ー先生sideー
セイアが語る『〈キヴォトス〉の終焉』。その光景を観たセイアに、先生達が聞こうとすると、セイアは話し出した。
「天から『巨大な塔』が飛来し、虚空が緋色に染められーーーー不吉な『塔』は、まるで悲鳴を上げるように鳴動し、『異形となった生物達』が蹂躙し・・・・この世界を少しずつ削りとってーーーーそうして、世界の破片を『何か』に被せていった。削られた世界の欠片が嵐のように吹き荒れる中で、惑星のような大きな何かが天から舞い降りて・・・・世界を喰らっていく・・・・そうして・・・・〈キヴォトス〉の全てが崩壊しーーーー塵1つ残さずに、全てが虚無へと消えた」
“・・・・・・・・”
『ピカ・・・・』
『・・・・・・・・』
セイアの『神秘』で観たと言う『未来』は、途方もない上に、本当に荒唐無稽な話であり、理解し難い言葉があったが、『キヴォトスが終焉を迎える』という嫌な予感を、先生もピカチュウも、そしてミュウツーも感じていた。
「私が視たモノが単なる『悪夢』なのか、ソレとも本当に『未来』を、或いは『過去』に起きた事を観測したモノだったのか・・・・今のところ、何も分かっていない・・・・けれど、その光景を目にしてしまったからには、私は『真実』を見極めなければならない・・・・そうしてあの光景が何かを明らかにする為に、私は果てしない『明晰夢』の中を彷徨い歩いた。・・・・『明晰夢』は、夢である自覚を以て意識的に微睡みに沈む行為。『起こった事を全て記憶できる事』の代償に、『夢と現実の境界』が曖昧になってしまう。繰り返し『夢と現実』を行き来しすぎた私には今、自分が立っている世界がどちら側なのかさえ知覚できていない」
“凄く危険な状態に聞こえるけど・・・・大丈夫?”
『ええ。かなり危険な行為です。『夢と現実』を行き来するだけで、精神的にも相応の負担となっているでしょう』
「・・・・まあ、否定をすれば嘘だろうね。しかし、ソレでも必要な事だ。以前の私だったなら、『未来』を知る事を恐れて『狭間の世界』に逃げ込んでいただろう。けれど、今回ばかりはそうもいかない。あの光景がただの『悪夢』ではないと、私の直感が告げているんだ」
セイアの体調悪化の原因を知るが『必要な事』であると言った。『エデン条約』の時は、セイアは『狭間の世界』に引きこもってしまった。しかし、アズサの奮闘と先生のお陰で心境に変化が起こったようだ。
「『アレ』は〈キヴォトス〉に存在し得ないーーーー〈キヴォトス〉の『外部』から到来したモノ。私の想像を遥かに上回る、理解の及ばない存在。コレは私の推測だが、恐らく『アレ』を招いたのは〈ゲマトリア〉ーーーー」
“!!”
『『!!』』
〈ゲマトリア〉。〈アビドス〉で『カイザーコーポレーション』を裏で操って暗躍し、恐らくだが『エデン条約事件』にも関与していると思っている謎の多い組織の名が出て、先生とピカチュウとミュウツーは肩を揺らす。
「彼らが〈キヴォトス〉に『外部の存在』を呼び寄せ、『終焉』に導こうとしているのではないかと考えている」
“・・・・〈ゲマトリア〉、が?”
