せた青色になり、更に赤をベースとした身体の各部には、ドクロのような意匠の外骨格を持つ犬のようなポケモン、『ダークポケモン・デルビル(色違い)』であった。デルビル(色違い)は口に長いパンを咥えていた。恐らく別の自治区から盗んできたのだろう。
【な・・・・なんだお前は・・・・!?】
サオリはまだ支給されていないので銃がなく、足元にあった手頃な石を持って、デルビル(色違い)を見据える。
【・・・・・・・・】
デルビル(色違い)は、そんなサオリに敵意を向けず、ゆっくりと近付くと自分の咥えていたパンを半分に引き千切って、その半分を自分で食べ、もう半分をサオリに渡した。
【ほ、施しなんて・・・・(クゥ~・・・・)くっ!】
妹分に自分の分のご飯を渡している分、サオリの身体は栄養を求めてお腹を鳴らした。
【・・・・ガウ】
【〜〜〜〜!!】
ソレを聞いてデルビル(色違い)はパンを差し出すと、サオリは観念したかの様にパンを奪う様に取ると、貪る様に食べた。
【(ーーーーあっ、美味しい)】
サオリはパンを良く味わう様に咀嚼していると、ふと傍らが暖かくなった様に感じて目を向けると、デルビル(色違い)が自分の傍らに寄りかかる様に寝そべっていた。
【・・・・何をしているんだ?】
【・・・・フン】
サオリの問いにデルビル(色違い)はフンっと鼻息を鳴らし、返事の代わりに身体の体温を上げ、サオリの冷えた身体を暖めていた。
【・・・・ふん】
そしてサオリはパンを食べ終えると、そのままデルビル(色違い)を傍らに置いたまま眠った。
その日から、もう夜は寒くなくなった・・・・。
* * *
「(ブルッ)ーーーー夢、か・・・・」
とある自治区の一角にあった廃れたビジネスホテル。
肌寒さを感じて目を覚ましたサオリが辺りを見回すと、アツコとミサキとヒヨリが、ホテルのリネンルームに残されていた比較的に綺麗なシーツや毛布に身を包みながら近くで眠っている。
降りしきる雨の中、〈アリウス分校〉から逃亡していたサオリ達『アリウススクワッド』はこのホテルに隠れ、その一室で仮眠を取っていた事を思い出していた。
ふと、サオリは割れた窓ガラスからどんよりとした夜の雨空を見上げる。
「(久しぶりに、夜が寒いと感じたな・・・・ヘルガー、寒いぞ・・・・何で、あの日の様に、私の傍に居てくれないんだ・・・・?)」
否、そんな事は分かっている。・・・・自分で壊したからだ、ヘルガー(色違い)との『絆』を・・・・。
「・・・・・・・・っっ!!?」
と、サオリが自嘲気味に笑おうとして顔を俯かせた瞬間、暗闇で動く影と気配を察し、急いで仲間達を起こした。
◇
ーーーーダダダダダダダダッッ!!!
