仮面ライダーギーツ グロウハート   作:熊0803

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覚醒Ⅲ:街

 

 

 

 

 雑踏が、五感を埋め尽くす。

 

 

 

 色とりどりの服を纏った人間と、目の眩むような街並みが視界に広がる。

 人の声が、不可解な音の連なりが、ひた走る鉄塊の駆動が聴覚を支配し、風が頬を撫で、人間や食物の匂いが入り混じり鼻腔を伝う。

 

 擬態した体に染み渡る感覚の全てに圧倒され、道の真ん中に立ち尽くした。

 

 

 

 そんな彼の姿を、すれ違う人間達は奇異の目で見る。

 単純に棒立ちでいることもあるが、その眼差しの由来の大部分は彼の着る衣服にあるだろう。

 

 森の中で、擬態の元となった少年が来ていた特殊な服。関節には仰々しいプロテクターがついており、また一人の年若い少女がくすりと笑いながら横を通る。

 

「…………」

 

 しばらくして我に立ち返った彼は周囲の様子から判断する。どうやら、人間達の間でこの格好は普通ではないらしいと。

 同族の目線を置き去りにするよう困惑のままに〝農園〟を抜け出してきたが、これでは変わらない。

 

 移動しなければ。人混みに紛れて歩き出す。

 すると、感覚も水が流れていくように移動する。現実の体との間に齟齬が生じ、微かに眉根を寄せた。

 表面だけとはいえ、感じ方の違いに慣れるのには時間を要するだろう。

 

 

 

「マジ明日のテストだるくね?」

「それなー。なくなってほしいわ」

 

 

 

 その一つに、声が引っかかる。

 視線だけ向ければ、自分の擬態と年齢が近い容姿の人間が二人歩いていた。体には全く同じ色形の衣服を纏っている。

 

 

 

(──あれだ)

 

 

 

 一瞬のうちに衣服の色や構造、大きさを視覚情報から把握する。

 あの〝コア〟とやらを取り込まずとも、ある程度のことはできる。

 解析を終えると早速、自らの体に命令を下すことで衣服に見せた皮膚の一部を()()させた。

 

 彼の横をまた人が通り過ぎ──また姿が顕になった時、人間が〝学生服〟と呼ぶ装いになっていた。

 随分と違和感が減った。これで溶け込むには問題ない。

 

 

 

 新たな装いで、あてもなく街中を彷徨う……わけではない。

 探しているのはどこか、〝人間〟について学べる場所。せっかく帷の外で活動できる機会を得たのだから、感じた欲求を実行するべきだ。

 

 だが、具体的な手段がわからない。 

 どこに行けば、何を知ればいいのか。あの()()()()はどこからきたものなのか、まるで見当がつかない。

 コアから流れてきたもので、人間の言葉と物の判別はかろうじてできるのだが。

 

 

 

(……あとは、記憶)

 

 

 

 得た中で最も大きかったものは、コアの持ち主だった少年が持つ()()()()に繋がる記憶。思い出と言い換えてもいい。

 朧げながらも頭の中にあるコアの知識の中で、ある一人の姿が強く焼きつき、輝いている。

 

 現状、それは瑣末なことだ。とにかく探り当てなくては。

 

 

 

 しかし、歩けど歩けどそのような場所は見つからない。

 何故か衣服を木偶人形に纏わせている場所や、水が主食のジャマトからすれば強い匂いを放つ食物が作られている場所は多くあるが、知識の獲得には向かなさそうだ。

 

 足が止まることはなかった。ジャマトはこの程度で疲労しない。文句を言う感情の機微もまた、存在しない。

 

 

 

 やがて、一時間ほどして少なくともこの喧騒の中ではなさそうなことを感じ取る。

 

 ならばと街中から外れて、住宅街の方面へ。

 流れ込んでくる様々な刺激から避難する意味も込めて遠ざかり、建物に遮られた道に入ると少し楽になった。

 

「ふ…………ん」

「よっしゃ、いくぞー!」

「サッカーやろーぜ!」

 

 立ち止まって一息ついたところで、ふと近くからまた声がした。

 顔を向ければ、木々に囲まれた小さな広場で人間の幼体達が駆け回っている。

 

「おーい、始めちゃうよ!」

「あっ、待って、いまいくー!」

 

 そのうちの一人、長い木の板に座っていた個体が手にしていたものを置いて群に合流した。

 

「……?」

 

 気になって、広場の中に入る。

 木の板の上で置き去りにされたものを近づいて覗き込むと、なにやら薄くて四角い物体だ。

 

「……これは…………」

 

 名前は、わかる。コアから読み取った記憶によれば、〝エホン〟とかいうもの。

 捨てたのならいらないのだろうと手に取り、先の幼体がそうしていたのと同じく板に腰を下ろす。

 

 恐る恐る指で開くと……不思議な格好の人間が様々な色で描かれていた。

 なにやら文字が書いてあるが、手に入れたばかりの記憶では話せはしても読むことができないのでわからない。

 その点、()()はいい。彼にも理解できる。

 

 

 

 一ページずつゆっくりと眺める。

 奇妙な出立ちの人間が、人や街を襲う自分と同じような異形と戦う様を絵は現していた。

 