先生達の脳裏に『黒服』の姿が浮かび上がった。
「・・・・もしかしたら、あの『破滅』を防ぐ方法があるかも知れない・・・・だから、私は・・・・」
“セイア”
『ピカチュ』
『・・・・・・・・』
「・・・・うん?」
“〈ゲマトリア〉に関わる事なら、今すぐ手を引いた方が良い。セイアは今、余りにも危険な事をしてるよ”
「・・・・ああ、確かに・・・・あの集団の痕跡を追うのは、自殺行為に近いかも知れないね」
無理をしようとするセイアに、先生は手を引くように話をし、セイアも危険だと言う事は重々承知しているようだ。
“セイアの推測が『事実』だったとしても、今の様なやり方はダメ。キチンと情報を集めて、皆で協力してやる事だよ”
「・・・・・・・・」
“そう言う事は『大人』に任せて。セイアは、目の前にいる人の事をちゃんと見てあげて”
「・・・・(ミカ・・・・)」
先生にそう諭され、セイアはミカとキチンと向き合おうとしていなかった事を思い出していた。
「・・・・君の言う事は尤もだ。まだ何の情報もない状態であの夢に圧倒されて・・・・私は、自分を見失っていただけなのかも知れない」
セイアは一旦、ふぅ〜っ、と息を吐きながら肩の力を抜く。
「ソレに、今私に何か起きてしまえば。ミカが・・・・彼女がまた選択を誤ってしまう。・・・・そう。今、ミカは考え得る限りで最悪の状況下にある」
セイアはミカの状況を掻い摘んで説明する。
「・・・・あの子は今まで甘やかされながら生きてきた。皆が彼女を崇め、讃える・・・・まるで『童話に出てくるお姫様』のような存在として。そんな彼女が、今のようなーーーー世界から『憎悪の対象』になると言うのは、恐らく生まれて初めての体験だろう。彼女が背負うには、その運命は少し過酷すぎるかもしれない・・・・今は、ミカをあの『泥濘』から救う事が最優先事項。どうして私は、ソレに今まで気づかずに・・・・」
ミカの状況は分かっていた筈なのに、『未来予知』で見た『夢』の事で頭がいっぱいになってしまい、身近の友人にまで気持が回らなかった。その事にセイアは深い悔恨の感情を発する。
「霧が晴れたような気分だよ・・・・ありがとう、先生。私たちは1歩ずつ・・・・先ずはミカの問題から解決していかなければならない」
色々と思い悩んでいたセイアはその憂いが無くなり、コレからはミカを助ける事に専念すると言ったを
“ありがとうセイア。所で、ミカが謝りたがってたよ”
「『謝る』・・・・? 私は既に彼女を許した筈だが・・・・ああ、それは『夢の中』での話だったか。そうか・・・・まだ、ミカは私に許されていないと思っているのか。自分が犯した罪・・・・その1番の被害者が私だと、彼女は感じているのだろうから」
先生はセイアに礼を言うと、ミカが謝りたがっていたと伝える。ソレを聞いたミカは、自分はもうミカを許したと言うが、ソレはあくまで『夢の中』での話であった事を思い出した。
「愚かだね・・・・。我儘で、浅慮で、衝動的でーーーー欲張りな癖に自傷的でもある君は・・・・童話に出てくるような、生意気で傲慢な悪役令嬢がお似合いだったのに。よりによって・・・・己の気に入らない存在を苦しめようとした悪役令嬢は・・・・童話では無く、寓話の主題となる愚かな存在となり果ててしまった」
現在『檻』の中で自己非難に苛まれているミカを憐憫に思うセイア。
「だが・・・・そんな彼女にも『救い』があるとすれば・・・・『私が一命を取り留めた事で、彼女が辛うじて人殺しには堕ちなかった』という点。ミカがこの地獄のような状況に耐えていられるのは・・・・その『事実』があるからなのだろうね。私の安否は、ミカにとっての『心』の拠り所になっていると言っても過言ではない」
ミカが自分の状況に辛うじて『心』を保てているのは、『セイアを殺していない』、と言う『事実』があるからたと言う。
「・・・・私は彼女に優しくなかったのに・・・・彼女は私のせいであんな・・・・ああ、そうだな。子供じゃあるまいに・・・・私もミカも『ごめんね』の1言すら伝えられずにいるだなんて・・・・恥ずかしい限りだ」
そしてセイアは、自分がミカを苦しませている部分もあると自覚し、お互いに謝罪ができていない事を理解すると、自分の至らなさを口にした。
「ーーーーすぐ、ミカを呼んできてもらうとしようか。彼女と言葉を交わし・・・・そして、明日の聴聞会に私も参加する」
“本当?”
