ー先生sideー
ーーーー聖園ミカ。
〈トリニティ〉の3人の『ホスト』の1人で、〈ゲヘナ学園〉を心の底から、ソレこそ憎悪に限りなく近い嫌悪の感情を抱いている生徒で、〈アリウス〉と手を組んでクーデターを起こし、〈トリニティ〉を手にしようとし、『補修授業部』の合宿所で〈アリウス〉の部隊を率いて先生達と戦い、辛くも捕縛に成功した生徒である。
そのミカが、『カタコンベを知る人間』として挙げられ、ナギサは息を呑んだのを先生は察した。
「そ、そんな事は・・・・ミカさん本人も『アリウス自治区』の位置だけは知らないと仰って・・・・」
「・・・・彼女は長い間〈アリウス〉と内通してきました。ソレなのに〈アリウス〉の『位置』を知らない言う言葉を信じるのですか?」
「・・・・・・・・」
10年来の幼馴染を庇おうとするナギサだが、サクラコの言葉に黙ってしまう。
「・・・・確か、ミカ様はアリウス生徒に補給品を手渡した記録が残っています。クーデターを起こす為、〈アリウス〉の支援を得る為に・・・・そう考えるのが自然でしょう」
「ですが・・・・ミカさんは・・・・」
「コレまでのミカ様の評判と行動はあまり模範的とは言えません。ナギサ様は良くご存知だと思いますが・・・・ミカ様は『ティーパーティー』に所属しているのを盾に、多くの過失や問題を誤魔化してきました。今現在、学園で発生しているミカ様に対しての『糾弾』と『騒動』ーーーーこう言った世論もまた、彼女のコレまでの振る舞いと無関係と言えません」
“(・・・・『騒動』?)”
ナギサが庇おうとするが、ミネは気分屋でワガママなミカのコレまでの問題行動の数々を挙げていった。
が、先生はミネの言った1つの言葉を訝しげに眉根を寄せた。
「ミカさんが・・・・嘘を吐いた、と言う事ですか・・・・『アリウス自治区』を隠すような・・・・一体、何を・・・・」
「・・・・・・・・」
「ナギサ様がミカ様を思う気持ちはよく理解しております。その上で、不躾なお話ではございますがーーーーミカ様の『1番の理解者は誰か』と言う議論になった場合、『幼馴染』であるナギサ様になるのでは無いでしょうか」
「・・・・・・・・」
段々発言が弱々しくなるナギサをサクラコは憐れむように見るが、ミネは毅然とした態度で聞く。
「ーーーーナギサ様から見て、ミカ様はまだ私達に隠している事があるように感じますか?」
「ソレは・・・・」
“(ナギサ・・・・)”
恐らく今、ナギサの脳裏にミカの姿が浮かんでいるのだろう。長い付き合いだ。ミカの事は理解しているつもりだ。しかし、あの『補修授業部』の1件で、自分はミカの事をまるで理解していなかった事を、残酷な形で突き付けられたナギサは言葉を濁す。
が、
「・・・・・・・・いえ、私はミカさんを信じます」
「・・・・・・・・」
「・・・・・・・・」
一瞬瞑目してから発したナギサの言葉に、サクラコとミネは黙って聞く。
「確かに・・・・ミカさんは善良な生徒とは言えませんが・・・・ソレでも私はミカさんを信じますーーーーソレが、今回悟った『教訓』ですから」
『疑心暗鬼の沼』に嵌り、多くの人を傷付け、自分も傷付いた。故に、『ミカを信じる』と、迷いない目で答えた。
「他の方にも信じていただけるよう、明日の『聴聞会』に出席してミカさんを弁護いたしましょう。貴女方にーーーー必要ならば、この学園全体にミカさんの証言を信じていただけるように! 例えソレで私が糾弾される事になったとしても・・・・私は・・・・」
「・・・・いえ、私は仮説を口にしただけで、他意はありません。同じく辛い立場にも関わらず、追い詰めてしまったようで申し訳ございません、ナギサ様」
「・・・・失礼致しました。非礼をお詫び申し上げます」
“えっと・・・・その・・・・”
そしてナギサは他の人達にもミカを信じてもらえるように、自分を犠牲にしてでも説得すると宣言し、ソレを聞いたサクラコとミネはその熱意に心を打たれ、コレまでの言動を謝罪するのであった。
・・・・ただ、先生はコレまでの重っ苦しい空気に少し息詰まってしまったのか言葉を発せられなかったが。
「・・・・はぁ。そうですね・・・・もう良い時間ですし、そろそろお開きと致しましょう。ーーーー本日はお忙しい中、お時間を頂きありがとうございました」
ナギサもこの場の空気が少し和らいだと感じ、時間も日が暮れ始めたので終わりにしようと言い出した。
