色々と練った結果、この前の日曜日に間に合いませんでした。申し訳ない。
楽しんでいただけると嬉しいです。
その屋敷はジャマト達にとっても、複雑に入り組んだ迷宮である。
構造は把握しているが、散り散りに逃げられると簡単に見つけ出すことは叶わない。
だが、目印がある。
一般人達に嵌められた首輪だ。あれは近づくと締まるのと同時に、微かに自分達にしかわからない気配を放つ。
その距離は短く、せいぜいが数メートル。
(だから、
戦士達よりも遥かに勝る数を利用して、虱潰しにする。
一種のテレパシーで互いの位置を割り出せることを利用し、少しずつ包囲網を狭めていくのだ。
北側書斎──気配なし。
南側厨房──気配なし。
西館地下──気配、なし。
(どこにいる、仮面ライダー)
もたらされる情報を組み合わせ、統合し、屋敷の構造と照らし合わせて埋めていく。
報告が十を超えた時、未だ穴の多いパッチワークの中に一つの大きな空白地帯が浮かび上がった。
「……ジャ」
「「ジャッ」」
短く同族に指示を飛ばし、彼は進路を定めた。
所変わって、東の館にあるラウンジ。
そこではジャマトから逃げ切った英寿達が一時の休息を取っていた。
「おおっ、アイテムが届いたみたいだ。ほれ」
「動いてる……?」
「大丈夫、きっと出られるから」
「……」
ジャマトが変身するという異常事態に対してもたらされた助けに安堵する者。家族を励まそうとする者。それを見つめる者。
各々が過ごす中、ゆっくりとラウンジを歩き回った英寿は、壁にかけられた絵画を見て笑った。
「〝ひまわり〟……これが暗号の鍵か」
「何かの手がかり?」
「そうだな」
ふうん、と相槌を打って袮音は絵画を写真に収める。
それからふと思い出したように英寿に尋ねた。
「ねえ、〝ゲームマスター〟って何なの?」
ゲームマスター。それは前回のゲーム最終戦で袮音達の前に現れた謎の存在。
今回の迷宮脱出ゲームにおいても、ジャマトライダーに対応しうる〝お助けアイテム〟を配布している。
「デザイアグランプリのすべての権限と秘密を持つ存在だ」
「秘密……?」
「何故ゲームマスターが、前回のゲームで急遽君をエントリーさせたのか。心当たりはあるのか?」
向けられた眼差し。袮音は視線を彷徨わせ、最後に首を振る。
「……わからない。けど、お父様が何か知ってたっぽいんだよね」
「君の父親は確か、鞍馬財閥のトップか」
「うん」
「調べてみる価値はありそうだな……」
「ぅっ!?」
「ぐっ!?」
「どうしたっ! 大丈夫かっ!?」
その時だった。
突然苦しむ声が聞こえ、弾かれたように二人が顔を向けると一般人達の首輪が締まっている。
苦悶の声を漏らす彼らの背後の扉が勢いよく開いた。
そこから顔を覗かせたのは、異形の住人達。全員の顔が戦慄に引き攣った。
「っ!」
いち早く英寿が動き出す。近くにあった上着掛けを手に取ると、ジャマト達に突っ込んだ。
「逃げろっ! 早く逃げるんだ!」
「あ、ああ!」
「うん!」
袮音達が一般人を引き連れて他の扉から脱出し、ひとまず最悪の状況を脱した。
それから正面に顔を戻して──自分に向けて拳を振りかぶる、ジャマトライダーがそこにいた。
(見つけた)
「くっ!?」
「ジャ……」
間一髪。人の頭を粉砕することも可能な一撃を躱し、英寿は生き延びる。
ゆるりと拳を下ろして振り向くジャマトライダーに、戦闘は不利と素早く判断。袮音達の後を追い、ラウンジから走り出た。
(にがさない)
ここから出たとて行き先は限定されている。故に、冷静な次の一手を。