「ミカの罪状の中で最も重いのは、『私に危害を加えた事』だから・・・・その当事者である私が一緒にいれば、多少罪は軽くなるだろう」
セイアは漸く重い腰を上げ、ミカに会い謝罪し、聴聞会の出席を決断するのであった。
「ブリムオン・・・・」
『ブリム』
セイアがブリムオンに目配せすると、ブリムオンが小さく頷き、近くにあった紙と筆ペンと鈴をセイアに渡すと、セイアはサラサラと何かを書き終えると鈴を鳴らした。
ーーーーシュンッ。
『ティォ』
『フワァ』
すると、【テレポート】でネイティオが、【ゴーストダイブ】でフワライドが部屋に入ってきた。
「ネイティオ。フワライド。悪いが、ミカに会いたい。今すぐ此処に連れて来てもらえるかな。『私からの手紙』をナギサに渡せばできるよ」
『ティオ』
『フワァ』
ネイティオが『セイアからの手紙』を持つと、フワライドと共に【テレポート】でナギサの元に向かった。
“ミカに会いたいだけじゃなく、他に何か書いたの?”
「ああ。なるべくミカと2人きりで話したいと記しておいたんだ。どうにも、他人が同席するのは恥ずかしいから////」
“そうか。・・・・ソレじゃあ、私もナギサの所に行って、この事を伝えておくよ”
「おや、タイミングが外れたね。ネイティオ達がいる時に言えば一緒に送れたのに」
“ははっ、そうだね”
先程までの重苦しかった空気が和らいだように感じた。
「・・・・ありがとう先生。私はーーーー久しぶりに人と接し過ぎたみたいだ・・・・少し、横になってくる。ブリムオン、頼む」
『ブリム』
ブリムオンがセイアを再び包み込むと、中にいるセイアの身体を【サイコキネシス】で浮かせ、ベッドへと連れて行こうとする。
「・・・・悪いが、先生。ピカチュウ。ミュウツー。ソレでは失礼」
『ブリム』
“ソレじゃあ、明日の『聴聞会』で、おやすみセイア。ブリムオン”
『ピカチュウ』
『ゆっくり身体を休めて下さい』
『リムオ』
「・・・・ああ、お休み。ソレでは、お気を付けて」
そう言って、ミカはブリムオンに連れられベッドに向かい、先生はミュウツーをマスターボールに戻してから治療室を出て、その足でナギサに、明日の『聴聞会』にミカとセイアが参加する事を伝えた。
喜ぶナギサの感謝の気持ちを受け取りながら、明日行われる『聴聞会』の為に早く『シャーレ』に帰ると、『新たな御三家』から、バシャーモとラグラージとジュカインの『3代目御三家』を連れて行く事にし、明日のサンドイッチ作りに励むのであった。
ーセイアsideー
「・・・・ソレでは次の議題を」
「ーーーーそういうこった!」
「異論は無い・・・・が、その前に確認しておきたい事がある」
『(・・・・・・・・やれやれ・・・・ミカが来る前に少し休むつもりが・・・・いつの間にか眠ってしまったのか。また『明晰夢』の中・・・・最近、夢から目覚めるのが段々難しくなっているというのに・・・・)』
セイアは再び『明晰夢の世界』にやって来ると、思わず辟易したように溜め息を溢した。
『(しかし・・・・ここは一体・・・・)』
薄暗い大きな部屋で、男性数人の声が響き、セイアは訝しげに声のした方に目を向けると、
「『マエストロ』、何か気になる事が?」
「・・・・・・・・」
ーーーーギギギギ、ギギギギ・・・・。
『(・・・・彼らは・・・・まさか・・・・!?)』
〈キヴォトス〉の人間でも『異質』と瞬時に感じてしまうその佇まいの者達を見て、セイアは目を見開いた。
「『ベアトリーチェ』に質問がある」
「・・・・はい。何でしょう?」
『(〈ゲマトリア〉・・・・!?)』
そう。謎の組織〈ゲマトリア〉であり、そのメンバーが一堂に会しているのだ。
『マエストロ』と呼ばれた、『エデン条約事件』の時に〈アリウススクワッド〉に協力していた、タキシードを身に纏い双頭のマネキン人形のような姿をした人物(?)が身体を動かして、軋む音を放ちながら、別の人物(?)に話しかける。
