多分、これまでで一番フォントに苦労しました。
楽しんでいただけると嬉しいです。
「グッ、ゥ……」
瑞々しい音を立て、表皮が再生していく。
ゆっくりと穴が塞がり、周りと比べて色素の薄い大腿に力を込め、立ち上がった。
(……歩ける程度には回復した。かなりの時間を使ってしまったが)
ギーツ達から離れ、一時間も経過しただろうか。どうにか水道を見つけ出して足を治すことに成功した。
手の方は、今は諦めるしかない。
帳は閉じることなく、自分が回復に専念してる間に残る盤二つが同族のクレストで埋まっている。戦いが続いている証拠だ。
(いつもなら引き下がる頃合い……でも、何かを感じる)
今回の
具体的な根拠はない。強いて言うのであれば、ジャマトとしての第六感が訴えている。
もしも放っておいたことで戦局を見誤るようなことがあれば、今後の学びに響くかもしれない。
「
体に残る力をかき集め、モトキは移動を再開した。
戦いの気配を頼りに、しばらく彷徨う。
やがて、近くに同族の信号を二つキャッチした。荒ぶるような強信号、きっと
「きゃぁああっ!?」
「逃げろぉ!?」
そちらに赴くと、悲鳴を撒き散らして人間達がジャマトライダーから逃げている。
この有り様では加勢しようにも、人間一人も満足に襲えまい。
物陰に隠れて様子を伺っていると、流れに逆らう人間が現れた。
(あれは……戦士の一人か)
ギーツと諍いを起こしていた男だ。
以前は飄々とした印象を受けたが、今は違う。強い焦りを顔に貼り付け、ジャマトライダーを睨んでいた。
「そのドライバーを寄越せっ!!」
悲鳴にも似た声で、ウィンはジャマトに挑み掛かる。
「オラッ! くっ、らぁッ!」
まずは一体を飛び蹴りで退け、もう一体に拳を叩き込む。
当然、効くわけがない。あっさりと手を引き剥がされると容赦ない反撃がウィンを襲った。
「──ッ!!」
「うわっ!? ぐぁッ、がッ!?」
「ッ──!」
二体がかりで殴られ、蹴られ、無様なほどに蹂躙される。
ライダーになっている最中の高揚感は並大抵のものではない。それだけに暴れる際はひどく苛烈だ。
あっという間にボロボロになったウィンは柱に叩きつけられ、地面に落ちると苦悶の声を漏らした。
「あっ、うぐ……ッ……こんな、はずじゃ……!」
あの戦士はもう終わりだ。一体何があったのか定かではないが、分が悪すぎる。
叩き潰されるだろうウィンから目を背け、他の戦士達を探しに行こうとして──駆ける足音を聞きつけた。
知っているその男に振り向けば、赤い影がジャマトライダーに突撃する。
「ハァッ!」
「……!」
現れたのは英寿だった。
予想外の登場に驚き、しかしすぐ疑問に変わる。
(何故、変身していない)
あのドライバーは間違いなく彼の手に渡ったはずだ。
かの戦士は自分達と人間の生物としての能力差を分かっているはず。わざと生身で戦うはずがない。
だとすれば、まさか、まだドライバーを持っていないというのか。
「──ッ!」
「うぁっ!」
困惑している間に英寿は引き剥がされ、ウィンと同じように転がされた。
「ギーツ……!?」
「来い!」
「あぁ……!?」
英寿達が逃げていく。
どうやらウィンを助けることが最初から目的だったようだ。
(……何か、訳があるはず)
どうして未だに争奪戦を続けているのかを探るため、モトキは彼らを追いかけた。
逃げ足の速い二人をどうにか追跡し、駐車場の中に入っていくのについていく。
付かず離れず、一定の間隔を保ちつつ、英寿達が物陰に隠れたのを見ると数メートルほど遠くの車の影に身を潜めた。
このくらいの距離であれば、ジャマトの聴力を以ってすれば会話を聞くことくらいはできる。
「ツムリから事情は聞いた。運営を敵に回したら生き残れない……お前に言われた言葉をそっくりお返しするよ」
「……何で助けた? お前を落とそうとしたのに」
「俺が知りたいことを、お前は知っている。脱落して記憶を消されちゃ困る」
「…ハッ……」
英寿が助けに入ったのは情報収集が目的だったようだ。
チャンスだ。あの最も強い戦士の〝ギラギラ〟を知ることができるかもしれない。モトキはよく耳を澄ませた。
「以前、〝デザイアカード〟に母に会いたいと書いたのに却下された。なぜ母さんに合わせてもらえない? 運営は何を隠してる?」
「母さんに……? 名前は?」
「……〝ミツメ〟。それ以外のことは分からない。どうしても会って聞きたいことがあって、母さんに気づいてもらえるように、俺がスターオブザスターズオブザスターズの世界にしたが、何の音沙汰もない」
「だから運営側に近づいて、探ろうとしたのか」
「……ああ」
(母……肉親に会うことが、あの戦士のギラギラ?)