「も、もうおしまいです・・・・ここは行き止まりですし・・・・」
『ガラ・・・・』
「・・・・反対側も、完全に包囲されてる」
『ブー、バーン・・・・』
「くっ・・・・」
起きてから追手と交戦していた〈アリウススクワッド〉だが、逃亡の疲労と空腹、そして数の暴力によって次第に追い詰められてしまい、サオリが眉根を歪ませる。
今誰が足を引っ張っているかと言われれば、『エデン条約』の傷が完治していない上に、ヘルガー(色違い)から見放されたサオリであろう。
『ほのおタイプ』を主流とする〈アリウス〉のポケモン達は攻撃力が高く、ヘルガー(色違い)のいないサオリは他の皆に守られているようなものだ。
「ーーーー諦めるんだな。コレ以上は逃げられないぞ」
「・・・・・・・・」
「ひ、ひっ・・・・」
「(スッ、ススッ・・・・)」
「・・・・弾薬、殆ど残ってないし、もう体力も限界・・・・リーダーの傷も大きい。このままじゃ、逃げるどころかリーダーの命が危ないよ」
バクガメスを盾にして、『MGLー140』の銃口を向けるアリウス生徒を睨むサオリ、怯えてアローラガラガラの背中に隠れるヒヨリ、グレンアルマ(色違い)とソウブレイズ(色違い)に守られているアツコが手話でブーバーンと共にランチャーを構えるミサキと現状の不利を話し合った。
「・・・・・・・・最後の手段ならまだ残っている。コレなら・・・・」
サオリが懐から『爆弾』を取り出し、ソレを見てスクワッドの仲間達が目を見開いた。
「!? ま、まさか」
「・・・・『ヘイローを破壊する爆弾』」
そう。〈アリウススクワッド〉が〈トリニティ総合学院〉の『ティーパーティー』を排除する為に用意した『兵器』であった。
「ミサキ、ヒヨリ。私が時間を稼ぐ間に姫を連れて・・・・ここを離れるんだ」
「・・・・サオリ」
「ここを離れて・・・・そうしたら・・・・その次は・・・・その・・・・次は・・・・」
追い詰められたサオリは、『爆弾』を使って時間を稼ごうとし、その後の事を朦朧とする意識で考えようとする。
「サオリ」
「・・・・姫?」
「もう良いよ。私達は頑張った。・・・・戻って、『グレン』。『レイズ』」
『ボゥ!?』
『ブゥ!?』
アツコが袖口からモンスターボールを両手に持って、グレンアルマ(色違い)ーーーーニックネーム『グレン』と、ソウブレイズ(色違い)ーーーーニックネーム『レイズ』を戻した。
2匹が出ようとボールを揺するが、アツコはシッカリと握って出られないようにした。
「・・・・・・・・」
「ひ、姫ちゃん・・・・どうしたんですか・・・・?」
アツコは逃げるのを諦める事を言い、グレンとレイズを戻した『ヒールボール』を持ったまま前に出てアリウス兵と向き合う。
「『彼女』が求めているのは私・・・・そうでしょう? 私が行くよ。だから、他のメンバーは見逃してほしい」
「・・・・・・・・」
2つのヒールボールを地面に置いて、抵抗の意思が無いのを示したアツコに、アリウス兵は銃口を下ろした。
「アツコ!?・・・・一体何をっ!?」
「・・・・もう良いよ、サオリ。全部、無意味だよ。ここを切り抜けたその先は? 一体何処に向かうの?」
「・・・・・・・・」
「〈トリニティ〉に〈ゲヘナ〉ーーーーそして〈アリウス〉さえも私達を追い掛けてる。この〈キヴォトス〉で私達が安心できる場所は無いよ。私達の命が尽きるまで、身を潜めて逃げ隠れする人生が続くだけ。ーーーーでも、ソレも私がいるからの話。グレンとレイズも、サオリも、ミサキとブーバーンも、ヒヨリとガラガラも・・・・ヘルガーも。私のせいでこうなってしまったから・・・・だから、私が終わらせる」
ーーーークンクン・・・・クンクン・・・・!!×2
アツコは自分を犠牲にして、仲間達を守ろうとしているようだが、グレンとレイズの入ったモンスターボールが揺れ動く。
「ひ、姫ちゃん・・・・」
「・・・・姫」
「・・・・ダメだアツコ、戻ったら殺される・・・・ソレくらい分かるだろ?」