「・・・・いえ、お会いできてよかったです。ありがとうございました。そして私もこの事態・・・・ミカ様への非難に関しては、とても遺憾に思っています。自分なりの方策を探してみる事に致します。ソレでは」
「はいーーーーソレでは、私も『大聖堂』に戻ります」
「ええ、お気を付けて」
そう言い残し、サクラコとゲンガー、ミネとピクシーは『テラス』から退室した。
「ーーーーはぁ・・・・・・・・胃が痛いですね」
『ーーーーブンネ』
サクラコ達が退室すると、ナギサは片手でソっとお腹を抑えて顔を苦々しく蹲り、タブンネが「お疲れ様です」、言わんげにナギサの背中を擦った。
“お疲れ様”
『ピカチュウ』
せめて労う事くらいしかできない先生とピカチュウがそう言うと、ナギサも顔を上げ、憔悴した顔を見せてしまう。
「・・・・ありがとうございます、先生。何だか情けない姿ばかり見せてしまっておりますね・・・・」
“さっきのミネの言っていた事だけど・・・・ミカに何かあったの?”
「・・・・ああ。先生の耳にはまだ入っていませんでしたか。ーーーー明日の午前に、ミカさんの『聴聞会』が開かれる予定です」
“『聴聞会』?”
険しい顔付きとなったナギサから、碌なものではなさそうに感じた。
「ええ。『聴聞会』と言っても、実際は先日の件に対しても審問に近い・・・・『査問会』のようなものだと思った方が良いでしょう。コレまでのミカさんの犯した罪・・・・特に『エデン条約』に関する事を中心に議論される予定で・・・・」
が、ソコでナギサは一拍置いてから、先生に話し出した。
「・・・・先生。ミカさんは・・・・きっと、『退学』になると思います」
“なっ・・・・!?”
『ピカァッ!?』
突然ナギサから告げられた言葉に、先生とピカチュウが目を見開き、ナギサは詳しく説明する。
「『エデン条約事件』以来、〈トリニティ総合学園〉の情勢は複雑になりました。特にミカさんに対する世論はかなり悪化している状況です・・・・」
良くも悪くも単純な〈ゲヘナ〉と違い、〈トリニティ〉は元々政争でドロドロしていた情勢が、あの事件で一気に悪化したようである。
「ミカさんは既に自身の所属していた勢力の『パテル分派』から追放され、明日行われる『聴聞会』で『ティーパーティー』の資格も剥奪される事が決定しています。『過程』や『真相』はともあれーーーーミカさんは『アリウス分校』と結託して『エデン条約事件』を起こした主犯ですから」
“・・・・!!”
『ピ・・・・』
ミカは確かに〈アリウス〉と結託してクーデターを起こそうとした。そして拘束された後、『エデン条約事件』でナギサとサクラコが意識不明になっている隙に『パテル分派』がクーデターを起こし、その神輿としてミカを誘ったが、ソレをミカが拒否した為、ミカは『パテル分派』からも追放されてしまったようだ。
「『聴聞会』が開かれるまでにも、断罪を要求する騒動が度々発生し、私刑としてミカさんのいる檻の中に石を投げ込む生徒が現れたり・・・・学園の掲示板にはミカさんに対する非難の書き込みが殺到し・・・・『パテル分派』はミカさんが所属していたというだけで冷たい目で見られ・・・・。ミカさんが使っていた本や所持品は押収され、大事に集めていた服やアクセサリーも焼却されて・・・・」
“そんな事態に・・・・”
いくら『裏切り者と』言っても、石を投げられ、私物を燃やされ、あまりにも一方的過ぎる凄惨な仕打ちにナギサは嘆いてしまう。
『パテル分派』はハナコやマリー達を拘束してクーデターを起こして〈ゲヘナ〉と戦争をしようとしていたのだから同情はできないが。
「・・・・『正義実現委員会』が取り締まっていますが、学園全体に広がっているこの空気を払拭することは不可能に近いです」
“・・・・そうだったんだ・・・・”
『トリニティ最強』のツルギがいる『正義実現委員会』でも、カバーし切れないレベルのようだ。
「・・・・ミカさんは〈トリニティ〉において公共の敵になっています」
以前ハナコが、〈トリニティ〉は『ゴーストタイプポケモン』が好む世界だったと言っていたが、表のキラキラとした〈トリニティ〉の、否、人間の闇の部分を見た先生は、ゴクリと息を呑む。
「ソレら全てを、ミカさんの負うべき『罰』だと切り捨てる事もできますが・・・・。ソレでも、私はミカさんを弁護したいです。彼女は既に自分が犯した罰以上の代償を払っていますので」
“そうだね・・・・私も手伝うよ。私にできる事は無いかな?”