家族。それは人間にとって特に強固な群れのことを指す。
人間の家族とは時に強い力を発揮させる存在なのだと、以前読んだ文学小説では表現されていた。
それに再会するために、英寿はあれほどの策略を駆使していたのだろうか。
「お前も運営に翻弄された人間の一人だったんだな……」
「お前は、どうしてデザイアグランプリの運営にいるんだ?」
「……スポンサーだ」
「スポンサー?」
「実は俺のじいちゃん、大手商社の会長でな。デザイアグランプリに出資してたんだ。で、音楽で食っていけなくて借金抱えてた俺に、仕事を斡旋してくれてな」
「それで運営のスタッフに?」
「ああ。つまり俺はただのバイトで、お前の母さんのことまでは知らない。ただ……ミツメって名前は聞いたことがある」
「本当か!?」
「デザイアグランプリのナビゲーター。ぁー、どれぐらい前だったかは分かんねえけど、ツムリの前任者だ」
「……ありがとう」
「ま、詳しいことはゲームマスターにでも聞けよ」
ゲームマスター。新たな単語だ。
人間側の指揮官のことだろうか。会話の流れから推察するにギーツとは敵対関係のようだが、よく分からない。
あるいは
「で、誰なんだ? ゲームマスターの正体は?」
「ハッ、しらばっくれんなよ。気づいてたから家族になって近づいたんだろ?」
「ふ──お前と話せて良かったよ。
「……!」
「は……? っ、お前まさか!」
まさか。ウィンの言葉とモトキの内心が重なった。
この状況さえも計算に入れた上で、ドライバーもなしに命懸けで戦っていたというのか。
「ウッソだろ……!? お前気づいててわざと奪わせたのか!?」
「負けたフリでもしなけりゃ、運営を探れないからな」
なんという胆力と頭脳、そして強運。これだから目が離せない。
企みがあるという、自分の予測は間違っていなかった。
「っはぁああ……結局、キツネに化かされちまったか。ゲームマスターにも騙されて……とんだザマだな……」
「だったら見返してやればいいだろ」
沈んだ声をこぼすウィンに、力強い英寿の言葉が向けられる。
「諦めない限りチャンスはある。お前にだって叶えたい理想の世界がない訳じゃないだろ?」
「……言ってくれるじゃねえか」
「さて。知りたいことも知れたし、こんな所でのんびりしてられないな」
「ああ。ジャマトライダーに奪われたドライバーをどうにか取り返さねえと」
立ち去る気配を感じ取る。咄嗟に車体の奥へ身を縮めた。
二人分の足音が駐車場の中を木霊し、少し時間を置いて、モトキも後を追った。
●◯●
駐車場を出た英寿とウィンは、今度は自らジャマトライダーを探して奔走する。
駐車場からしばらく離れたところで、不意にウィンのスパイダーフォンから着信音が響いた。
『どこに行くつもりだ!?』
立ち止まって応答した途端、怒号が轟く。
通話の主はゲームマスター。
「あんたの言うとおり、世界平和に貢献してやるよ。英寿と一緒にな」
『お前の使命はギーツを落とすことだっただろう!』
「……もうあんたの言いなりにはならねえ」
確固たる思いを込めた声で言い捨て、通話を切ったウィンは英寿と目配せを交わし、再び走り出した。
その後を、柱や階段の影を縫うようにして一体のジャマトが追随する。
右へ左へ、広大なゲームエリアを東奔西走。
やがて二人は、英寿がコマンドツインバックルの力を披露した場所の方へ近づいていった。
「今度こそ、勝ち抜くッ!」
「ギィイイィイッ!!」
路地の一角に、激闘を繰り広げる影が二つ。
