楽しんでいただけると嬉しいです。
ギーツが、負けた。
追随を許さぬ力と知恵、運を持ち、無敗を誇っていた大戦士が戦場から姿を消した。
その事実はモトキにとって、想像以上の衝撃であった。
否。正確には排除されたと形容すべきか。
おそらくはギーツ本人にも理外の力を持っていたであろう存在に抹消されたのだ。
あまりに荒唐無稽な光景は、モトキの中に大きな感情を生み、日が二度巡った今なお巡らせている。
一つは残念、という落胆。
敵でありながらギーツは、どの戦士よりも多くのことを学ばせてくれた。そのことに密かな感謝と、対抗心を確かに覚えていた。
あのような形でいなくなったことは、非常に惜しい。
もう一つは、何故という疑問。
姿を変えた際の様子から、〝仮面ライダーグレア〟とでも呼ぶべき者に起因する違和感だった。
「……あれは、何だ?」
全てが不可解だった。
人間を大幅に超越した、戦士達からすらかけ離れた戦闘性能。もはや兵器と形容すべきだった。
自分が先の戦いでずっと感じていた違和感の正体は、間違いなくアレだ。
あんなものと敵対すれば生き残れるはずがない。
そう。それこそがモトキに大いなる疑いを与えていた。
(あれほどの力がありながら、どうしてぼく達を滅ぼさない?)
並のジャマトはおろか、特別な力を持つ個体すら容易く殲滅が可能だろうと確信させるだけの力がアレにはある。
その気になればこの農園ごと根絶やしにすらできるだろう。
グレアの力を使っていた〝ゲームマスター〟なる者は、おそらく人間側の存在のはず。つまりジャマトの敵だ。
だがあの男が現れたのは、ジャマトではなくギーツを消すためだった。
たった一体で人類へ完全な勝利をもたらす程の力は、味方のはずの相手へと向けられたのだ。
(こちらと戦うための兵器ではない、ということか)
仮にそうだとすれば、ますますグレアは異質なものとなる。
人類とジャマトの生存競争たるこの戦いの中で、言ってしまえば在り方が矛盾していた。
だが……もしも、この矛盾こそが答えとしたら。
発想を転換する。視点を移動させる。そうして、違う答えに辿り着く。
これまでそうしてきたように。あの少女に、そうされたように。
(改めて、情報を整理しよう)
予想するに、あの〝ゲームマスター〟は以前からギーツの粛清を狙っていた。おそらくはパンクジャックという戦士と共謀して。
それが失敗に終わった途端、表舞台に現れ、自ら手を下した。
ギーツはゲームマスターにとって都合の悪い存在になったのだ。間違いなく人類へ勝利をもたらし続けただろう、類い稀な戦士を。
いや。思えば、
つまり、一人の戦士が勝ち続けることは、あの男の本意ではない。非常におかしなことだった。
(それじゃあまるで、
明らかに、ジャマトを絶滅させることが目的ではない。
それどころか、多種多様なルールを設けた
「……そもそも、何故戦うためのルールが存在している」
学びを始めてある程度経った頃から、薄々不思議に思っていた。
学びを得られるのならと頭の隅にやってきたが、今回のことで無視できなくなった。
あのように複雑で多彩なルール、本気で生存競争をするのであればわざわざ敷く必要はない。そしてそれは双方に言えることだ。
段階的に行われるジャマトの侵略。
突出した勝利を許さない戦士の掟。
これまでは二つと考えてきたが、どちらも一つの大きな何かの一部だとするならば。
明らかに、入念かつ綿密に計画された上で、この戦いは〝作り出されている〟可能性があった。
グレアの存在意義がそれを保つことなのだとしたら、あの所業にも説明がつく。
(奴は、〝こちら〟とも繋がっているのかもしれない)
この考えに至った根拠はもう一つある。
農園の主だ。あの存在は度々、何者かと連絡を取りジャマトの育成と