「・・・・はい、ありがとうございます先生。ですが・・・・。ミカさん本人が・・・・ご自身を弁護する意志がないようで・・・・」
“ミカが・・・・?”
「ミカさんは『聴聞会』を欠席しようとしています。そんな状態で行われる『聴聞会』は・・・・間違いなく彼女の『退学』に直結するでしょう。ですが・・・・私では彼女に出席するよう説得する事が叶わず・・・・」
ナギサは幼馴染として、そして親友として、ミカを弁護して助けたいと思っているのだが、当のミカ本人に自身を弁護する意志が無いのであった。
「セイアさんならできたかも知れませんが・・・・彼女は今、ソレどころではありませんし」
と、ソコでナギサは改めて先生に向き直る。
「・・・・ソコで、お願いがあるのですが」
“うん・・・・私がミカに会って説得してみるね”
ナギサは自分ではミカを説得できないので、先生にお願いしようとする。ソレを察した先生が承諾すると、ナギサは漸く少し安心したのか、笑顔を浮かべてくれた。
「ありがとうございます。先生のお言葉ならきっと・・・・。ソレに、ミカさんは先生を待っているようですので・・・・」
ーーーークンクン、クンクン・・・・!
イーブイ(色違い)が入ったモンスターボールが訴えるように揺れるが、先生がコッソリと抑える
「・・・・ふう。少し、安心しました。まだなんも解決していませんが・・・・」
“ナギサは大丈夫・・・・?”
「私・・・・? ああ・・・・。私は大丈夫ですよ・・・・いつもと変わりありません。・・・・ふふ、私の事を心配してくださるのは先生くらいですね。ありがとうございます。それでは・・・・後はよろしくお願い致します」
先生がナギサの事を心配すると、ナギサは大丈夫と言って微笑む。ナギサが先生にお礼を言うとミカの事を先生に託した。
◇
先生とピカチュウがナギサとタブンネと別れ、ミカの元に向かっていると・・・・。
「ーーーーセイア様を害そうとした『裏切り者』を引きずり出せ!」
「ーーーー〈アリウス〉と手を組んで『エデン条約』を台無しにした罪人が『ティーパーティー』だなんて、許せません!」
「ーーーー罪人には罰を! 断罪を!」
「ーーーーみ、皆さん! この線の中から出ないで下さい!」
「ーーーー裏切り者に罰を!! 私達を騙した代償を!!」
〈トリニティ総合学園〉の敷地内では、ミカの断罪するデモがアチコチで行われていた。デモをしている生徒の中には、あのクーデターの日にミカをリンチしていた『パテル分派』の生徒らしき子達もおり、皆ここぞとばかりにミカへの断罪を訴えていた。
“(凄い空気だ・・・・)”
『ピカチュウ・・・・』
いつもはお上品に振る舞っている〈トリニティ〉の生徒達が、まるで猛り狂う獣‹ケダモノ›のように喚いている姿に、先生とピカチュウはドン引きしていた。
ーーーードゴォオオオオオオオオオンン・・・・!!
「ーーーーどうしました? えぇっ!? ツルギ委員長とコノヨザルがキレて、デモをしていた生徒達相手に暴れている!?」
どうやら別の場所で取り締まっていたツルギが、暴れ出したようだが、あまり気にしなくて良いだろうと思い、先生とピカチュウは「ツルギ達は今日も元気だなぁ」と思いながら、ミカが収監されている監獄へと向かった。
◇
“ミカ・・・・?”