「ジャ」
「ジャ!」
「ジャァ……!」
新たな指示を出す。
一体のジャマトがそれを伝えに行き、もう一方を連れて追跡を再開した。
東館からの脱出ルートは大まかに分けて二つ。一つは中央館に直通する回廊。もう一つは東館一階から外に出て、中央エントランスへ行く道がある。
彼が選んだのは外を回る方法。
狩りの成功確率を上げる為、道すがら巡回していた同族と合流して、再びエントランスへと。
扉を開け放ち、中に踏み入る。
入ってすぐ、二階の東側に武器の混じり合う音と、首輪の気配を感じ取った。
迷いなくそちらに近づき、階段までやってきたところ逃げようとしていた人間達と鉢合わせする。
「あぁっ……!」
「うぅっ……!?」
「ぐぅっ……!」
老いた戦士が一人に、餌が三人。ギーツとナーゴは手筈通りもう一つのルートから挟み撃ちにした同族が交戦している。
チャンスだ。ライダーを一人屠れば彼らは動揺し、こちらが有利となる。
拳を握りしめると、逃げられないと悟ったか。老戦士が表情を引き締めた。
「この世には……順番ってものがあるよな……っ!」
《 SET! 》
「変、身……!」
〔 Armed Propeller 〕
「みんな、逃げなさいっ! ハァーッ!!」
果敢にも、仮面ライダーケイロウはたった一人で立ち向かう。
「うぉおーっ! そりゃっ、はぁっ!」
「ジャ!」
火事場の馬鹿力、と言うべきだろうか。老体とは思えぬ気迫でジャマト達を押しのけて庇護者達から遠ざけた。
拙いながらも必死に武器を振る様は見事な気概と言えるだろう。
(だが、弱い)
鉈をどうにか受け、弾いたところを狙い、首を鷲掴みにする。
弱々しく腕を掴まれるが、構わず鳩尾に拳を叩き込み、その勢いで宙に浮かせた。
「ぐぅっ!?」
「
戦意に敬意を表し、一撃にて仕留める。
《 JYA! JYA! JYA! STRIKE ! 》
幾度かの実戦経験と武術書にて学んだ技を織り交ぜた正拳突きはケイロウを激しく床に叩きつけ、ヒビを入れるほどの威力を発揮した。
幸いスーツの高度な防護機能によって命を落とすことはなく、しかし立ち上がる力すらも残さず、完膚なきまでに叩きのめされる。
「ぐっ……はっ、ぁあ……」
「あっ! お爺ちゃん!」
異変を察知してナーゴとギーツがエントランスに飛び降りてきた。
瞬間、巡っているはずのない血が沸騰するような興奮を覚える。ようやく本命がやってきた。
「お爺ちゃん、大丈夫!?」
「下がってろ! ふっ!」
「ジャ……!」
赤の力を使うギーツ。
以前であれば全く歯が立たなかった存在に、真っ向から勝負を仕掛ける。
繰り出した拳が交差する。
互いの顔に行き着くはずのそれは手首で拮抗し、互いを押し負かさんと小刻みに震えた。
「へえ。やるな、お前」
「
膝を跳ね上げ、自分の腕もろとも蹴り上げて中断させると振り上げた足を全力で落とす。
ギーツは腕のマフラーを反転させて噴射し、頭への直撃を避けるとついでに群がろうとしていたジャマト達を退けた。
構わず肉薄。力強い踏み込みと共に、今度は逃すまいと
「ッ……!」
「はっ、ふっ! っ、この動きは……!?」
「ジャッ!!」
フィニッシュに渾身の後ろ回し蹴り。
だがさすがと言うべきだろうか、今度は足のマフラーを床と並行に噴かし、しゃがみながら回転して股下を潜られる。
結果、彼の攻撃は背後にいたメイドジャマトの一人に当たり、柱に叩きつけられた。
「ジャーッ!?」
「
「!」
倒れ伏す同族の懐から、一つの宝箱が転がり落ちる。