 何体もの異形が変わる変わる現れ、人間は時に苦戦をするが、最後には必ず勝つ。そして皆に囲まれ、笑顔を向けられる。

 たったの十数ページを、何分もかけて読んだ彼は、ぱたりと絵本を閉じた。

 

 

 

(……よく、わからない)

 

 

 

 なぜ、諍いなどをわざわざ形にするのか。生き物ならば当然の行為なのに。

 

 

 

「ん? あれって……」

 

 

 

 あまり理解はできなかったが、しかし一つ気づいたことがある。

 この〝ホン〟というものの便利さだ。人間に疎い自分でも情報を得やすい。

 

 もっと別の、例えばそう、人間の文字や習性について現した〝ホン〟があれば。

 

 

 

(人間を、よく知れる)

 

 

 

 問題はどこで手に入るのか、だ。

 人間の幼体ならば必ず持っているのだろうか。広場の中で戯れる姿に目を映す。

 

 もし他の幼体も持っているのだとしたら、たとえ奪い取ってでも──

 

 

 

「あ──っ! いたっ!!」

 

 

 

 彼の瞳が緑に輝いた時、背後から聞こえた大声。

 思わず動きを止め、腰を浮かせていた彼はその姿勢で振り向いた。

 

 こちらに指を向ける、年若い人間の女がいる。今の彼と似た服装だ。

 不思議で見つめていると、少女はこちらに歩み寄ってきた。

 

「もう、探したんだからね! 学校には来ないし、家にも帰ってないっていうし! こんなところで何してんの?」

「……?」

「ていうかその制服なに? えっ、まさか転校するの? それで今日来なかったとか?」

 

 ……言っていることのほとんどが理解できない。

 自分の顔や服装を上から下まで観察してくる少女に警戒心と、ジャマト由来の攻撃性が沸き立ち──

 

 

 

 瞬間、読み取った記憶がまたよぎる。

 

 

 

 ぼんやりと乱雑だったイメージが輪郭を結んでいき、一つの形になり、目の前の人間と重なる。

 

 同時に強く、記憶に内包された単語が思い浮かび……

 

「そもそも、なんであんた絵本なんて持って……」

「……双葉(ふたば)

「ん? 何よ、誠樹(もとき)

 

 気が付けば口から名前がこぼれ落ちていた。同時に、この少年の名前が〝もとき〟とやらであったことも知る。

 

 何故かうずうずとし始める体に疑問を持って、しかしそれを確かめる前に強く絵本が引っぱられた。

 

 見下ろすと、そこには先ほどの幼体が。

 

「お兄ちゃん! それ僕のだからかえしてよ!」

「……捨てたのではないのか」

「は? 違うし! ちょっと遊んでただけだもん!」

「誠樹、あんたこんな小さな子のもんを……」

 

 〝双葉〟と幼体の両方から、冷たい目を向けられる。

 途端にどうしたことか、彼は絵本を手放していた。両手で抱え込んだ幼体は群れのところへ走り去る。

 

 

 

 右手を見て、彼は少し困惑した。

 

 今自分は、いや、自分が取り込んだ少年の記憶は、〝双葉〟に嫌われることを恐れた? 

 

 瞬きの間に感じた謎の情動に首を傾げていたら、横から両手で掴まれ強制的に視線を合わせられる。

 

「ねえ? 私、質問! してるんだけど」

「……〝がっこう〟、とは何だ」

「……へ? 何言ってんの?」

「〝いえ〟とは、何だ。そこで、さっきの〝ほん〟は、手に入るのか」

 

 知り合いらしいことを理解し、彼は問いかける。

 人間のことならば、人間に聞くのが一番効率的だ。幼体からいちいち奪うよりずっと楽なのだから。

 

 無表情で聞いてくる姿を見て、顔から手を離した双葉はしばらく唖然としたが、徐々に半目へと変わった。

 

「ねえ……ひょっとして揶揄ってる? 何かの罰ゲームでもしてるわけ?」

「からかう、とは何だ」

「っ、あーもう、しつこい! もういい、私帰るね!」

「待て」

 

 去ろうとする双葉の手を掴む。

 先ほどよりも驚いた顔で立ち止まり、こちらに振り向かれた途端、またあの感覚がした。

 

 勝手に手が引かれる。彼は内心、少し苛立った。

 

 

 

(……やりにくい)

 

 

 

 思っていたより、この人間に対する少年の記憶が力強い。若干だが引っ張られる。

 ひょっとすると、これが少年の〝ギラギラ〟の一端ということなのだろうか。

 

 俯いて止まってしまった彼に、少女は小さくため息をついた。

 

「はぁ。もういいよ。そこまでやるなら、とことん付き合ったげる」

「……どういうことだ?」

「合わせてやるって言ってんの。まったく、子供っぽいんだから」

「では、〝ほん〟があるところはどこだ」

「んー、ここら辺なら市立図書館じゃない? 本屋って手もあるけど、なんか買いたいの?」

「かう、とは?」

「あーはいはい、そこまでやるのね。じゃ、図書館行こっか」

 

 ついてきなよ、と先ほどとは違う様子で背中を向ける双葉。

 

 

 

 歩き出した彼女の背中を見つめ、その分だけ間を置いて、彼も足を一歩踏み出した。

 

 

 

 





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