一人は取り決め通り、英寿から譲り受けたバックルを使ってコマンドフォームに変身を果たしたタイクーン。
対するは菌糸類を彷彿とさせる出立ちの、ライダー達を翻弄する少女の幻から本性を露わにした〝かくれんぼジャマト〟である。
「ハァッ! ハッ、ゼァーッ!」
「ギギィイィイッ!」
互いの武器を駆使して鎬を削り、此処にて一つの決戦が行われていた。
「はぁっ、はぁっ!」
「ふっ、ふっ!」
すぐそばの角から、英寿達が息を荒く走り出てくる。
「っ、おい!」
左右を見回したウィンが目線の先を指差した。
地面に転がっているのは、デザイアドライバー。それもちょうど二つある。
「間に合ったぁ……! ギリギリ椅子をゲットできるぞ!」
「ふっ……」
思わず表情が綻ぶ。間一髪のところで生存への切符を手にしたのだから無理もない。
ウィンが一つを拾い上げ、それを見ていた英寿がふと前を見て……一瞬でその表情を変えた。
「待てっ!」
「……? っ!?」
ウィンが、顔を強張らせる。
カツン、カツンと己の存在を主張しながら現れたのは……不気味な白装束の人物。
黒いフードと奇怪な仮面を纏い、正体は伺えない。
その存在を、近くの生垣に潜り込んだモトキは確かめる。
(あれが〝ゲームマスター〟。人間か……いや、
身体構造は一見して人のものだが、根本的に違う。どちらかと言えば農園にいるジャマトの育て主に近い気配だ。
「もうお前の思い通りにはならないぞ。ゲームマスター……いや、
「………!」
異様な雰囲気を醸し出すゲームマスターを前にしても、英寿が怯むことはない。
白装束もそのことを理解しているのか、俯かせた顔から覆面を剥がし。ゆっくりとフードを上げた。
現れたのは、険しい顔。
ライダー達の休息の場を守る存在であったはずの男、ギロリ。
その実態こそは、デザイアグランプリを取り仕切るゲームマスターであったのだ。
「失望したぞ、パンクジャック!」
「っ……」
ウィンに刃のような言葉を飛ばす様は、英寿達が見てきた温和なコンシェルジュとは結びつかない。
一方、人間側の内情など深く知らないモトキは、〝ゲームマスター〟が現れた理由を考えた。
(あの戦士達は、何らかの掟に背いた。そして、ゲームマスターが人間側の掟を司る存在ならば……)
可能性は一つ──
●◯●
[ ‖ VISION -- DRIVER ]
彼の予想に答えるように、ギロリがある物を取り出した。
モトキも、英寿達も見たことのないドライバー。デザイアドライバーとは明らかに違う存在感を放つ装備を腰に装着し、手袋を外す。
そして、ドライバーの上部に設置されたパネルに親指をスキャンした。
▼
[ ‖ "GLARE" ◎ ROG-IN ]
瞳が見開かれる。
起動したドライバーから発せられる音楽に、モトキは自分の全身が震え上がるのを感じた。
それでも目を離せないでいると、ベルトの右から抜き出したカードをギロリが掲げて。
「変身」
[ ‖ ↓ INSTALL ]
一際強く、瞳が輝く。
◉
◉
[ ‖ DOMINATE A SYSTEM - "G.L.A.R.E" ]
◉
◉
◉
乱舞する五つの瞳。
入り乱れた光線がギロリの体を覆い尽くし、恐ろしい速度で画期的な姿を生み出していく。
瞬く間に組み上げられた漆黒の体に瞳が収まった。赤く彩られた各部が輝き──全く新しい者が、誕生した。
(──なんだ。あの存在は)
アレは──アレは、
彼らと同じ言葉を使って姿を変えたが、別の次元に位置するものだと、たった一目で理解する。