相手が〝ゲームマスター〟か、それに類する者であるなら、仮説がより現実味を増す。
(もしかしたら、この戦い……いや、ゲームは──)
「……まさかな」
長い思索を、自ら打ち切る。
ここから先は完全に妄想の域だ。もしこの予想が真実ならば、全てが茶番となりかねない。
(それに、今は目の前の疑問にも向き合うべきだ)
自分が回復と探究に耽っている間に、随分と戦局は動いていた。
結局あの
それから程なく、最後の侵攻が行われた。
(結果は戦士達の勝ち……なのに、まだあの鐘の音がやってこない)
世界を塗り替える創世の力。戦いの終わりを告げる福音が、いつまでも聞こえない。
もしや、強大な力を持つラスボスと戦士達が相討ちとなり、願いを叶える勝者が残らなかったのだろうか。
はたまた……新たなゲームでも催されたか。
いずれにせよ、見てみないことにはわからない。
目の前にあるテレビに手を伸ばす。
以前より少しだけ期待の薄れた気持ちと共にスイッチを捻り、程なくして映像が映し出される。
『ハァッ、ハァッ、くっ!?』
「っ、ギーツ!?」
そこに、消えたはずの戦士がいた。
●◯●
画面の中を駆け抜けるのは、紛れもなくギーツである人間……英寿。
何故。どうして。この二日、溢れかえるほどに考えた言葉が頭を埋め尽くす。
今まで一度敗れてから戻ってきた戦士はいなかった。人間側の変えられない掟だとばかり思っていたが。
まさか、それさえも覆したというのか。
ああ。それは、それは、なんて──!
「どこまで面白いんだ、ギーツ……!」
思わず、言葉に力が籠もる。
無意識だったが、その声色は間違いなく驚きと喜びに満ちたものだった。
興奮で思考が支配されそうになるが、数秒してはっと我に返る。
どんな手段を用いたにせよ、ギーツは戦場に返り咲いた。ラスボスを倒したのも彼なのかもしれない。
しかし、だとするならば画面の中の彼は一体何と戦っているというのか。
現状〝かくれんぼ〟や〝フォートレス〟に比肩しうる同族はいない。最近、〝ルーク〟と呼ばれる変異個体が生まれたがまだ戦場には立てないだろう。
それもあの無敗の戦士が逃げるとは、どんな相手が……そう思った時、追跡者が画面に現れた。
『──。』
『──!』
『っ、ジャマトと違ってやりづらいな!』
「……アレは」
ギーツを追っていたのは、ジャマトではなかった。
全身を黒い戦装束に包んだ戦士。その頭部は、グレアに支配されたパンクジャックと同じ感情のない赤眼。
弩とドリルでギーツを黙々と、なおかつ執拗に追い立てる様は、まるで獲物を囲い込む猟犬のよう。
(まさか。まだ、粛清が続いているというのか?)
疑うまでもなく、あの能面達は〝ゲームマスター〟の手先だ。
一度退場させただけでは飽き足らず、なおもあの人間を追い立てているらしい。
そして理解する。
すっと思考が冷めてくのを感じた。
確かにあの力には驚嘆し、畏怖した。新しい疑問も湧いた。その点で言えば、グレアは興味深かった。
ああ、だがこれは、これはあまりにも……
「……つまらない」
有り余る失望と退屈が、形となってこぼれ落ちる。
この光景からは何も得られない。ただの趣味の悪い見せ物だ。
同時にこれは、自分達の戦争に泥を塗る行為でもある。戦士が凌ぎ合い、削り合って磨いてきた
こんなものが、戦いを締めくくる方法であっていいものか。
[ ‖ REMOTE - CONTROL PROPRLLER ]
憤りに近い感覚を覚えていると、英寿がいよいよ追い込まれた。
前後から挟んだ能面達が武器を翳し……止まる。
不審そうな顔をした英寿が、不意に何かに気づいて近くの建物の屋根を見上げる。
一人立つ、若い男。
決然とした表情を携えていたのは、タイクーン……桜井景和。