ギーツは類稀な推進力で進路上のジャマトを退け、あっという間にそれを掠め取った。
そうして開かれた箱の中にあったのは──まだ彼も、ギーツ自身も見たことのない、黄金のバックル。
「これは……!」
「ジャ!」
「ジャーッ!」
「お爺ちゃん!」
「景和、お願い!」
(新しい力か。発揮される前に倒す)
この場の要であるギーツを倒せば、老戦士以上に精神を揺さぶることができる。
彼らは一斉に攻勢をかけた。
「どうしてそんな無茶を……!」
「こんな年寄りより、先に……若い子達を、死なすわけ、には……いかないだろ……」
「死を覚悟するな! 必ず勝ち抜けると信じろ!」
多数の攻撃に晒されながらも、巧みに応戦して数的不利をいなしながら、ギーツが叫ぶ。
《 REVOLVE ON 》
《 SET ▶︎▶︎▶︎ ☆F.E.V.E.R★ !!! 》
その言葉に興味をそそられたのがいけなかった。
僅かに動きを止めた瞬間、新たなバックルが差し込まれ、レバーが引かれてスロットが回り出す。
巡る色彩はやがて定まり、選び抜かれたのは──眩い虹色。
《 "G.O.L.D.E.N F.E.V.E.R" !!!》
溢れ出す星々。
絢爛豪華なる光から生み出されたもう一つの赤を纏い、黄金をたなびかせて。
《 "JACK POT" ▶︎▶︎▶︎ HIT! 》
《 GOLDEN ☆ FEVER !!! 》
ギーツが、全く新しい姿に変貌した。
「そうすれば、運は巡ってくる」
不敵な言葉を放つ様は、まさに圧倒的。
その身に秘める力が倍増したようにさえ感じられるほど、目の前の戦士は驚異的だった。
「ジャ!」
「ゥジャー!」
「ジャジャジャ!」
「ハァッ!」
ジャマト達は束になってかかる。
が、到底足りない。炎を唸らせる脚によって、あっという間に三体が蹴散らされた。
後続する者達が仕留めようとするも、まるで赤子の手をひねるように容易く返り討ちにされる。
(面白い。また、進化した)
好奇心が、止まるところを知らない。
熱烈な彼の視線を感じ取り、同族を殴り倒したギーツがこちらに振り向いた。
仮面を通して交錯する眼差しが、次の展開を映し出す。
ゆっくりと、互いに向けて歩き出す。
ジャマトバックルを押し込み、エネルギーを充填。音が鳴るほどに右拳を力ませる。
それを合図に、戦士達が大きく踏み込んだ。
「ハァーッ!!」
「ッ……!!」
衝突する拳と拳。
余波に巻き込まれたジャマトが、悲鳴を上げて宙を舞った。
せめぎ合いの結果は、再びの五分。
互いの力に弾かれてギーツは壁に着地し、彼は数歩後ずさる。
「フッ!」
「……!」
壁を蹴ったギーツを迎え撃つ。
飛び込んできた顔めがけ繰り出したカウンターは、空中で軌道を変えられたことで空振った。
眼下を横切る赤を見逃さず、追撃を仕掛ける。
「ッ!」
「っと!」
一撃目、当たらず。エントランスの支柱を抉る。
相手の戦闘能力を修正。続けて二撃目を構える。
「ジャーッ!」
「ハァッ!」
「ジャッ……!」
妨害に現れたメイドジャマトに気を取られた隙に放つが、尖った耳を掠めるも当たらず。
再修正。今度は間断なく、傾いた頭目掛け三撃目。
それさえもギーツは躱してのける。代わりに右腕が支柱に埋まった。
「ハァ……!」
脇の下から噴射音、あの一撃が来る。
咄嗟に手首を左手で掴み阻止した。先読みは成功し、ギーツが驚いたように自分の顔を見る。
「っ!?」
「ジャァ……!」
「──なーんてな」
胸に、硬い感触。
ハッと顔を向ければ、既に唸りを上げた炎拳が発射されんとする間際で。
(しまった、もう一撃……!)
