今回からまた新たはゲーム。
楽しんでいただけると嬉しいです。
広場に響くシャッター音。
「はい、いきまーす」
「お願いします」
「ライトくださーい」
断続的なそれが写すのは、一人の男だった。
人々の憧れの的。
そう自らを称する浮世英寿は、撮影に勤しんでいた。
次々とポーズを変えてはカメラマンが収めていく。
英寿は被写体としての自分の魅力を引き出す術を熟知している。生み出される一枚一枚全てが当然のように抜群の写り。世に出回れば、さぞファンが色めき立つことだろう。
やがて、数時間に及ぶ撮影も終わりを迎える。
「お疲れ様でーす」
「お疲れ」
小休憩を貰った英寿は現場を離れ、広場内に設置されたテラス席に腰を落ち着ける。
すると口から疲れを滲ませた吐息が漏れた。
いかに人知れず仮面ライダーとして華麗に戦う彼といえど、芸能人としての仕事は一味違う。
(デザイアグランプリがきな臭くなってきた中で両立も、なかなか堪えるな)
誰もが羨むような地位もまた、数多の勝利を重ねてきた彼が願った栄誉の一つ。蔑ろにできないそれなりの理由もある。
「──初めまして、浮世英寿様」
次の撮影の為にも一息つこうとしたところで、近づく人影があった。
怜悧な雰囲気を湛える、妙齢の女。撮影者達の後ろから窺っていた人物だ。ようやく近づいてきたことに彼はやや大袈裟なリアクションを取ってみせる。
「この出会いは運命か……初めてな気がしないのは俺だけ?」
「是非、あなたを〝支援〟したいのですが」
「へえ……?」
英寿と女が言葉を交わす。
その最中、彼は何度か驚いたように目を細め、あるいは不敵に笑い、彼女の話に耳を傾けた。
時間にして数分。伝えるべきことを伝えた女は慇懃に頭を下げ、去っていった。英寿はにこやかな笑みで見送る。
ふと、その視界の端を、目も眩むような〝赤〟が過ぎ去る。
──からん。音が鳴った。
英寿は足元を見下ろし、そこに転がった
それから目の前に視線を戻せば、ゆっくりと歩いていく赤い帽子を被った少女の姿を捉えた。
コアを手に立ち上がって後を追いかける。瞬く間に少女に追いつき、その肩をこちらに振り向かせるとしゃがんで右手を取った。
「
少女の小さな手に余っていたのは、デザイアドライバー。英寿が戦士となるための大事な道具だ。
優しげな問いかけに、しかし帽子の向こうにある小さな唇は答えを返さず。
「キャーッ!!?」
「うわぁああっ!!?」
「ジャッ!!」
「ジャジャッ!」
代わりとでも言うように、悲鳴が背後から上がった。
衣装や撮影道具を蹴散らしてジャマト達が現れる。撮影スタッフが各々逃げ惑い、英寿の顔が瞬く間に戦士へと変わる。
「これは玩具じゃないよ。下がってな」
ドライバーにコアをはめ込み、装着。英寿の存在に気づいたジャマト達が一斉に振り向いて殺意を放った。
「ジャッ!」
「ジャッ〜!!」
《 SET! 》
「変身! ふっ、ハッ!」
《 M.A.G.N.U.M 》 ▶︎▶︎▶︎
群がるジャマトをいなして変身したギーツは、交戦を始めた。
「ハッ! ハァーッ!」
「ジャッ !!?」
「ジャーッ!」
華麗な銃技に次々と侵略者は敗れていく。
これまでと同じく圧倒するかと思われたが……それを許さない者がいる。
一人の男が広場に踏み入った。
晴家ウィンは、獅子奮迅の様子を見せる英寿に邪悪な企みを滲ませた笑みを浮かべ手の中にあるバックルをドライバーに差し込む。
《 SET! 》
「──変身」
《 M.O.N. S. T. E. R! 》
パンクジャックとなったウィンが勢いをつけてジャマト達に突っ込んでいく。
星の剛拳は種子を彷彿とさせるジャマトの頭部──ではなく、ギーツの背中に叩き込まれた。
「ッ!?」
「オラッ! ハッ、ハァッ! よいしょぉッ!」
「ぐっ、パンクジャック……!」
戦意はおろか、殺意さえ込めた一撃。
先の迷宮脱出ゲームに引き続き、またしても参加者同士の戦いが禁じられているデザイアグランプリにあるまじき妨害行為だ。
「ジャッ!」
「くっ!」
驚く間も無くジャマトまでもが襲いかかってくる。マグナムシューターと足技を巧みに使い蹴散らすが、好転を良しとしないパンクジャックが力強く地を蹴った。
「フォ〜ウッ! ハァッ! オリャっ、よいしょぉッ!」
「くっ、お……!」
「ジャァッ!」
「オリャッ!!」
「うっ……!」
次から次へと湧き出てくるジャマト、強烈な一撃を差し込んでくるパンクジャック。まるで休む暇がない。
それでもどうにか致命的な隙を作ることを避けながら後退して、反撃の手を考えようとした矢先のこと。