『よう、狩人さん』
『…………』
『へえ……なんだか良い顔をするようになったな?』
『君にはいろいろ助けてもらったし、感謝してるよ! けど……俺にも、叶えたい世界がある』
『ふっ……お前は間違ってない』
なるほど。能面が猟犬なら、ギーツ以外の戦士が狩人ということか。
ますます悪趣味なルールだが……彼らはもう、戦う覚悟を決めているようだった。
《 SET! 》
『──……変身』
『──変身!』
《 GREAT ! 》
どちらともが二色の光を纏い、ギーツとタイクーンになる。
『ハァ──ッ!!』
『フッ!!』
現れた刃を掴み取り、ついに、二人の戦士が直接ギラギラをぶつけ合った。
『フッ、ハァッ!』
『でぇやぁああっ!』
倉庫内にもつれ込んだ二人は激しく剣戟を交わす。
同じ装備、同じ武器。
ならば勝敗を決するのは戦士自身の実力に他ならない。これまでになかった戦いに、少しだけ心のささくれが鋭さを緩める。
勢いはギーツが比較的優勢。先の一戦でも披露した動きを今回も発揮している。
しかしタイクーンも押されてばかりではない。相打ちとはいえ〝缶蹴り〟を翻弄した時の気迫を画面越しにも感じた。実力が追いつかないという認識を多少修正するべきだろう。
『ハァッ!』
『ぐぅッ!?』
何度も互いを斬りつけた二人の剣に、やがて光が満たされる。
ここまでが前哨戦。本番は今からだと、身を以って知っているモトキは食い入るように見入る。
《 FULL CHARGE 》
『『フッ!』』
バックルを取り外し、ドライバーに合体。
《 TWIN - SET! 》
《 TAKE OFF ▶︎▶︎▶︎ COMPLETE 》
《 C.A.N.O.O.N 》
《 J.E.T 》
『ッ!!!』
『くぁッ!?』
それぞれ翼と大砲を背負い、狭苦しい一室を抜け出した。
十分に機動性を確保できる広間にリングを移した彼らは、更なる局面を迎える。
ギーツが空を飛びながら翻弄し、タイクーンは撃ち落とそうとエネルギー弾を乱射した。
『うっ、くっ!?』
『ゼァッ!!』
弾幕を打ち破り、ギーツの一閃が炸裂。
転がったタイクーンへ近くにあった棚を掴み取り、押し潰さんと腰の大砲からもエネルギーを放射して爆進する。
『ッ、くぁっ!』
どうにか受け止めた鎧狸は、飛び上がってギーツを退けようと剣を振り──その眼前に吊り目の鉄面が現れた。
『ハッ!!』
『ぐぁあぁあッ!?』
再び地に伏せったタイクーン。やはり、ギーツの方が一枚上手か。
『やっぱり、ッ、強い……!』
『お前も強くなったな。だが……俺の勝ちだ!』
勢いはとどまる所を知らず、徐々に追い詰められていくタイクーン。
遠くないうちに決着がつくだろう。猟犬に襲われていたギーツの疲労を加味しても、負ける確率はそう高くはない。
そう結論づけて、ふとモトキは別のことが気になり出した。
(タイクーン……狩人が負けることは、ゲームマスターにとって都合が悪いのでは?)
さながら反旗を翻したパンクジャックを物言わぬ尖兵に塗り替えたように、またしても介入してくるのではないだろうか。
残念ながらこのテレビは戦場の全てを映し出してくれるわけではない。かと言って今から向かっても、その頃には何かが終わっているだろう。
「……だが、そろそろのはずだ」
水を差してくるなら、劣勢に傾いた今こそ。
ギーツは戦いに注力している。不意打ちをするには絶好のチャンスに違いない。
そう、それは重い一撃がタイクーンを大きくのけぞらせ、最も意識が集中する、まさにその時──。
『ッ!?』
突然、ギーツが何かに気づいて振り向いた。
至近距離の先頭でそれはあまりにも大きすぎる隙。すかさずタイクーンのエネルギー砲が光り輝き、放たれる。
認識した時にはもう遅い。青い凶星が飛来し──!