「・・・・今まで私は何の『決定』も『判断』もしなかった。だから、今回位は自分で決めたって良いでしょ?」
そう言って、アツコは2つモンスターボールを地面に置いて〈アリウス〉を見据える。
「・・・・約束してくれる? 皆を自由にしてくるって」
「・・・・・・・・少し待ってろ、『マダム』に確認を取る」
そしてその部隊の『責任者』らしき人物に通信端末で連絡を入れる。
《ーーーーほぅ。・・・・成る程、分かりました。約束致しましょう》
そして、通信端末をアツコの前に出すと、ソレから女性の声が響いてきた。
「その名に賭けて、誓って」
《『名前』を・・・・? ソレにどれ程の意味が?》
「必ず約束を守って欲しいから」
《良いでしょう・・・・全ての巡礼者の幻想である私『ベアトリーチェ』の名に賭けて、お約束致します》
「・・・・うん、約束だよ」
《ただ、アナタのナイト気取り達が追ってこないようにはします。やりなさい》
「了解」
アツコと通信相手ーーーー『ベアトリーチェ』が約束を交わすと、ベアトリーチェがアリウス兵にそう指示し、アリウス兵はグレンとレイズの入ったモンスターボールに向けて、サオリも使う『P226』の銃口を向けて、パンッ、パンッ、とヒールボールの開閉ボタンを破壊した。
「・・・・・・・・」
「姫様、コチラを。『マダム』のご指示です。勝手にマスクを外されては困ります」
ソレを見て拳を握るアツコ。しかし、仲間達の為に怒りをグッと堪えて近付くと、アリウス兵の1人が持ってきたマスクを被らされた。
《ーーーー傷1つ無いよう、丁重に扱いなさい。儀式は明朝、日の出と共に始めます》
『ベアトリーチェ』の指示に従い、アリウス兵達はアツコを賓客の様に扱いながらその場を離れようとする。
と、その時、アツコがサオリ達の方に振り向いて声を発する。
「・・・・元気でね。グレン、レイズ、サオリ、皆ーーーーさようなら」
「姫・・・・」
『バブーン・・・・』
「姫ちゃん・・・・」
『ガラ・・・・』
アツコを止められないミサキとブーバーン、ヒヨリとアローラガラガラは背を向けて去っていくアツコの見送る事しか出来なかっった。
「ーーーー駄目だ・・・・アツコ・・・・私は・・・・お前まで守れなかったら・・・・お前まで失ったら・・・・『相棒』も・・・・『信念』も・・・・『守るべきもの』も・・・・全部なくなってしまったら・・・・私は・・・・アツコ、私は・・・・・・・・私は一体何の為に今まで・・・・何の為に・・・・生きているんだ・・・・?」
多くを犠牲にしてまで突き進んだ先にあったのは、何も残らない『喪失』だけ・・・・。サオリは深い絶望に呑まれ、茫然自失で立ち尽くしていた。
「・・・・残りのスクワッドはどうしますか?」
《全て始末なさい》
「かしこまりました」
遂先程、アツコとの間で交わされた『約束』をほんの数秒で破り、『ベアトリーチェ』の命令を受けたアリウス兵達が銃を構えた。
「「「・・・・・・・・・・・・」」」
しかし、サオリ達は抵抗する気すらも消え失せたのか、その場に留まり・・・・。
ーーーーダダダダダダダダッッ・・・・!!
降りしきる雨の空に、銃声が空しく響いた・・・・。
ー???sideー
『・・・・・・・・』
ーーーーダダダダダダダダッッ・・・・!!
『!』
野生ポケモン達に聞き回って『スクワッド』のいる自治区にやって来たそのポケモンは、遠くから〈アリウス〉で使われる銃の銃声を聞き、その場所へと向かった・・・・。
ー先生sideー
「ーーーーお越し下さりありがとうございます、先生。しばらくぶりのトリニティ訪問となりますね」
“こんにちはナギサ。皆”
『ピカチュウ』
「またお会いしましたね、先生。先日はお世話になりました」
「・・・・はじめまして、『救護騎士団』の団長を務めております、『ミネ』と申します」
