被害は拡大の一途を辿り、街が破壊され、人々の悲鳴はその存在ごと消えていく。
捕えられた者は皆、〝ラスボスジャマト〟の元で生命力を吸い取られていた。
「ジャァ〜……ジャッ、ジャッ! ジャッ!! ジャァア──ーッ!!!」
その存在は今や、到底太刀打ちができないほど膨れ上がっている。
サボテンを彷彿とさせる、見上げるような威容は人間達の伝説に残る巨人と見紛う程。周囲の校舎すらも玩具のようだ。
時が過ぎれば、いずれ街中が狩り尽くされ、
『世界の行く末は、貴方達にかかっています──仮面ライダー』
だが、諦めぬ者がいる。
「さあ勝負だ。誰が缶を蹴るか──」
「──この俺だ」
「絶対……負けない」
「っ……!」
仮面ライダー。彼らは街を襲っては逃げ
(──姉ちゃん)
その一人、桜井景和は満身創痍の身ながらもラスボスの後方に聳え立つ大樹を睨めつける。
養分とされている人間の一人には、彼の姉たる桜井
(絶対……助ける!)
それぞれの願い、野望、望みを滾らせて。
彼らは、何度でも戦う。
《 SET! 》
「「「「変身!」」」」
《 M.A.G.N.U.M 》
《 Z.O.M.B.I.E...! 》
〔 Armed Claw 〕
〔 Armed Arrow 〕 ▶︎▶︎▶︎
《 Dual On 》
◀︎◀︎◀︎《 B.O.O.S.T! 》
《 Ready...Fight! 》
「ジャッ!」
「ジャジャッ!」
「ジャーッ!」
「フンッ……!」
「ハッ!」
「やぁっ!」
始まりのゴングが鳴らされる。
ギーツがジャマトを華麗に蹴散らせば、バッファが力で捩じ伏せ、ナーゴによって軽快に切り裂かれた。
雑兵ではもはや、実力差が一目瞭然。
彼らの目的は、ラスボスが大事に足元で囲った大缶だけ。
「……っ」
タイクーンだけが、違うものを見ていた。
彼はギーツらを一瞥すると、建物の陰から勢いをつけて飛び出す。
「ラスボス──! ここにいるぞ──っ!」
そして缶に向けて走り出す──のではなく、両手を大きく広げてラスボスジャマトに呼びかけた。
「「っ!!」」
「えっ!?」
予想外の行動に一瞬、三人が振り返る。
「──景、和…………?」
校舎の隅々にまで行き渡るような大声に、沙羅も目を開くとその名を呟いた。
無論、ラスボスジャマトも聞き逃すはずがない。また目障りな羽虫がやってきたと言わんばかりに身を捩り、次の瞬間、頭部から無数のトゲを射出した。
大人の人間ほどもあるトゲの大雨を、足にあるマフラーを利用してどうにか回避するタイクーン。
「どうした!? 当ててみろよ!!」
「
「何やってんの!?」
「……自分が囮になる気か」
「どこまでもお人好しなやつだ」
感心し、あるいは呆れる競争者達。
タイクーンの勇気に笑ったギーツが、一つ前のゲームで手に入れたバックルを取り出した。
「なら望み通り、俺が終わらせる!」
十字を備えた緑のバックルがドライバーに装着される──その直前。
「んっ!?」
突然バックルが一人でに動き出し、使われることを拒否するように光を放った。
混乱するギーツの手から、もう一度震えると勢いよく飛び出していく。
「何……?」
「ジャッ!」
「っと! 不意打ちとはな!」
ジャマトの一体が強襲を仕掛け、即座にギーツが頭部を狙う。
トリガーが押し込まれる刹那、そのジャマトはしゃがみ込んで銃口の下に潜り込む。
発射された弾丸は頭頂部を掠めるに留まり、ギーツの微かな驚きを逃さず攻め込む。
「ジャアッ!」
「っ、中々やるなぁ、お前」
まだ笑う余地のある態度。
拳を押し込むが、戦士となった人間の力はジャマトと同等に引き上げられており拮抗する。
ならばと自ら手を弾き、至近距離から
「よっ、とっ、ハッ! そらっ!」
「ジャガッ……!」
