二章開幕です。
なるべく毎週日曜に出します。
胎動Ⅰ:
空を見上げる。
吸い込まれそうな暗闇と、まばらに光る青い星。
その一つ一つが、誰かの瞳に自らを刻みつけんと輝いている。
いっそ純粋なほどの眩さは、人間が持つ〝ギラギラ〟と似通っていて。
「……あの時は、綺麗だった」
思い耽るは、願いの果て。
一度目にすれば忘れるはずもない、絶世の光景。
この空は最もそれに近しく、故に思い返すことができる。
ふと、手を掲げる。
ゆっくり閉じてみても、そこに光は収まらない。
確かに見えているはずなのに、届きうるはずもないほどに高く、ただ在り続けていて。
(人間が
図書館で読んだ〝
今は得られぬ夢、いつか叶えたいという希望を託し、未来にまで連れていってくれ、と。
だとしたら、ギラギラとはまさに星そのもの。
あれほど戦って、たった一人しか掴めない程に無謀で壮大な存在。
当たり前のように何かを願う人間でさえ、そうなのだ。
自分の中に芽生えた新たな問い……否、〝欲望〟が成就することなどあるのだろうか。
「……だが、やり続けるだけだ」
目覚めてからこれまで、ずっとやってきたように。
到達するまで何度も、学び、理解し、己がものにするだけのこと。
そのために必要なら、どんな事でもして見せよう。
「今度は、
片手に収まる、
どこまで通用するだろうか。
〝次〟のお披露目に期待を馳せ、口が笑む。
「
「
「……
どうやら迎えがきたようだ。
不恰好な切り株から腰を上げる。
そうして彼は、
●◯●
「ん〜っ、はぁ。やっと終わったし」
大きく伸ばした腕を戻し、息をつく。
今日も長い一日だった。
学校に行き、授業を受け、友人と話し……以前はその全てがあっという間だった。
今そうでない理由は他でもなく、一番にその時間を共有していた幼馴染がいないからだ。
「ったく、身が入らないこっちの気持ちにもなりなさいっての……」
依然として捜索に進展はない。
周りの人間にあまり心配をかけるわけにいかず、双葉も街歩きは三日に一度程に頻度を落としていた。
(ていっても行き詰まってんのよね。
さて、今日はどこを探そうと首をひねる。
中学生の頃、よく遊び場にしていた古いショッピングモールか。ちょっとした冒険と足を伸ばした隣町まで行ってみるのも手だ。
あまり帰りが遅くなりすぎてもいけない。
二つほど回り、図書館に寄って、そうしたら──
「……ん? なんで図書館?」
はてと角度が深まった。
どうして図書館など思い浮かべたのか。
試験対策に何度か二人で行ったことはあるが、特別な思い入れはない。
本当にふと、ごく自然に考えていた。
(んー……あんま授業集中できてないから復習しようとしたとか?)
「まあ、いっか」
わからないことを考えても仕方がない。ひとまず、ショッピングモールにでも行ってみよう。
歩いてすぐの場所にあるバス停。
公園が近くにあるそこには既にバスが来ており、急ぎ足になる。
その時、鞄に入れたスマホから通知音が鳴った。
「ん?」
何かと思い確認すると、クラスの仲の良い友人から連絡だ。
『ねえ、他のクラスの子が誠樹くん見かけたって!』
「は!? 嘘っ!?」
路上にも関わらず声を上げる。
慌てて画面のロックを外してメッセージアプリを立ち上げ、『マジ!? どこで!?』と返信。
程なく、『本当だって! これ!』という返事と共に一枚の画像が送られてきた。
「これって……」
街中のどこかで撮ったものだろうか。
若干ブレた写真に映り込んだその人物の横顔は、確かに幼馴染と酷似していた。
それを見た双葉の心に浮かんだものは……。
(……でも。こいつ、
真っ先に出てきたのは驚きではなく、疑念。
具体的な論理ではなく感覚、いわゆる第六感が
ひとまず、友人には『ごめん、多分他人の空似。ありがと』と返事。
画面から指を離すと、ため息が漏れる。
「あーもう、さっきからよくわかんないことばっか……あっ!? バス!」
顔を上げれば、ちょうどバスのドアが閉まるところだった。
そのまま豪快な音を立てて動き出し、思わずため息が漏れる。
「次、待つしかないかぁ……」
横を通り過ぎていくのを見送り、バス停までの数歩を踏み出す。
(ん? なんか今、地面が揺れたような──)
──踏み出した二歩目が、全く見当違いの場所に着地した。
え、と下を見た瞬間、激しく地面が揺れ動く。
「わ、わわっ、わぁあっ!?」
