ギーツが終わってからはや一年以上、一度は収めた企画ですが試しにやってみました。
楽しんでいただけると嬉しいです。
覚醒Ⅰ:異端の目覚め
……
……
……
「おぉ、おお! お前達、今回も勇ましい顔ばかりじゃないか!」
……
「さあ、行ってきな! 仮面ライダーどもに目に物見せてくるんだよ!」
…………ライ…………ダー………………?
●◯●
緑溢れる、長閑な森林。
風が鳴り、木々が梢を揺らし、多くの小さき命が戯れる。それらが作り出すのは平穏な静寂。
そんな場所の一角へ──突如、赤い帷が舞い降りる。
どこからともなく現れた摩訶不思議な真紅は内に森を包み込み、一切の息吹が消え失せる。
張り巡らされた新たな静けさは、まるで元から何も存在しないかのよう。
「ジャ……」
地を這う虫さえも消えた中、突如として草花を踏み締める音が響く。
その主は──一言で表せば、異形。
「ジャ!」
「ジャ、ジャジャ!」
突如として現れた彼らは植物の種子を彷彿とさせる頭部から奇怪な声を発し、次々とその数を増やしていく。
蔦にも似た模様の浮かぶ体を粗野な衣服で包み、手には不気味に光る武器。
およそ得体の知れぬ彼らが、何故ここにいるのか……その所以は程なく明かされる。
帳の焼き直しのように空間へ青のノイズが走り、大気を震わせながら新たな存在が〝入場〟する。
「えっ、ここどこ!?」
「も、森の中!?」
「てか、何これ!?」
それは、人間だった。
黒と藍色の入り混じる不思議な衣装と、腰には強く存在感を主張する何かの機械らしきものを纏う彼らは年齢も性別もバラバラだ。
自分達でも現状が理解できていないのだろう。自らの装いや、周囲の変化に戸惑いの表情を見せている。
彼らを視界に収めた異形達は、その刹那に脳裏へ一つの命令が浮かび上がる。
いわば、彼らの本能とも呼ぶべきもの。
生まれ落ちた瞬間より刻まれ
アレらを、襲え。
アレらを、倒せ。
アレらを、蹂躙せよ!
「
「ジャ、ジャァ!」
「
人間のものとはまるで異なる言語らしきものを発して異形は動き出した。向かう先はまっすぐ、獲物だ。
「きゃぁあっ! ば、化け物っ!?」
「あ、あれが
人間達の側もようやく気がつき、驚愕、あるいは恐怖、そして怯えを顔へと貼り付ける。
肌で感じる負の感情が、一層に本能を刺激する。武器を握る手に力が入り、ぶるりと背筋が高揚に震え。
ジャマトと、そう人間に呼ばれた異形は声を上げて襲いかかっていった。
「…………」
その中の一体がすぐには追従せず、少しの間立ち尽くしていた。
本能から発せられる衝動に体が疼いているにも関わらず、自分の手の中にあるマチェーテをじっと眺める。
やがて何かを納得したのか、ゆっくりと人間達へ歩み始めた。
「ジャジャァ!」
「きゃぁっ!」
「ぐわぁっ!?」
「くっ、このっ!」
「ジャッ!?」
激しい音を立てながら、人間とジャマトがぶつかり合う。
響く声の多くは人間側の悲鳴だ。わけもわからず現状に放り込まれた彼らに、戦う心構えなどあるはずもない。
しかし、混乱しながらも必死に争う者も少なからずいた。
二体のジャマトに押し倒された人間の一人が滅多打ちにされ、あるいはジャマト一体に数人がかりで立ち向かう。
横目に眺めつつ、歩みを早めも遅めもすることなく、ただ淡々と進む。
「はぁっ、はあっ! くそッ、なんだよこれ!」
やがて、眼前に人間がやってきた。
息を荒げ、肩を上下しながら、少年と呼んで差し支えない容貌の男は悪態をつく。
「何が世界を守るゲームだっ……こんな、こんなものだなんて……!」
「……ジャ」
「っ!? またかよっ!」
そのジャマトの存在に気がつき、一歩後ずさる。
周囲で次々と手にかけられる人間達を忙しなく一瞥し、怖気に体を震わせる様を、ジャマトはじっと見つめた。