長身に長い黒髪と大きな胸元をし、『大人の女性』の魅力を出しているプロポーションを白いドレスで身に纏い、その顎には閉じた扇子の先端を乗せており、肌の色はまるで血のように真っ赤であり、目がついている翼で埋め尽くされた毛玉の様な頭部を持ち、禍々しい雰囲気を放つ『ベアトリーチェ』という女性だ。
そして〈ゲマトリア〉のメンバー達の背後には、『伝説・幻級のポケモン』達が、意識が無いのか白目を剥いて佇んでいる。
「・・・・・・・・」
「・・・・・・・・」
黒いスーツを着で、体は影の様に黒く無機質、右目にあたる箇所には発光部し、顔全体に亀裂が走っており、黒い手袋を着用し、手袋と袖の間の地肌のような部分にも同様に亀裂が存在している。そして頭部の亀裂からはモヤのようなものが出ている男性、先生とも面識がある『黒服』が『ベアトリーチェ』を見据えていると、軋む音を響かせながら『マエストロ』が話し出す。
ーーーーギギギギ・・・・。
「要請によって、私は自分の力を貴下に貸したのは覚えているな? 『戒律』を守護せし者達を複製‹ミネシス›して、ソチラの『計画』に付き合わせた件だ」
「ええ、とても感謝していますよ、マエストロ。お陰様で、私は領地で更に大きな力を得る事ができました」
ーーーーギギギギ・・・・。
「私は貴下がソレを利用する事を許可した覚えはない。そも、私の『作品』をその様に使う事は許可していない筈だ」
「あの『現象』はアナタの所有物では無い筈ですよ、マエストロ」
どうやら、『エデン条約事件』で猛威を振るった『ユスティナ聖徒会』の件で、マエストロは『作品』を粗雑に扱われた事をベアトリーチェに対して抗議しているようだ。
「・・・・不躾だな。私は所有権を主張しているわけではない、ソレはーーーー」
「『不躾』? よくもまぁ・・・・私にそんな口を」
マエストロの言葉に、ベアトリーチェは不愉快そうに声を張り上げそうになり、2人の間に一触即発の空気が広がる。
「まぁまぁ・・・・お二人とも落ち着いてください。事を荒立てないで下さいよ」
「そういうこった!」
そんな2人を宥めたのは、コートを纏い、ステッキを持った首のない男性『デカルコマニー』と、そのデカルコマニーが持つ写真に写っている後ろ向きのシルクハットを被った男性『ゴルコンダ』、凡そ人間離れした見た目をした〈ゲマトリア〉でも異色の姿をした、『2人で1人』のメンバーであった。
「・・・・失礼しました。マエストロはきっと、普遍的な現象を通じて独創的な解釈をすることは、自分なりの表現方法だと考えているのでしょう」
ーーーーギギギギ・・・・。
「・・・・・・・・」
「しかし、それはマダムの立場では別段考慮する必要が無い部分かもしれません。私達は皆、『この世界を解釈する方法』が違いますから」
ゴルコンダは後ろに『ポケモン』を控えさせている2人の諍いを止めようと、お互いのやり方を説明する。マエストロにしろ、ベアトリーチェにしろ、各々自分のやり方で行動しており、ソレ故に反りの合わない事になっているのだ。
「ーーーーつまり、『私がマエストロの『武器』を勝手に奪った事』が気に食わない、という事ですよね?」
「・・・・貴下が行うのは『芸術』ではない。そこには『美学』も何もなく、ただ『兵器を生み出すだけの行為』だ」
「ええ、そうです。何か問題でも? そのお陰で、アナタ達如きでは制御できない『伝説・幻級の怪物達』を使役できているのですよ?」
「「「・・・・・・・・」」」
しかし、ゴルゴンダの仲裁なんてまるで理解もせず、自分の優位性と有用性をひけらかし、他のメンバーを見下しているような態度のベアトリーチェに、マエストロだけでなく、ゴルゴンダにデカルコマニーも不快そうな雰囲気を纏い、マエストロの背後で『メルメタル』が立ち上がり、ゴルゴンダとデカルコマニーの背後では風が小さく渦巻き、室内の筈なのに雷雲が現れてゴロゴロ、と鳴った。
「ソレに、あなただけではありません。私は黒服が提供した『技術力』も、ゴルコンダが解釈した『テクスト』も、『カイザー』を体よく使う為の『道具』もその様に使っています」