体の中で暴れ回る不快感が止まらない。アレを見ていても、戦士達に対して湧き上がる高揚が一欠片も生まれない。
「お前もライダー…!?」
さしもの英寿といえど驚きを隠せない中で、言葉なく〝仮面ライダーグレア〟は粛清を開始した。
接近してくるグレアに、驚きから立ち直ったウィンが素早くIDコアとバックルをドライバーに装着する。
《 ENTRY 》
《 SET! 》
「変身っ!」
《 M.O.N. S. T. E. R! 》
「ハァッ!」
パンクジャックに返り咲いたウィンがグレアに挑んだ。
星屑が収束された拳を、彼は難なく回避する。見えている世界が違うと思わせるほどの無駄の無さだった。
「ふっ、はっ! らぁっ!」
「フンッ!」
「ぐぁッ!?」
めげずに何度も仕掛けるパンクジャックだが、まるで意味をなさない。
その気になれば巨大なジャマトさえ滅ぼすほどのパンチは、全身の瞳から生じる
「フッ!」
「あぁああッ!? や、やめろっ!」
ついには頭を鷲掴みにされると、無造作に持ち上げられた。
たった一本の片手で、これまでの戦いを生き抜いてきた戦士を弄ぶ様は恐怖以外の何物でもない。
[ ‖ ↓ DELETE ]
蹂躙は止まらない。
再び読み込まれたカードを認証し、ドライバーがエネルギーを供給。
その瞬間、パンクジャックを手放したグレアは容赦のないキックを叩き込んだ。
「ッ!!」
「ぐあぁっ!?」
だが、仕上げはここからのようで。
「お前がその気なら、こっちにも
▼
[ ‖ HACK ◎ ING-ON ]
〝バイオメトリクサー〟が押し込まれ、特殊機能が発動。
[ ‖ CRACK ◉ START ]
胸部中央の瞳に力が収束し、空中に分離する。
紫の残光を残して飛翔する単眼は、立ち上がったパンクジャックの仮面をあっさりと引き剥がして貼り付いた。
「ぐっ、がぁっ、あぁああぁあぁあッッ!!!??」
「やめろッ!!」
もがき苦しむパンクジャックにただならぬものを感じ取り、ドライバーを拾い上げた英寿が駆け寄る。
「うぅ、っあ……………………」
だらり、と特徴を失った頭が垂れ下がって……モトキの本能が警鐘を鳴らす。
あれに近づいてはいけない、と。
「ヴァアァッ!」
「あっ、ぐっ!? パンクジャック!?」
しかし既に遅く、突如として牙を剥いたパンクジャックに英寿は襲われた。
ドライバーを落とし、モロに一撃を喰らった腹部を押さえながら困惑を顔に浮かべている。
戦士を強制的に操ることまでできるとは。あの存在は一体、どこまで規格外で理不尽だというのか。
だが、まだだ。今回の主役たる同族が倒される前に、ドライバーにさえコアを入れられれば。
あの人間であれば、きっと覆すはず──!
──ドォンッ!!!!!
(っ、なんだ!)
突如として激しい衝撃が空気を撫で、こちらにまで伝わってきた。
間を置かずして、ずっと感じ取っていた特別な同族の気配が掻き消える。
(まさか、他の戦士にやられた──?)
ならば、ギーツは。
急いで目の前に意識を戻す。
「浮世英寿。お前は……ゲームオーバーだ!」
「っ!」
無情にも告げるグレアに、英寿はコアを取り出した。
確かにそこにある戦士の証は青く崩れ、呆気なく粒子と化す。
目を見開く英寿の体が蜃気楼のように揺らめき──
《 Retired... 》
──モトキの目の前で、跡形もなく消滅した。
読んでいただき、ありがとうございます。
思ったより特殊フォント同士の相性が噛み合わせづらく、多少妥協する形になってしまいました。
感想などいただけますと励みになります。