顔を俯かせる少年。
戦うことを諦めたのだろうか。わずかに首を傾げ──しかし次の瞬間、キッと強い意志が宿る瞳に射抜かれる。
「負けて……死んでたまるか……! 俺は、帰るんだ……!」
「…………?」
「う、うぉおおっ!」
決して勇ましいとは言えない雄叫びと共に、少年は立ち向かう。
だが、不恰好な姿勢から繰り出される拳は強靭な反射神経と身体能力を有するジャマトにとっては、あまりに遅い。
故に、微動だにせず受け止める。
少年は拳に返ってきた衝撃と痛み、人ならざる硬さに腕を引き、表情を歪めながらも悔しげに目を怒らせる。
「……
「くっ、まだまだぁっ!」
再びの突撃。
二度、三度と同じことが繰り返され、痛痒に値しない痒さが体を打った。
ふぅ、と意味の薄い抵抗をする姿にジャマトはどこからともなく息を吐く。
ギッ、と手元から音がした。
それはジャマトがマチェーテの柄を握りしめた音であり、未だ意義のわからぬ争いに身を投じる合図でもある。
腕がぶれ、柄頭が吸い込まれるように少年の額へ叩き込まれる。
ジャマトからすればごく軽い一撃。しかし、勢いが乗った少年の体は容易くひっくり返ってしまう。
「かはっ!?」
背中を強かに打ちつけ、地面の上で悶える。
ぐらりぐらりと視界が揺れる。脳が頭蓋の中で踊り、思考は右往左往と定まらない。
それでも何とか立とうと、血が流れる額を抑えながら立ちあがろうとして──影が差す。
「ジャ……!」
「がっ!?」
首を掴み取り、ジャマトは腕の一本で最も容易く体を持ち上げた。
少年は宙に浮いた足をばたつかせ、呼吸のできない苦しさと締まった喉元の痛みから必死に暴れる。
何度も両手をジャマトの腕に叩きつけるが、びくともしない。周囲の人間達も自分達を守るか逃げるので精一杯であり、助けが来る望みなどなかった。
「かっ……ぁっ…………!」
涙を流しながら、少年はジャマトをまた睨む。
対するジャマトは怒りと恐怖に揺れる瞳を、じっと覗き込んだ。
手は緩めない。どうすれば人間を殺せるか、その方法だけは明確に知っている。
徐々に弱まっていく抵抗を感じながら、ただただ、観察する。
最後の最後、今際の際まで、ずっと。
「……ご…………めん…………」
数分の後。微かに一言呟いて、少年の腕がジャマトのそれから外れた。
だらりとぶら下がる両腕。引いていく体温にジャマトは指の力を抜く。
地に落ちて叩きつけられる少年の体。固く閉じられた瞼が開くことは、もうない。
《MISSION Failed...》
どこからともなく無機質な言葉が、終わりを告げた。
少年の体にノイズが走ったかと思えば、瞬く間もなく塵と化して消え失せる。
一欠片さえも残されず、元から存在しなかったかと錯覚するほど完全に、少年はこの世界から
「…………」
ジャマトは自分の手を見下ろした。そこにはやはり、何も残ってはいない。
周囲を確認すれば、同族達も人間を倒したか、逃げられたようだ。頭数は最初よりも少し減っただろうか。
もうここには獲物がいない。しかし森のどこかにまだ、人間の息吹を感じ取れる。
「
「
次なる獲物を探しに、ジャマト達は森の中へ散っていった。
しばらく手を見つめ直していたジャマトも、またゆっくりと歩いていく。
帳のそこかしこから届く、戦いの声と音。導かれるままに奥へ奥へと進んでいく。行き着く先は既に見当がついているようだ。
一歩、また一歩と草木を踏み締め、ひたすらに前へと行き続け──程なく、争いの一つを発見した。
「はぁっ!」
「ジャッ!?」
「ジャ〜っ!」
そこでは丁度、一人の人間が同族達と戦っている真っ最中。
そのジャマトが見る前で、惚れ惚れするような蹴撃で見事に同胞達を蹴散らしたのは、先ほどの個体よりもいくらか成熟した見た目の男だ。