「・・・・・・・・」
黒服やゴルゴンダが提供した『技術』や『テクスト』を利用していると悪びれる事なく言うベアトリーチェに、黒服までも不快そうな雰囲気を纏い、『ダークライ』がゆっくり影の中に移動しそうになる。
「私はアナタ達の『芸術』に興味はありません。『ゲマトリア』の一員になる時から主張してきた話だと思いますが」
「クックックッ・・・・その通り。ソレはソレで良いのではと、私はそう思っています。仲間同士で争う必要はないかと」
その場に不穏な空気が流れ始めるが、黒服はベアトリーチェの言う事を肯定し、仲間同士で争う事態を避けるのであった。
「彼女はキヴォトスに『自分だけの領地』を確保しています。私達の『計画』に最も『必要な存在』ですから」
「『アリウス自治区』ですね。彼処の全ての生徒と学園を自分の支配下に置くなんて、確かにそれは偉業です」
『(・・・・!!)』
黒服とゴルゴンダの話から、ベアトリーチェが『アリウス自治区』を支配しているという言葉を聞いて、セイアは驚愕して目を見開いた。
「黒服の〈アビドス〉は残念でしたが・・・・おっと、失礼。皮肉を言っているつもりではありません」
「ククッ・・・・お気になさらず。確かに惜しかったですがーーーー『あの先生』の存在は私の計算に入ってなかったので」
どうやら黒服が〈アビドス〉を狙っていたのも、自分達の『計画』の為にを手に入れようとしていたようだが、ソレは以前先生とピカチュウ達、そして『アビドス対策委員会』によって阻止されている。
「『シャーレ』。例のあの者ですね。私達の敵対者」
「そういうこった!」
『(・・・・!!)』
ベアトリーチェとデカルコマニーは先生を『敵』と認識しているようで、セイアは視線を鋭くする。
「いいえ。あの者とは敵対してはいけません。寧ろ私達の『仲間』に引き入れた方が良いでしょう」
「私としても大変気に入っている。あの者は、私達の『理解者』になってくれるかも知れない」
「私はまだ判断を保留していますが・・・・もしベアトリーチェのように私達の一員になってくれるのなら・・・・」
が、黒服とマエストロは先生を引き入れようと考え、ゴルゴンダは『保留』と言うが、引き入れる事には賛成のようだ。
「愚かで怠惰な思考ですね。『シャーレの先生』は必ず排除しなければなりません」
「「「・・・・・・・・」」」
「説明が必要なようですね。ええ、折角ですので1つずつ順を追っていきましょうか」
黒服達の考えをベアトリーチェは吐き捨て、3人が黙るとベアトリーチェは『シャーレの先生』が自分達にとってどれ程邪魔な存在なのかを説明する。
「聖園ミカが『アリウス自治区』を訪れて以降、彼女に多くの事を手伝っていただきました」
『(・・・・ミカ?)』
「そう・・・・いわば聖園ミカは私にインスピレーションを与えてくれる・・・・『ミューズ』とでも言いましょうか。『エデン条約』を利用して太古の威厳を確保するというアイデアも、『予知夢の大天使』を真っ先に処分すべきだと言う判断も、彼女のお陰で実現できたのです」
『(・・・・・・・・)』
『予知夢の大天使』、恐らく自分の事であろうとセイアは考え、ベアトリーチェがミカに手を貸していたのだと察した。セイアがベアトリーチェを睨むと、ベアトリーチェはデカルコマニーとゴルゴンダを一瞥する。
「『預言者』だなんて厄介な存在はさっさと排除するに限りますからね。珍しい技術を提供してくれたデカルコマニー・・・・いえ、ゴルコンダに感謝します」
「そういうこった!」
どうやら、始まりはミカが『アリウス自治区』を訪れた事にあるようで、ベアトリーチェはミカの話を聞いて、『計画』に取り入れセイア殺害を企てていたようである。
そして彼女を殺す為に作られた『ヘイローを破壊する爆弾』は、デカルコマニーとゴルコンダが製作したようだ。