〈ミレニアム〉での騒動を終え、リンから『新たな御三家』を受け取り、その子達と共に〈レッドウィンター〉で停学処分を受けた生徒が入る『227号特別クラス』の『天見ノドカ』とパートナーの『だるまポケモン・ヒヒダルマ』、『真宵シグレ』とパートナーの『だるまポケモン・ガラルヒヒダルマ』が〈ゲヘナ学園〉の問題児集団『温泉開発部』と温泉宿を作り、チナツと共に楽しんだり(後に『温泉開発部』に爆破された)。
『便利屋68』とお祭りを楽しんだり。
『七囚人』の『狐坂ワカモ』がチョコをプレゼントしてくれたり。
〈トリニティ〉でヒナタとヨノワールと共に『図書委員会』の委員長である『古関ウイ』とパートナーの『ばけのかわポケモン・ミミッキュ』に本の修復を頼んだり。
〈百鬼夜行連合学院〉の『忍術研究部』に所属する『千鳥ミチル』と『からぬけポケモン・アギルダー』と『ぬけがらポケモン・ヌケニン』。『大野ツクヨ』と『きへいポケモン・シュバルゴ』と『しのびポケモン・テッカニン』、以前にもあった『久田イズナ』と『あしながポケモン・アリアドス』と『かえるポケモン・ニョロトノ』が、〈ゲヘナ〉の『万魔殿‹パンデモニウム・ソサエティー›』の『丹花イブキ』と『棗イロハ』を交えて珍騒動が起こったりした日々を送っていた。
そうしているとナギサからの連絡を受け、先生はピカチュウとルカリオとイーブイ(色違い)、そして『新たな御三家』を連れてミライドンに乗り、こうして〈トリニティ〉の『ティーパーティー』のテラスにやって来ると、『ホスト』であるナギサの他にも、『シスターフッド』のリーダーである歌住サクラコ。
170cmはある長身で〈トリニティ〉の生徒らしく白を基調としたデザインをベースに、救護騎士団の団長らしい装飾やジャケットのような白衣を纏い、引き締まっているが出る所は出てるプロポーションに、腰には鮮やかな青い羽根が生え、更に鮮やかな青いショートヘアの髪と瞳をし凛々しい印象を与えるのは3年生である『蒼森ミネ』がいた。
3人の後ろではナギサのタブンネとサクラコのゲンガーの他に、耳や羽や手足が長く大きく、ピンク色の妖精のような印象を受ける『ようせいポケモン・ピクシー』であった。
“うん、よろしくね。それしても、なんだか不思議な組み合わせだね?”
『ピカチュウ』
『ティーパーティー』、『シスターフッド』、『救護騎士団』、〈トリニティ総合学園〉でも高い位置にいる組織のリーダー達が一堂に会しているのだ。ここに『正義実現委員会』のリーダーのツルギか、副リーダーのハスミがいれば物凄い光景になっていただろう。
「ふふ・・・・不思議と言うか、ナギサさんを困らせる組み合わせといいますか」
「私は『ホスト』を困らせるつもりはないのですが。『信念』と
『誇り』を掲げる尊き騎士団の一員として、道を誤った者を正すだけです。ーーーー例えソレが、『正義実現委員会』でも『ティーパーティー』の生徒だったとしても」
「・・・・・・・・」
「・・・・その言葉が、既にナギサさんを困らせているようですが」
先の『エデン条約』でのゴタゴタの事を発言するミネに、ナギサとサクラコが苦笑してしまう。
「さて、雑談はソコまでにしておきましょう。先生をお呼び立てした理由は、この間の『エデン条約』以降の顛末と事件の後始末について話し合う為・・・・でしたが」
「・・・・・・・・」
「・・・・・・・・」
「『シスターフッド』と『救護騎士団』のリーダーも出席すると言って聞かず・・・・この様な形になってしまいました」
「・・・・『シスターフッド』も変わりましたので、今後はこう言った席には積極的に参加するつもりです」
「私も、『騎士団』団長としての責務を果たすべくここにいるだけです」
「・・・・・・・・」
〈トリニティ〉の生徒会『ティーパーティー』のリーダー役であるナギサにココまで意見を通せるなんて、サクラコとミネの発言力と胆力は相当のものである。
“えっと・・・・つまり、2人は『ティーパーティー』を牽制する為に・・・・?”