届き切らない。
全てがいなされ、外されて、極め付けには拳を振り切ったところに中段蹴りを叩き込まれる。
地面を転がり、腹部を押さえて睨むと、ゆっくりマグナムシューターが構え直された。
「チェックメイトだ」
「……!」
あわや今度こそ撃ち抜かれる──ひやりと背中が冷たくなった瞬間、視界の端に影が映る。
「ジャッ!」
「……?」
「ジャジャッ!」
「ジャーッ!」
「おっ、追加か!」
瞬時にジャマトは後ろへと転がった。
疑問に思ったギーツへ、タイミング良く他のライダーから狙いを変えたジャマトが襲いかかる。
「ジャァッ!」
相手が照準を変えた一瞬で力強く跳躍し、そのジャマトは背後の建物に飛び乗った。
見下ろせば、あちらも一瞬こちらを見て、すぐ目の前の敵に注意を戻す。
「……
痛む箇所の調子を確かめる。この程度ならすぐに治るだろう。
戦意を収めると交代し、別の方向の欄干に歩み寄る。
そこから彼は、タイクーンとラスボスジャマトの戦いを見つめた。
(あれは、初めて見た)
今まで何度か戦士の戦い様を見てきたが、あのようなやり方は見たことがない。
自分の身を投げ打ってでも、ラスボスジャマトを打倒せんとする。
一つの大義に合一したジャマトとはまた、似て非なるものに思えるその在り方。
(もしや、あれが……)
双葉の言っていたものなのだろうか。
ならば存分に見せてほしい。人間だけが持つという、強さとやらを。
「
ちょこまかと逃げ回る相手に、いよいよラスボスジャマトも苛立っていた。
それまでとは比べ物にならないほどのトゲが降り注ぐ。元より限界に近かったタイクーンは凌ぎ切れず、全身のあちこちに受けた。
「うわぁぁあっ!!?」
「景和ーっ!」
「ゲホッ、ごほっ……俺のことは、気にしないで……みんなを助けるまでは、倒れないから……!」
桜井景和は諦めない。
姉のために。人々のために。かつて幼い頃に夢見た、世界を平和にするヒーローに、なるために。
それでも現実は無情だ。
大樹の上部から超極大の一針が生まれ、ラスボスが両手で引き寄せる。
「オダダダ……!」
全身に満ち満ちる力をエネルギーに変換し、トゲに集め──鉄槌を振り下ろす。
凄まじい高速。誰も助けるものはなく、避けることもできない、終わりの一撃。
それでも最後まで、決して屈するまいとタイクーンは立ち続け──直後、着弾した大トゲによって爆炎が弾けた。
「景和──っ!!」
沙羅の絶叫が響く。
終わった。燃え盛る炎を見て、誰もがタイクーンの
答えを告げるべく、少しずつ風に巻かれた炎が解け──ぽんっ、と気の抜けた音がした。
ゴロリと地面に転がるもの。
それは黒焦げになったタイクーン……ではなく、まるで似ても似つかない丸太であった。
「えっ!?」
どういうことだ。弟は一体どこに。
驚きと疑問の声を発する沙羅の視界──その中心、ラスボスの頭上に一つの影が躍り出て。
「
《 TACTICAL SLASH ! 》
「ハァッ!!!」
「ジャゴォッ!!?」
唸る緑閃が、威容を傅かせた。
地が鳴動し、巨人が膝をつく。
「っ!?」
「どうなってやがる……?」
「どうやら〝ニンジャバックル〟が共鳴したみたいだな。目的を果たすためなら、自己犠牲も厭わない……タイクーンの〝忍びの心〟に」
ナーゴとバッファが不可解そうに呟き、ニンジャバックルを失ったギーツだけが、どこか楽しげにライバルの復活を許容する。
屋上に着地したタイクーンは、唖然とする姉に振り向いた。
「言ったでしょ。俺は倒れない、って!」
「っ……!」
「ジャァ……!」
沙羅の顔が綻んだのも束の間、ラスボスジャマトが立ち上がった。
全身から発せられる重厚な怒りと殺意。
もはや生かしてはおかない。この戦士だけは何としても始末する!