自立できないほどの衝撃。危うく転倒しそうになり、近くにあった標識に掴まる。
十秒、二十秒と弱まることなく揺れは続き、捕まり続けるのも難しくなってきたところで、徐々に収まる兆しが見えた。
たっぷり一分。体の中をひっくり返す振動は過ぎ去った。
「ちょ、いきなり地震とか……マジびびった……」
早鐘を打つ心臓が今にも飛び出しそうだ。息を整えるためにも手で抑えながら、周りを見渡す。
まず目についたのは倒れた時刻表にベンチ。近づく前で良かったと安堵する。
他には、と左右を見渡して、最後にバスはどうなったかと後ろを振り向き。
「は…………?」
声が、喉から抜けた。
視界に飛び込んできた
標識を手放せば、つられて鞄も肩からずり落ちる。
何を思ったか、自分でもわからないまま、一歩、二歩とそこに近づいて、見下ろし。そして呟いた。
「何……これ…………」
深く暗い、底無しの暗闇は答えない。
街の中心に出現した巨大な穴は、彼女の言葉を虚空に呑み込んだ。
●◯●
──目を開く。
ぶるりと体の表面を伝う感覚。仕掛けた
周りにいる同族達が身じろぎし、物陰が咽せ返るような殺意に満ちた。
だが飛び出すことはしない。誰もが己の今回の役割を理解している。忠実にそれに従うことがジャマトの強みであり、統率力の所以だ。
そう、誰もがわかっている。姿を表すのは、獲物達がその準備を終えた、格好のタイミングでこそだと。
(……今、一番辛いのは僕だな)
堪えきれない疼き。早く、早く試したいと訴える自我を押し留めることの困難さと言ったら。
「ここは……」
「ジャマトが作り上げた異空間のようです……」
「あれ……? っ、ねぇねぇねぇねぇ! あそこ!」
と、そのうちの一人である袮音が英寿に何かを気づいた様子で駆け寄る。
そうして彼女が視線で示した先を見て、英寿もまた驚きと楽しさが入り混じる表情を見せた。
「──こいつは奇遇だな」
「あれ? 有名人が二人も……」
「英寿様だ!」
「袮音ちゃんもいる!」
「可愛い〜!」
ライダー達の前に姿を見せたのは、四人の人間。
「なんでなんで?」
「みんなこそ、なんでこんな場所に……?」
「道路にいきなり穴が空いて、砂に沈んで……気がついたらここにいたんですよ。それより、この妙な首輪外してくれよ!」
嵌った枷を窮屈そうにする餌の一人に、ナビゲーターツムリが答えを告げる。
「彼らはジャマトに連れ去られた一般人です。それでは、第二回戦──〝迷宮脱出ゲーム〟を始めましょう」
さあ、もう少しだ。開幕まで、たったのひと時。
「まずは、近くの一般人とライダーでペアになってもらいます」
「初めまして尾形二郎です! 乙女座のA型で……」
「おい!」
「よろしく!」
「あっ、お願いします」
「こちらこそ!」
「一般人の皆さんを保護しながら、この迷宮を脱出できれば勝ち抜け。守りきれなかれば脱落です」
「ふ〜ん。で、俺は誰を守れば?」
問いかけた仮面ライダーパンクジャック、〝晴家ウィン〟に、ツムリは重たげなため息を漏らした。
「…はぁ……私です」
「オッケーベイベ〜!」
「……ツムリちゃんでも出られないんだ……」
「出口ならそこにある」
人間達がこの狩場の出口に向かった。我々の言葉で封じられた、決して開かぬ門を。
その存在を知ったことこそが、最後の一手。
もはや留めるものは何もない。ルールに則り、正々堂々と──狩りを始めよう。
「ジャッ……」
「ジャッ、ジャッ……」
「ジャ……!」
穴倉に聳え立つ屋敷から、大勢のジャマトが歩み出す。
他にも、地下室から、物置小屋から。何十という群れを成して、彼らを包囲する。
狩場の様式に準え、ジャマト達は礼服に身を包んでいた。異形が人間の衣服を纏う、一種の異様さに一般人達は怯えを浮かべる。
「うわっ!? なんじゃこりゃ!」
「ジャマトです! ライダーの皆さん、お願いします!」
ならばと、ナビゲーターの言葉にライダー達もまた、ドライバーを装着した。
《 SET! 》
「へ〜んしん!」
「変身……!」
「「「変身」」」
《 Z.O.M.B.I.E...! 》
《 M.O.N. S. T. E. R! 》
〔 Armed Propeller 〕
《 B.E.A.T ! 》
《 B.O.O.S.T! 》
再びの、幕上げだ。
「ジュラピラ!」
「ハァッ!」
「ジュラピラッ!」
「オラッ! 何喋ってんだ……!?」