「私はテクストを提供しただけで、それを形にしたのはマダムですよ。ソレに、寧ろその技術がマダムの足を引っ張っていませんでしたか?」
「ええ・・・・ですが、生贄の身体に予め植えておいた『防御システム』のお陰で助かりました。感謝します、黒服」
「・・・・クックックッ。『無名の司祭達』の技術が役に立ってよかったです」
『ヘイローを破壊する爆弾』はアズサが『アリウススクワッド』に使用し、危うくアツコが死にそうになったが、黒服が提供した『技術』で一命を取り留めたようだ。
「そして、聖園ミカが最後にくれたインスピレーションが・・・・正に『シャーレの先生』についての事でした。彼女が先生を〈トリニティ〉に招待したので、私はその存在について認識し、考察できたのです」
更にベアトリーチェが話を進める。
「私が『アリウス自治区』をターゲットにしたのは、純粋にソコが秘匿された場所であるからで、それ以上の意味はありませんでした。〈トリニティ〉や〈ゲヘナ〉・・・・ソレらに向けられた『怒り』と『憎悪』等・・・・私にとっては『どうでもいい事』。『憎悪』は子供達を統制する為の『手段』に過ぎず、『エデン条約』は守護者の力を得るための方法に過ぎず、『スクワッド』は使い捨ての道具でしかない。聖園ミカが先生を〈トリニティ〉に連れてこなかったら、私もあの者の事など歯牙にもかけなかったでしょう。ですが・・・・あの活躍をこの目で見てしまった・・・・」
ベアトリーチェの脳裏には恐らく、『エデン条約事件』で見せた先生達の行動が、彼が動くだけで、混迷の極みにあり長きに渡って犬猿の仲であった筈の〈トリニティ〉と〈ゲヘナ〉が1つに纏まり、『エデン条約事件』を解決した事が過っているのであろう。
「アレが介入すると、私の持っている全ての意味が変わってしまいます。あの者は危険です」
ベアトリーチェはミカが先生を〈トリニティ〉へと連れてきた事で起こった、自分の『計画』を悉く粉砕していく姿を見て、先生を『危険な存在』として危険視しているようだ。
「・・・・・・・・」
「そこで気付いたのです。私の計画を果たすためには、真っ先に『先生』を消さなければならないと言う事に」
「まさに『アンタゴニスト‹敵対者›』ですね・・・・」
「ふむ・・・・ソレは、アナタが『隠し持っているアレ』を、先生の懐にいる『彼』にバレるのも危惧してですかな?」
「確かにソレもあります。ですが、ソレを差し引いても、あの者は危険だと判断したのです」
ベアトリーチェは自分の計画を成功させる為にも、そして、自分が『盗んだモノ』何としてでも先生に見つかる前に、始末したいようである。
しかし、他のメンバーは未だに賛同できないようであった。
「私の決定が気に入らないようですがーーーーどうせ私達は『各々の目的』を追求するだけの存在。アナタ方に私を『妨害する権利』は無いでしょう」
「・・・・ええ、その様な『権利』はありません。思うままになさって下さい、ベアトリーチェ」
ーーーーギギギギ・・・・。
「・・・・・・・・」
「・・・・・・・・」
黒服とマエストロとゴルゴンダも、どうやらベアトリーチェの好きにさせるようだ。ソレはまるで、『彼女が『シャーレの先生』に敗北する』のを確信しているかのように。
しかし、黒服がベアトリーチェに話し掛ける。
「しかし、アナタの『計画』と言うものが何なのか、私達に具体的に教えてくれた事はありませんでした。マダム、アナタは『アリウス自治区』で何をしているのですか?」
「ーーーー『祭壇』を用意しています」
「『祭壇』・・・・?」
「アナタが〈アビドス〉でしようとしていた事と本質的には変わりません。ただ、私は『契約』をするつもりはないですが」
「ほう、『契約』の代わりに『儀式』ですか・・・・・本来その2つは変わらないと考える事もできますが・・・・ソレを実行する上で、先生の存在が必ず邪魔になると?」
ベアトリーチェは『祭壇』を使って何かしらの『儀式』を執り行おうとしているようだ。そして、ソレを行うに当たり先生は邪魔になるのかと、黒服が聞いた。