『くっ!?』
タイクーンの攻撃を追いかけていたテレビの視点がそちらに向く。
『何……!?』
濛々とした爆煙が晴れて……露わにされたのは、冷徹な執行者だった。
●◯●
やはりいた。
不測の事態に陥ればリカバリーに現れるはずだという予想は、見事に的中した。
『俺がピンチになれば、きっとあんたが直接出てくると思っていたよ』
『どういうつもりだ……!?』
グレアにとってタイクーンの攻撃は予想外だったようだ。
低く怒る声で問い詰められた鎧狸は、時折垣間見える気弱さが抜け落ちたように淀みのない佇まいで見つめ返した。
「そう、か。タイクーンはあえて……」
殺し合うふりをして、グレアを戦場に引っ張り出した。
嘘と策略を自在に操るギーツとは正反対の性格だと思っていたが、なかなかどうして魅せてくれる。
まるで自分の鬱憤も晴らされたようで、モトキはかすかに微笑んだ。
『──確かにこの目で確認した。ゲームマスター自ら、不正を働く一部始終を』
すると、また新たな人物が現れた。
身なりの良い男だ。彼はゲームマスターに呆れた眼差しを向ける。
『ニラム……っ!? 何故ここに……!?』
『〝ゲームプロデューサー〟に告発させてもらいました。このゲームは全部、あなたが英寿を落とすために仕組んだことだって』
二ラムというらしい男の隣に顔を出したのはナーゴ、鞍馬袮音。
彼女は険しい目つきでグレアを睨みつける。
『パンクジャックさんを使って、英寿もろとも排除しようとした。結局は全部、あなたの仕業……こんな不公平なゲーム、私は認められない!』
『ゲームマスターによるプレイヤーへの不正は関与は許されない……ふぅ。ゲームマスター失格だ』
『ッ、馬鹿な……! 私はギーツのくだらない願いから、世界を守ろうと!』
『くだらないなんて言うなッ!!!』
凍てついた空気を切り裂くような叫びだった。
グレアの言葉を押し除け激白したのは、タイクーンその人。
『……!?』
『今まで、大勢の人がデザイアグランプリに参加してきた。命懸けで、自分の人生を賭けて戦ってきた。どんな願いだって命をかけて戦う限り、立派な願いなんだ。それをくだらないなんて言うあんたが許せない。あんたは……みんなの
「ッッッ………」
モトキは、胸を触った。
そこに、激しい痛みが一瞬だけ走った。
深く斬りつけられたような、人間の心臓に類似する器官を貫かれたような、取り返しのつかない感覚が。
「これ、は……何だ」
今まで体感したことのないものだった。
手足を失った時よりも、ずっと染み渡るこれは……辛さ、だろうか。
ふと、過去の記憶が思い浮かぶ。
こぼれ落ちる涙。絶望に染まった眼差し。悔しそうに歪んだ口元。
そして、最後の一言。
──……ご…………めん…………
グッと、擬態したシャツを握り締める。
「どうなってる……ひどく、苦しい」
今になってどうして、こんなことを思い出す。
あれは、戦場なら当然の行為だった。
自分はジャマトで、この姿を奪った人間は、たとえ変身すらさせなかったとしても戦士で。
だから少年のギラギラが……
そのはず、なのに。
──そういうやつもいるかもね。たとえ誰かが不幸になっても、自分が幸せになれればいいやっていうのがさ。
──知ったことか。今は、ぼくの
呼吸が乱れる。戦っているわけでもないのに。
指先が痺れる。傷ついてもいないのに。
震える口から、絞り出すような声が漏れる。
「………ぼくは………
ナニか、気付いてはいけないことに、行きつこうとして──。
『愚かな……理想の世界を叶えるチャンスを棒に振るとは。お前達は強制退場だッ!!』
『くっ!』
『ふっ!』
『変身っ!』
テレビの発する音により、正気に戻った。
「……そうだ。今は、見届けないと」
目を背けるように、目線を注ぐ。
ギーツ、タイクーン、変身したナーゴが結託し、グレアに挑み掛かる。
『おぉおおーっ!』
三つの刃が届く瞬間、グレアは全身の瞳を開放。
激しい衝撃と音が画面の向こうを揺らした。
幾度も爆発が起こり、崩壊していく建物からギーツ達が飛び出てくる。それを追いかけてグレアが現れた。
『うっ!?』