口から大トゲにも匹敵する武器を吐き出し、棍棒のようにタイクーン目がけて振り下ろされる。
「はっ!」
軽やかな足取りで一撃を躱し、タイクーンはそれまでの鈍さが嘘のように駆け出した。
逃すまいと続けてやってきたトゲの奔流をも忍者さながらの機敏さでものともせず、屋上の隅にまで到達すると一足飛びに脱出。
向かう先は対面の校舎。
運良く開いていた窓から中に飛び込むと、ラスボスジャマトがそちらに攻撃を続行する。
(どこだ……!)
こちらからでは角度的に見えない。だが攻撃されている以上、まだ倒されてはいないのだろう。
胸が躍るあまり、彼は手すりを握り潰さんばかりに軋ませた。
《 Dual On 》
《 N.I.N.J.A 》 ▶︎▶︎▶︎
《 & 》
◀︎◀︎◀︎《 B.O.O.S.T! 》
《 Ready...Fight! 》
ラスボスジャマトの追撃が校舎の隅にまで達した時、屋上を突き破ってシンボルが顔を出す。
「ヤッ!」
立て続けに緑と赤の鎧を纏い、タイクーンが飛び出した。
「ジャァア!」
ようやく敵を見つけ、今度こそ叩き潰さんとラスボスジャマトが大腕を振り下ろした。
跳躍して屋上にめり込む腕へ飛び乗り、駆け上がっていく。
進路上にある体表のトゲを両手の双刃で切り裂き、程良いところで一旦止まると再び大樹を目標に定める。
「みんな、待ってろよ! ハァアァアアッ!」
まるで野を疾駆する獣。
ラスボスジャマトもトゲを飛ばし、あるいは体表に生やして阻むが、覚悟を決めた彼にはもはや通用しない。
「ハッ、ハァッ! ハァーッ、ハァアッッ!!」
双刃〝ニンジャデュアラー〟で、自在に飛び回る一対の手裏剣で、時にはその身を煙に変えて翻弄する。
ラスボスジャマトは完全に後手に回っており、快進撃はとどまる所を知らない。
《 SINGLE BLADE ! 》
もう一息で到達する。
そこで得物を一つに合体、渾身の一撃へと移行した。
《 BOOST TIME 》
得物を投げ打てば巨大化し、激しく回転するそこに飛び乗って、残る距離を一気に突破する。
トゲも腕の追走も振り切り、ぐるりと一周回ってラスボスジャマトの背後に出た彼は宙へと躍り出た。
「ハッ!!」
《 N.I.N.J.A ▶︎GRAND VICTORY◀︎ B.O.O.S.T 》
「ダァア────ッ!!!」
残る力の全てを収束し、厄災を忍者狸が蹴り砕く!