「いえ、純粋に興味があるだけです」
「私は、その様な政治的な事は良く分かりません」
『エデン条約』の時のように『ティーパーティー』が暴走しない為に見張っているのかと遠回しに先生が聞くが、2人は首を横に振り、サクラコが話し出す。
「『エデン条約』の騒動はどうにか収まりましたが、事件の事後処理と状況分析は依然として終わっておりません。私達もこの事件と無関係ではありません・・・・分析の1部は『シスターフッド』が担当しておりますので。この席は、そう言った情報の共有及び事後処理について話し合う為だと思って頂ければ」
「そう言う事です」
“成る程・・・・”
どうやら、先生が思っている以上に、〈トリニティ〉内では『エデン条約』で起こった傷は大きいようだ。
因みに〈ゲヘナ〉は『エデン条約』にあまり関心が無かったのか、騒動は日常茶飯時な為か、すぐに収まったとヒナから聞いた。精々あの騒動でマコトの頭が面白い、もとい大変な事になった事位であるとの事。
「・・・・・・・・」
しかし、先生は瞑目しているナギサを一瞥した。こう言った事は学校代表である『ティーパーティー』の仕事であり、サクラコやミネが出る事はないと思えたが、ソコはミネが説明してくれた。
「今、『ティーパーティー』には『外部の助け』が必要です」
「・・・・・・・・」
「『エデン条約』の前後に、『ティーパーティー』の一員が『ホスト』を攻撃する事件が起こり、その結果、監獄に入れられるという前代未聞の事態となりました。まさかセイア様を攻撃する様に命じたのがミカ様だったなんて・・・・」
「・・・・・・・・」
「・・・・・・・・」
『・・・・・・・・』
テラスの空気が重くなっているように感じたのは、恐らく気の所為では無いだろう。
「セイア様の治療に当たったのは周知の通り、私です。その為、私も自分なりにこの事件を調べて参りました。ミカ様は結果的に〈アリウス〉に利用された形になりますが・・・・だからと言ってご本人の罪が消える訳ではありません」
と、ソコでミネはチラリとナギサに視線を向ける。
「そして、『現ホスト』であるナギサ様は『シャーレ』と言う超法規的組織を利用し、無辜の生徒を『退学』に追い込もうとしました」
「・・・・・・・・」
「被害を受けた生徒達に謝罪し、凡そ丸く収まったとは聞いておりますが・・・・ソレでも、ナギサ様の行為が無かった事になる訳ではありません」
「・・・・・・・・」
『補修授業部』の事を厳しく批判するミネの言葉を、ナギサは甘んじて受けている様である。
「セイア様は幸い学園に復帰する事は出来ましたが・・・・以前より体調が悪化してしまい、自室から出られない体となっております。今は手持ちポケモンであるネイティオ、ブリムオン、フワライドが付いております」
セイアが一次的に復帰したが、再び寝込んでしまったようである。そしてミネは先生に視線を戻す。
「その為、現在不安定な『ティーパーティー』には『外部の手助け』が必要だと言うのが私の判断です」
「成る程」
「・・・・丁寧なご説明ありがとうございます、ミネ団長」
「(ペコリ)」
『・・・・・・・・』
ミネが説明を終えるが、テラスの空気が更に重くなった様に感じるのは恐らく気の所為では無いだろう。
ナギサのタブンネとミネのピクシーがオロオロとしているのだから。・・・・サクラコのゲンガーは興味無いのかウトウトと立ったまま寝そうになっている。
“(き、気まずい・・・・)”
『(ピカチュ・・・・)』
空気の重さに息が詰まりそうになる先生とピカチュウだが、サクラコはケロッと話を始めた。
「ミネ団長は〈トリニティ〉で最も古い歴史を誇る部活であり、『ヨハネ分派』の首長。本来なら『ティーパーティー』に参加する権利を有しております・・・・今までは、自ら救護活動を遂行する為にソレを断っておりましたが」