「よっ! 下がってろ!」
ライダー達はいずれも果敢に応戦する。
数の差などなんのその、手慣れた様子でジャマト達をのしていった。
以前よりも活発な印象の
そんな戦場に、一つの足音が踏み入った。
「……ジャ……」
「ヘン……ィン……」
「えっ……!? 今喋った!?」
譫言のように呟く
人の言葉を使ったことに、ひどく驚く彼女を前にして、もう一方のジャマトは──ゆるりと一礼した。
それは、彼なりの感謝の印。
前回のゲームで、多くの気づきと学びを与えてくれたこと。
そして──今から始まる戦いへ臨む機会を与えてくれたことへの、意思表示。
「ジャ……」
「ジャ」
彼らは
ひび割れた己の証なきコアを嵌め込まれたそれに驚く暇もなく、未知のバックルを掲げた。
無造作にもたげるメイド。対し、彼はゆっくりと右手を振るう。
目の前の戦士達がそうであるよう、見せつけるようにして──鋭く己の左目に位置する場所へ、バックルを示した。
「〝ヘン、シン〟」
「──〝変身〟」
ズクリと、バックルがドライバーに装填される。
不気味な旋律を奏でるバックルは、蠢く蔦でその体を覆い尽くし──弾ける。
《 J.Y.A.M.A.T.O ! 》
彼らは、
「えっ!?」
「おいおい!? ジャマトがライダーに変身しやがったぞ!?」
「……!」
溢れ出る力。駆け巡る高揚感。それを抑え込む為か唸り声を漏らし、〝ジャマトライダー〟はライダーを睨む。
握りしめた拳を、ジャマトバックルへ押し込む。緑の瞳が鮮烈に輝き、更なる力が全身に充足した。
腕に収束していくエネルギーを、最初に目についたライダーめがけて──放出する。
《 JYA! JYA! JYA! STRIKE ! 》
「ぐぁああぁッ!?」
蔦が絡みつき、一時的に剛腕となったジャマトライダーの一撃を受けたパンクジャックが吹き飛んだ。
あまりの強烈さに、一瞬他のライダー達も動きを止めてしまう。
「うっ、イッテぇ……」
「ジャッ!」
「ジャジャッ!」
「っ、ちょっと、強すぎねえか!?」
ゆらり、ゆらりと、蜃気楼のように肩を揺らして迫り来る。
すると、一般人達の首輪が一斉に喉元へ食い込んだ。
「うぅっ!?」
「っ、大丈夫!?」
「ジャマトが近づくと首が締まるのか……!」
いち早く気がついたギーツが視線を巡らせ、ナーゴに駆け寄る。
「ナーゴ! こいつを借りるぞ!」
「えっ!?」
《 REVOLVE ON 》
返答の暇もなく彼女のドライバーからバックルを抜き去ったギーツは、自らのドライバーを回転させるとビートバックルを装填。
《 SET! 》
《 Dual On 》
《 B.E.A.T ! 》▶︎▶︎▶︎
《 & 》
◀︎◀︎◀︎《 B.O.O.S.T! 》
《 Ready...Fight! 》
「ハッ!」
再度変身を完了し、ナーゴが纏っていた武装を新たに手にしたギーツが〝ビートアックス〟を構える。
《 METAL THUNDER 》
「みんな、伏せてろ!」
《 TACTICAL THUNDER 》
ギーツの一振りが、激しい雷を降らせる。
直撃したジャマト達はなすすべなく爆発四散。火の海が広がり、ほっと息が漏れた。
「行こう」
「おい!」
安堵にかまけてもいられず、ライダー達が一般人を守りながら屋敷の中へ退避する。
「オ……ォオ……!」
──その背後で、起き上がる影が二つ。
「何!?」
振り向くと、糸に吊り上げられる人形のようにジャマトライダーが再起した。
ゴキリ、と不気味な音を立てて向けられた眼差しには、一片の殺意の衰えも無い。
「あのライダーは不死身か……! 一般人を抱えていては、逃げるしか無い!」
「うん!」
「は、早く!」
一目散に駆け込んでいくギーツ達。焦らず、確固たる足取りで後を追う。
戦闘音の木霊する広間に入ると、中にいたジャマト達を押し除けたライダーが、各通路に分散していくところだった。
「……」
「……!」
言葉も交わさず、片割れが一方の通路に向かっていく。
ならばと彼はギーツやナーゴの消えた方を選ぶ。後ろを何体かの同族が追随した。
(──順調だ。まだまだ、やれる)
今の所、訓練した通りの力を発揮できている。
歩みを進めながら、必要以上の昂りを取り払う。
湧いて止まない探究心の赴くまま、そこに更なる何かがあると確信して。
さあ。今度の彼らは、何を教えてくれるだろうか?
読んでいただき、ありがとうございます。