『ピカ・・・・?』
ミカが幽閉された檻に入った先生とピカチュウが目にしたのは、目を閉じているミカと、手持ちポケモンのデカヌチャンとイエッサン(♀)とガラルギャロップであった。
「しーっ」
『・・・・?』
“(・・・・かすかに音楽が聞こえる)”
・・・・♪~♫~♬~♪~♫~♬~♪
・・・・ピッ。
ミカ達は目を閉じて旧型のラジオから流れる『讃美歌』を聞いており、ミカは先生に静かにするようジェスチャーすると、『讃美歌』が聞こえていた。
そして音楽が終わるとミカはラジオを切り、先生へと向き直る。
「・・・・お待たせ。礼拝の時間だったの。今日は讃美歌を聞く日。ここでも礼拝だけは必ず参加しなきゃいけないなんて、ちょっと過酷じゃない? こう言う所位は大目に見てくれても良いのにね」
“でも、良い曲だね”
『ピカチュウ♪』
「そうかな? 聞いてて退屈じゃない? 『ご慈悲を』とか『憐れみたまえ』とかーーーーKyrie eleison‹キリエ›なんて、名前も気に入らない。どうして見えもしない存在に縋らなきゃいけないの? 『憐れみたまえ』だなんて口にした所で悲惨なだけじゃん。そんなの自分にも、他人にもするものじゃないよ。でも歌は好きだよ! 歌詞はちょっと微妙だけど」
ミカの聞いていた『讃美歌』を先生は良い曲だと言うが、ミカの方は歌詞に納得がいかないようで文句を言う。
デカヌチャン達は何か言いたげで、『讃美歌』の事は気に入っているようである。
「あ、そうだ先生。私の歌聞いた事ないよね? 本来ならタダで聞かせるものじゃないけど、先生なら『特別』って言うか。こうやって会いに来てくれたし! 塔に幽閉されたお姫様が、運命の人に小夜曲‹セレナーデ›を歌うの。どう? 物語のワンシーンみたいでしょ!」
「『塔』じゃなくて『檻』だけどね」
「うわぁ、ソコで現実に戻しちゃう・・・・? まぁ、事実だけど。・・・・ソレで、今日はどうしたの先生?」
と、いつもの調子で話し込むミカだが、ソコで空気が変わった。しかし先生は臆する事なく話を始める。
“一通り事情は聞いたよ、ミカ。『聴聞会』を欠席するんだって? ナギサが心配してるよ”
「・・・・・・・・ナギちゃんは元気、だよね?・・・・うん、良かった。多分、ナギちゃんの側に『シスターフッド』と『救護騎士団』の団長がいたでしょ?」
どうやらミカもナギサの行動は織り込み済みであったようだ。
「・・・・やっぱり。『ティーパーティー』の立場が危うくなれなる程、他の勢力が幅を利かせるようになる。ココまで直接的に『ティーパーティー』を牽制するとは思わなかったけど・・・・ナギちゃんのストレス、酷そうだね」
“そうだね・・・・所で、来る時に広場の集団を見たよ”
「あー・・・・うん、そっか」
ナギサの体調を心配するミカに、先生は広場のデモ活動の事を話すと、ミカもバツが悪そうな顔になる。
「・・・・まあ、今の私の立場は見た通りだよ。仕方無いよね。ナギちゃんは、私が『聴聞会』に出席すれば全てが丸く収まると思っているみたいだけど・・・・〈トリニティ〉はそんなに甘くない。・・・・あの事件以来、『ティーパーティー』の権威は地に墜ちた。学園内の世論も、政治的な立場もそう・・・・当然だよね、私があんな事をしちゃったんだから」
そう。ミカが同じ『ティーパーティー』の『ホスト』であるセイアの襲撃、『エデン条約』の失敗、〈アリウス〉の手引き、『パテル分派』のクーデターと、色々な不祥事が重なり、『ティーパーティー』の権威は先生が思っているより墜ちてしまった。
同じく『エデン条約』に失敗した〈ゲヘナ〉では何も起こっていないと言うのに、〈トリニティ〉ではネチネチと醜い政争を繰り広げているようだ。
「そんなボロボロの状態で、ナギちゃんが私を庇えば庇う程・・・・『ティーパーティー』の・・・・ナギちゃんはおろか、セイアちゃんの立場すら危うくなっちゃう。私なんかの為に、そうなって欲しくない。コレは全て、私が払わなきゃならない『代償』だから」
どうやら、ミカが『聴聞会』に出ないのは、コレ以上ナギサが自分を庇えば、陰険で陰湿な〈トリニティ〉の生徒達が騒ぎを広げて、増々『ティーパーティー』の権威が無くなり、最悪ナギサとセイアにまで要らぬ火の粉が飛ぶのを心配しているようだ。
“でも、『退学』になるかも知れないって・・・・ソレに、ミカもコレまで色んな仕打ちを受けて・・・・”
「・・・・・・・・」
“もう十分、『代償』は払ってるんじゃない?”