「ええ、そうです・・・・既に手は打ってあります。『スクワッド』が先生を『処理』してくれる事でしょう」
『(・・・・!!!)』
先生に危険が迫っている事を察し、セイアは目を見開く。
「・・・・・・・・」
「・・・・成る程、『スクワッド』ですか」
「『廃棄』しようとしていた『消耗品』ですが、『先生を殺せば許す機会を与える』と伝えました。彼女達にとっては断る事ができない『提案』ですから」
『(い、いけない・・・・! 先生が・・・・危険・・・・!・・・・うっ!?)』
どうやらベアトリーチェが錠前サオリ達、『アリウススクワッド』に先生の抹殺を命じたようである。ソレを聞いたセイアはその事実に戦慄するが、『明晰夢』にいる意識がグラリと揺れた。
「・・・・どうやら、『ネズミ』が潜り込んでいるようですね」
「・・・・!!」
「此処に? 此処には我々以外誰も・・・・」
セイアの意識が揺らいだのと同時に、ベアトリーチェもセイアがこの会議を覗き見している事に気付いたようだ。
しかし、他のメンバーは気づいていないのが幸いだろう。
「少々話し過ぎたようです。私はこれで帰るとします。あぁ黒服。『カイザー』に『あの3匹』をコチラに回す様にしておいて下さいね」
「「「・・・・・・・・」」」
カツカツ、と足音を大きくし、優雅にその場を去るベアトリーチェの後ろ姿を、他のメンバー達は訝しげに見据えるのであった。
◇
『ーーーートゥー?』
『ーーーープリム?』
『ーーーーフワァ?』
「・・・・はぁ、はぁ」
『!!?』
明晰夢から目を覚ましたセイアが目にしたのは、治療室の天井と、自分を心配そうに見下ろすネイティオ達であった。
「・・・・はぁ、はぁ、はぁ・・・・はぁ・・・・(先程の光景は・・・・一体・・・・)」
呼吸もままならず、息も絶え絶えで、汗も流れ、顔も真っ青になってしまったセイアに、ネイティオ達が心配し、ネイティオが羽根で汗を拭き取り、ブリムオンが【いやしのはどう】を放ち、フワライドが背中を擦った。
「うっ・・・・うぅ・・・・! ゲホ、ゲホゲホ・・・・!(アリウス自治区は、既に〈ゲマトリア〉に支配されていた・・・・!?)」
セイアは激しくせき込み、〈アリウス〉は既に〈ゲマトリア〉の手に落ちていた事を知って恐怖に苛まれていた。
「ゲホ、ゲホッ・・・・(・・・・体が、言う事を効かない。意識が・・・・でも・・・・〈アリウス〉の生徒達の『教育』も、自治区の位置を今まで見つけられなかったのも・・・・あの正体不明の技術も・・・・『ヘイローを壊す爆弾も』・・・・全て・・・・〈ゲマトリア〉と関係があるとしたら・・・・全て辻褄が合う・・・・)」
〈アリウス〉のコレまでの裏に〈ゲマトリア〉が絡んでいるのなら、『エデン条約事件』の全てが繋がったとセイアは確信した。
「(『スクワッド』が先生を追っているのであれば・・・・先生が危険だ…早く誰かに、いや、ネイティオの【テレポート】で私が行って、先生に知らせねば・・・・)」
セイアは早くネイティオに指示を出したくても、身体が言う事を聞いてくれない。ソレが更に彼女を焦らせてしまう。
「(彼女達は既に1度先生を攻撃している・・・・恐らく、この〈キヴォトス〉で最も危険な存在・・・・)」
先ほどの明晰夢で、セイアはかなりの体力を消費しており、意識が朦朧とし、身体も自由に動かない。だが、ソレでも彼女は、先生に危機が迫っている事を誰かに知らせようと必死であった。
「(・・・・『ヘイローを壊す爆弾』。私の命が狙われて・・・・『エデン条約』が決裂して・・・・皆が怪我をして・・・・先生が危険にさらされたのも・・・・全て・・・・)」
コレまで起こった全ての出来事を繋げていくセイアは、『最悪の答え』を出そうとしていた。
「(その全ての・・・・『始点』があるとしたら・・・・ソレは・・・・)」
明晰夢の内容に疲弊し、精神状態がガタガタになっているセイアの脳裏に・・・・『1人の女の子』の姿が過った。