飛びかかるも反撃された同族は地面を転がり、懐から箱が転がり落ちる。
「宝箱ゲット♪」
男がそれを拾い上げ、蓋を開けて中から小さなものを取り出した。
「へえ、ウォーターか」
水色のそれを得たことに笑みを浮かべる。
直後、男の目の前へ新たな二体のジャマトが現れた。
どこか余裕すら感じさせる面持ちなままに、男は箱を捨ててジャマトに目線を戻す。
「試してみるか!」
呟いた男は、手にしたものを腰の機械に装着した。
《 SET! 》
軽快な音を奏で、機械が挿入された物体を認識した。
男の右の宙へどこからともなくシンボルが浮かび上がり、それを横目に右腕を回転させる。
中指と薬指、親指を合わせた己の手と向かい合い、真っ直ぐにジャマト達へ伸ばしたかと思えば、指を鳴らして高らかに告げた。
「変身!」
物体の表面にある蛇口が男の手によって傾けられ、起動する。
機械から大量の水が噴出し、シンボルを押し流すと同時に、腰から出現した円環が男の体を覆い尽くした。
〔 Armed Water 〕 ▶︎▶︎▶︎
みるみるうちに黒く染まった男の頭へ白い面が、右半身に鎧が纏われ、全く異なる姿へと。
〝変身〟を完了した時、そこには狐の顔をした戦士が誕生していたのだ。
《 Ready...Fight! 》
「フッ!」
「「ジャーッ!」」
繊維を漲らせた男が右手に持つ武器らしきものを構え、ジャマト達が襲いかかる。
引き金が引かれ、戦士の武器の銃口から飛び出したのは容易くジャマトの体を貫く水の弾丸──などではなかった。
勢いよく発射されたにも関わらず、あっという間に失速した水はさながらジョウロのようにジャマトへ降り注ぐ。
「ンジャジャァ!」
「あれっ!? 水圧がっ、よっとぉ!!」
「ジャァアッ!?」
肉薄された戦士は驚いたのも束の間、瞬時に戦法を変えると武器を勢いよくジャマトにスイングする。
姿を変えたことで力を得たのか、その一撃は同族を大きく吹き飛ばした。
「おっ、こっちの方がいけるな?」
「ジャ……ジャーッ!」
「そーらよッ、と!」
どうやら水を放つより有用だと感じたらしく、棍棒として使うことを選んだ戦士はジャマト達に立ち向かった。
攻撃を巧みに避け、頭部に一撃をお見舞いし、その隙に飛びかかろうとしたもう一体へ蹴りを喰らわせる。
アレは、先ほどの人間と違い随分と闘い慣れているようだ。
劣勢を強いられている同族達を助けることもせず、冷静とも取れる佇まいでそのジャマトは見つめた。
いや。むしろ戦士の方にしか意識を向けていないと言っても良いだろう。
少年の瞳に宿るものが、最後の一瞬だけ恐怖から悲しみに変わったのを見届けたのと同じく、じっと何かを確かめている。
「こ〜い〜つで、終わりだ!」
「「ジャマーッ!」」
数分と保たず、一回転し遠心力を乗せた棍棒によって一体が、もう片方が舞うように放たれた回し蹴りによって沈む。
倒れ伏した同族は呻き声をあげ、頭や腹部を押さえて悶えた。もう立ち上がることはできないようだ。
「っと。ふぅ、こんなもんか」
全くの痛手を受けることなく、圧勝した戦士は微かに笑う。
武器を肩に担ぎ、余裕綽々の様子で身を翻すとその場を立ち去っていった。
「…………」
遠ざかる黒い背中を、木陰から見送る。
圧倒的と言っていい実力。たとえ割り入ったとしても、あそこに転がる同族と仲良く並んでいた。
容易く人の命を奪える自分達をも打倒する存在。人を超えた力を持つ様を、ありありと見せつけられた。
あれこそが……
「……カメン…………ライダー………………」
一言、葉の擦れ合う音にかき消されるほどの呟きを、風に乗せ。
そのジャマトもまた、立ち去るのだった。
読んでいただき、ありがとうございます。