「過去の話です」
「・・・・この事件を紐解くと、全て〈アリウス分校〉に集約されます」
と、ナギサが漸く本題に入ってくれるようだ。
「『エデン条約会談場の襲撃』、その実行犯であり『黒幕』だったのが〈アリウス分校〉でした。〈ゲヘナ〉のマコト議長もウチのミカさんも、〈アリウス〉の手のよって踊らされただけとも言えます・・・・マコト議長は、『〈トリニティ〉の分派である〈アリウス〉が自分達を攻撃したのだから、自分は寧ろ被害者だ』と、私達に全ての責任があると主張しております。その為、焼けてしまった髪の毛を切る為の美容室費用も私達に請求するーーーーと、訳の分からない事を・・・・まあ、コレは置いておくとして」
因みに責任転嫁しまくっているマコトは、イブキのグレッグによるキン◯バスターのお仕置きを受けた。
「〈アリウス〉が背後で糸を引いていたのなら・・・・幾つかの『疑問』が残ります。ーーーー1つ。『『アリウス分校』は何故『エデン条約』を妨害したのか』」
「『アリウス分校』は長い間、我が〈トリニティ〉と〈ゲヘナ〉の両方を憎んできたと騎に及んでいます。1度に両学園の要員を無力感させる絶好の機会だったのでしょう」
「更に、『エデン条約』と言う『契約』を利用し『不可解な兵力』を手に入れておりました・・・・セイアさんは総説明していました」
「はい。『ユスティナ聖徒会』の姿をした幽霊達と、その兵力だったポケモン達のレプリカ。ソレらがそのまま〈トリニティ〉と〈ゲヘナ〉を襲撃していたらーーーー両学園は為す術もなく崩壊した筈です」
「・・・・・・・・」
サクラコが発した『疑問』に、ナギサとミネはそう推論を述べていき、サクラコは『ユスティナ聖徒会』の名が出た途端、少しだけ目を逸らした。
「一体アレは何だったのですか?」
「ソレについては幾つかの仮説がありますが・・・・ソレを裏付ける『証拠』を発見できていない状況です」
ナギサとサクラコが明らかに何かを知っている風に見えるのか、ミネがサクラコに目をやる。
「『聖徒会』は本来『シスターフッド』の前身だった集団。サクラコさん、この部分について何か我々に隠している事はありませんか?」
「・・・・いいえ、残念ながら」
「『シスターフッド』は元来秘密の多い集団です。情報の特性や秘匿、歪曲にも長けています。学園の中に、『シスターフッド』に対して不審を抱いている生徒が沢山いる事はご存知でしょうか?」
「・・・・例えば、アナタのように?」
ミネとサクラコが詰め寄り合いながら静かに火花を散らす。
『ピクシ〜・・・・』
『ゲッゲッゲッゲッ〜♪』
ピクシーは増々オロオロしだしミネにまぁまぁと宥め、ゲンガーは「やれやれサクラコ〜♪」と、状況を楽しんでいた。
「・・・・・・・・」
『ブンネ・・・・』
「(き、気まずい・・・・)」
『(ピカチュ・・・・)』
ナギサとタブンネもオロオロし、まるで粘土の中にいるような重い空気で、先生とピカチュウは酸欠しそうである。
そして、口を開いたのはサクラコであった。
「・・・・私が『シスターフッド』の全ての『秘密』を知っていると思っていらっしゃるのであれば、ソレは見込み違いですよ。『シスターフッド』には、私すら知らない秘匿されたものが多く存在しますーーーー詳しく申し上げる事はできませんが」
「・・・・そうですか、失れしました」
「はぁ・・・・」
しかしミネは次にナギサの方に目を向ける。
「〈トリニティ〉の防衛システムを無力化させたあの巡洋ミサイル・・・・ソチラの分析はどうなっていますか?」
「分析を進めておりますが、今の所出所も構造も不明・・・・〈キヴォトス〉に存在する技術ではないと言う事だけが分かっております・・・・」