『フッ!』
『ハァッ!』
『オォァアッ!』
熱視線が降り注ぐ中、即席とは思えない連携で攻撃を敢行する。
グレアは桁違いの力で応戦するも、多勢に無勢。幾多の戦いを生き抜いた戦士達の実力は伊達ではない。
その優位を保っている間に決着をつけんと、ギーツ達が動きを変える。
『退場するのはあなたの方だよ!』
《 ROCK FIRE 》
《 TACTICAL FIRE 》
『っ!』
《 RAISE-CHARGE 》
『はぁあっ!』
《 TACTICAL- RAISING 》
三者三様、それぞれの持つ力を最大限にまで発揮させ、グレアに突撃する。
『やぁっ!!』
『くぉおおっ!』
『ぐっ……!』
ナーゴの炎撃、タイクーンの剣撃が左右から放たれ、グレアの動きが止まる。
そこへ空高く飛び上がったギーツが体を縮め、存分に力を溜めてから、グレアめがけて足を突き出した。
『ハァアアッ、ダァア────ッ!!』
《 COMMAND-TWIN ▶︎ VICTORY 》
渾身の蹴撃が、落つ。
『うっ、ぐぉおオォオオオッ!!?』
それは到底、二人分の攻撃を防ぎながら片手間で捌ける一撃ではない。
モロに受けたグレアは周囲の物を破壊しながら吹き飛んだ。バラバラと空を舞っていた瞳が落ちてくる。
『ぐ、ぁああ……!?』
しぶとい。性能差によって致命打には程遠いようだ。
だがギーツ達は決して諦めない。
二幕を予感したが、それは両者の間に割って入った存在に遮られた。
『これ以上、大切なプレイヤーに傷を付けられては困る』
ニラムなる者は、優雅な所作で指を鳴らした。
音が木霊した瞬間、グレアの鎧が掻き消える。
人間の姿に戻ったゲームマスターの体が掠れ、今にも崩壊しそうなほど希薄になった。
『っ、待て! ジャマトは今も成長し続けている! 私が仕切らないで、どうやってあいつらと対抗するっていうんだ!?』
『あなたの代わりはいくらでもいる』
『! あぁっ!?』
最後の足掻きとばかりに振るわれた腕は何も捉えることなく。
ゲームマスターが、呆気なく消滅した。
ただ一つ地面に落ちたドライバーを、ニラムが拾い上げる。
『皆さん、ありがとうございました。それでは──ごきげんよう』
ぶつり。一人でにテレビが消えた。
ここまで、ということなのだろう。
「……………ふぅう」
深く息を吐く。
画面に齧り付いていた体を椅子に預け、脱力した気持ちで天窓をぼんやりと見つめた。
(凄まじい幕引きだった)
逆転に次ぐ逆転。
最初はどうなることかと思ったが、無事にギーツの、戦士達の誇りは守られた。
「……これから、どうなる」
グレアの再介入。更にはニラムという存在の登場によって、否定しかけた推測は限りなく現実味を帯びた。
真実
すなわち、学びの機会が永遠に失われるということだが……
「………」
もう一度、胸に手を置く。
先ほどの、苦痛。
自分がバラバラになってしまいそうなほどの感情。もう少しで、何もかもが覆りかけた。
「……ぼくは、学び続けていいのだろうか」
仮に、戦いが続くとして。
このまま答えを出し続けるのは、人間のギラギラが欲しいという願いは……本当に、良いことなのか?
答えはすぐに出ない。深く考えようとすると稲妻のような痛みが頭に走る。
しかし確実に、常に前へと進んでいたモトキの心に、迷いが生じていた。
「おぉーい! お前達、運ぶのを手伝ってくれ!」
思い悩んでいると、農園の主の声が聞こえる。
「まだわからない、か」
なら、この場で時間を使う必要はない。
気分転換と立ち上がり、姿を変えながら声がした入り口の方へと向かった。
到着すると堆く積み上げられた白袋を皆がせっせと運んでおり、しゃがんでいる農園の主に近づく。
「ジャ」
「おお、来てくれたか。ちょいと一人じゃ骨の折れそうな
そう言って足元を見る主につられて、モトキは目線を落とし……驚愕する。
(……
地面に転がり、気を失っているもの。
それは戦士の装束を纏った人間。
そして……仮面ライダーバッファと呼ばれていた男だった。
これにて胎動編は終了となります。
読んでいただき、ありがとうございました。