「オラッ!!」
「グォッ……!!?」
叩き込まれた衝撃が、背中まで突き抜ける。
彼は支柱を破壊しながらエントランスまで吹き飛ばされた。
胸に風穴が空いたと錯覚するほどの激しい痛みが走る。思うように動けない。
「グ……!」
それでもどうにか立ち上がって──足音が耳に届く。
顔だけ上げれば、ゆっくりと姿を現したギーツが見せつけるようにスロットを回した。
《 〝BOOSTRIKER〟 》
回転が止まった瞬間、天窓の一部が弾け飛ぶ。
甲高く鳴いた真紅のバイクが現れ、飛び上がったギーツはそのハンドルを掴み取った。
《 GOLDEN ▶︎ VICTORY ◀︎ FEVER 》
降り立ったバイクが、猛獣のように走り出す。
手始めと言わんばかりに眼前のジャマトを轢き倒し、弾けた火花を尻目にエントランスの中をブーストライカーが駆け巡った。
「ジャッ!?」
「ジャジャジャジャ!?」
「ジャーッ!?」
目にも留まらぬスピードで同族達が減っていく。
そこかしこから断末魔と炎の柱が上がり、見た時には既にギーツの姿は消えていた。
エンジン音はぐるりと彼の周りを一周し、最初の位置に視線が戻る。
そこへ見計らったように、彼以外の最後のジャマトを床の焦げ跡に変えたギーツが姿を現した。
「フッ」
「ッ!」
(来る……!)
真正面から、ブーストライカーが全速力で突っ込んでくる。
このダメージでは回避することはできない。かといってあの勢いを相殺するほどの攻撃も出せない。
半秒にも満たない思考時間の末──彼は即座にジャマトバックルを叩いた。
蔦を腕に纏って構えた瞬間、バイクを飛び降りたギーツが
「ッ!!?」
「ハァッ、ハッ!!」
「ッ、ジャァアアア……ッ!!!」
回転をつけた大質量の塊に受けが崩れ、続く止めの一撃によって──彼は爆散した。
絶叫が消え、静寂が訪れる。
ブーストライカーが嘶いて何処かへ消えていき、圧倒したギーツに袮音達が表情を綻ばせた。
「信じれば……運は巡ってくる……」
「っ、やべっ!」
「危ないっ!」
「うっ! っ、あれ……前にも同じことあったような……」
「さあ、行こう!」
「ほら、立って! 行こ!」
直に新たなジャマト達が集まってくることを危惧して、彼らはその場を去っていった。
気配の失せたエントランス。
戦いの爪痕ばかりが残るその場所に──突然、音が生まれる。
「ジャ、ァ…………」
柱の影から現れたのは、ジャマトライダー。彼だ。
右腕の肩から下が消え、仮面の半分が損壊した姿で、勢いよくその場に膝をついた。
(危な、かった。あと少し判断が遅れたら、終わっていた)
「グ、ォオオッ……!」
瀕死の体に鞭打ち、残る左手で乱雑にバックルを叩き込む。
残存エネルギーが強制的に活性化され、全てを肉体の再生に回すと、瑞々しい音を立てて傷口から大量の蔦が飛び出した。
「ギッ、ィ……!」
より集まった蔦が新しい腕を形成する。
急速に体が構築される激痛に耐えながら、指先まで蘇ったところで、エネルギーが尽きた。
強制的に変身が解除される。
湿った感触の右手を握る。まだ少し違和感があるが、問題はない。
(まだ、やれるか……いや、これでは無理だな)
枯渇した状態で挑んでは、自ら倒されにいくようなもの。それは望むところではない。
戦士の中でも最強だろうギーツ相手にあそこまで迫ったのだ。今回の経験は十分以上と言えるだろう。
ゲームは終わっていないが、ここまでだ。
「
そこへ、丁度よく一体の同族が現れた。
彼はややふらつきながら立ち上がると、ドライバーとバックルを外して渡す。
「
「!
嬉々として受け取ったジャマトは、ドライバーを装着した。
「ジュラピラ──ヘンシン」
《 J.Y.A.M.A.T.O ! 》
「ジャァ……!」
ジャマトライダーとなった同族が戦いに赴くのを見届ける。
それから闘争の残滓が香るエントランスを見回し、重く満ち足りた息を吐いた。
「……
達成感と疲労感を伴って、彼は舞台を後にした。
読んでいただき、ありがとうございます。
感想をいただければ幸いです。