「で、でも・・・・」
“『退学』になったらソレこそナギサに迷惑が掛かるよ?”
そう。ミカは凄惨な仕打ちと言う『罰』を十分受けたし、『退学』となったらソレこそナギサが悲しむと、先生は伝えようとする。
「・・・・ソレでも、私のせいだから」
あくまでも自分のせいだとミカは無理に笑顔を作って言う。
「ナギちゃんと一緒に集めた、思い出の詰まった宝物は、燃えちゃったみたいだけど・・・・」
ミカの私物がデモ活動をしている生徒達によって燃やされた事も知っているようだ。
「私は、ソレでも許されない・・・・セイアちゃんにもまだ、恨まれたままで・・・・」
“セイアはミカを恨んでない。セイアはもうミカを許している。私が保証するよ”
「・・・・ち、違う! そんな訳ない・・・・だって、何度も謝ろうとしたけどダメだった・・・・」
『『『!!』』』
先生がセイアはミカを恨んでいないと言うが、ミカは表情を曇らせて、うわ言のように口にする。デカヌチャン達がミカの側に集まって落ち着くように宥めるが、ミカは止まらない。
「この間会った時だって・・・・」
ーミカ(過去)sideー
『エデン条約事件』の後、ミカは『正義実現委員会』の監視付きだが『ティーパーティー』のテラスにて、セイアと会話していた。因みに、デカヌチャン達は檻の外ではモンスターボールに収められ、監視役の委員に預けている。
が、セイアもセイアで、手持ちポケモンのブリムオンの髪の中に首以外が包まれている。手も閉じ込められているが、ブリムオンが頭の触手で紅茶の入ったティーカップやお菓子をセイアの口に近づけるが、セイアはいらないと首を横に振った。
「セイアちゃん、今日もブリムオンに包まれているね? 顔色が良くないよ。眠れなかったの? お肌もカサカサだよ? 保湿クリーム貸してあげようか?」
「・・・・・・・・」
「えっと、セイアちゃん・・・・?」
ミカが必死にコミュニケーションを取ろうとマシンガントークでセイアに話し掛けるが、セイアはブリムオンに包まれながら何も返そうとしなかった。
「・・・・あのさ、もし良かったらその・・・・一緒にご飯食べない? まあご飯って言っても、檻の中でロールケーキなんだけど! 全く、ナギちゃんも心が狭いよね。デカヌチャン達には高級ポケモンフーズとかを出しているのに、私には3食全部ロールケーキにするなんて!」
「・・・・ミカ」
「う、うん? 食べる?」
漸く返事をしたセイアに、ミカは思わず身構えてしまう。
「済まないが、今は・・・・」
「あっ・・・・そ、そうだよね? やっぱり、その・・・・」
セイアの態度が冷たい事に、ミカは自分のせいで生死の境を彷徨う事になった事を怒っているのかと聞こうとしたが、セイアはブリムオンにコッソリと指示すると、ブリムオンは席から立ち上がり、近くに控えているネイティオの元に近づく。
「少し体調が優れなくてね・・・・申し訳無いが、部屋に戻らせてもらうよ」
「・・・・あっ・・・・!」
そう言って、ブリムオンに包まれたセイアは、ネイティオの【テレポート】でテラスから姿を消すと、思わずミカは手を伸ばしたが、その手は虚しく空を切るだけであった。
ー先生(現代)sideー
ミカからセイアの事を聞いた先生は、訝しげに眉根を寄せた。
“セイアが・・・・?”