「…………」
「ん……?」
また、あの少女が近づいてくる。
異常な状況下で逃げる素振りも見せない姿は、英寿に不信感と僅かな恐ろしさを与えた。
それでも逃げるよう促そうとして──不意に、少女は薄く笑う。
からん、と白が落ちた。
次の瞬間、変身が解除される。
望まぬ変化に英寿は驚きを隠せない様子でまたしても転がったコアを拾い上げ、少女を見た。
「魔法でも使ったのか、お嬢ちゃん……?」
少女は、やはり何も答えない。
摩訶不思議な方法で奪ったドライバーを手にどこかへ行こうとして、その前にふらりと一体のジャマトが立ち塞がった。
「…………」
ジャマトは、じっと少女を見下ろす。
よく映える赤帽子から視線が手元へ向いていき、奪った物を認めると膝をつく。
「……ジャ」
「……」
そっと、大事なものを扱う手つきでドライバーを取った。
指先で存在を確かめ、立ち上がる。そしてどこからともなく、土塊のコアを取り出すと中央部に入れてしまった。
腰に装着しながら身構える英寿に向き直り、右手のジャマトバックルを
「何……ッ!?」
「ジュラピラ──〝変身〟」
《 J.Y.A. M.A. T.O ! 》
簒奪されたドライバーにより、変身が果たされる。
各々が保有するIDコアはまだしも、ドライバー自体は誰でも使えることを利用されてしまったのだ。
「今の動きは、
「ァア……!」
軽く首を回し、ジャマトライダー……モトキは己の中の
(さあ、始めようか)
全ては、飽くなき探究のために。
「──ッ!!」
「ぐっ!? がはっ!?」
甲高い雄叫びで、英寿に襲いかかる。
素早い動きに生身の彼は追いつけず、強烈な打撃を叩き込まれて苦悶を漏らした。
土俵としては些か不公平だが、
「うっ……!」
「フン。流石にライダー相手じゃ生身で勝てねえか」
「………」
「……あん?」
英寿の苦境にほくそ笑むパンクジャックへ、少女が笑う。
からり。オレンジが、地面の上で踊った。
「はあっ!?」
カラフルな鎧が消え失せ、ウィンは驚きと困惑を伴った表情でドライバーを見せびらかす少女を見る。
「おいっ! 俺のまで取ってんじゃねえよお前!」
「ジャッジャ!」
「ジャジャジャ!」
立ち去る少女を追いかけようとするも、ジャマトに群がられる。
力強く服を掴む腕はヒヤリと肝を冷やし、なんとか振り解くも、依然として十数体に囲まれた状況は変わらない。
「ヤッベ……数で不利じゃん……!」
英寿を嘲った言葉がそっくり自分へ返ってきた。
一気に危機的状況に陥り、分が悪いと察したウィンはその場からすぐに撤退した。
「ッ……!」
「っ、ふっ……!」
英寿もまた、大ぶりな一撃を躱した勢いで広場から走り去る。
同族達にも引っかからず見事な身のこなしで逃げ切った背中を、ゆっくりと振り向いて見送った。
(……仕留められず、か)
的確な状況判断だ。その力以上に、ギーツが強い所以は機転にあるのだろう。
しかし不思議だ。以前も別の戦士達が化かし合いをしていたが、直接命を奪い合うほどではなかった。
戦士の間で何か起こっているようだ。それがどんな影響を及ばすか、想像する程に更なる活力が漲るというもの。
擬態であれば薄く笑っていたであろう彼は、何かを感じ取って空を見上げた。
虚空に、五つの盤面が現れる。
その一つを無貌のコアが埋めた。いよいよ本格的に
(椅子取りゲーム、だったか。人間が言うところの)
今回の勝敗を決める為のルールは単純明快。
終わるまでに、戦士の資格であるドライバーを保有していた者が勝ち残る。
自分が退場した後の前回のゲーム、最終的に残った人間側の戦士は5人だった。つまりこのドライバーを持っている限り、彼らのうち残るのは最大で四人。
きっと、ギーツは勝つだろう。余程想定外の事態でも起こらない限り、そう確信が持てる。
ならば後は、どの戦士が座を勝ち取るか。
(早く戦いに来て欲しいな──)
踵を返した先で、無惨な状態の撮影現場が目に入る。
踏み躙られた道具や衣服に活気は残っておらず、ただ営みが破壊されたという事実のみがあった。
──唐突に、〝彼女〟の絶望の顔がフラッシュバックする。
「…………」
瞬きの刹那、仮面の裏によぎったものに少し俯く。
何故、自分はあの顔を思い浮かべたのか。目の前の光景には何も関係がないはずなのに。理由が解析できない。
ならば今はいいと、鎧に包まれた胸に手を置いて、そう疑問を消し去る。
「ジャ……!」
「ジャッ!」
「ジャッ、ジャジャッ!」
意気揚々とした同族を伴い、彼は戦場の中を進み始めた。
読んでいただき、ありがとうございます。