「・・・・『アリウス分校』は、“未知の力を最低2つは確保していると言う事ですね”」
「はい。そして、ソレは『2つ目の疑問』に続きます。ーーーー2つ目。『『アリウス分校』は何を計画しているのか』」
「・・・・・・・・」
「・・・・コレについて、私達は何も分かっていません」
サクラコが提示した『疑問』に、ミネは眉根を寄せ、ナギサも分からないと言った。
「何よりもーーーー私達は『アリウス自治区』が何処にあるのかも知りません」
「・・・・以前からソレは謎のままでしたが、この事件をキッカケに幾つかの糸口を得る事ができました。彼女達はあの時、『通功の古聖堂』の地下にある『カタコンベ』から潜入しておりました。コレまでの彼女達の潜入ルートも、全て『カタコンベ』と関連している事が分かっております。巡洋ミサイルの発射位置も、〈トリニティ〉内にある遺跡地区でした」
「『トリニティ自治区』に存在する地下遺跡はかなりの数があります。ソレを全て調査し、統制する事は不可能です」
「付け加えるなら、『カタコンベ』は未だにその規模が明らかにされていない迷宮・・・・ソコから『アリウス自治区』を見つける事も大変難しいでしょう」
「ふむ・・・・」
ミネが難しげに唸ると、ナギサは更に話をする。
「セイアさん曰く、『あの自治区は私達が理解できない、ポケモンのものでもない『とあるチカラ』で保護されている』、との事です。『そうでもしなければ、今まで隠れ果せている事の説明かまできない』、と・・・・」
「また理解できない力の話ですか・・・・」
「かつて〈アリウス〉所属だったアズサさんの話では、任務の度に『カタコンベ』の出口かま記録された地図を渡されていたそうです」
「!」
アズサの名が出た途端、ミネは顔を険しくする。
「地図の経路は毎回変わり、更に暗号化まで施されているとの事・・・・裏切り者である自分はもう、『アリウス自治区』に戻る道を知らないと・・・・」
「・・・・その少女を、取り調べたのですか?」
「えっ?」
ナギサはアズサから聞いた情報を共有しようとすると、ミネはナギサの言葉が気になったのか席から立ち上がって詰め寄る。
「白洲アズサさん・・・・あの子にアリウスの情報を吐かせたんですか?」
『クシー・・・・!』
『ブンネー・・・・!』
ピクシーがまずいと思ったのか、ミネを後ろから羽交い締めをして抑え、タブンネがナギサの前に出てミネを宥める。
「彼女はもう十分な代償を払っています! 自分がいた自治区から裏切り者の烙印を押され、それでも私たちのために頑張ってくれました! やっと心の平穏を取り戻したであろう子に、私たちの事情に巻き込んで、アリウスの情報を問い詰めるだなんて・・・・なんて残酷な・・・・!」
「あ、いえ! 取り調べたとかではなく、あくまで本人が語ってくれた事で・・・・」
「あの少女が果たしてそのような気持ちになるのでしょうか! 『ティーパーティー』の権力を利用して、か弱い少女に無体を働いたに違いありません・・・・!!」
「えっ!? ええっ!?」
ミネの発言に困惑してしまうナギ庇うように、サクラコが声を上げる。
「落ち着いて下さいミネ団長。その様な事実はありません」
「・・・・・違うのですか?」
「はい。ナギサさんは血も涙もない残酷な方なのは確かですが、今回は違います。アズサさんは無礼な待遇を受けて等いません」
フォロしているようで、ちゃっかりナギサをディスっているサクラコにも、ナギサは頬を引くつかせる。
「何より、『補修授業部』は『シャーレの先生』が担任をしている部活。そんな事があったら先生が黙っていなかったでしょう」
「・・・・そうですね。失礼しました、ナギサ様」
「・・・・・・・・」
“(ナギサのティーカップが震えてる・・・・)だ、大丈夫? ナギサ?”