「・・・・セイアちゃん、最近自分の部屋から出てこないし、ネイティオやフワライドが誰も部屋に入れないように見張っているみたい。寝たきりになってるって噂もあるみたいで・・・・セイアちゃん、元々身体が弱いから。ソレに、何だか他にも悪い噂ばかりで・・・・セイアちゃんの部屋から啜り泣きが聞こえたとか・・・・セイアちゃんの言葉は、いつも分かりづらいけど・・・・多分、私は許されてないんだろうなって・・・・」
セイアが部屋に閉じ籠もってから悪い噂が多く流れており、まだ自分はセイアに許されていないんだと考えた。
しかし・・・・。
“何か行き違いがあったんじゃないかな?ーーーーセイアはミカを許すって確かに言ってたよ”
「・・・・ありがとう、先生。でもね、セイアちゃんが私を恨むのは別に構わないんだ・・・・私はまだ、セイアちゃんにちゃんと『ゴメンね』って言えてないから・・・・」
先生は『夢の世界』で、セイアがミカを許している事を伝えるが、ミカはまだちゃんと謝っていない事を伝えた。
「そんな状態で、私のせいでセイアちゃんの体調が悪くなったり・・・・セイアちゃんが、また無理をしてしまったら・・・・私は・・・・自分の事を絶対許せないと思う・・・・」
“ーーーー私がセイアに会ってみるよ”
「せ、先生が・・・・?」
話している内に、またも顔を曇らせていくミカを安心させようと、先生がセイアに会ってくると言い出した。
“ミカがセイアにちゃんと『ゴメンね』を言えるように”
「・・・・!」
“そうしたら・・・・私とピカチュウ達、ナギサやタブンネ達、セイアにネイティオ達、そしてミカにデカヌチャン達、皆一緒に、皆で明日の『聴聞会』に出席しよう!”
「・・・・・・・・」
先生はミカに、セイアに謝って聴聞会に皆で一緒に出席しようと言い出し、ミカを励ました。ソレを聞いたミカは嬉しそうに驚くが、すぐに困惑した顔となる。
「・・・。ちょ、ちょっと待って。どうしてそんな・・・。わ、私にそこまでする価値、あるかな・・・?」
戸惑うミカの瞳に涙が浮かび、頬に流れて落ちていく。
『チャ〜』
『サン』
『ブルルルルッ』
「私・・・・2度と泣かないって誓ったのに、どうしてそんな・・・・」
デカヌチャン達が背中を擦ったりして慰める。
「・・・・そんな事言っちゃうの?」
自分は石をぶつけられても、嫌われても当然の事を先生達にもしたのに、ソレでも先生は自分の為に、自分の味方として行動してくれる。そう思うと、ミカは一瞬だけ瞑目してから声を発する。
「・・・・うん、分かった。ソコまで言うなら・・・・皆と一緒に、『聴聞会』に行く」
“うん。決断してくれてありがとう、ミカ”
「・・・・・・・・正直、2度目のチャンスなんて無いと思ってた・・・・でも、コレが運命なら・・・・私はやっぱり、塔の中に閉じ込められた『お姫様』だったのかな・・・・?」
“・・・・?”
ーーーークンクン・・・・クンクン・・・・!
『ピカチュウ・・・・!!』
ミカは先生が与えてくれた2度目のチャンスに喜び、ロマンチックな言葉を口にする。先生は首を傾げ、いつの間にかピカチュウがイーブイ(色違い)が入ったモンスターボールが開かないように、必死に抑えつけていた。
「! あ・・・・な、何でもないよ、先生! ソレじゃあセイアちゃんを・・・・宜しくね、先生」
『『『(ペコリ)』』』
ミカからセイアを頼まれ、デカヌチャン達も頭を下げた。
◇
そうして、ミカ達と別れた先生とピカチュウは、先程のデモをしていた生徒達が暴れるツルギとコノヨザルにぶっ飛ばされて気絶し、ツルギのチャーレムの【ねんりき】で優しく地面に降ろされるのを尻目に、セイアの治療室へと足を運んだ。
“ーーーーやぁ、ネイティオ”
『ピカチュウ』
『・・・・トゥー』
治療室の扉の前ではネイティオが門番よろしく佇んでいたが、先生とピカチュウが話し掛けるとコチラに目を向ける。
“セイアに会いたいんだけど、良いかな?”