〈アリウス〉が〈トリニティ〉にやって来たのは・・・・。
『スクワッド』を〈トリニティ〉に招き入れたのは・・・・。
『エデン条約』が決裂してしまったそもそもの発端は・・・・。
先生が『スクワッド』に撃たれてしまい、危うく生命を落としてしまいそうになった元凶は・・・・。
その思考に呑み込まれてしまったその瞬間ーーーー。
ーーーーガチャ・・・・。
「ーーーーえっと・・・・その、こんにちは。セイアちゃん・・・・」
かつて彼女を殺そうとした・・・・ミカであった。
ミカは気まずそうに恐る恐ると、部屋に彼女がいるか確認しながら入って来た。
「・・・・ミカ」
「う、うん!連絡もらったから急いで来たよ。2人っきりで話したいって・・・・セイアちゃんらしくなくて、ちょっとビックリしたけど! いつも監視している『正義実現委員会』の子にも、扉の外で待ってて貰ってるよ。だ、だから・・・・」
「ミカ・・・・」
「セ、セイアちゃん・・・・? あれ、顔色が・・・・大丈夫? 体も震えて・・・・大丈夫? ネイティオ達も顔を青くしてるし・・・・誰か呼んだ方がーーーー」
ミカが部屋に入ってきた事に気付いたセイアは、朦朧とする意識でミカを見る。ミカはセイアに呼ばれて急いでここへ来たようで、彼女に謝る機会だと期待しているが、セイアの手持ちポケモンが彼女を介抱しているのを見て、すぐに彼女の事を心配する。
「・・・・『アリウス自治区』に接触した時、『スクワッド』以外で他の誰かに会った事は?」
「えっ・・・・〈アリウス〉・・・・?」
心配するミカを他所に、セイアは先程『明晰夢』の中で見たベアトリーチェの事を詳しく聞く為に、ミカに詰め寄るセイア。ネイティオ達が抑えようとするが、いつものセイアからは信じられない力で動かなかった。
ミカはミカで、漸くちゃんと謝るチャンスが来たと期待していたようで、セイアの勢いに困惑してしまっている。
「『アリウス自治区』には、本当に一度も行ったことがないのか?」
「えっと・・・・あの、セイアちゃん・・・・?」
「ドレスを着た背の高い女性を見た事は? 『スクワッド』について他に知っている情報は?」
「・・・・え、えっと、セイアちゃん。何を・・・・」
「ーーーーゲホ、ゲホッ」
更に問い詰める様に迫るセイアに、ミカは困惑を強めてしまう。
「君が、〈アリウス〉に接触した事によって・・・・」
「!・・・・あ・・・・そ、そうだよね?私のせいで・・・・色々・・・・」
「先生が・・・・『スクワッド』に狙われている・・・・」
「・・・・!?」
そしてセイアは、ミカが〈アリウス〉に接触した事について話すと、ミカはセイアに責められると思い、気不味さから苦笑いを浮かべる。
しかしセイアから、先生が『アリウススクワッド』に狙われていると聞かされて肩を揺らした。
「・・・・セイアちゃん、今なんて・・・・?」
セイアの言った言葉が余りにも突拍子無くて、聞き返すミカに、セイアが一呼吸置いて大声で訴える。
「ーーーー君が、先生を連れてきたから・・・・!」
「・・・・!!?」
『!!!?!?』
「・・・・いや、君のせいではないな・・・・済まない」
ミカが目を見開いて、『何かが壊れてしまったような貌』になり、ネイティオ達もそんなミカを見て顔を青褪めさせると、セイアはすぐに冷静になり彼女に謝った。
「ゲホ、ゲホゲホ・・・・!! ゲホゲホゲホゲホ・・・・!!(ああ・・・・駄目だ。体が言うことを聞かない・・・・)」
セイアはミカに謝った直後、大きく激しく、何度も咳をして意識が現実から離れていく。
「(意識が・・・・だん・・・・だん・・・・)」
『ーーーーーーーー!!』
ネイティオ達がセイアに必死に呼び掛ける顔と、ミカの愕然とした顔を最後に、セイアは再びーーーー夢の中へと墜ちて行った・・・・。
〈ゲマトリア〉の中でも、ベアトリーチェは煙たがれていた。
そして、セイアとミカの悲しいすれ違いが、悲劇の幕開けとなった。