『ブンネ・・・・』
「・・・・はい、私も知っています」
ミネに怯えているようにも、サクラコに怒りを抱いているようにも見え、タブンネがナギサの手に自分の手を置くと、少し落ち着いたのか話をする。
「ヒフミさん・・・・ハナコさん、コハルさん、アズサさん、そのポケモンさん達・・・・『補修授業部』の方々は、本来負うべき『責任』よりずっと多くの事を背負いました・・・・彼女達が背負ってしまったものの中には私が原因のものもあったでしょう・・・・ソレに関して私にも負うべき『責』と、『後悔』があります・・・・」
疑心暗鬼に捕らわれ、彼女達を巻き込み、『エデン条約』での激戦まで彼女達が活躍してくれていた。その事にナギサは慚愧の念や忸怩たる思いがあるのだろう。
「その為・・・・『エデン条約』以降のこの様な場に、あの子達が関与しない様に努力家しております・・・・こんな泥仕合は『ティーパーティー‹私達›』の役目でなければ・・・・あの子達にこんな経験をさせてはならないのです」
“ナギサ・・・・”
「・・・・そうですね、ナギサ様。ご無礼をお許しください」
ナギサの言葉に納得をしたのか、ミネはペコリと謝罪してから席に戻った。
「・・・・同感です。私も、気持としてはハナコさんに『役目』を渡したいと思っておりますが・・・・私と交わした『契約』は終わっていますし・・・・彼女にコレ以上負わせてはいけないと思ってもいます」
“(いや〜・・・・ハナコは絶対嫌がると思うし、何なら報復として『シスターフッド』を露出狂の集団にしかねないと思うけどなぁ・・・・)”
『(ピカチュウ・・・・)』
先生とピカチュウ、そしてサクラコの後ろにいるゲンガーも、スク水姿のハナコに毒されて、『シスターフッド』がスク水集団になる光景を想像したのか半眼になって苦笑する。
サクラコはそんな先生達の反応に気付かず、難しいな顔で続ける。
「私達だけで残った『問題』を解決する事・・・・ソレが我々の出来る最低限の礼儀なのでしょう。ですが、先生は私達と最後まで一緒に行動して下さると信じています」
“うん、勿論”
先生としても、〈トリニティ〉の事や〈アリウス〉の事が気掛かりだったので、協力は惜しまないつもりだ。
『エデン条約事件』の後は、〈トリニティ〉の内政に過干渉になるとリンから言われ、『補修授業部』の担任役でいる事しか出来なかったが、今回は『ティーパーティー』や『シスターフッド』の要請だから、遠慮なく行動ができるのだ。
「・・・・ありがとうございます先生」
そして、改めて〈アリウス〉に対しての話し合いを始める。
「『カタコンベ』は、全体図さえ判明していない巨大な迷路・・・・毎回変わる入口を探すなんて、ソレは確かに難問ですね」
「発想を逆転しましょう・・・・『通路を把握している人』に話を聞くのはどうでしょう」
「『通路を把握している人』・・・・?」
ミネが『カタコンベ』をどう攻略するかの質問に答えたのはサクラコであった。〈トリニティ〉で『カタコンベ』の事を知っているのはアズサだが彼女は末端の兵であり、ソコまで把握はしていないと思われた。ソレに、もう〈トリニティ〉の一般生徒である彼女を、コレ以上〈アリウス〉との問題に巻き込みたくないので頼る訳にはいかない。
とすれば、後は1人、先生の脳裏に1人の少女の顔が浮かび上がった。
“ーーーーサオリ・・・・だね?”
「その通りです。襲撃を主導した『アリウススクワッド』のリーダー、『錠前サオリ』。彼女は確実に通路を熟知している筈です」
「・・・・成る程。襲撃を主導した彼女なら・・・・」
先生の出した名にサクラコが頷き、ミネも納得した。アズサの師匠筋に当たり、〈アリウス〉の少数精鋭『スクワッド』のリーダーである彼女ならば、『カタコンベ』の通路を熟知し、恐らく先生が気になっている『存在』についても知っていると思った。
「ですが、『スクワッド』の消息は判明しておりません・・・・。既に『アリウス自治区』に逃げている可能性が高いです」
「『スクワッド』以外にも1人、通路を熟知している生徒がいるのでは無いですか?」
“???”
「・・・・・・・・」
「ええと・・・・? どなたの事でしょうか・・・・」
サクラコの言う『カタコンベを知る人間』が分からず、先生とミネとナギサが首を傾げると、サクラコは断言する様に口を開いた・・・・。
「ーーーー聖園ミカ」
「・・・・っ!?」
10年来の大切な幼馴染みの名を口にされ、ナギサは息を呑み、動揺した・・・・。
この章が始まる前、先生は『四代目御三家』を連れて冒険しておりました。