『・・・・トゥートゥー』
暫し黙ったネイティオが扉の横に移動し、「どうぞ」と言わんばかりに片翼を上げて、ペコリと会釈した。
「ありがとう」、と先生とピカチュウは伝えてから、扉を開けて治療室の中に入った。
「・・・・先生?」
『ブリム』
ソコには、ベッドに横になって、ブリムオンに介護されているセイアの姿であった。ブリムオンは先生を見るとペコリと頭を下げると、先生は片手を小さく上げた。
“セイア大丈夫? 顔が真っ青だよ”
「先生・・・・“無事だったのか”。いや、私の都合の良い夢かも知れないな。幻か、虚構か、或いはいずれも同じかも知れないが・・・・」
“ど、どうしたの・・・・?”
『ピカァ?』
「・・・・いや、違うようだね・・・・その瞳はーーーー」
目を覚ましたセイアが先生を見るなり、少し意識が朦朧としているのか、良く分からない事を言い出した。
「・・・・そうか。今日は、君が〈トリニティ〉を訪れる日だったな。済まない。最近の私はコレまでにも増して、『夢と現実の境界』が曖昧でね・・・・『現在』、『過去』、『未来』・・・・ソレらが絶え間なく私を包み込み、私が今どこに立っているのかも不明瞭になる位だ。まぁ、詰まる所気にしなくても良い・・・・そう捉えてもらっても構わない」
セイアの『神秘』は、『夢を介する予知能力』であり、朦朧としていた意識を取り戻し、『現実世界』である事を認識したようである。
“皆が心配しているよ。何があったの?”
「・・・・そうか。『何があったか』、という問いに正確に答えることは難しいーーーーただ、1つ言えるとするならば。私は今、誰にも告げられない、ソレこそ、同じく『未来予知』ができるネイティオですら把握していない『未来』を手にしてしまっている。だが先生、君になら、君達になら・・・・」
どうやらセイアは、『夢』を見ている内に、誰にも告げられない『危険な未来』を見てしまったようだが、先生とピカチュウになら話そうとしてくれるようだ。
「・・・・私の言葉に、耳を傾けてもらえるかい?」
“うん、勿論”
『ピカチュウ』
先生とピカチュウは迷いなくそう返すと、セイアは少し笑みを浮かべてから一拍置いて口を開く。
「ここからは、今まで君達が経験してきた事件とは全く別種の・・・・完全に異なる類のものだ。だがどうか・・・・荒唐無稽だと感じても、どうか聞いて欲しい」
“・・・・分かった”
『・・・・ピカ』
「・・・・過日、夢の使者が私に告げたんだ。言うなれば『予知夢』といった類の・・・・つまりは何時しか至る『未来の片鱗』・・・・勿論、ソレ自体は日頃私が視ている世界の1つだが。しかし、その日だけは様子が違っていた。そう、あの日私はーーーー」
セイアは一瞬口にするのを躊躇いつつ、意を決して先生に告げた。
「・・・・世界が、〈キヴォトス〉が終焉を迎える光景を視たんだ」
“〈キヴォトス〉が、『終焉』・・・・?”
『ピカチュウ・・・・?』
ーーーークンクン・・・・ポンッ!
“あっ!?”
『ーーーー詳しく、その話を聞かせてもらえませんか? 百合園セイアさん』
“ミュウツー!?”
セイアが言った通り、余りにも荒唐無稽な話に、思わず先生とピカチュウは呆気に取られるが、先生の懐の『マスターボール』からミュウツーが飛び出し、セイアの話を聞こうとしていた。
「・・・・成る程。君がミュウツー。人間の業によって生み出された悲劇のポケモンかい?」
《私を悲劇の登場人物扱いされるのは心外なのですが・・・・っと、以前にも似たような会話をしましたね》
“彼は私の『友人』だよ”
ミュウツーを見て発したセイア言葉に、『夢の世界』でのやり取りを思い出し、先生とミュウツーは苦笑してしまう。
《ソレで、本当なのですか? この〈キヴォトス〉が終焉を迎える、と言うのは?》
「・・・・・・・・」
“・・・・・・・・”
『・・・・・・・・』
ミュウツーと先生とピカチュウの目が本気になり、セイアを見据えると、セイアも口を開く
「ああ、そうだ。『終焉』を迎えて滅亡したというべきか・・・・結果的にソコへと至ってしまうのか・・・・それは杳として知れないけどね」
“どんな光景だった・・・・?”
〈キヴォトス〉が終焉を迎えると言われ、正直信じられないのが本音だが、セイアは『夢の世界』でその光景を視たらしく、その夢の内容を先生達に話し始めた・・・・。
セイアの見た夢は、いずれ訪れる厄災。