中部に与えられた蹴撃は、たったの一撃で大樹を破壊せしめた。
いっそ豪快な程に真っ二つにへし折られ、光の粒子と解けた残滓から捕えられた人々が解放される。
「誰かっ……今のうちに……!」
「任せろ!」
「勝つのは俺だ!」
全力を搾り尽くし、落下するタイクーンの代わりにライダー達が走り出す。
「
まずい。大樹を破壊された上、缶まで蹴られては終わりだ。
ラスボスジャマトも最後の意地で、缶めがけて腕を振るった。
「ハァーッ!」
「盛大に──打ち上げだぁっ!!」
「ぐはっ!?」
僅かに先行していたバッファを、並走していたギーツが缶もろとも蹴り飛ばした。
小気味良い音で空を飛ぶ缶。そうはさせるかとラスボスジャマトが手を伸ばす。
だが、その体を駆け上がり、指先が触れそうな缶めがけて跳躍する猫が一匹。
「もっと、飛んでけ──っ!!」
最後のダメ押しに、ナーゴのキックが缶を抉った。
失速しかけていた缶はその勢いを取り戻し、真っ直ぐジャマーエリアの壁をけたたましく破りながら、遂に場外へと排出される。
決着が、訪れた。
「
情けない叫び声を上げ、ラスボスジャマトが姿を消したのだった。
(……終わり、か)
一部始終を見届け、彼は力んだ肩を下ろす。
今回も、戦士達の勝利。そしてジャマトの敗北だ。
しかし、とても濃い満足感がある。
理由は他でもなく、最も新しい疑問が解消されたことにある。
「ジャッ!」
欄干に足をかけ、屋上から別の場所に移る。
着地してすぐに近くの物陰へ隠れると、下の様子を伺った。
「景和っ! 大丈夫!?」
丁度、座り込んだ景和に姉が駆け寄っているところだ。
無事な姿に安心したか、景和は少し前の激闘が嘘のように気の抜けた笑みを口元に浮かべる。
「無事で……良かった……」
「……なれてるじゃん! すごい大人に!」
「へへっ……」
寄り添いあい、思い合う、その姿。
たとえ己が傷つき倒れるとも、他者の為に最後まで折れぬ強さ。
(そうか。あれが、〝優しさ〟か)
本性が曝ける命を賭した戦いの中でなお、いや、その中でこそ輝く人の強さ。双葉の言ったことは本当だった。
ああ──やはり、最高の体験。
実際に戦場に立つことに勝るものはない。感激で肌が震えるというものだ。
(だから、残念だ)
あの戦士は傷を負いすぎた。これ以上戦うことはできないだろう。
ジャマトとしては強力な戦士が減ることは喜ばしいのだろうが、彼にとっては貴重な観察対象が減ることは惜しい。
「桜井景和様!」
「ッ!」
突然女の頭が建物から生え、驚いて身を引く。
ナビゲーター、ツムリは笑顔で景和を見下ろしながら告げた。
「これ以上の参戦は大変危険なため、ここで脱落となります!」
「……脱落なら、元の生活に戻れるんですよね……?」
「はい」
「よかった……姉ちゃんを一人にするわけには、いかないんで」
降りてきたツムリにそう言って、ふと彼は英寿を見る。
「これ、返すよ」
差し出されるバックル。
珍しく、英寿は慄然とした表情で歩み出るとそれを受け取る。
「おかげで姉ちゃんを救えた」
「お前自身の心が、奇跡を起こしたんだ」
「英寿君がそういうこと言うの、珍しいね……ぁ、また化かしてる?」
「ああ、そうかもな」
軽口で笑い合う二人。
彼にはそれが、景和が見せてくれたものとはまた違う優しさのように思えて。
「あーあ……姉ちゃん一人救うだけでこれだもんな。世界の平和を守る、ってのは……簡単じゃないな……」
《 Retired》
青光に蝕まれた景和の姿が、消滅した。
ツムリの華奢な指が、戦士の存在した唯一の証であるドライバーを拾い上げる。
「彼は、仮面ライダー失格となりました」
「──これでまた一人消えたな」
「……っ」
戦士の終わりは儚いものだ。
その勇姿を賞賛し、見送るものがいることが、ただ一つの慰めだろうか。
「あとは任せろ、タイクーン。こんな世界……俺が終わらせる」
そして、世界を守る意思は受け継がれる。
完全な決着は近い。残る戦士達はどんなギラギラを見せてくれるだろうか。
今からとても、胸が疼く。
「……
密かな感謝と、今後の期待。
その両方を贈り、物陰から姿を消した。
読んでいただき、ありがとうございます。